オマケ3 スランプの脱しかた



 カッコよく終わらせたのに、思いついちゃったよ。

 これは小説の書きかたっていうより、書けないときの対処法だよね。


 スランプって、誰でも一度は経験すると思うんですよ。

 前に気晴らししようと書きましたが、そういう問題じゃないってときありますよね。


 書こうという気持ちはあるのに、いざ書きだすと書けない。一文書くだけで詰まり、進まなくなる。そういうとき。


 僕の場合は今まで書いてきて、スランプって一回しかなかったんですよね。

 それも、理由がすごく明確にわかってる。


 これ、前のエピソードにも書きましたが、高校卒業前くらいに、初めて視点なるものを知りまして、そこで自分のそれまでの文章をふりかえってみたところ、めちゃくちゃだった……。


 正しい視点で書こうとするあまり、ちょっと書くと「これ違う!」となり、またちょっと書いては「ここ間違ってる?」となり、ぜんぜん思いどおりに書けないんですね。大きな壁に阻まれて、一歩もふみだせない感じ。


 書きたいことはたくさんある。プロットや映像も浮かんでくる。でも、文章が書けない。

 そういう状態がしばらく続きました。たぶん、一、二ヶ月かそこらだったと思う。


 意外と短いねぇって?

 それはですね。あきらめたからです。ここらへんが僕のメンタルパワーw ひらきなおりです。


「ヘタなもんはヘタなんだから、しょうがない。書けないで苦しむくらいなら、めちゃくちゃでもいいから、とにかく書こう! 習作でいいんだ。一作一作、練習だと思って書き続ければ、いつかわかるときが来るかも!」


 あるとき急にそう思ったんですね。そしたら、ふっと気がらくになって、あれほど進まなかった筆が、またスイスイと動くようになった。

 もちろん、ここから数年はずっと習作です。視点のノウハウがほんとにわかるようになったのは、けっこう何年も経ってからでした。


 でも、あのとき、ずっと視点にこだわり続けてたら、たぶん、僕は書くのやめてたんだろうな。


 あれ以来、スランプらしいスランプはないんですが、この感じはスランプ予備軍かな?——と思ったことが一度。


 というのは、エブリで妄想コンテストに挑戦してた最後のころ。僕は二年間チャレンジして、ポツポツ結果出しつつ(優秀作品)、一年くらいかかってやっと入賞しました。


 その後は優秀作品の常連になってたんですが、妄コンって新人シード制があるんですよね。これは妄コンにチャレンジし続けていた常連さんたちが何人も言ってたことです。みなさん、実感してる。


 妄コンにチャレンジしだしてから二年間くらいは、評価が上乗せされてるっぽいんですよね。ちょっといいものを書けば、わりと簡単に優秀作品までには選ばれる。自分で、これは行くだろと思ったものは、たいてい残る。もちろん、こっちは選ばれやすい傾向など対策練ってましたしね。


 でも、一年半くらいすぎると、急激に選ばれなくなる。前と同じか、前よりいいものを書いたと思っても、ぜんぜん選ばれない。前ならこれくらい書けば少なくとも佳作にはなったよねって話でも、優秀止まり。


 これ、どんな人でも最終的には必ず、このあつかいになります。それでエブリを去った人けっこういますので。

 僕の前に常連だった人が、最後のころに書かれた話を何作か読んだんですが、どれもすごくいい作品だったのに、まったく優秀作品にも選ばれないんですよね。なんで、こんなにいい作品が選ばれないんだろうと思ってたけど、まあ、そんなカラクリがあるから。


 で、そのころに壁を感じて、「もっといい話を書かなきゃ。もっともっといい作品にしなきゃ」って思い始めたんですね。


 その効果でどんどん上達していく感はあったんです。でも同時に、じょじょに筆が重くなっていった。


 当時、妄コン用に書いたのは『この素晴らしき世界』が最後でした。でも、このあとの回もネタは浮かんでたんですよね。


 たとえば、テーマが『溶ける』だったとき。フランケンシュタイン博士のエピソードを下敷きにした近未来SF。


 その博士はロボット工学の天才と言われ、専門はAI。ロボットに人間の心を持たせることができるのか研究をしていたが、今はバイオロイド用の人工皮膚の実験をしていた。

 でも、研究に没頭するあまり、愛する妻のことはほったらかし。さみしくなった妻は博士の助手と浮気。二人で駆け落ちの約束をした。

 そのことがバレて、博士は怒り狂う。助手は奥さんと逃げるために、はずみで博士を殺してしまう。死に際に博士は不吉なことを言い、嘲笑う。

 奥さんには博士が死んだことを秘密にして駆け落ち。

 二人で幸せに……と思ったやさき、ただの静電気から発火し、助手の全身は溶けくずれる。

 なぜなら——助手は博士の造ったロボットだったから。助手には人工皮膚の研究と言いつつ、じつはAIが人の心を獲得するかどうかの観察をしていたのだ。人工皮膚は低温で溶ける。助手は自分がロボットであることを知らなかった……。


 というこれを、助手の視点で書くつもりでした。テーマの溶けるが最後に効いて、なかなかいい出来になりそうだったんですが、ちょっと書きだしたときに「なんか書くのがつらい」と感じたんですね。いい作品になる自信はある。でも、


 要するにプレッシャーだったのかなと。いい作品を書こう、いい作品を書かないと……書かないと……。


 はい。ここですね。

 


 書かないといけないって、義務じゃないですか。もう楽しんで自発的に書いてるわけじゃないんですね。いい作品を書いて結果を出さないとっていう義務感。


 スランプですって人の近況ノートを読むと、「書こうとしてるんですが、書けなくて。でも書かないと」という趣旨のこと言われてるんですよね。


 つまり、スランプって、ほんとは書きたくないのに、書かなきゃいけないと自分に言い聞かせてる状態なのかなと。


 人によってその理由は千差万別だと思います。

 展開が決まってないけど読者が待ってるからとか、ネタ切れなのに〆切が近いとか、あるいは、ほんとは小説を書きたいわけじゃないけど、書けばチヤホヤされるから、とか。


 なので、どうしてもスランプをぬけだせないときは、自分の胸に手をあてて、「おれ(わたし)今、小説書きたくないんじゃないの?」と熟考してみてください。


 書きたくないときは書かなくてもいいんです。アマチュアなんだから、それで金とってるわけでもないし、誰に対しても責任を負ってるわけじゃない。自分が書きたいから書く、その姿勢が大事。


 こういうときに小説から離れると、ほんとに書けなくなりそうで怖い……と思ってませんか?

 それじたいがプレッシャーかもしれませんね。


 だけど、ほんとに書きたい欲求が止まらない人は、いろいろまわり道しても、けっきょく帰ってくる。そう思います。


 それに、書きたくない原因がわかれば、それを解消することで、また書きたい気持ちも戻ってくるでしょうしね。


 僕がスランプを脱せたのも、原因をとっぱらったからでした。視点にこだわらないと決めたこと。妄コンはもうやめようと決めたこと。両方、決意でなんとかなった。


 たかが小説。されど小説。スランプのほんとの原因は心の問題かもしれません。

 そして、その問題とは、おおむねことから来てるんじゃないかなぁ。

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