読まれる小説16 ホラーのコツ(語彙力)



 ホラーは描写の濃さ。

 ということは、語彙力が求められてきます。

 平易な言葉をくりかえすだけでも、表現はできます。他のジャンルなら、それでかまわないでしょう。単純にキャラクターの動作などを伝えるだけなら、です。


 ただ、ふんいき作りが基本のホラーにおいては、そうもいきません。語彙力かぁ……いっちばん、めんどくさいやつだ?

 そうですね。語彙力増やすには学ぶしかないですからね……。


 安心してください。僕もエブリスタの選評で、もっと語彙力つけてくださいって言われましたよ。へへへ( ;∀;)


 まあ、これはネットの類語辞典などでもカバーできます。ザッと書いてから、推敲のときに、もっとふんいき欲しいなぁと思えばブラッシュアップすればいいんで。そのとき、ふだん使わないような言葉を調べてみてもいいですよね。


 ところで、ホラーっぽい言葉ってどんなだろう?

 たとえば、墓を表す言葉だけでも『墓、墓場、墓地、墓所、埋葬地、霊園、墓石、墓跡、墓穴、墓碑、石塚、草葉の陰、あの世、冥府、死者の眠りの地、永遠の寝所、黄泉、土に還る、地獄、地の底……』などなど。

 似たような言葉はまだまだありますよね。そのときのふんいきで選びましょう。


 語彙力増やすには、日ごろから、知らない言葉はメモるとか、意味を調べるとか、なんらかの努力は必要……。


 僕は高校生のころ、国語辞典を愛読書にしてました。漢和辞典とか。小説で使えそうな言葉をノートにぬき書きして何度も読み返してました。短期間だけでしたが。もっと続けとけば、エブリから語彙増やしましょうとは言われてなかったかもですね〜。

 まあ、そのころ覚えた単語を今でも使うことがあるので、ムダではなかった。


 語彙力はあってムダになるものじゃないんで、記憶力が高くて頭が柔らかいうちに勉強しとくのは悪いことじゃありません。めんどくさくてイヤでしょうけどね。学生なら受験にも役立つし、社会に出ても国語は日常的に使うので、知らないより知ってるほうがいいです。話術が必要な職業もたくさんありますしね。


 ところで、じゃあ、知ってる単語の数が多ければ表現力が高いかと言えば、一概にそうとも言いきれません。

 前に書いた、連想させる言葉選びが関係してきますよね。


 前述の墓地だの死だのあの世だの、ちょくせつ的にホラー的な言葉もありますが、ホラーだからと言って、何もずっと舞台が墓場なわけじゃない。日常的な風景もあるわけです。それを描写するのにも、ふんいき作りはしないといけないですからね。


 霊だのモンスターだの出てくるシーンのほうが、むしろ怖く書くのはかんたんかもしれませんね。


 ただ、恐怖っていうのは累積なので、冒頭からちょっとずつ、かすかな違和感が降りつもることで、しだいに怖さが増していく。表面張力みたいなもんですね。やがて飽和する瞬間が来るように、怖さの種をそこまで積みあげていくわけです。そういう意味では、ミステリーの伏線に似てるかも。


 日常のなかで、なんとなく無気味さを感じさせる言葉ってありますよね。それじたいは怖いわけではなくても、組みあわせや使いかたしだいで、ふんいきを作れる。

 そういう言葉を研究して把握しておくことで、いざ書くとき、役立つでしょう。ベラベラ書くためには、すんなり浮かんできてくれるほうが筆も速いですから。


 さて、あきらかに怖い言葉。

 呪い、呪法、怨念、拷問、殺意、亡霊、怨霊、呪殺、監禁、奸計、エクトプラズム、サイコパス……など。霊的なものや犯罪行為など、人間の負の部分を表す言葉が多いですね。彼らは完全なるブラックな言葉たち。


 これらとあわせることによって、ホラー的にはまったくノーマルな言葉でも、なんとなく怖くすることはできる。

 地平のかなたで揺らぐ影、とか。人形たちの安寧の墓所とか。コンビニで買ってきた呪いとか。


 このなかで、影っていうのはブラックな子たちの仲間には入れてなかったですね。人間のダークサイドを表す言葉ではないものの、暗闇、黒、影など暗さを表すものはホラーと相性がいい。グレーゾーンの子たちです。


 このグレーゾーンの言葉たちをうまく使えば、日常風景を無気味に表現することができます。

 たとえば、死体や死などを連想させる言葉とか。

 この前のエピソードで、例文に使った『灰白色の皮膚』とかもそれですよね。青ざめた肌、血の気を失った、腐肉のようにブヨブヨした感触、とかね。


 なので、風景描写を不快な印象を受ける言葉で記せば、ホラーっぽいふんいきは出せます。



 どんよりと曇った空が、濁った日差しをカーテンのすきまからなげかけていた。そのせいか壁にかけた制服が、たるんだ老婆の皮膚を剥がしてきたように見えた。これからまた一日が始まるのかと思うと、ゆきなは憂鬱でならない。



 とかね。不穏な空気感です。

 恐怖そのものをちょくせつ描くんじゃなく、連想させる。


 ところで、これってホラー以外にも使える技ですよね。ラブコメとか。修正依頼、来ましたと近況に書かれる人はほんとに多い。

 ちょくせつ表現をさけて、でもエロく思わせる言葉選びはあるわけで。

 真っ白でやわらかい女の子の肌を表すのでも、もち肌って書くより、やわ肌って書いたほうが、なんとなくエロいじゃないですか。

 ぼかしながら書く。

 そういう言葉を研究してみては、いかがでしょう?

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