読まれる小説17 目的遂行型か、巻きこまれ型か



 その昔。小説の体系なんか考えたことがあったなぁ。


 小説の形態その一。

 小説の始まりかたは、目的遂行型と巻きこまれ型の二種類にわかれる。

 途中でもう一方の要素が入りこむこともあれば、最後まで入らないものもある。

 巻きこまれ型はストーリー展開上、途中から目的遂行型に移行せざるを得ない。


 えーと、小説を作る上での序盤から枝わかれしてラストの締めかたまで考えてたんですが、今、思いだせるのはコレだけ。寝る前に布団のなかで考えてたもんだから……。


 あのとき、ちゃんと紙に書いてから寝ればよかった。けっこうしっかり小説の真髄をとらえたような気になってたんですが、今となっては忘却の深淵の底……。

 そう。つまり、その二以降はない。忘れた(^_^;)


 気をとりなおして、その一を考察してみましょう! これだって、けっこう自覚して書くのと無自覚で書くのでは違ってきますから。


 小説の冒頭には二つのタイプがある。目的を最初にかかげる目的遂行型と、その気はなかったのに何かしらの事件に遭遇してしまうことによってムリヤリ動かされてしまう巻きこまれ型。この二つ以外の始まりかたをするのって、ちょっと思いつかないんですよね。


 物語の序盤で「おれは海〇王になる!」のように、主人公自ら目的を提示し、それを達成するために動くことによってストーリーが展開していく。


 この場合、ラストで目的が達成されればハッピーエンド。達成されなければアンハッピーエンドです。中間はない。どちらかにむけて、物語はつき進む。


 主人公の意思が前面に出る骨太の作品になる。主人公の目標に読者が共感できるかどうかが、その作品を読まれるかどうかのわかれめ。


 目的の大きさには大小あって、国家的なものもあれば、きわめて個人的な小さなものもある。もちろん、ストーリーとしては、大きな目標であるほうがスケールも壮大なものになる。


 たとえば、放射能に汚染された地球を救うため、遥か宇宙の彼方イスカンダルまで行って、放射能除去装置をもらい、期限内に帰還する!(宇宙戦艦ヤ〇ト)

 ——であったり、はたまた、

 外国に出稼ぎに行ったお母さんを探しにいくんだ!(母を訪ねて三千里)であったりする。


 なんなら小さい目的なんか、『次のバレンタインには絶対、先輩にチョコを渡す』でもいいし、『夏までに三キロやせる』でもいい。


 まず主役が決心するところから始まる作品。

 これらは展開的に、その後、多くの障害にていくことになる。じゃないと、「やせるんだー! よし一キロやせた!」「やせるんだー! よし二キロやせた」じゃ、つまんないでしょ?

 目標を達成したいのに、それをジャマする何事かが波状攻撃のように押しよせ、主人公を妨害する。そこにハラハラドキドキするわけです。


 この手のタイプの作品で、もっともやっちゃいけないのが、途中で主役が目的を放棄すること。目的が変わっちゃうことですね。最初から最後まで一貫してないと、ブレブレになってしまう。読者もその瞬間に離れる。

 どんな障害に出会っても屈しない強さを持つ主役でなければいけません。


 ん? じゃあ、アンハッピーのときの達成できないのは、どういうこと?


 それはですね。達成しようとする目的が、じつは条件的にすでに遂行できないことがわかってしまうとき。

 または誰かを守るためなどのさけられない事態によって、最初の目的とは反対のことをしてしまう、または自分の命を犠牲にする、などのダークな展開のとき。


 たとえば、さっきのバレンタイン。先輩にチョコを渡そうとしたら、親友がさきに渡して、しかも二人はつきあうことに……主役はひっそりと身をひき一人、苦いチョコレートを味わうのであった。


 これ、どんでん返しなら二人がつきあうと思ったのは勘違いで、失恋は承知の上。でも渡さないと公開すると決心し、チョコを渡す。先輩喜ぶ。「じつは、おれも……」


 目的を遂行するかしないかでドラマが生まれる。


 じゃあ、もう一つのタイプ。巻きこまれ型。

 多くの作品は、こっちの巻きこまれ型ですよね。自ら、これをやる、と決意する話は少ないです。異世界転生なんか、完全なる巻きこまれ。平穏な日常が外部の事象によって乱され、あるいは破壊しつくされ、物語が始まる。


 このタイプは前述のとおり、どこかの段階で、主人公が自己の目的を見つけないとつまらない。ラストにまで運ぶストーリーの主軸が作れないです。

 鬼滅なんかはかなり早い段階で目的を見つけますが、あれなんか出だしは巻きこまれ型ですよね。幸せな一家の日常が鬼の襲来によって壊される。


 巻きこまれ型は発端となる事件の悲惨さが強いほど、その後の展開が盛りあがる。幸福から一転の不幸、その不幸をはねのけようとする主人公の努力と成長の物語なので。


 これ、ずっと巻きこまれっぱなしで、どこまで進めるか、ですよね。いや、早い段階で目的遂行型に以降したほうが展開は作りやすいんですが、次々、不幸に見舞われ、ふりまわされる無力な主役ってのも、ストーリーにはなります。どこで目的遂行型に転じるかは、主役の性格によりけりなんでしょうね。


 ずっとふりまわされてるやつの代表格が『人間失格』ですかねぇ。好きな人も多い文学作品。僕は性格的にウジウジしてるのが嫌いなので、読んでてイライラしましたが。あれなんかは最後まで巻きこまれてますよね。途中、一瞬、目的を持つんだけど、それをくじかれることによって文学になってる。


 巻きこまれ型はどこで目的を持たせるか、その転機の場所によって、堕ちていく話なのか、這いあがっていく話なのかわかれますね。

 当然、堕ちていく話はアンハッピーエンド。這いあがっていく話はハッピーエンド。どんでん返しがあれば、ハッピー……と見せかけて、やっぱり堕とされる、みたいな話にもできますが、後味は悪くなります。


 ちなみに冒頭で起こる事件を小さなものにすれば、ほのぼの日常的な巻きこまれ型にすることもできます。学校に行きたいのに、なぜかいろいろ起こっていけないだけのストーリーとかね。これなんかはコメディタッチで書けば楽しそう。


 自分の書いた話がどの型にあてはまるのか、ちょっと考えてみてください。もし、話の進行に行きづまってる人は、上記の型を参考にされると、打破できるかもしれません。あくまで、ですが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る