読まれる小説15 ホラーのコツ
ホラーはね。ほんとにカクヨムでは読まれませんよね。まあ、それでもミステリーよりは読まれるのかな。
以前、『夏の納涼祭り』というホラー本棚の企画を立てました、と前にも書きました。
そのとき、百二十あまりの参加作品をすべて目を通しました。と言っても同じ作者さんの話は最低一話、面白ければ続けて二話、三話。長編の場合は最低一話ないし、短編一話ぶんに該当する文字数。
で、それについての全体の感想とか、ついでに怖いホラーの書きかたとかをエッセイにしたんですが、今は非公開にしてあります。企画もとっくに終わってますしね。そのときのエッセイより、今のこっちのほうが読まれるので、やっぱりホラーを書こうという人じたいが少ないんだなと。
なので、そのときのエッセイの概要をパパッと簡略にまとめて書いとこうかなと。一回で充分のはずだけど、長くなったら、すいません。
これも以前、このエッセイに書きましたが、風景描写はふんいき作りのためにあるんだと。これが顕著なのが、ホラーなんですね。
とにかくホラーは怖がらせてなんぼ。読者も怖い思いをしたくてやってくる。そういうとき、テンプレラノベのように、セリフだけで書いて怖いと思いますか?
「どうしよう。さくら。このまま行ったらお墓じゃない?」
「え? そうだっけ?」
「そうだよ。たしか、古いお寺があるんだよ。霊園より迫力あった」
「そうだっけ。あたし、おぼえてない。ゆきな、ビビりすぎだよ」
「あっ、待ってよ。さくら」
「ゆきなってオバケとか信じちゃう派なんだ?」
「えっ? そうじゃないけど……」
「あっ、ほら、墓場見えてきたよ〜。ちょっと入ってみない?」
「ヤダよ。さくら、やめとこうよ」
「いいから、いいから。行ってみよ〜!」
ほらね。怖くない。ただの女の子二人の会話ですね。
ホラーの怖さはね。地の文なんですよ。いかに怖いふんいきを作れるか。これに尽きます。
納涼祭りのときに参加作品のなかには、地の文がほとんどない、セリフだけの作品もありました。上の例文のようなものですよね。うん。怖くなかったです。がんばってホラーを書こうとしたんだなぁ……というのが正直な感想です。
上のような作品とは逆に、一話140字で連作短編を書いてる人もいました。ほぼ地の文だけ。まあ、そうなりますよね。完結に起こる事象を述べるには、会話入れとく文字数のゆとりなんかないですから。これは140字っていう縛りをご自身でつけてたからですね。こっちのほうが会話文より、ホラーとしての怖さはありました。もう少し肉付けされたら、もっと怖くなるとは思いましたが、骨の魅力はありました。この作品は企画直後、カクヨムの特集に選ばれてます。
ホラーがふんいきで成り立ってるというのは、誰しも理解できると思います。
夜の墓場に立ってみればわかりますよね。何が怖いって聞かれても、墓石とか、お骨とか、暗闇とか、なんやかやあるとは思うけど、けっきょくはそれら全体のかもしだすふんいきですよね。
それらを小説で表すとなると、描写するしかないわけで。
納涼祭りのなかで、怖い、上手いと思った人たちは、どなたも描写が巧みでした。お一人だけ、セリフがゼロだったんじゃないかな? ちょこっとあったかもですが、記憶にないくらい少なかったです。描写力、ふんいき作りという点では満点だったんですが、いかんせんストーリー性がなさすぎた。残念。オチがもう少し強ければ、充分に怖いホラーとして成り立ってました。
これらからもわかるように、ホラーの描写というのは、とにかく、ねっとり分厚いことが求められます。きわめて緻密に描写されているほうがリアリティがあるからです。臨場感ですよね。
ホラーはほとんどの場合、幻想ですから、それが現実に起こっているかのように思わせるために、描写の濃さと細密さが必要不可欠なんですね。
その際、慣れない人って、ありえない頻度で霊的現象が続いたり、悲鳴連発させたり、がんばりすぎちゃうんですよね。怖がらせよう、怖がらせようという気持ちが前に出すぎて滑稽に見える。むしろ逆効果ですね。ホラーは淡々と事実を書きつらねていくほうが怖いです。
たとえば、
ガタン!
ものすごく大きな音が聞こえた。
「な……何?」
さくらは窓の外を見た。
「キャアアアアーッ!」
なんだかわからないけど、一瞬、すごく恐ろしい何かが見えた……気がする? ゾンビみたいだった。
さくらは耐えがたくなって、わあわあ泣きわめいた。
すると今度は玄関のドアがガンガン叩かれた。急に電気がついたり消えたりする。
って書かれるよりは、
カツカツ、キリリ……。
あたりは夜になっていた。暗くて何も見えない。いつのまにか、うたたねしてしまっていたようだ。
なれた自分の部屋だから、なんとなく間取りはわかるが、夕闇の仄暗さがすべてを飲みこんでいる。なぜかわからないが心臓がすくんだ。闇は人を不安にさせる。
キリリ……カリカリ……。
(あれ……?)
なんだろう? あの音。
そう言えば、さっきも聞こえた。だから目がさめたのだ。
さくらは耳をすました。
カリリ……カツン。
胸がドキドキするのは、あの音のせいだ。黒板やすりガラスをとがった爪でかきむしるような、その音。耳ざわりで気分が悪くなる。
それは外から聞こえるようだ。それも、窓のすぐ近く。
さくらの鼓動はいっきに高まる。そんなはずはない。だって、ここはマンションの七階だ。ベランダもないのに、何がそんな音を立てるというのだろう?
キキキ……キキキ……。
冷や汗がドッとふきだしてくる。じっとり汗ばんだシャツが肌に吸いついた。
まさか、泥棒だろうか? それとも、このごろ身辺に感じる妙な気配……ストーカー、とか?
さくらは思いきって窓のほうを見た。
暗がりに何かが立っている。それはぼんやりと発光するように、よどんだ灰白色のただれた皮膚を見せていた——
めんどくさいので、ここまでにしますが、ほんとはゾンビの形容が、ここから詳細に始まるとこです。
どちらがよりホラーっぽいかは一目瞭然ですよね。
ほんとは僕の描写量は、これでもまだホラー書きのなかでは薄いほうなんですが。もっと空気の質感まで感じられる描写をされる書き手さんが、ホラー界には存在します。
ホラーはあらゆる作品のなかで、もっとも描写量を要するジャンルです。ムダにダラダラ描写するくせがぬけない……という人は、じつはホラー向きなのかもしれませんよ?
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