読まれる小説14 ミステリーのコツ(オマケ)
まあ、ミステリーといっても本格ばっかりじゃないので、そこまでフェアにこだわらないものもあるんですけどね。
ハードボイルドとかは犯罪者、またはそれを追う探偵の心理を丁寧に描くことが多く、トリックや謎解きはさほどじゃなかったりする。この場合、どっちかっていうと純文学的な要素が強いほうが成功する。
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
有名なやつ。
僕はハードボイルドってこのていどしか読んだことないんですが、犯人の心情が物悲しくて、とてもよかったです。
え? あれは文学? ハードボイルドじゃない?
たしか、ハードボイルドの走りのようなこと言われてたはず。
まあ、思えば『カラマーゾフの兄弟』とか、サスペンス調の文学ってありますもんね。『巌窟王』とか『嵐が丘』だって、そう言えるかも。
で、ミステリーのコツ前編で書いたように、トリックは出つくしたと言われています。
二時間サスペンスが飽きられたのも、どの話も似たり寄ったりで、新奇性に欠けちゃったからなんだろうなぁ。
そこで、ミステリーは他のジャンルとの融合が求められてます。まあ、これもだいぶ前からの傾向ですが。
ミステリー+ホラー、ミステリー+SFなど、すでに紙の本でも多くのプロ作家が実践してますよね。第6回カクヨムコンのどんでん返し部門で、こんな作品を求めてる、と参考にあがった綾辻行人さんの『Another』は、ミステリーとホラーを融合させた作品。ホラー要素で、その作品独自のルールを作ることによって、斬新なトリックを構築することに成功しています。
これからのミステリーに残された開拓地って、そういうとこしかないんじゃないですかね? その作中だけの特殊なルールを創造する。
ところで、今回のミステリー、ホラー、SFなどの作品はどんでん返し部門に参加してくれってことでした。
どんでん返し。まあ、ミステリー作品であるならば、必ず最後には読者を「あっ」と言わせることが目標なわけで、どんでん返しでない作品なんて存在しないはずなんです。
なので、最低一回のどんでん返しはあって、あたりまえ。
えっ? 一回の? それ以上あるのかって?
あります。ラスト謎解きになってから、推理が二転三転して、けっきょく、三回くらい犯人が変わった——なんてミステリー読んだことないですか?
ああ、僕の話でも一人捕まったあと、もう一人出てきて、さらにエピローグで、じつは黒幕いましたってやつあるなぁ。
どんでん返しが多ければ多いほど、読者を「あっ」と言わせる回数は増えます。そのぶん、読みごたえは出てきます。
が、どんでん返しの回数に比例して、伏線も倍、三倍と増えていきます。それも、単純に一章から三章は一回めのどんでん返しの伏線にして、四章から五章が二回め用、そのあと最終章までが三回めのどんでん返し用伏線——ってわけにはいかないんですよ。
たとえば、真犯人はCさんなんだけど、最初から重要容疑者としてAさんが疑われていた。クライマックスの直前に容疑はAさんからBさんへ移る。
と言った内容のとき、最初からAには容疑ぷんぷんでいてもらわないといけないので、とにかく怪しい行動をたくさんしてもらう。
でも、その背後でBが独自の動きをしてることも、ちょこちょこ出しておかないといけません。その裏で、Cが真犯人だとわかったときのための、うっすらヒントも同時にまぜこんでおかないと……。
ヒントとミスリードをA〜Cそれぞれに作り、三層にして同時進行させていかないといけないわけです。
はい。ややこしいです。
まあ、なれないうちはガッチリ、プロットを練りに練ってから書くことをおすすめします。時系列順に、何月何日何時にAはこうしていた、Bはこう、Cはこう、などのように表を作っておいてもいいですね。
これを怠ると、最後になって犯人がコロコロ変わっても、読者は「ご都合主義!」としか思ってくれません。
以前、紙本でこの手の短編を読んだことあるんですが、笑っちゃうほど低クオリティに見えました。短編ではとくに、やりすぎはよくないですね。リアリティなくなるので。
ネット投稿の作品では、まだ一層のどんでん返しにしか出会ったことないですが、そもそも、ちゃんとヒントが入ってなかったり、本格ミステリーのルールに乗っ取ってない作品のほうが多いので、ちゃんとミステリーの態を成してるだけで水準高いほうなのかなと。
層を厚くすると、そのぶん読みごたえはありますが、単純明快なほうが読みやすいって読者も多いです。
たぶん、僕の作品がマニアの人たちには熱心に応援されるけど、一般ウケにまで至らない理由は、BL要素が足ひっぱってるのもあるけど、それ以上に、『ストーリーが複雑すぎる』んだと思います。もうちょっと単純にしたほうが、より多くの人にわかりやすい内容になるんだろうと。
ありきたりでは物足りないっていうミステリ好きや、たくさんたくさん本を読んで目が肥えた読者に好まれる傾向にあるようです。
二層くらいまでのどんでん返しが一番、一般にウケる、ほどよい複雑さなのかもしれません。
最後に伏線のコツ。
伏線、伏線と言ってきましたが、読者に「これ、伏線だな」と気づかれるようでは正直、失敗です。まあ、わざとミスリードのために読者に伏線だと察してもらう書きかたをしているんでないかぎり。
なにげない会話や風景描写のなかに、さりげなく潜んでるのが上手な伏線ですね。そして謎解きになって初めて、読者は「ああー! だまされた。これ伏線だったのか!」と言う。
ところで、この三回はミステリーのコツについて書いてきたんですが、伏線じたいは、ほかのジャンルでも使いますよね。
ミステリーではなくても、ストーリーのキモが謎解きになっている作品は多いです。ファンタジーやSFなら、その世界の創造にまつわる謎とか、ホラーなら呪いの解きかたとか、恋愛なら気になる彼女の不可解な言動とか。ただ、それがミステリーほどルールにとらわれていないだけ。
ミステリーでの伏線の使いかたになれると、ほかのジャンルでもそれを応用できます。プロット作りが得意になるかも。
ちなみに、僕は一見パンツァーの脳内プロッターですと以前、書きました。
話のネタが降りたときに、たいてい物語の導入、ラスト、そこにいたるまでのいくつかの重要なシーンは浮かんでくるので、それを大筋にして、細かい部分は書きながら編んでいく。なにげなく書いた文章のなかの「ああ、これ、伏線に使ったらおもしろそう」「これも使えるなぁ。犯人の忘れ物だったことにしよう」と言ったように、その場で伏線を作ってます。
さっきまで言ってたことと違うじゃないかって?
いや、それは慣れですから……。
セーターを編む感じなんですよねぇ。大筋が出来上がりのサイズと形。あとは色や模様などは編みながら考えるんですが、なれれば模様全体を見通しながら最終的な仕上がりを想像できるんですよ。ここらで差し色しといたほうがいいな、とか。
ミステリー書きにはパズル脳な人が多いんじゃないかなと思います。ソリティアとかナンプレとか、考えながら解いていくゲームが好きな人。
なんとなくですが、ソリティアやってるときの脳の働きと、この編むときの感じが似てるんですよね。
パズル好きな人はミステリー書いてみると、案外、むいてることがわかるかもしれません。チャレンジしてみては、いかがでしょうか。
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