ゴラ

 あれよあれよという間に巨ンドラゴラは近隣の村や町を踏みつぶし、その絶叫で逃げ惑う人々をばったばったとぶち倒していったっス。圧倒的な火力で吹っ飛ばすこともできたっスが、村や町や住人の生き残りがいる状態で吹っ飛ばすと、なんでもっと早く助けないんだとかお前のせいだとか、非難轟々になるんで巨ンドラゴラがあらかた踏み潰して静かになってからにしようと決めたみたいっス。薄情っスが、おいらにはどうすることもできないのでお師匠さまがやりたいようにやらせるしかないっス。

 お師匠さまは今のとこ害悪でしかないように見えるっスがこんなでも魔力量とひらめきだけは魔女連盟からも一目置かれていたっス。


 巨ンドラゴラが魔女の森から近隣の町を蹂躙している頃、城下町では魔女連盟と軍がワイバーンやドラゴンを使って巨ンドラゴラを偵察していたみたいっス。


「まぁーた、エッグタルトが厄介なことを…!」

「だから辺境の魔女を管理しておけと言ってるんだ!」

「こんなだから魔女連盟の名前に傷が付くというんだ…」

「あの巨大生物兵器マンドラゴラを我々がどうにかできると思うのかね?!答えは否、できるわけがない!我々は国王と城下町を守ることに尽力し、エッグタルトから身を守ることだけを考えるべきだ!」


 あらゆる手を尽くしても巨ンドラゴラが城下町にたどり着く前に破壊するか機能停止させなければならないと躍起になっていたらしいっス。当たり前っス。誰だっても踏み潰されるのは嫌っスからね。(これは事が終わってから後から聞いた話っス)



 辺境の森から城下町までの間には谷があり、大きく深い溝があるっス。夏の大雨で橋が流れてから向こう側への行き来がひどく困難になってたっス。おいらも気付いたっス。そうか、この溝に巨ンドラゴラを嵌めて身動き取れなくするんスね!お師匠さま!



「は?そんなことしたらマンドラゴラが無駄になっちゃうじゃないの~!あれをバラバラに解体して売るのよ~!売り物なのよ~!?そんなもったいな~~~い!!!」


「お、お師匠さま!?!販売よりも命が大事っスよ???!あれをどうにか止めないともろもろの損害賠償で借金地獄っスよ~~~~!!!!」


「あっ!いいこと思いついた~!残りの苗木をゴーレムに組み込んで巨ンドラゴーレムにしちゃうのってどう~?バケモンにはバケモンをぶつけんのよ~!!!?」


「それめちゃくちゃ嫌な予感がするっス!!!!んひ~!!!事態を悪化させるのはやめてくださいっス!!!」


 お師匠さまはとんでもないことを考えるっス。現時点で巨ンドラゴラを制御できていないのにゴーレムに組み込んで制御できると思ってそうなとこがマジでやばいっス!!!もしかしたら奇跡的に平和的な解決を閃くかもしれないっスがそんなことにはならないのが人生っス!!!しかし、おいらはしがないハウスエルフっス。ちょっと丈夫で長生きなだけなのであのお化け巨ンドラゴラには為す術もないっス。

 おいらの首根っこを引き掴んで(もっとやさしく運んでほしいっス)辺境の森に飛び帰ったお師匠さまは、おいらには全然わからない言葉と不思議なパワーでうにゃうにゃして巨ンドラゴーレムを作ったっス。ちゃんと説明しろって言われてもおいら魔法には疎いんス…長く使えてるといっても主に雑用っスから…もにょもにょ…


 さっ、気を取り直して行くっスよ!

 裏庭で巨ンドラゴラと似た手順を踏みババーンと急激に成長した2体の巨ンドラゴーレムは、意外にもお師匠さまの号令に従ってのっしのっしと森を進んで、巨ンドラゴラのあとを追うっス。空にはぎょんぎょん泣き喚くワイバーンが偵察に来ているっス。巨ンドラゴラはおいらが思ったとおり、谷の地割れに足を取られて身動きができないようっス。

 今だ!いけっ!お師匠さま!ハイドロポンプっス!ハイドロポンプってなんスか?おいらもなにを言ってるのかわからないっス。


 巨ンドラゴーレムたちが巨ンドラゴラの行く手と背後を塞ぎ、お師匠さまは凛として透き通りそれでいて力強い声で「メエエエエエエエエエエス」(ヤギの鳴き真似っスかね?)と叫ぶと、その言葉でゴーレムたちがその場で崩れて巨ンドラゴラの巨体にガラガラとのしかかったっス。巨ンドラゴラは2体のゴーレムの重さに耐えられず、繊維をブチブチ切りながら悶え苦しんでいるようだったっス。巨ンドラゴラの悲痛な叫びは周辺に飛んでいたワイバーンの耳をつんざいたらしく空から落下するさまがまるで流れ星のようで見事だったっス…。

 溝でじたばたと悶えていた巨ンドラゴラは暴れるほどに繊維を散らして溝を埋め、とうとう見るも無残な繊維質の塊になり、次第に動きを止めていったっス。これはフェードアウト死っスね。


「うわ~~~~っ!!!バラバラになっちゃった!これじゃあ売れない~~~!!!もったいな~~~い!!!!デッシ!あれかき集めてきて!!!なんとかして~~~~!!!」


「無茶言わないでくださいっス!!!マンドラゴラで潰した村の請求がドラゴン便でどんどこ来てますよ!!!どうするんスか!?!」


「やっべ~~~~忘れてた~~~!!!村の住人の死体拾ってきて墓場に一旦埋めてネクロマンシーで全員ゾンビにするってのはどう?そしたら死なない軍隊として徴兵できるし、国王軍も魔女連盟もお得じゃね?まあ税金は取れなくなっちゃうけど~~~~」


「お師匠さまは、もっと倫理観を大事にしたほうがいいっス!!!ほんとそういうとこっスよ!!!あと一旦埋める必要ないっス!!!その手間無駄っス!!!」


「デッシも人のこと言えないじゃ~~~~ん!!!」



 後日、谷からは大量のマンドラゴラが入り乱れて生え、貴重なマンドラゴラの群生地として語り継がれることになるとはこの時のおいらたちには知る由もなかったっス………


 









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エッグタルトの魔女 ぶいさん @buichi

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