ドラ

 お師匠さまの思いつきには慣れてるっス。おいらがマンドラゴラの赤ちゃんを抱えて一時避難している間に、お師匠さまは近所の食肉工場のゴミ捨て場から形の残った腐れオークを何匹か持ってきて裏庭で解体してるっス。耳を塞ぎたくなる気味の悪い鈍い音や水気を含んだ音がとめどなく聞こえてくるっス。魔女っス。まごうことなき魔女がいるっス…!裏庭が大変なことになってるっス。

 ハエの集る血肉を骨からバンバン削ぎ落とすのはいいっスけどうわあ!腐った血がそこらじゅうに飛び散ってるっス!「全部まとめて灰にするからいいのよ~~~」とかなに笑顔で言ってんスか!

 いやいやいやその火球こっち向けないでもらっていいっスか?!おいら消し飛んじゃったら誰がそこ掃除するんスか!って、そういう問題でもないっス!勘弁してくださいっス。

 お師匠さまの方向からオークの骨が飛んできて、え?これすり潰すんスか?お師匠さまがやったほうが早いじゃないっスか?やだ?面倒?知ったこっちゃないっスよ!うわあ!やめてくださいっス!「何をされてるか言葉に出さなきゃ読者がわからないわよ」って、何の話っスか!読者とは一体…!おいらにもなけなしのプライドがあるんス!ぎゃあ!やるっス!パンツ下ろさないで!やらせていただきますっス!

 

 そんなこんなで、お師匠さまが作った灰とおいらが作った白い粉とその他園芸土や腐葉土に加えてどっからどう見てもやばいものを混合した肥料が出来たっス。

 ふかふかの畑にミニマムサイズのマンドラゴラの赤ちゃんを植えるっス。ピィピィ鳴く赤ちゃんが寒くないようにやさしく土をかけて植えてやったところにお師匠さまがやってきて、うにゃうにゃ呪文を唱えたっス。今植えたばっかりなんスから放っておいて欲しいっス。構い過ぎたらストレスで弱っちゃうっスよ。


「3倍長持ち~~~!!!75メエェエエトル!!!!」


 と、お師匠さまのなんだかわからない呪文と共に指先から飛び出したキラキラした煙がその場を包み、バンと弾けて激しい閃光となって、マンドラゴラの苗木どころか辺り一帯が真っ白で見えなくなっちゃったっス。

 お師匠さま激しすぎるっス、赤ちゃん弱っちゃうっス!とか言ってたらズン!と地鳴り、ドドン!と爆発がありおいらは衝撃波をまともに食らってドッカーン!弾き飛ばされたっス。

 寸でのところで地面を蹴って回避!!!な~んて芸当がおいらにできるわけもなく、ドテッぐえっと2回バウンドした後に地面に転がったっス。背中とお腹とおしりが痛いっス。まき上がった砂埃で鼻と目も痛いっス。クチュン!びっくりしたっス。死ぬかと思ったっス。並みのハウスエルフだったら死んでたかもしれないっス。おいらはバアトさまの魔法で強化された特別なハウスエルフっスからちょっと痛いくらいで済むっス。



「いや~~~魔法で成長させようとしたんだけど、ついつい気分が乗っちゃって大きくなりすぎちゃったわね~~~!わはは~!デッシ、生きてる~?」


「お師匠さまぁ~~~!!!いくらなんでもおっきくなりすぎっス!!!」


 爆発にも砂埃にもケロっとした顔のお師匠さまは、たわわに実った大きなおっぱいの間からひょいと扇を出したっス。お師匠さまがそっと扇げば大風が吹いて土煙が吹き飛ばされたっス。

 はっきりした視界に飛び込んできたものはちょこんと可愛らしかった赤ちゃんマンドラゴラ…ではなく、森から頭を突き出した山のように巨大な姿にすっかり変貌していて、前からここに生えてましたが?みたいな貫禄のある顔をしてそこに鎮座していたっス……お師匠さま、これどうするんスか!!!?

 半分以上顔を出した状態の巨大マンドラゴラはぎゃおーんぎゃおーんと絶叫を上げながらゆっくり立ち上がり、え?立ち上がった?!?その巨体はゆっくり歩き出したっス。森の木々を薙ぎ倒して、ぐおおおんぐおおおん!あっこれマジでやばいやつっス…巨ンドラゴラ誕生っス………


「あっちゃ~~~あっち街の方向だわ!動物と住民は諦めるとして城下町に突っ込んだら国賊になっちゃう~困ったわ~!デッシ!追いかけるわよ!!!」


「ひええ~~~なんとかしてくださいっス!これは国王も魔女連盟もマジおこ案件っスよ!!!」

 

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