(3)

「そ、もそも、なんで、お前がそこまで《心喰い》に詳しいんだ。おかしいだろ」

「おかしいか?」

「おかしいさ」

「そうでもないだろ。わしはこれでも老僧だ。かつては《心喰い》の一匹や二匹相手取ったことだってある。嘘かどうかは身をもって知っただろ?」


 先ほどまでの激情が嘘のように、嗤いさえ含んで老僧がすずめ丸を挑発する。

 実際、《心喰い》であるすずめ丸があの短時間で苦しんだのだ。もっと続けていればどうなっていたか分からない。


「だが興味深い」


 老僧がにやりと笑う。


「本来持ちうるはずのない《心喰い》が心を持ち、《魔》が住み着いてもおかしくない状態で無事に済んでいる人間と共に行動し、《心喰い》でありながら、目を付けた人間の心をごっそり喰らうのではなく、一部だけ喰らっている……お前さんたちは一体何なんだ?」

「何……とは?」

「あり得んのだよ。本来そんなことはな。《心喰い》が人と供に行動をすることも、心がないままに《魔》に魅入られずにいられる人間も。何より、《心喰い》が心の一部だけを喰らうなどと言う器用なことをすることも。お前さんたちだろ? この数か月の間に起きていた不可思議な現象を止めたのは」

「何のことだ?」

「惚ける必要はない。直近では《神隠し》。その前は《焔天女》。その前は《泣き女》。その前は《血啜り》。その前は……上げればまだまだ出て来るが、立て続けに起きた火事も、降り続いた長雨も、子攫いの悲劇も、血の抜かれた遺体発見も、止めたのはお前たちだろ?」


 確信の元に発せられた事柄は、事実、佐倉とすずめ丸によって止められた現象であり、


「それを止めたせいで、《魔》に魅入られて命を落とした輩もいるな」


 何一つ否定のできないものであった。


「否定はなしか」


 出来なかった。

 また、するつもりも佐倉にはなかった。

 故に、問い掛ける。


「そもそも、あなたの目的はなんだ? 何のために私たちを付けて来た? 《心喰い》を退治することが目的なのであれば、何故問答無用にそうしなかった? また、何故途中でやめた?」


 どこまでもどこまでも感情の籠らぬ声だった。

 一切の感情が浮かばぬ顔だった。

 心を奪われた故の症状。

 だが、そんな佐倉ですら、老僧が次に発した言葉には言葉を失った。

 老僧は言った。にやりと笑い。


「お前さんたちのやってることに興味があったのだよ。いっちょわしの心を喰らってみんか?」


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