第七話 待宵のひととき
七日目。
今日は運命の日だ。このループ脱出を脱出すべく、いつもの集中がより強いものとなる。そんな一日の始まり。
最近。朝、起きる時はかなりの恐怖と緊張しながら起きるようになってしまった。理由は単純に時間が戻っていないかという物。勿論、こんな事はありえないと思うがそれでもそう思ってしまう。
そんな心配を胸にゆっくりと目を開ける。
「今日も正常。時間は戻ってないよな」
かかっているタオルケットを右腕で振り払い、ゆっくりと静かに上体を起こすとフィーリアが目に映る。静かに寝息を立てながらハルトのお腹の中でまるまるように寝るのが寝る時のスタンスだ。
「おーい。朝だぞー。起きろー」
「ん、んーー。あ、ハルトなのよ。おはよかしら」
「ん、おはよう」
フィーリアの肩をさすって声を掛ける。ハルトは寝起きが良く、フィーリアは寝起きが悪いのでいつもハルトが起こすのがいつもの風景だ。
起きてすぐフィーリアは時計を見る癖がある。すると、
「今日は少し早いのよ。寝つきが悪かったのかしら?」
「まぁな。そんな感じ」
ハルトの返答を耳したフィーリアはゆるりとベットから降り、箪笥を引き着替えの服を選ぶ。それを見たハルトはゆっくりと部屋を出て、1階の朝ごはんの準備をしているアイリスの元へ行く。
「よう、アイリスおっはー」
「はい。おはようございます。あとハルト、おっはーじゃなくておはようございます、でしょ。挨拶は大事なんだから」
「へいへい」
「またそうやって誤魔化す。いい加減私も怒るんだから」
怒ったアイリスも可愛いと思うのでそんな顔を見たい気持ちがあるが、流石に本気で怒られたらたまらないので何時も程々にしている。
くだらない会話をしていると、階段先のドアが開く。出てくるのはフィーリアだ。フィーリアは短く細い脚でゆっくりと階段を下りる。
「おっはーなのよ! アイリス」
「もう、フィーリアまでそんな挨拶して。全くハルトに毒され過ぎよ、フィーリア」
「つーん。そんな事ないのよ。アイリスの目は曇った目をしているかしら?」
「私の目は晴れた水色の目ですー。全くもう、困っちゃう」
ハルトはアイリスの天然を横目に苦笑いしながら椅子を引き腰掛ける。すると同時に香ばしいパンの匂いが漂ってくる。そろそろ出来てくるなと想像する。
この家では朝食にサンドイッチを食べるのが毎朝の恒例だ。相変わらず何を作ってもアイリスは料理が上手く、あの毒舌フィーリアの下を唸らせる程のものだ。サンドイッチなんて誰が作っても同じような感じがするが、アイリスが作るとやはりどこか違うものだ。
「お待たせー」
「待ったぞだなんて言ったらファラが赤目引っ張ってしまうかしら」
「オーソレハ、コワイナー」
フィーリアのちょっと何言っているか分からない発言は置いておきつつ運ばれてきた朝食に目をやると、生ハムやフリルレタス、ゆで卵をみじん切りした物などを焼かれたフランスパン挟んだサンドイッチらしいものだ。
毎朝出てくるサンドイッチは少しづつ違うものが出てくる。これは毎朝のサンドイッチが飽きないようにとアイリスの粋な計らいによるものなのだ。
今日も違うサンドイッチの味に期待しつつ右手でパンをつかみ口に運ぶ。
なんと言うかこう味が複雑と言うか深いと言うか、初めに玉子の旨みが舌鼓を鳴らし、その後トマトの酸味とレタスの苦味が良いアクセントになってやってくるのだ。その後に優しくバター風味のする香ばしいフランスパンの香りが鼻に抜けるのは言わずもと言ったところか、
「うっま!」
21回目の朝食でこの驚きである。
「ふふ、それは良かったわ。不味くないか心配だったからなお良かったわ」
「これだけ料理ができてその言い草は最早、嫌味の領域なのよ」
「えぇ! 別に貶したわけじゃないのよ。でもそう聞こえたならごめんなさい」
「そんなこと言っても信用ならんのよ」
この家は料理に使う素材も作る人も天然素材なのかと上手いこと言った気になる今日この頃。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
食後、自ら食器洗いを買って出た。理由は簡単に今回の周回はいい事をモットーにやると決めたからだ。こんな程度でなんの変化になるか分からないが少しでも変化を作らねばと、この結果である。
隣にはフィーリアが洗った皿を乾拭きしている。椅子の上に立ち鼻歌を歌いながら拭いている感じだ。その曲の名前は分からないがアップテンポな感じて聞いている方も気分が良くなる。
椅子の上に立っているとはいえ台の上からは頭と手がギリギリ出できていると言った状況だ。やりずらそうだが見ている側としては可愛いので眼福という感じになる。そんなことを考えていると、
「ハルト手が止まっているのよ。考え事かしら?」
「考え事らしい事じゃないよ。気にしなくていいぜ」
「そうなのかしら? 頭では理解しておくのよ。でも悩み事ならすぐにフィラに話すかしら。絶対に」
「そうするよ」
最近フィーリアから悩み事があれば直ぐに相談しろと何度言われた事か、そんなに心配されるような状態に見えるのかと自分でも自分自身が心配になる。
「ハルト、フィーリア、洗い物が終わってからでもいいんだけどお使いに行ってきてくれる?」
「あ〜ハイハイ。お使いですね〜 分かりましたー」
今日三回目のお使い要請だ。そう言えばお使いの時追い剥ぎにあっていた奴がいたってなと、なんで思い出し今回の周回のモットーは出来るだけ人助けと言うのがモットーだ。『聞こえたら助けに行くか』と頭の中で考えるのだった。
今日は八月十四日。この世界はひと月が十六日しかないようで、詰まる所あと二日で今月が終わる。
明日は十五夜の月、俗に言う中秋の名月と言う奴だ。俺は月が好きで、こんな時はゆっくりお月見でもしたいところなんだが、今回はそうは行かない。何故なら時間が戻ってしまうからだ。どれだけ月見のために頑張っても戻ってしまえば意味が無い。望月など後の祭りだ。
「アイリス、今日から団子の準備をするのよ。いーっぱい作るべきかしら。あと、明日の夕飯入らないのよ、だから作らなっていいのよ」
「えぇ、私の料理美味しくなかった? ごめんなさい」
「アイリスの料理が美味しくないわけないだろ、それよりもフィーリア! お前、団子たくさん食べないからって夕飯抜きはやりすぎたろ! さてはお前、月より団子派だな」
月より団子という言葉を言った瞬間フィーリアの顔がゆっくりと青くなるのを見つける。そしてフィーリアは誰がどう見てもバレバレの嘘で弁明を始める。
「そそそ、そんな事ないかしら。べべ別に違うのよ、ほらあれなのよ、あれかしら? そうなよ! ほら、あまーいあまーい、お団子さんが食べたいなーって、そう思っただけなのよ」
完全にフィーリアは口調を見失っている。ってかお団子さんって可愛いなおい。なんて邪念が頭によぎりながらも、ふとアイリスの方に目をやると、この発言にアイリスは口元にそっと手を当てて、
「ふふ、お団子さんってフィーリアも可愛いところあるじゃない」
「むっきー、なのよ!」
これは完全に自業自得と言う奴だ。からかわれても仕方ない事である。ハルトはこの光景に苦笑いしながら眺めるのだった。
話は変わり月の話だ。元来、人間は満月の夜、人が変わると言う。狼男やかぐや姫などが有名な例だ。
月の力は作り話に留まらず、満月の夜には犯罪が多くなると言う。「月には魔力があり、人を狂わす」との事らしい。
今日と明日を乗り越えればアイリスとフィーリアとでまた楽しい日々が待っていると気合を入れる。
記憶喪失転生 〜美少女二人とロリ精霊と共に界を越える旅に出る〜 のぎすけ @NOGISK
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