第4話 身元調査
ピンポーンとインターホンが鳴り響く。
築10年ぐらいの一軒家。
家主が出てくる気配はなかった。
「ソラって本当に真面目よねぇ。7人全員の安否確認なんて」
隣でマリアが暇そうにあくびをした。
「一体、誰のせいよ」
「私です。でもちゃんとソラのことを想って首都近郊の、駅から徒歩5分圏内にはおさめたわ。人数だってこれでもガマンした方よ」
「こうなると分かっててやっているなら嫌がらせじゃない」
「あらバレた?」
堂々というマリアに、心の中で毒づいた。
マリアに血を送ったという7人の身元調査は、滞りなく進んでいた。
『実はね、マリア、このままvtuber続けようか悩んでいるの。直接会えない? こんなこと、あなたにしか相談できないの』
そんなDMを送ればもれなく全員釣れた。
色々と思うことはあるが、よく考えなくてもマリアに血を送る時点でだいぶアレな人たちだ。おかげでこちらも心置きなく血を採取して、眷属化していないか調べられる。
「で、ここがラストね。わざわざ私が会いに来たというのに、約束の時間に家にいないなんてひどいわ。早く疑いを晴らしたいのに」
ならどうして大人しくしてくれないのかと痛む頭をおさえ開かない扉を前に、おやと気づいた。
鍵がかかっていない。取手を回せばかちゃりと開いた。
「不法侵入~」
「黙って」
嫌な予感がする。
久しく使われていなかった感覚がざわめく。
家にあがり、廊下に積み上げられたカップメンの山を足で退けながら進む。
「あ、思い出した。確かこの人だ」
後ろからついてくるマリアが声を上げた。
「何を?」
「この人の血、ものすごく不味かったのよね」
期待をした私がバカだったと思いながら、突き当たりの扉を開く。
広いリビングにあちこちに積み上がるゴミの山。
その中心で男性が一人仰向けに倒れていた。
男に近寄り、顔に手をかざす。
呼吸なし。心拍なし。瞳孔反射なし。
死んでいる。
どこか異常はないかと全身を眺めれば、腕にくっきりとした歯形があるのが目に入った。
スマホに記録を残しながら、チラリとマリアを見れば憤然とした顔をした。
「私の仕業だと言うの?」
「そんなわけないじゃない。私を舐めないで」
そう、マリアじゃない。
埋め込まれた吸血鬼細胞が騒がない。
それにこんな醜い傷跡を彼女は残さないはずだ。
優雅に、傲慢に。
吸血鬼には吸血鬼の矜恃があり、傷一つつけることにも彼らなりの美学にのっとって行っている。
だとしたら一体何が?
歯の本数と特徴から人である。この噛み跡は死んでいることと何か関係あるのだろうか。
「ソラ!」
鋭い声が聞こえたのと、男が口を開いて襲いかかってきたのは同時だった。
体を引いて避けると、腕があった空間にがちっと歯が噛み合う音が響き渡る。
男は白目をむき、再度噛みつき攻撃をしようとしてきたため鳩尾を蹴り飛ばす。
ガシャンと音とともに男はゴミの山に突撃し、そのまま崩れてきたゴミに埋もれた。
男は死んでいた。間違いない。
動く屍。
まさかあれは――
「ゾンビ……?」
「あたりー」
ゴミの中から手が伸びる。
這い出てきた男はヨダレをたらしにたにた笑った。
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