最期の時を迎え、空の中にひとり子供の頃の姿で佇む、とある男性のお話。
寂しくもふわりとした、暖かみのある物語です。ジャンルとしてはファンタジーですけれど、物語のいち類型としての空想というよりは、より普遍的な形で人の手によって紡がれてきた、いわば「祈り」としての空想を感じます。
柔らかくも優しい、空の上の世界。主人公を出迎えるのは早世した彼の息子に、そして病により先立ってしまった妻。大切な家族との再会を、生前のいろいろな思い出を交えながら綴ってゆく、その筆致の優しさと裏寂しさがとても印象的でした。美しい描写や情景の中に、でも確かにピンと張り詰めている寂寥感。
いわゆる死後の世界のような設定の、その想像のしやすさというか、ふんわりアバウトな感じが好きです。自分(本作を読んでいる私)のざっくりごちゃ混ぜな宗教観・生死観でも理解できる感じが、つまり宗教的に厳密なそれとは違う、もっと普遍的で素朴な「祈り」を思わせるような感覚。
見送る側としては悲しく、いつか迎える立場としても恐ろしい、絶対に避けようのない『死』という終点。その実際は誰にもわからなくとも、どうせならこうであったらいいな、というくらいの、つまりは死者の安寧を願う祈りにも似た何か。つらいことや怖いことをどうにかするために使われてきた、より実践的で広い意味でのファンタジー。こうして書くとなんだか大げさというか、漠然としすぎてかえってわかりづらいかもしれませんけれど、でもそういう慰めのようなものを感じました。
なんだか大仰な感想になってしまいましたけれど、とても綺麗で読みやすいお話でした。描かれていることそのものに優しさを感じられるところが好きです。