天候が個人の感情に連動するようになった未来、自分だけ常に晴天の男性と、常に土砂降りの中にいる少女が出会うお話。
ショートショート的なアイデアの光る掌編SF、のようでいて、これがなかなかどうして、ものすごく極上のボーイミーツガールをさらりとやってのけている作品です。入り口のとっつきやすさに騙されてはいけない……いや、別に何も騙してはいないんですけど。でも絶対この設定・この分量・この始まり方なら〝こう〟だよねって思うような、そこをきっちりやった上で、さらに予想外のところから殴られたような感じです。なにこれすごい。
個人の感情を反映して決定される天候。まるで映画や舞台の演出を具現化したかのような、いわばケレン味や絵面の方が強めの設定を、しかしあくまで『そこから弾かれた人々』を描くための舞台装置として使って、でもそれが天候であることにちゃんと(お話としての)意味がある。この設定でなければ生じ得ない画が、物語の魅力としてグイグイ食い込んでくる。豪雨の中でやたら明るく笑う女の子って絵面がもう最高というか、これだけですでに物語があるのがずるい。
その上で、一番好きなのはやっぱり物語というか、ふたりのドラマの行く末です。つまり物語の帰着点にふんわりながらも触れるため、この先はどうしてもネタバレになります。
抱えた困難や葛藤の、その解決のされ方。大袈裟な力に頼るでなく、また大掛かりな犠牲やコストを支払うわけでもなく、手の届く範囲の行動や決断で(でも間違いなく大きな冒険ではあるのがまた良い!)何かが救済されている。その救済もきっと全部が全部解決というわけではなく、おそらく抱えるものはまだ多いままなのだろうけれど、でも間違いなく何かが前に進んでいるという、その手触りがはっきり伝わるのがもう本当に好きです。こんなに綺麗な絵面なのにキラキラしすぎず、SFらしい壮大さがあるのに等身大の人間のお話になっている。ご都合主義的な嘘がなく、フィクションの上に私たちと同じ『人の生き方』を持ってきてみせる。虚構の設定を通じて普遍的な何かを叩きつけるような、そのスタンスそのものが心地よい作品でした。