第2話

「じゃあ改めて、笹川みなみちゃんです」


「よろしくお願いします」


「あ、よ、よろしくお願いします……」


姉と笹川さんが俺と部屋に入り腰を下ろしたところで改めて挨拶をする俺と笹川さん。


いや、マジで頭こんがらがってる。

なんであのササパンがこんなとこいんの?


俺が戸惑った様子のまま姉に目を向けると、姉はつまらなさそうに口を尖らせる。


「何よその顔、もっと喜んで、ニヤニヤした顔になりなさいよ」


「いやいや驚きすぎてそんなことできないから」


「まぁ驚くのも無理はないかもね。みなみは今や大人気アナウンサーだもんね、」


「いやいや私なんてまだまだだよ……」


姉の言葉に俯きながらやんわりと否定する笹川さん。

いや可愛い、というか綺麗だな。

顔だけじゃなくて所作とかそういうのも含めて。


今だってずっと正座してるし、背筋は綺麗に伸びていて、声がめちゃくちゃ透き通ってる。

隣であぐらかいて、酒焼けした声を出してる姉とは大違いだ。


「またまたそんなこと言って、みなみはもっと自信持ちなさいよ」


姉が少し強めにそう言うと、笹川さんは弱ったように顔を下に向けてしまった。


こんな可愛くて、人気もあるのに、まさかのネガティブな性格。

ギャップめっちゃ感じるし、自分との共通点も感じる。

やばい、好きになっちゃう。


「まぁとりあえず、ゆうとの滑舌治すためにみなみにお願いしたから、これから二人仲良くね」


姉はまとめるようにそう言うと、カバンを持って立ち上がった。


「ねーちゃんどうしたの」


姉の様子に疑問を抱いた俺は素直にそう尋ねる。笹川さんも同じような視線を姉に向けていた。


「あ、私この後予定あるから。あとは二人でやっといて」


「……はぁ?」

「……えぇ?」


何を言ってるんだこの人は。

え、もしかして人見知りの俺をこんなきれいな人と二人きりにしようとしてる?

バカなの?


「……冗談でしょ?」


「いやほんとよ。じゃああとは二人で頑張ってね」


姉はけろっとそう言うと、鏡で軽く髪をセットし直してから玄関に向かい始めた

笹川さんも想定外だったようで、驚いた表情で姉の姿を見ている。


「いやいやいやいやそれはない。マジでない。初対面の二人は気まずいだろ!」


俺はすぐに立ち上がり姉の後を追う。

が、姉はすでに靴を履き、玄関を出る直前だった。


「もううるさいわね。初対面でも普通に話せばいいじゃない」


「いやそれはそうだけど、笹川さんを男の家に一人で上げさせるのはちょっと」


「なに言ってんの。ド陰キャが襲う勇気なんてないでしょ」


「…………」


超クリーンヒット。

普通に傷つくわ。


「じゃ、みなみをよろしくね。あんたもしっかり滑舌良くするのよ」


姉は最後にそう言うと、俺が1人で落ち込んでいる間に、玄関から出て行ってしまった。


「……いやずる」


姉にはもう届かないが、小声でつぶやく。

……これからどうしたら……。


「春奈、帰っちゃいました?」


すると、部屋にいるはずの笹川さんがキッチンまで出てきて俺に声をかける。


「見ての通りです。ほんと嫌な姉ですね」


俺がそう言うと、笹川さんはフフッと軽く笑みを浮かべる。

うわ、笑う顔もめちゃくちゃ綺麗だ。


「春奈は相変わらずですね。まぁもう仕方ないので、二人でやりましょうか」


「そ、そうですね……」


やばい、緊張する。

普通にボイトレ行くのだって緊張する俺が、女性と二人きりで、なおかつその女性が大人気アナウンサーなのだ。

緊張しすぎて吐きそうだよ。


なんとか吐かないように我慢しながら部屋のクッションに腰を下ろす俺。

笹川さんは机を挟んで俺の対面に座っている。


いやどういう状況?

改めてやばいなこれ。

笹川さんめちゃくちゃ美人だし、動画で見るより何倍も美人だわ。


俺が緊張して何もしゃべれずにいると。


「じゃあとりあえず、お昼ご飯食べさせてもらおうかな」


急に笹川さんがこんなことを言う。

確かに今はちょうど昼の12時前だが、食べさせてもらおうかなって、どういうことだ?

そんな予定あったっけ?


俺が困惑したような顔になると、笹川さんも訝し気な表情を見せる。


「えっと、春奈から聞いたのは、ゆうとくんの手作りご飯が食べれるから、代わりにボイトレしてほしいって言われてるんですけど……」


…………。


「え…………聞いてないっす……」


またあの人が適当なこと言ってる……。

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姉に滑舌をよくしたいと言ったら、大人気美人アナウンサーが来た @yabepg

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