姉に滑舌をよくしたいと言ったら、大人気美人アナウンサーが来た
@yabepg
第1話
「やっぱりおいしいねーゆうとくんの料理」
「ありがとうございます」
今俺の1Kの部屋には、俺の作った唐揚げを美味しそうにに頬張る美人女性がいる。
綺麗にセットされた黒髪ショートのヘアスタイル、鼻も高く、目はぱっちりと開いている。
誰に聞いても美人と答えるであろうその女性の名は、笹川みなみ。
昨年人気アナウンサーランキングで上位にもなった、今大人気の美人アナウンサーである。
今も俺の部屋ではみなみさんが出演しているバラエティ番組が流れており、透き通る声で番組の進行を行っている。が、みなみさんはそれに興味も向けず本当に美味しそうに俺の料理を食べていた。
そして、そのままの顔を俺に向け。
「ゆうと君の料理、ほんと大好き」
テレビで流れる落ち着いた透明感のある声とは違い、無邪気でトーンの高い声でそう言う。
そんな声で『好き』なんて言われたらドキッとするわ。
「それは、良かったです」
俺は目を伏せながら、小声でそう答える。
何故、今やテレビに引っ張りだこの彼女が大学三年生の一人暮らしの家でご飯を食べているのか。
それは、一か月前にさかのぼる。
★ ★ ★
「え、もう一回言って?」
「あ、うちのグリュープでは3びゃんの意見がいいかなと思いました……」
「うん? 3番ね? もうちょっとはっきり言ってくれ。じゃあ次」
「は、はい……すみません……」
俺、渡辺ゆうとは、大学の講義の中でこのグループ発表が一番嫌いだ。
グループ発表とは、ある課題に対してグループで話し合って発表するというもの。
だいたいみんな発表したがらないから、発表者はじゃんけんで決まる。
だから必然的には3回に一回ほどは発表しなければならない。
これがきつい。
なぜなら俺は滑舌が悪いからだ。
それに加えて声もこもっているし、どもることも多い。
だから今みたいな授業で発表するときや飲み会の時などはとても困る。
滑舌の悪い人間が話すと、何を言っているのか相手にわからないため、その場の空気を壊してしまい、雰囲気も悪くなる。
現に今も先生の機嫌を少しだけ悪くしてしまった。
はぁ~発表やだ。ちゃんと喋れるようになりたい……。
「相変わらず滑舌悪いな~ゆうと」
俺が落ち込んでいると、隣から笑いながら話しかけてくる男が。
こいつの名は、橋上日向。同じ学部で同じバイト先という奇妙な縁のある男で、大学の中では一番仲のいい友達だ。
「うるせーそう思うなら変わってくれよ」
「やだ。おれゆうとの発表がツボだから」
「サイテーじゃんお前」
ほんと、友達が困ってるのにのんきな奴だ。
「まぁそんなことよりさ、お前ササパン知ってる?」
「ササパン? なに、コンビニの新商品?」
普通に知らなかった俺は軽く思いついたことを口にする。
「いやちげーよ。笹川みなみ、今めっちゃ人気のアナウンサーだよ」
「へー俺テレビあんま見ないから分かんないけど」
「いやいやKEYTUBEにも動画あるから見てみ。めっちゃ可愛いから。俺最近ずっと見てる」
興奮した様子の日向はそう言いながら俺にKEYTUBEのササパンの動画を見せる。
ちなみにKEYTUBEは世界でも最も有名な動画配信サイトだ。
日向が見せてきた動画は約3分ほどで、ササパンが可愛いシーンを集めたものだった。
確かに可愛い。
同じ大学だったら普通に惚れているくらいには可愛い。
「まぁ、可愛いな」
「だろ? だからさ、ササパン見に一緒にテレビの収録行こうぜ」
「……それが目的か」
そう呟くように言い、俺はじっと日向を見る。
日向は金髪ということもあってかなり陽気に見られるが、実際はかなりの陰キャで、一人で行動することがあまりできない性格だ。
おそらく俺をササパンのいる番組のテレビ収録に連れて行こうとしたのだろう。
「頼むゆうと、生のササパンが見たいんだ」
「やだよ。俺あんま興味ないし」
確かにササパンはかなり可愛いと思うが、興味のないものに行く気はない。
俺がそう答えると、日向は何も言わずにじっと俺を睨み、その視線は授業が終わるまで続いた。
大学からの帰り道。
ふと、ある建物に貼ってあるチラシが目に映った。
『滑舌でお悩みのあなた! 初めての方限定1レッスン1000円!』
デカデカとそう書かれているチラシ、その建物の二階にはボイストレーニング教室があるようだ。
「なるほど、こういう手もあるのか……」
今まで滑舌をよくするトレーニングを行ってきたがどれも効果がなかった。
でもこういう教室だったら、確実に良くなるのかもしれないな……。
と、思いつつも、『1レッスン1000円‼』の文字が気になる。
金のない大学生に無理だな。
「え、ゆうと、ボイトレするの」
俺が教室に通うのを諦め、再び歩き出そうとするとすぐ後ろから声をかけられた。
急だったらからか体をビクつかせながらすぐに振り返ると、そこには俺の姉である渡辺春奈がいた。
「ねーちゃんかよ。びっくりしたわ」
「ああごめんごめん、てか驚きすぎでしょ」
姉は長い黒髪をなびかせながらケラケラと笑っている。
ほんと弟をからかって何が楽しいんだ。
「ねーちゃんなんでこんなとこいんの。仕事は?」
「今日は年休。で、あんたの飯でも食べようかと思って」
「人んちを飯屋みたいに使わないでくれます?」
「いいじゃない、ちゃんと材料費は出してるんだから。であんたはなんでこんなの見てるのよ?」
「……ちょっと、滑舌良くしようかな、なんて」
なんか恥ず。家族に滑舌のこと言うの恥ず。
「へーまぁ確かにゆうとちょっと滑舌悪いしね。いいんじゃない」
「でも、金かかるからどうしようかなって」
俺がそう言うと、姉は俺の見ていたチラシに目を移し少し苦い顔をする。
「まぁちょっと高いねー。貧乏な大学生は無理かもねー」
「そうなんだよ。だから諦めて帰るよ」
「んーなるほどー」
俺の言葉を聞いた姉は少し黙り込み、何考えるように右手を顎に置く。
数秒後、姉は思いついたように声を出した。
「私の友達にすごいボイトレ詳しい子いるから、その子に教えてもらえば?」
「え?」
「私の一番の友達だから、別にお金も必要ないしね」
「……いやいやねーちゃんの友達ってことは社会人でしょ? そんな時間ないだろ」
「大丈夫、土日にしてもらうから」
「……それでいいなら、別にいいけど」
正直こちらとしてはメリットしかない。
タダでボイトレ受けれるし。
唯一の懸念は多分ねーちゃんの友達が女性だと言うことだけど、ま、まぁ何とかなるだろ。
「じゃあ決まりね。今週の土曜、友達と一緒にあんたの家いくわ。ちゃんと片付けときなさい」
「え? 家来るの?」
「他場所どこあんのよ」
姉のド正論に黙り込むしかない。
確かにうちしか選択肢はないけどさ。
やばい、なんかめっちゃ緊張してきた……。
そして次の土曜日。
「うー緊張する」
知らない女性をうちに上げるってこんなに緊張するんだ。
気持ちを抑えるように俺はふきんを片手にテーブルやキッチンを拭く。
昨日から10回以上は同じところ拭いてるけど。
ピンポーン
すると、家のチャイムが鳴る。
うちはオートロック式ではないので、すでに玄関に姉たちが来ているということだ。
あ~緊張する。
俺は足を震わせながら、玄関まで行き、一度深呼吸をしてドアを開ける。
「え……」
そして、姉が連れてきた人物を見て絶句してしまった。
「紹介するね。この子が私の親友の笹川みなみです。これからあんたのボイストレーナーになるわ」
「よろしくお願いします」
俺の家に、大人気の美人アナウンサーが来ちゃいました。
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