第2話 クリスマスの夜だけは

姉が来てから家族が増え、せわしない生活。あどけないミチルの存在は、私達の結束を固めた。

そんな時だった。連日ニュースをにぎわしていた極悪犯 佐々木が捕まり、安堵していた。暫くは、どこのチャンネルを変えてもやっていたが、いつの間にか次々とあるニュースの中に埋もれていった。


私と姉とミチルだけの生活、そして、有り余るお金。私の中で、このままこの生活を続けていっていいのだろうか。と、悶々としていながらも日にちは過ぎていく。それにひきかえミチルの日々の成長は、目に見張るものだった。目が、指の動きを追う。首が、すわる。声に、反応する。順調に、成長してきていた。



ある日、テレビのニュースで、あの極悪犯ー上野 佐々木の生い立ちや、子供がいたことが、画面をにぎわかせていた。画面には、あどけない赤ちゃんが写っていた。(ミチルと、同じくらいだろうか)犯人は、子供の存在も知らない。知った所で 、良くて終身刑の男だ。母親は、赤ちゃんを置き去りにして、いなくなっていた。家宅捜査の時に、かろうじて息をしてる赤ちゃんを、保護したらしい。なんだか、悲しい気分になった。つくづく、親を選べない子供達が可哀想だ。


「2562 佐々木 今週も、面会だ。」抑揚のない声で、看守は伝える。捕まった当初は弁護士や、記者や刑事がひっきりなしに来たもんだが 半年もたてば落ち着いたもんだ

だが最近よく来る女には、ほとほとあきれる「おれには関係ないと、言ってくれ」と、言うが看守は「弁護士と一緒なんで、断れないんだよ。さあ、さっさとでろ」

嫌々、面会室に出ると、国選弁護士とあの女と、赤ん坊がいる。(なんだっていうんだ。今更、俺は極悪犯だぜ。どうせ一生ここから出れないどころか、死刑かもしれない。今更俺の赤ん坊と言われても。実感が、湧くどころじゃねぇ。こいつら、どこかおかしくないか?)「さあ、面会にでたぜ。俺に、なんて言ってほしいんだあんたら。」桜は、佐々木の顔をみつめながら「ただ、赤ちゃんをみてほしいの」「はあ?ふざけるな。俺は、暇じゃあねーんだ」実際、規則正しい拘束があるのだ。


あれから、毎週来ては同じことしか言わない。その傍らで、赤ん坊は泣いたり、ぐずたっり、時にはクソして、扉を開けたら臭いが充満して 思わず苦笑せずにはいられなかった。

何か月か過ぎていった時、赤ん坊の顔を見るのが俺は楽しみになっていた。赤ん坊っていうのは、同じ動きしかしてないようで日々、育っていくんだなと。何人も殺した俺にも、人の心があったのか 。それともヘイの中にいて、おかしくなっちまったのか。桜や弁護士とも、少しづつ くだけた話ができるようになった。

そんな時期に桜が、陽介もそろそろ2歳になると、あまりここには、連れてこない方がいいと言い出す。

勝手に連れてきて、その言い草はない。しかしそれから弁護士と桜が刑務所側に、かけあって年1回のサンタが生まれた。もちろん模範囚の数名に限ってだが。

年に一度のクリスマス。罪深い男達もサンタの衣装を身にまとい、重い罪も罰も今宵こそは天空において可愛い子供達にプレゼントを持ってくる。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クリスマスの日 クースケ @kusuk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ