ママのお守り

NOTTI

第1話:ママのお守り

涼太が実家に帰った時に母親が大事そうにバックに付けているお守りを見つけた。そのお守りは「子宝守」と書いてある。母はまだ三八歳だが、出産経験は五回もある。


 最初は自分が生まれた時だ。当時一八歳だった母は二歳年上の大学生(後の父親)と付き合っていた。そして、結婚して、自分を身ごもった。しかし、母は心臓の病気を小学生の時に患ってしまい、今でも血圧や心拍が安定しないこともあった。これは父から聞いた話だが、担当産科医から「お子さんが低血圧や心疾患を患っている可能性があり、このまま成長しなければ仮に出産できても集中治療室で治療に当たらないと命が危ない可能性があります。」と告げられたのだという。実は母親は初産だが、妊娠は出来ても早産になってしまい、年子の兄が生まれた時も新生児集中治療室に入院していたのだという。兄は低体重で生まれたが、さいわいにも心疾患などの命に関わる病気は遺伝しなかった。


 しかし、生まれてから低血圧の状態が続いていたため、今でも朝は弱く、なかなか朝はスムーズに起きることが出来なかった。妹も低血圧はあるが、病気は何も無い。そんな兄たちをうらやましそうに見ているのが、末っ子の隆仁、智奈実の双子の兄弟だ。二人も心疾患ではないが、心音異常で検査を受けていた。結果は良性だったが、経過観察をすることになったのだ。特に智奈実は血圧が安定しないため、反応がおかしくなることや急に意識が薄くなったりすることがあり、先生も心配するほど成長がかなり遅れていた。


 二人が生まれてから三年後に両親は一定期間の別居をすることになった。母と五人の兄弟姉妹達も歩いて二〇分の母親のアパートに引っ越した。家自体の見た目はアパートだが、実際には戸建てのような間取りなのだ。そこに引っ越して分かったことは父との生活よりもストレスを感じなくなったことだ。向こうの家には子ども部屋はあるが、隣の部屋に話している事が筒抜けになってしまい、まるで共同生活の子ども部屋のようだった。しかし、こっちのアパートは三階建てで一階に玄関と部屋二つ、二階にリビング、キッチン、部屋二つ、三階には部屋が四部屋ある。この間取りは僕たちには十分すぎる間取りである。なぜなら、このアパートは新築なので、防音性も高く、お互いのプライバシーも侵さないという快適すぎる生活だった。


 その後、両親は離婚し、元の家にある残りの荷物を取りに行った時に父親から「お前達に悪いことをしたな。何かあれば連絡してこいよ」と物心付いた時から初めて言われた。父親は本当のところ、離婚したくなかったようだが、苦渋の決断をしたのだという。離婚した理由を聞いてびっくりしたのは二歳離れた妹の治療に必要な治療費を父親がピンハネして、趣味のギャンブルや交際費に使い込んでいた。それに怒った母が離婚届を父にたたきつけたのだという。そんなことがあるのかと驚いていた。


 そして、父に愛想を尽かした母は別居中に高校の時の元彼と連絡を取り、密かに愛を育み、元夫との離婚が成立する前に復縁をして、離婚が成立した後一定期間を空けて結婚した。


 結婚して少しすると隆仁が母に「妹が欲しい」と訴えかけていた。そして、隆仁に同調するように智奈実も「妹が欲しい」と母に訴えかけた。母は双子だと考えていることが一緒なのかとびっくりした。


 しかし、なかなか子宝には恵まれず、二人が小学校に入る時に「妹が出来た。」と母から報告があった。その報告に二人はうれしさを身体で表現して喜んだ。そして、妹も双子というからびっくりである。


 弟が欲しかった隆仁は友人の家に行くと友人の弟と遊ぶようになった。それぐらい弟が欲しかったにちがいない。


 涼太が一九歳の時に約四年の交際期間を経て、高校の同級生である美波と結婚した


彼らにも結婚してから二年後に娘が生まれた。生まれたことで幸せになって行くと思ったが、これまた悲劇が襲っていく。それは涼太がリストラ対象になってしまったのだ。


 涼太はリストラされた後にどうしようか不安になってしまった。というのも、職はあるが、必要な資格などが足りないため、大学に進学するか、必要資格を取りながら新しい職場を探すかで迷っていた。


 その頃、実家では自分と二〇歳以上も違う弟が生まれたという。これで母は「もう涼太に任せたよ」と言ってきた。その伝言が母の最後に言った言葉だった。


 弟が生まれてから二ヶ月後、母は育児と仕事による過労で病院に緊急搬送されて、集中治療室に入院した。医師によると、母親の意識が戻るかは難しいという。


 実は美波のお腹に新しい命が宿っていた。そして、母も生まれてくるのを楽しみにしていただけに複雑だった。一日も早く意識が戻って欲しいと心から願った。

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ママのお守り NOTTI @masa_notti

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