史上最大の任務 3

 高級リゾート地、コンゴーナス島にはこの島に滞在するVIPのために作られた、特別な豪邸が5軒ある。どの家も、普段から先進国の王室並みの防衛が敷かれており、例え戦争になったとしても攻略は容易ではない要塞となっているが、最近この中の一軒が特に防備を強化している。

 入り口の検問は二重になっており、家の塀も高く、全方位に監視カメラが付いているため、侵入はほぼ不可能であるとみられている。


「まったく……こんな窮屈な生活がいつまで続くんだ。外でゴルフしながらハンバーガーを食いてぇなぁ! こんなことなら大統領なんかになるんじゃなかったぜ!」

「ようよう元大統領! 少しは我慢しろよ! あんたがウロウロしてると、こっちも守りにくくて仕方ないんだからな!」


 ここの家主の名は、D・トランポリン――――今回の競技のターゲットその人である。年齢はすでに70を過ぎているにもかかわらず貫禄のいい体つきをしており、全体的にエネルギッシュな感じがする。

 祖国から暗殺者を向けられていると知った彼は、外国が容易に手出しができない場所としてこの島を選んだが、情報では敵性エージェントがすでにこの島までたどり着いているとかいないとか。


「でもよ、ゴルフくらいいいだろ? 私兵も大勢雇い、なんならあの『ケンタウリの三連星』も雇い入れた。戦力的には申し分ないはずだ」

「はっ、何が三連星だ。装備だけはいいものを使ってるトーシローばかり。全くお笑いだ。あの骸骨をかぶってる伝説の傭兵がいたら、奴も笑うだろうよ」

「しかしゲーデ。彼女たちは、俺を信じてついてきてくれた、愛国者たちだ」

「ただのカカシだな。俺様なら瞬きする間に、皆殺しにできる。忘れないことだ」


 ターゲットの傍でつきっきりの警護をしながら毒舌を振るうのは、紫の燕尾服にこれまた紫のとんがり帽子をかぶった、魔女のような見た目の女性――ゲーデ。

 かなりボリュームがある癖毛の長髪で、前髪だけがかなり短く切られており、全体的にスタイルは抜群なのだが、顔がややおっかない。言葉遣いも乱暴だ。


「ゲーデ。君は俺を、脅しているのか?」

「事実を言ってるだけだぜ。正式な大統領調印が終われば、バイコディンの支持者は「官軍」としての大義名分を手に入れる。あの国の隠密機関も、お前を追いかける。そいつらからお前を守ることができるのは……俺様だけだ」

「怖がっているのは、俺ではなく君じゃないのかゲーデ。君こそ、未知のエージェントの襲撃を恐れているんだ」

「当然だ、プロだからな。だが、念には念を入れて第二第三の亡命先は作ってある。緊急事態になったら、ひそかに脱出する手はずも複数ある。俺様に任せておけって」

「やれやれ……」


 トランポリンとゲーデは、祖国の隠密機関が襲撃してくるならここ数日が山場だとみている。もし仮に手に負えない相手が出てきた場合は、いくつもある脱出経路でこの島から逃げる予定だ。


「しっかし、ハンバーガー頼んだのに、おっせぇなぁ! 俺は一般人の10000倍税金払ってんだから、10000倍速く届けろっての」

「お前……この緊急事態に何のんきなこと考えてんだ」


 トランポリンがハンバーガーがまだ届かないことにイライラしていると、彼のいる執務室に二人の女性兵士が勢いよくなだれ込んできた。


「た、大変だゲーデの姐さん!」

「ブローゼがやられた!」

「は? なんだと!? もう襲撃が始まったのか!?」


 入ってきたのは、チタンアーマーや重火器を背負った重装備の金髪女性兵士、もう一人は最低限の装備だけ身に着け、格闘のためか手にバンドを巻いている銀髪の女性。彼女たちこそ、先ほど名前が出た『ケンタウリの三連星』と呼ばれる著名な女性傭兵だ。

 だが3人いるはずのメンバーの一人、ブローゼの姿がない。


「姐さん、それが…………」

「ブローゼは、先ほど届けられたハンバーガーを毒見した際、七孔噴血して死亡しました……」

「おいぃ!? マジかよ!?」

「くそっ、もう俺の周辺に暗殺者が現れやがったのか!? 早すぎるぞ!?」


 どうやら3人目のブローゼは、配達されたハンバーガーを毒見した際に、本当に毒が入っていたせいで死んでしまったらしい。もちろんこれは、せいの仕業でも、ボーイの仕業でもなく、単純な店側のミスで別の競技用の横流しハンバーガーを届けてしまったらしい。


「落ち着け元大統領、まだ慌てる時間じゃない。不審な動きをしている奴がいないか、一度調べてみる必要がある。シルヴィア、町の中を見てこい」

「イエス、マム!」


 こうして、妙な勘違いから自分たちを暗殺しようとたくらむエージェントの捜索が始まった。

 シルヴィアと呼ばれた銀髪の女性兵士は、颯爽と豪邸から飛び出し、町中に怪しい人物がいないか捜索を開始する。とはいえ、彼女一人だけではやや広めのこの島を探索するのは難しいので、何人かの私兵と分担しながら、であるが。


 各地に配属されている警備兵に、怪しい人物がいないか確認するも、意外と目が節穴な彼らは、特に変わったことはないと返答する。入管に問い合わせても、ビザに問題がある客は全くいなかったとのことだ。


「まいったな、空振りか?」


 2時間ほど動き回ったが、捜査では怪しい問題は浮かんでこず、暗礁に乗り上げたかに見えた。シルヴィアが島にある植物園の近くで一人悩んでいると、その辺にいそうなウェイターが声をかけてきた。


「よォ、あんた。警察の関係者かい? 俺さ、ついさっき、あっちの方で怪しい奴を見つけたんだ。調べてくれるか?」

「怪しい人物だと!? どっちにいる!?」

「ああ、こっちの方なんだが…………」


 彼女は、不用意にもウェイターの後ろにホイホイとついていった。

 そして、植物園から少し離れた人気のないところまで来ると―――――


「ギャハハハハハっ! 引っかかったなァ!!!」

「え、なに!? い、いやあぁぁぁっ――――」


 ウエイター………いや、ボーイは正体を現し、シルヴィアを頑丈なコードで全身ぐるぐる巻きにして身動きが取れないようにすると、さらにその上から絨毯を巻いて梱包してしまった。

 島の全域には監視カメラが付いているはずだが、ボーイはあらかじめ監視カメラのレンズ部分に風景と全く同じ絵柄の布を張り付けて、監視を欺く徹底ぶり。

 哀れシルヴィアは、そのままボーイの肩に担がれて、連れ去られてしまった。 



 ×××



「よ……い、しょっと。たぶんこれで全部かな? まだ探索しきれてないところが一か所だけあるけど、あんな所にはヘリポートさえ置けないだろうから、たぶん大丈夫だと思うけど」


 その頃セイは、リゾート町から少し離れた場所にある、大型プール施設の地下に来ていた。

 地上には南国の気分が味わえる広大なプールがあるが、関係者しか入れない場所をこの島で警備している警官の格好に変装して侵入した。

 警官の衣服や装備は、トイレに忍び込んで便器で踏ん張っているところを襲撃して気絶させ、外側だけ貰って中身はばれないようにその辺のごみポストに捨ててきたのである。


 プールの地下は浄水施設や水道施設が存在するが、その中に一か所だけスタッフすら用途を知らない一角がある。そこにあるのは―――――


「大統領専用機…………エアフォース・ワンがこんなところにもある。よっぽど脱出経路に気を使ってるんだろうな」


 島の地下三階、秘密のエリアの先には巨大な格納庫があり、いざとなった際の武器の貯蔵に加えて、大統領専用機と全く同じ形の飛行機が保管されている。

 有事の際には、地上の巨大プールの水がすべて抜かれ、まるでサンダー〇ードの基地のようにカタパルトが出現し、そこから脱出用飛行機が飛び立つことができるようになっている。

 これ以外にも、この島には秘密の脱出口が3か所あり、地下深くの潜水艦用ブンカーや水上飛行機が隠されている観光用の洞窟に、ヘリを格納しておくダミーの建物などがあったが、この隠し場所を発見するのは相当苦労したものだ。


「ほかにあるとしたら、各家庭に気球を用意するくらいだけど、気球の速度なら撃ち落とすのは簡単だから、あまり気にしないでおこっと」


 そう言ってセイは、飛行機のエンジンに爆発物を仕掛け、いざとなったら爆破させる準備を整えた。

 だが、彼女が爆弾を配置し終わって立ち去ろうとしたその時、ほとんどの人が存在を知らないはずのこの場所に、何者かの足音が向かってきた。

 セイが入口の方を見れば、どこから侵入したのか、ウエイター姿のボーイが薄気味悪い笑みを浮かべて立っていた。


「オイオイオイオイ! こんなところに先客かァ? 警官に変装してるみてェだが、その様子じゃ、俺の対戦相手だろ? ギャハハハハハアアア! とうとう見つけたゼエェェェっ!!」

「…………!!」


 ボーイから見れば、飛行機の傍に立っているセイは、フェイスメットと防弾チョッキを纏ったそのへんの警官にしか見えないだろうが、中身が競技の対戦相手であることは一発で見抜いてきた。


(ヒャハハハ……まさかこんなところで鉢合わせするとはなア! つくづくあの女には、感謝しかないぜェっ!)


 なぜボーイが、ほとんど誰も知らないような秘密の格納庫にたどり着くことができたのか? それは、彼があの後シルヴィアをさらに人気のないところに運び込み、そこで彼女にどぎつい拷問を行って、場所を割り出したのだ。


(一戦目の経験が生きたぜ! 一方的に拷問すんのも、楽しいもんだったな!)


 茣蓙、敷物に関する術や召喚を使用できる彼がとっさに思いついたのが、十露盤そろばんと呼ばれる、江戸時代の石抱き刑に使われた木製の敷物の召喚だ。

 電気カーペットで体を縛られたシルヴィアを、三角形の木を並べた敷物の上に正座させ、その上から『グランド』で召喚した敷石をひとつづつ載せていくのである。

 最初は「屈しない」と宣言していたシルヴィアも、この苦痛に耐えきれず、ついに秘密の脱出口の情報を知っている限り吐いてしまったのである。情報を得て用済みになったシルヴィアは、その後もボーイに気の隅まで切り刻まれた後、証拠隠滅のためにカーペットにくるまれて海に捨てられたのだった。


「ギャハハ、テメエがどうしてここを知ったかしらねぇが、出会っちまったからには、ぶっ殺させてもらうぜぇぇっ!!」

「む……」


(これが対戦相手……! すっごく危ない人だ! でも、ナイフなんかで私が負けるはずが―――――!?)


 両手に果物ナイフを何本も持って攻撃の姿勢に入るボーイを見て、セイはその手に持っている高性能のアサルトライフルを構えたが、直後に彼女が被っているフェイスメットの視界が突然真っ暗になり、全身に何かが巻き付くのを感じた。




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※ボーイ氏による拷問の様子は省略されています。見たい人は、下のページの応援ボタンを押してください。

https://kakuyomu.jp/works/1177354055373748120/episodes/1177354055374486765


そうすれば書いてくれるでしょう――――― @eleven_nine 様が(無茶ぶり)

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