まさかの真相

「で、若葉君。真相が分かったとは本当かい?」


「はい」


 放課後までは待てず、その日の昼休みに二人は部室でお昼を食べながら報告会をすることになった。

 若葉は手作り弁当、燈真はケトルのお湯でカップ麺を作って食べている。


「では、早速タネ明かしと行こうじゃないか。若葉君!」


「わかりました。

 とは言いましても、タネ明かしと言うほど大袈裟なものではないかと。真相はとても単純なことでしたので」


「まあまあ、謙遜するなや。僕は朝から幽霊の正体が知りたくてウズウズしているしな」


 燈真はニヤリと笑いながらカップ麺をすすった。


「幽霊の正体は──ズバリ陽光ですよ」


 早速探偵が助手の推理に疑問を呈した。


「確かに、あそこは朝日が差し込んでいる。それも東側の公園の木の切れ間の関係で道を歩いている人には、あの団地前でいきなり陽が直撃することになる。だが、視覚を奪うほどではないはずだよ」


「ええ。陽光だけではそうなりません。ある要素があってやっと事故は起こります。

 先輩、去年の冬と今とで圧倒的に違うものは何でしょうか」


「……それは、感染症だろうか」


 訝しむ燈真に若葉は大きく頷く。


「そうです。そのため私たちはマスクを着けて行動しています。

 なので冬場はんですよ」


 その一言で燈真も真相が分かったようで、悔しそうに膝を叩く。


「なるほど!」


「白く曇った眼鏡に朝日が当たるとんです」


 探偵は悔しそうではあるが、助手の成長がよほど嬉しいのかその笑みを崩さない。


「裸眼の僕には盲点だったわけだな。

 確かに言われてみれば、自転車利用者は邪魔な街灯と歩道の亀裂のせいで走行可能な場所が限られてしまう。そこに丁度日の光が当たり、事故が多発したわけか」


「はい。しかもそうなると彼らは加害者側なので名乗り出る人がそうはおらず、原因を誰も知ることがなかったというわけです」


 それを聞いた燈真は満足げにカカカと笑う。

 そして若葉に向き直った。


「この分だと、君にこの高校の探偵役を任せても問題なさそうだな」


 その言葉に若葉の顔がパッと輝いた。まるでそれは開花の様子。


「君は今回の件で推理力を僕に示した。僕が前々から言っている探偵の基本も満たしているし、君はもう僕の助手に留めておくには惜しい」


 ──私は、先輩に少しは近付けたでしょうか。巻き込まれるだけの存在では、もうないのでしょうか。

 そんな浮かれた言葉が、つい口から出そうになる。

 若葉はそれをギリギリで飲み込んだ。だが、


「若葉君はきっとすぐにでも僕と共に謎を追いかけ回すだけでは飽きたらなくなるよ。君はここまで出来るんだ」


 その質問の答えは訊かずとも燈真が語ってくれた。若葉は自分の鼓動の速まるのを感じる。

 ──嬉しい。嬉しいのだが。

 燈真の言葉はコンビ解消を意味している。

 若葉はそれを素直を喜ぶことは出来なかった。

 そんな若葉とは対照的に燈真は明るい。柔和な笑顔を浮かべて、彼は言った。


「僕はきっと大学で探偵として成長してくる。君が目まぐるしい生活を送るハメになる程にはな。だから、待っててくれないか。その時が来たら、そうだな、君には同じ大学に来てもらって、次は助手ではなく相棒としてミステリー同好会発足と行こうじゃないか」


 燈真は柄にもなく照れたような笑みを浮かべた。


「……ダメかな?」


「いいえ。そんなわけ、ないじゃないですか。こんな先輩、他じゃ会えませんよ」


 隣に並ぶ権利を貰えたのだから、それを手放すわけにはいかない。若葉はイタズラっ子のような笑みで燈真を見つめた。


「待っててくださいね。

 絶対追い越してみせますから」




 帰り際、燈真はエナメルバッグから例のお宝ファイルを取り出した。


「君にこの同好会を任せるのだから、これも渡しておかないとな」


 そう言ってファイルを若葉に差し出す。

 若葉は言葉の意味が分からず首をかしげた。


「とりあえず、中を見てみろ。面白いぞ」


 促されるがままにページをめくると、中にはルーズリーフと大量の写真。写真に写っているのは理事会の方々とキャバ嬢。全員だいぶ酔っている。

 嫌な予感がして若葉は無言でページをめくる。

 ──若い女性と歩く理事長先生、喫煙禁止の場所で煙草を吸う学年主任の先生に、バイトをしている教頭先生。


「若葉君は以前からこの同好会の設立が許可されたことに疑問を抱いていたが、こういった交渉材料があってだな……」


「脅したんですかっ!?」


「まあ、平たく言えばそうなる」


 若葉の頭の中でさまざまなものが繋がった。過剰にマークされる日々、隔離された部室……。全てはこのファイルのためだ。きっと若葉もお仲間として認識されているに違いない。


「君もこのファイルで、この同好会を守ってくれ!」


「先輩、脅迫犯罪は肩の荷が重すぎますー!!」


「はははっ!偵察も探偵の本分さ!!」


 若葉は結局、この人に振り回されてしまうのだった。

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皆手高校ミステリー同好会 叶本 翔 @Hemurokku

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