現場検証

「でも、急に事故が増えた原因ってのが見当たらないしなぁ……」


 探偵が怪我した翌日の朝、若葉はヤドリギ団地を訪れていた。時間は7時5分。燈真が轢かれたのが幸いとは言わないがそのお陰で事故が起きる具体的な事件が割れた。

 団地の周りは策で囲まれていて、確かに見通しは悪そうだ。団地から出てきた住人たちが轢かれたのも頷ける。

 ──設置すべきは街灯じゃなくてミラーじゃない。

 的外れな工事に若干嫌気が差す。策沿いに立つ街灯に蹴りをいれてもいいのではないか。そう思ったが、さすがに若葉の理性はそこまで機能を停止してはいなかった。

 歩道の車道側には10年前の地震のせいで亀裂が入っていた。これを避けようとして、団地の入り口側に自転車が寄ってしまったことまでは予想がついた。でもそれでは最近朝だけ事故が増えたことの説明にはならない。

 歩道を堂々と走行する自転車利用者たちのマナーの悪さに辟易しつつも若葉は調査を続ける。

 燈真がメッセージで送った通り、最近朝方に事故が増えたことの原因は見当たらない。

 やはり、自分では先輩の代わりはできないのか。


「弱ったなぁ……」


 4年の腐れ縁のせいか、燈真の芝居じみた言い方は少しだけ若葉にうつっていた。でも、と若葉は思う。──でも、考え方までは真似できない。探偵役は私じゃない。まだ、追い付けない。

 もう詰んだ。そう思って若葉が空を仰ぐと朝日がその目を貫いた。


「あぁ。そうか……!」


 一連の原因が若葉の頭にするすると頭に入ってくる。これぞまさに、天啓。

 若葉は思わずガッツポーズをした。

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