第233話 早め早めの食料消費


 「うっへぇ……疲れたぁ……ホークのせいだ。あぁいう小道具作る時は俺に相談してって言ったよね? 絶対適当に作ったでしょ」


 「周りからも凄い目で見られてたねぇ……いやぁ、予想以上に多かった」


 セイとイースから苦情を受けながら、俺達は三層へ続く安全地帯で休憩していた。

 その二人を治療しているのがレインさん。

 怪我をしたって訳ではないが、疲労回復だったりと色々と回復魔術が使える様で。

 二人に付きっきりで、せっせと魔術を行使してくれている。

 正直、すまんかった。


 「色々と驚いたが……いつもあんななのか?」


 疲れたため息を溢すロザさんも、此方にジトッとした瞳を向けて来るが。

 今回はちょっと失敗しただけだ! なんて言えれば良かったのに。


 「大体俺が何かやらかして、二人にフォローしてもらってます……」


 今回も赤ハーブの量を完全に間違えた。

 それはもう、他のウォーカーがギョッとした眼差しを向け、数名は「て、手助けいるか?」とか声を掛けてきたほどに。

 傍から見ても、そこまで酷い状況に陥っていたのだ。

 イースは身体強化全開で暴れ回っていたし、セイはナイフ二刀流で魔術も使いながら殲滅していた程。

 俺に関してはひたすらヘイトを集めながら、槍をぶん回していた。

 コレは酷い、とても酷い。

 薬品や薬草の扱いは気を付けろってニシダさんから散々言われていたのに、現場に来てコレである。

 情けないにも程があるってもんだ。

 しかも、臨時パーティを組んだ初日に。

 二人からの評価も、相当酷い事になっているのだろうと予想していたのだが。


 「それでも二人は、ホークに判断委ねている。それだけの実力と信頼があるんだな、お前は」


 「はい?」


 ロザさんが、急に良く分からない事を言い始めた。


 「ん? だってそうだろう? 少し失敗しても、ふざけた様子で非難する程度。それにあの二人の戦い方は、ホークが軸に居てこそ出来る動きだった。間違いなく、お前ならやってくれると信頼と期待をしているからこそ、自由に動き回っている様に感じた。だからこそ、良いチームだと感心したんだが」


 そう、なのだろうか?

 だとしたら相当嬉しいと言うか、俺もちゃんと役に立っているのだと実感できる訳だが。

 でも実際の所どうなのだろう。

 親父達の繋がりがあるから、仕方なく俺に付いてくれているのかもって何度思った事か。

 二人からそう言う話とか、もう本当に無理! みたいな事は言われた事は無かったが。

 それでも、そう言われてもおかしくないミスだって何度もやらかしたのだ。

 俺が一番おっちょこちょいで、肝心な時にミスをする。

 そんでもって、皆に助けてもらってばかり。

 だからこそ、そう言う不安は心の奥底に常に付きまとっていた気がする。


 「ロザさんから見ても、俺は動けてましたかね? 対人戦に慣れている人から見ても」


 「あぁ、それはもう。というかホークの戦い方はどちらでも通用するだろうな。とにかく注目を集め、迫って来る敵をまとめて相手にする。小さい魔獣でさえ通さないんだ、そこらの人間が突破できる筈がない。敵が専門家でもない限り、早々に対処される事は無いだろう」


 非常に嬉しい言葉を残してくれるロザさんだったが、彼女もまた凄かった。

 本来の後衛という立場に置いてみれば、彼女の本領が思う存分発揮されたのか。

 ビックリする程殲滅力が高いのだ。

 デカい矢は間違いなく相手を一撃で仕留め、彼女の狙いは絶対に外れる事が無いと思える程。

 遠距離武器の後衛が居ると安心感が違うと言うが、まさかこれ程までとは思わなかった。


 「ちなみに、ロザさんならどう俺を攻略します?」


 「そうだな、遠距離からひたすら矢を放つ。と、言いたい所だが……妙に槍捌きが卓越している所を見ると撃ち落とされてしまいそうだ」


 「あ、そういう訓練も受けさせられてます。ウチの鬼教官達から……」


 「な、なるほど? だとすれば、魔術を絡めて騙し手を使わない限り正面からは勝てる気がしないな」


 ハハッと呆れた様に笑う彼女だったが、“正面からは”と言っているのだ。

 つまり、それ以外の方法では勝つ術があるという事。

 コレだけ射撃能力の高い人間が、ただただクロスボウを放つだけの筈がない。

 まだまだ能力を隠しているのだろう。

 先日のは単純にダンジョンで、一人で誰かを守りながらでは特技が活かせなかったというだけで。


 「なはは……ロザさんも意外と底が知れないっすね」


 「ロザで良い」


 「はい?」


 「敬称は必要無い。私は元々身分が低くてな、育ちも良くない。だから、あまり気を遣われると落ち着かないんだ」


 そんな事を言いながら、彼女は微笑みを溢して俺の頭に手を置いて来た。

 一応、ある程度は信頼を置いて貰ったという事なのだろうか?

 なんか子供扱いされている様でアレだが、まぁパーティになった以上は良い傾向なのだろう。

 であるならば、だ。

 もう少し仲良くしてもらう為に、俺等は俺等の出来る事をしようではないか。


 「セイ、イース。動けそうか? 飯作るぞ、無理なら俺だけでやるが」


 「大丈夫大丈夫、これくらいなんでもない。森でデカいヤツ相手してた時の方がキツイって」


 「僕も平気だよ、何作る? お腹空いたね」


 二人は軽い声を上げてから立ち上がり、でかいバッグから色々と取り出し始めた。

 頼もしい限りではあるが、なんというかスマン。

 俺がもっとしっかりしていれば、二人がここまで疲れる事は無かっただろうに。


 「疲労回復の為に、いっぱいニンニクを使おう。そうしよう」


 「まぁ今日はダンジョンに入ってからそこまで経ってないし、別に良いけど。そこまで気を遣わなくて平気だよ? 俺もイースも、言う程疲労困憊って訳じゃないし」


 「ごめんごめん、イジメ過ぎた? 僕もまだまだ全然平気。心配しなくて大丈夫だよ」


 うるさいな、そんなじゃないやい。

 という訳で、ニンニクをドーン!

 バッグから「そぉい!」とばかりに取り出してみたが、本当に何を作ろう。

 うーむと唸りながら、現状パンパンになっているバッグを探っていれば。


 「三層までって考えると、あんまりだけど。ダンジョンだし傷みやすい食材は先に使っちゃった方が良いよな?」


 とある物を見つけて、思わず呟いてしまった。


 「そだねぇ、肉野菜の他にも色々あるし。お母さんに“冷蔵”の付与を付けてもらったバッグを使っているからとは言え、何時までも保つ訳じゃないしねぇ。というかどれくらいまで食べられるのか、そういうのを調べる目的で結構持ってきちゃってるし」


 セイの言う通り、俺達の荷物には色々と付与が施されている。

 食料バッグには特に。

 “時間停止”のマジックバッグなんてモノがあれば、この辺りは気にする必要はないのだろうが。

 しかし持っていないのだから仕方がない。

 我らが魔女様アナベルさんにお願いして、色々と手を加えて貰っている。

 ダンジョン活動メインでは余計にこういった物は必要だろうと、ドワーフ組と一緒に大急ぎで作ってくれたのだ。


 「麺、食いたくねぇ?」


 「「麺」」


 「何となく持って来ただけなんだけどさ……油そばとか、な? 疲れた時にはガッと行きたいじゃん?」


 「「コイツとんでもねぇ事言い出しやがった!」」


 という訳で、今日のメニューは決定した。

 ニンニク増し増しの汁無し油そばじゃ。

 ホームにいる間に作ったチャーシューなんかも持ってきているから、多分そこまで苦労せず作れる事だろう。

 早い内に消費しちゃわないといけないからね、仕方ないね!

 という訳で、本日もグリムガルド商会から頂いた魔導コンロを用意していくのであった。


 ――――


 油そば。

 それはもうガツンと来て、欲求を満たす為だけにありそうな料理。

 コイツの決め手は何と言っても麺の味付け。

 ソースやら油やら、色々と混ぜ合わせていくのだが。

 此方はセイが居るので全く心配はしていない。

 そんでもって、これでもかって程にすり下ろしニンニクを準備しつつ、片手間に麺を茹でる。

 これさえ終われば、後はもう混ぜ合わせ具材を乗っけるだけなのだが。


 「厚くしちゃう? いっちゃう? これ結構手を込んで作ったチャーシューだし、いっちゃう? 早く食べないと傷んじゃうからね、仕方ないね」


 イースもテンション爆上がりな様子で、チャーシューをドデカく切り分けていた。

 そんでもって、今回は半熟卵を乗っけたいと思います!

 何たってニンニクモリモリだからね、女性陣が「臭ぁ!?」って食べられない事態を防ぐ為に、魔獣鶏の卵を一人二つくらい使っちゃうもんね。

 後は野菜各種。

 此方は軽く茹でたモノとか、ネギの刻みとか。

 色々作ってボウルに盛り分け、すぐさま準備完了。

 いくら冷蔵機能が付いたバッグが有ろうと、やっぱり水分の多い野菜は傷みやすい。

 という事でさっさと使っちまおう、山盛りだ山盛り。

 茹で上がった麺をソースと絡めてから器に盛り、色々ある具材を上に乗っけて皆に配ったら早くも食える状態が整った。


 「では……食おうか」


 「私達まで、良いのだろうか?」


 「す、すごく美味しそうな匂いがします」


 「ホーク様、皆様が食べ終わるまで周囲を警戒しましょうか?」


 「今日は平気だからミナミも一緒に食えって、多分平気だから。という訳で……いただきます!」


 「「いただきます!」」


 声を上げてから一気に麺を啜り上げた。

 ズルズルズルっと盛大に啜り上げてみれば……コレだよ、油そばって言ったらコレだ。

 コッテリとしていて、ガツンと来る分かりやすい濃い味。

 更にはニンニク増し増しなので、今日は一段と“来る”。

 だがしかし、上に乗った半熟卵と箸で解し麺に絡めて更にもう一口啜ってみれば。


 「はぁぁ……やっぱウメェわ」


 思わずそんな事を呟いてしまう程に、半熟卵がコッテリ味を中和していく。

 しかしながら全てを覆い隠してしまう訳では無く、非常に味をマイルドにさせる。

 そしてこの状況で厚切りチャーシューを齧ってみれば、それはもう。


 「大正解、って感じだよね。はぁぁ~もう、最近イースが作る肉料理、ホント美味しい」


 「こういう大雑把な肉料理は父さんが色々教えてくれるから、僕も試したくなっちゃって……いやぁ旨い」


 セイとイースも、ご満悦な表情でバクバクと食事を進めていく。

 そんでもって、心配していた女性陣はと言えば。


 「ん! んん! ん!」


 「お嬢様、呑み込んでから喋りましょう? でも本当に旨い、まさかダンジョンの中でこんな物が食べられるとは」


 お二人共気に入ってくれた様子で、良い勢いで食べていた。

 特にお嬢様の方は、ズルルッと行くのが慣れていないのか。

 口いっぱいに必死でパクパクしてからモグモグしている為、まるでリスか何かを見ている様な気分になって来る。

 そんでもってミナミはと言えば。


 「凄く美味しいです、皆様料理の腕を上げましたね。けど……そろそろ唐揚げが食べたい」


 ウチの唐揚げジャンキーが、ちょっと遠い目をしながら小声でボヤいておられる。

 本当に好きだなコイツは、唐揚げが。

 俺等に付いている時は基本的に料理にも手を出さない為、食事は俺等に決定権がある。

 更にミナミは俺達が作る物に口を出さないので、彼女の望み通りの食卓とはいかない訳だ。

 基本的に美味しそうに食べてくれるし、褒めてはくれるのだが。

 揚げ物なんぞダンジョンや森ではなかなか出来る筈も無く、ここしばらく俺らが活発だった影響もあって確かに最近食ってない。

 こういう時マジックバッグがあれば、作ってやれるのだが……無いものねだりは良くないだろう。


 「マジックバッグ……もしも手に入れたら、最初に唐揚げ作るから。今日はそれで我慢してくれ」


 「え、あ、すみません……そういうつもりで言った訳ではないんですよ。あまり気にしないで下さい、ホーク様」


 「うるせぇ、俺が作りてぇだけだよ」


 ムスッとしながら油そばを啜ってみれば、相手からは随分と柔らかい微笑みが返って来た。

 ついでに、仲間たちからも。


 「でも唐揚げはミナミさんが一番上手だし……俺等も街に帰ったらもっと練習しようか」


 「だね。キッチンで上手く作れないのに、野営でもっと上手にとか無理だし。今回は終わったら少し休みを入れて、唐揚げ研究しようよ。普段からミナミさんにはお世話になってるし」


 なんてお言葉を頂いてしまい、思わず視線を逸らした。

 分かっているのだ、俺だって。

 ミナミが近くに居るからこそ、ちょっと無茶しちゃったり、不安になった時だって戦える事は。

 彼女が居る事で、間違いなく俺達の心の保険になっている。

 いざという時は彼女が手を貸してくれるから、そんな甘えと言って良い感情を持ち合わせているのだ。

 他のウォーカーに比べたらずっと恵まれている環境だし、常に頼れる上位者が見守ってくれていると言うのは安心感が段違い。

 分かっては、いるのだが……。


 「そう言うのじゃねぇし、俺が揚げ物食いたいだけだし」


 などと呟きながら、残る油そばを乱暴に吸い上げていく俺。

 非常に格好悪い、自分でも分かる。

 でも、恥ずかしいのだ。

 本人を目の前にして、日ごろの感謝を伝えるみたいな……そういうのは。

 親父達に飯を作った時だって滅茶苦茶恥ずかしかったし、旨いと思って貰えるか不安だったくらいだ。

 だからこそ、常に近くに居たミナミとなると余計に。


 「フフッ、ホークさんは意外と可愛い所があるのですね?」


 「お嬢様、そういうのは聞える所で言うモノではありません。殿方にも色々ありますから」


 二人の会話が聞えて来た瞬間、思わずゴホッ! とむせ込んでしまった。

 やっぱり、慣れない事は言うもんじゃないな……。

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