第221話 おまけ


 「皆様お揃いですか? 少し孤児院の事でご相談があるのですが」


 「おう、中島。お疲れさん、どったの?」


 夕食時、仕事を終えた俺達のほとんどが集まった所で、中島が難しい顔をしながら食堂に入って来た。

 何かトラブルだろうか?

 孤児院の事に関してなら、白やアナベルに相談する事はあっても俺等に声を掛けて来る事は稀なのだが。


 「最近ちょっと気になる事が続いておりまして……摩訶不思議というか、何というか。端的に申し上げますと、皆様は“こちら側”に来てから幽霊の類を見た事はありますか?」


 「おぉっと、まさかの幽霊と来たか」


 「こっちじゃゴーストって言った方が良いのかも知れんけど、俺等は見た事ねぇなぁ」


 「だねぇ。あっ、カナちゃんはある意味ゴーストなのかな」


 「そういう意味であれば、確かに……しかし中島様の言う様なゴーストは確認した事がありませんね、ドラゴンゾンビなら遭遇しましたけど。どうかしたのですか?」


 各々飯を食いながら返事をしてみるが、中島は「やはりそうですか……」なんて言いながら難しい顔を浮かべてしまった。

 何だ何だ、孤児院で幽霊騒ぎでも起きてるのか?

 とは言っても、あそこは子供が集まる場所。

 その手の話が一つ二つ上がったところで、騒ぐ程でもない気がするんだが。


 「私はそうだなぁ、見たのか見て無いのか微妙って経験ならあるけど……よく分かんない。でもギルドにはその手の依頼はたまに来ますよ? 聖職者なんかが現地に向かって、ちゃちゃーっと済ませて来るんで本当に居るかはよく分からないですけど」


 アイリもそんな事を言い出す始末。

 微妙に見たかも? とか言ってるのがちょっと気になるが、結局存在するかどうかは不明。

 後で色々と詳しくお聞かせ願おう。

 こっちの怪談話とかちょっと気になるし、“向こう側”の怪談話も織り交ぜて怖い話大会とか開いても面白そうだ。

 なんて事を思いながらウンウンと頷いていると、アナベルが小さく手を上げて口を開いた。


 「霊体は存在しますよ、実際この目でも確認しましたし。皆さんお忘れかもしれませんが、シーラで会った墓守さん。彼なんて思い切りそっちに関りがあるじゃないですか。ネクロマンサーですからね、彼」


 「「「そういやそうだ」」」


 実際この目で見てないから若干忘れていたけど、勇吾と一緒にいるアイツは霊体を操るとか何とか。

 うわぁ、超見てぇ……胡散臭くない歩く幽霊特番じゃないか。

 この前顔を見せに来たが、俺等からしたらデカいシャベルで戦う珍しい奴って認識だったのだ。

 見せてって言ったら見せてくれんのかな?

 結構真面目そうな奴だから、お断りされる可能性の方が高い気がするが。


 「つか、そうなって来ると“こっち側”で言う幽霊ってのは、“向こう側”と結構認識が違うのかねぇ?」


 「なぁんか、どっちかというとアレよな。海外幽霊みたいなイメージが強い」


 「ポルターガイストとか、死体に乗り移ってゾンビとか? 実際の所どうなんだろうね?」


 という訳で、こっちにも居る専門家? であるクーアに視線を向けてみれば。


 「その手のモノを浄化する術や聖水を作ってどうこう、と言った方法は確かに習いましたが実物は見た事がありませんねぇ。私の場合はゴースト云々の前に、生者を見送る事の方が多かったくらいですから」


 昔の教会の話をしているのだろう。

 少しだけ寂しそうな、困った様な顔をして笑うクーア。

 すまん、と謝りそうになったが彼女は静かに首を横に振り。


 「キタヤマ様、お酒のおかわりが欲しいです」


 「はいはい、ただいまっと」


 気遣い無用との事で、近くにあった酒瓶を彼女のグラスに傾けた。

 というか、だいぶ話が逸れちまったけど結局何が起きているのやら。


 「子供達の見間違いや聞き間違い、勘違いの類であれば気にする事も無いのですが……実際に誰も居ない所で物が動いたり、明らかに何者かが存在した形跡があったりと。中々無視するには難しい状況になって来ております」


 「ほほぉ、こりゃまた。孤児院の中でってなると、確かに無視は出来ねぇわな」


 「いえ、孤児院内ではないんです。外です」


 「ありゃ?」


 何やら良く分からなくなって来た。

 確かに孤児院と言えば、アナベルが拵えたトラップ魔術盛りだくさん地域になっている筈だから、そう易々と侵入出来ない筈。

 だとすると前みたいに野菜泥棒やら何やらの仕業ではないって事か。

 そもそも畑に入ろうとすると、大根丸と非常食が奇声を上げながら襲い掛かるから気付かない筈がない。

 なんて事を思い出しながら話し合っていれば。


 「それが……困った事にその幽霊? かも知れない物の出現場所、畑なんですよね」


 「大根丸が夜な夜な遊んでるに一票」


 「んじゃ俺は非常食が夜畑でつまみ食いしてるに一票」


 「それが一番ありそうだよねぇ……僕は水やり当番が仕事を忘れて、夜にこっそり仕事をしたに一票にしようかな」


 もうこの三つくらいしか無いでしょ、はい解決。

 という結論を出そうとした俺達だったが。


 「残念な事に、全てハズレみたいなんですよ。大根丸と非常食に関しては建物内に居る状態で、点呼を取らせても全員揃っている。その上で目撃情報が出るんです」


 ほっほー、コレはまた。

 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た。


 「盗人の可能性もあるからな。よし、お前等。俺等で徹底的に調べるぞ」


 「息を顰めてじっくりと、だな。久々にアレやるか? 毛皮被って赤ハーブ肉での誘き寄せ」


 「いや、相手が魔獣って訳じゃないんだから。むしろ魔獣だった場合は僕達が行くと逃げちゃうよ、もっと別の作戦で行こう」


 三人揃ってワイワイし始めてみれば、南が大きなため息を溢し始めた。


 「最近木こりばかりでしたからね、物凄い勢いで食いつきましたねご主人様方」


 ソレは言わないで頂けると助かります。


 「えぇと、とにかく今回は報告をと思ったのですが……早速手を貸して頂けるという事でよろしいですか?」


 こちらも若干呆れ顔の中島が、苦笑いを溢しながらそんな声を上げた。

 もちろんですとも、やりますよ。

 だって超気になるじゃない。

 こちとら三十年以上も生きて来て、そう言った摩訶不思議現象に出合った事が無いのだもの。

 若い頃は三人で肝試しとか行ったモノだが、雰囲気が怖いだけでそれらしいのは見た事が無い。

 俺達が人生で経験した一番の不思議現象なんて、それこそ“勇者召喚”くらいなものだ。

 いやうん、この時点で相当凄い経験はしているんだけども。


 「今日やるぞー! 出なかったら明日もやるぞー!? 参加する奴挙手!」


 「「はーい!」」


 「えぇと、はい。私も参加します」


 予想していた東西南北は揃った。

 さてさて他はどうする? 誰が来る?

 なんて事を思いながらワクワクしながら周囲に視線を投げてみれば。


 「明日はギルドの仕事休みだし、私も参加しようかなぁ?」


 「幽霊関係というのも少し興味がありますし、私も参加でお願いします」


 アイリとアナベルがのんびりと声を上げながら小さく掌を上に向け。


 「これでも聖職者ですから、私も参加で。子供達からちらほら話は聞いていましたが、まさかここまで話が大きくなっていたとは」


 クーアの奴も困った様に微笑みながら手を上げた。

 すると、残りのメンツは。


 「儂等も参加したかったんだが……お前等のチェーンソーの改良が、良い所まで行っとるんでなぁ……今行っても集中出来そうにないわい」


 「ありゃりゃ。何かわりぃ、俺等の道具のせいで」


 「気にすんな、それが儂らの仕事じゃ」


 ドワーフ組はニカッと笑ってくれる訳だが、この状況でアナベル借りてっちゃって良いのかな?

 とか疑問に思ったのだが、どうやら付与自体は普段と変わらずチェーンソーの方をもっと簡略化する計画が進行中らしく問題ないとの事。

 コイツ等マジで職人だよね、最近じゃ店の方は弟子に任せて悪食ホームで日々新しい物を作る事に夢中になっておられる。


 「おーい白、お前はどうすん――」


 「幽霊なんて居ない、だから見張る必要無し」


 シレッとそんな事を言い放つ白。

 全く持って興味なし、という雰囲気ではあるのだが。


 「とは言っても実際子供らから話題に上がってんだろ? 調べない訳にも――」


 「絶対気のせい、それにこれだけ戦力が整ってれば問題無し。私の出番もなし、以上」


 「……」


 何か、妙に言葉を被せて来るなコイツ。

 まさかとは思うが。


 「白、もしかしてお前……」


 「黙れ、北」


 「あ、やっぱり」


 「今後野営に参加した際、夜の見張り出来なくなっても良いなら付いて行ってあげる」


 「すみません本日はお休み頂いて結構です」


 「うん、すぐ寝る。だからちゃんと処理して」


 だ、そうだ。

 意外と可愛い所がある事で。

 という訳で、白とこの場に居ない初美を除いた戦闘メンバーはフルで参加する事になった訳だが。


 「ただいま戻りました……」


 このタイミングで、やけに疲れた顔の初美が帰って来た。

 これ程までに疲れた顔をした相手に言う事ではないかもしれないが、何も言わず仲間外れにするのは良くないだろう。

 という事で、ド直球に。


 「初美、飯食って休んでからで良いんだけど、幽霊探しに行かない?」


 「いきます!」


 さっきまでの疲労困憊ぶりは何だったのかという程、良い笑顔で声を返して来た初美。

 白とは真逆で、この子はそっち系好きなのね。

 アレか、堅苦しい感じのお家で育ったから肝試しすら行った事が無い系か。


 「では、報告があったのは深夜ですから、それまでは自由行動という事で。まずは体を休めましょうか」


 中島の一言により、彼と初美も加えて夕飯が開始された訳だが。

 このままのんびりと時間まで待つってのも、やはり暇なモノで。


 「ねぇねぇキタヤマさん。さっき言ってた“向こう側”ではゴーストの雰囲気が違うってのはどういう事なの? 異世界じゃ聖職者が対応するとかじゃない訳?」


 そんなアイリの発言により、ニヤッと口元を吊り上げたのが四人。

 そう、四人なのだ。


 「ではでは、時間になるまで怪談話と行こうじゃないの」


 「異世界怪談劇場、始まり始まり~ってな」


 「どの話が分かりやすいかな? “こっち側”でもちゃんと伝わる話選ばないとね」


 「私の場合は特番とか、ネットで見た怖い話がほとんどですから何処か安っぽい話が多いですが……いや、でもファンタジー世界ですからそっちの方が現実味あるんですかね?」


 東西北、そして初という珍しいメンバーで生き生きし始めた。

 こういう話って、見えないからこそ楽しめるのだろうとは思うが。

 割と好きだったのだ、そういう特番とか。

 後はホラゲーとかも好きだったが、スプラッタ系の映画は苦手だったな……なんか無意味にグロくなるだけのヤツは嫌悪感しかなかった。

 でもゾンビ映画とかは見られたから、やっぱり対抗手段があるかどうかって所がキモなのだろう。

 しかし日本系の怖い話は何故か見ちゃう、不思議。

 という訳で意気揚々と話し始め様とした所で。


 「ご馳走様でした」


 すぐさま白が席を立った。

 あ、こりゃ不味い。


 「すまん、飯終わってからにするから。ちゃんと食って行け」


 「……ん」


 という訳で、怪談話はもう少し先になってしまったが。

 早くもワクワクしている初美を警戒したのか、白は物凄い速度で食事を終えると。


 「お風呂、そして寝る」


 それだけ言って、風の様に去っていく白猫娘。

 そこまで苦手なのか、アイツ。

 やれやれと首を振りながらも、飯を済ませ皆に酒が渡った頃を見計らい。

 俺達は“向こう側”の怪談話を披露するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る