第175話 魔術講義と部隊員選別


 「アナベル、魔法についてちょっと教えてくれ」


 「はい?」


 戦争三日目、俺達にとっては二日目だが。

 その終戦後。

 相変わらず悪食ホームに集まってきた皆様に飯を作りながら、真剣な顔を彼女に向けた。

 俺達の周りに集まった姫様や支部長からも不思議そうな顔を向けられるが、コレばかりは報告と一緒に聞いておかないと。


 「そもそも、魔法ってのは何なんだ?」


 「最初から凄い質問ですね……まるでこの世界とは何なのか、みたいな漠然とした質問です」


 アナベルから、もの凄く困った瞳を向けられてしまった。

 まぁそうですよね、俺達魔法使えないし。

 何を今更って思われますよね。


 「えっと、そうだな。パッシブの魔法ってのは、誰しもが持っているモンなのか?」


 ちょっとだけ聞き方を変えてみれば、彼女は小首を傾げながら「う~む」と声に出しながら唸った。

 ありゃ? 魔女様でも返答に困る質問なのコレ。


 「そうですねぇ、何とも言いにくいです。パッシブというのは誰しも同じ物が使える訳ではありませんし。ただ適性がある人間であれば、何かしら持っていると考えて良いと思います。例え無属性だったとしても、ある程度の強化魔法などは使えたりもしますので」


 「使う……? パッシブなのに?」


 「この辺は感覚の問題なので、ちょっと説明しづらいのですが」


 という訳で、アナベルの魔法講座が始まった。

 パッシブ、つまり常時発動型でコレと言って代償は無し。

 みたいなゲーム感覚で考えていたが、実際には違うらしい。

 常に発動している様なモノは確かにあるし、何かしらの条件で無意識の内に使う魔法もあるのだとか。

 そんでもって、ソイツらはちゃんと魔力を喰らっていやがるとの事。

 ソレらはレベルが上がっていくごとに強くなったり、増えたりする。

 この辺りはマジでゲームと一緒。

 そして肝心なのが、魔力の消費と回復のバランス。

 コレが上手くいっていない人物は極端に魔力量が少ないと言われたり、パッシブのせいで他の魔法が使えないなんてケースもあるという。

 常に使ってんだから当たり前だよなと言いたくなるが、このバランスが悪い体質なのはほとんど“無属性”の皆様。

 何かしらの条件で勝手に発動するパッシブ持ちってのも、無し組に多い傾向にあるらしい。

 詰まる話、魔法が使えない様に見える奴らでも、実際には魔力を使いながら動き回ってる可能性もあるって事だ。

 何が言いたいかと言えば、そういうメンツは“探究者”に気取られる。

 先読みを使われて、いくら剣をぶん回そうとも避けられるか防がれちまうって事だ。


 「ちなみに、この場に居るメンツでパッシブが一切無い奴等って居るのか?」


 その質問に対して、アナベルは困った顔をしながら俺達三人を指さした。

 ……知ってはいたけど、心が痛い。


 「それもそれで、珍しいというか。パッシブ無しでココまで強くなるのも凄い事なんですよ? キタヤマさん達のレベルは、間違いなく肉体の強化値以外何者でもありませんね」


 「あぁそうかい……俺ら以外で頼む」


 「もう、すぐイジけるんですから」


 ガックリと肩を落としながら聞き直してみれば、「ふむ」と人差指を唇に当てた彼女が周りを見回していく。

 そして、しばらく周囲を観測した結果。


 「完全に無い、とは言いませんが。そう言ったモノが“弱い”候補を上げるのであれば」


 まずはカイル。

 急に指を指された彼は、気まずそうに視線を逸らしながらボリボリと首を掻いていた。


 「わりぃかよ、俺は昔っからそういうのが苦手な“無属性”だ。そっちの受付嬢程とはいかなくても、普段は”身体強化”に近いパッシブに頼ってんだよ」


 お前、こっち側の人間だったのか。

 今まで以上に親近感が沸いたよ。

 悪食入る? 大歓迎だよ?

 ハズレ組ファミリーとか作っちゃう?

 というか気のせいかとも思ったが、探究者が勇者よりカイルに視線をやっていた理由がそれか。


 「次に、ナカジマさんとハツミさん」


 「え、嘘。二人共ボコボコ魔法使うじゃん」


 「それは魔法を“使用出来る”という話であって、パッシブではありません。魔法を使用しないでの戦闘となれば、形としてはカイルさんとほとんど変わらないと思いますよ?」


 おやおやおや、これはまた意外な。

 初美はあんまり一緒に戦った事がないが、中島同様かなり魔法を多用するスタイルに見えたのだが。

 アレは全部、ゲームで言う所のアクティブスキルを使い分けながら戦っていたのか。

 どんだけ頭の回転早いんだよお前等。


 「そして最後に、私ですかね。ちょっと特殊枠ですけど」


 「それは絶対に嘘だ」


 何食わぬ顔で自らを指さす魔女様に、思わずチョップを入れてしまった。

 「あいたー!」みたいなリアクションを返して来るが、いやお前は絶対にないだろう。

 それこそパッシブもアクティブもモリモリモリで、いつだって大魔法ぶっ放す魔女様だろうに。


 「本当ですってば! 私の適性そもそも“無属性”ですもん!」


 「はぁっ!? 言うに事欠いてこの魔女様は! あんだけ色んな魔法を使いながら“無し”な訳ないでしょう! 無し無しの皆様に謝りなさい! 今すぐごめんなさいしなさい!」


 「だから無属性は魔法が使えない訳じゃないって言ったじゃないですか! 現に私は使えていますし、ものっ凄く回りくどい方法で行使してますけど!」


 そんな事を言い放ってから、ウチの魔女様はプリプリと怒りながら地面に何やら魔法陣を描き始めた。

 めっちゃ複雑な陣を描いていらっしゃいますけど。

 何それ。


 「そもそも魔法陣を描く人の方が少ないんですよ、今は」


 ムスッとした様子で、アナベルは陣を描いていく。


 「どゆこと? アナベルが魔法使う時って、大体魔法陣がペカーッて出てるよな?」


 「それは、私が古い人間……というか、そうする事でしか威力が出せないからです。だから他の方より派手に魔法陣が出現させているんです。他の方の魔法を見て違和感を持ちませんでしたか? 皆、杖から発射するみたいにポコポコ魔法を出していたでしょう?」


 「うん?」


 すまん、よく思い出せない。

 はなから魔法が使えないって気持ちでいたから、誰が魔法を使っても「スゲー」くらいにしか観察していなかった気がする。


 「まぁモノにもよりますが、付与魔法なんかは分かりやすいです。一つの物に陣を残さず能力を施すのが“直接付与”、または現代の付与魔法。陣を描いてそこに魔力を流しこむのが“間接付与”、または“旧付与魔法”。普通の魔法でも基本的に詠唱のみを行い、陣を描く代わりを杖などの道具で代用する。効率が良い上に、どんな魔法を使うのか知られる心配も無い。更には自分が使う魔術そのモノを完全に理解していなくても発動できる。ただそれは“適性”がしっかりないと杖さえ反応しません。例え発動直前に魔法陣が出現しても、唱えれば出て来る模様の様に認識している方が多いでしょうね」


 ちなみに付与魔法ってヤツにも更に色々あるらしく、俺達の鎧や武器の様に魔石を使用すれば使えるモノから、陣そのものか武具に魔力を溜めて使用する物だってあるそうな。

 所謂“魔剣”とかって言われるモノがそういう扱いになるらしいが、無駄に手間がかかる上に消耗品になってしまうのでほとんど出回らないんだとか。

 ちなみに俺達の黒鎧はそのハイブリットと言った所の様だ。

 まぁそっちは今関係ないからといって、説明を端折られてしまったが。

 魔剣、欲しいなぁ。


 「ちょっと待った、アナベルは魔法陣を光らせてるよな? それと魔術を理解してなくても使用出来るってのは、つまりどういうことだ?」


 聞けば聞く程意味が分からなくなってくる。

 俺の魔法のイメージが良くないのか、それとも理解力が足りないのか。

 多分その両方だが、それでもどんどん魔法って奴が意味の分からないモノに変わって行っている気がする。


 「結論から言いますと、適性の無い魔法を使う為に私は魔法陣を描きます。陣さえあれば、あとは魔力を流しこむだけですから。コレはかなりの手間ですが、それでも魔法を使う事が出来ます。そして“今時”の魔法にありがちな、理論を理解していなくても魔法が使える現象。コレはもっと簡単です、道具が優れているんです。杖に複雑かつ使い分けられる陣を付与してしまえば、後は使いたい部分に魔力を流しこみ詠唱が陣を勝手に構成する。ほとんど魔道具みたいなモノです。自身の適性と使いたい魔術に合った“杖”さえ選べば、後は道具が勝手にやってくれるって訳です。まぁ全部が全部という訳ではないので、あくまでざっくりとした説明ですが」


 「銃の仕組みを知らなくても、弾の有無と使い方を知っていれば撃つ事は出来る。って事か?」


 「はい?」


 「すまん、弓矢に置き換えた方が良かったな。でもそうなると、適性が云々って話はどうなるんだ? 杖が陣の代わりになる、だったら魔力さえ流せれば使えるんじゃねぇの?」


 素朴な疑問、かなり話が逸れているのは自分でも分かっているのだが。

 それでも興味がある、だって魔法だもの。

 使えないと分かっていても、ロマンの塊なんだもの。


 「はい、こちらをご覧ください」


 そう言って、今しがた地面に描いた魔法陣を見せて来る魔女様。

 ハッキリ言おう、さっぱりわからん。

 しかも細かすぎて、とてもじゃないが描ける気がしない。


 「こちらの魔法陣に、魔石を落としてみましょう。あら不思議、何も反応しません。でも、コレに“炎”の適性がある方が魔力を流しこむと……ギルさーん」


 「あ、はいはい。今度は俺か」


 本日も頑張ったらしい左手お化けは、今ではいつもの義手に戻って治療を受けていた。

 急に声を掛けられた事に驚きながらも、彼が陣に触れてみれば。

 火が灯った、それこそ焚火くらいの。

 そしてギルが手を放せば、すぐさま消滅する炎。

 お、おお?

 どういう事だってばよ。


 「はい、コレが適性です。この陣は焚火程度の炎を起こすモノ。適性者が魔力を流しこめばそのまま燃えますが、不適合の人間がコレを使って火を起こす場合には、まだ“足りません”」


 説明しながら、彼女は再び陣に文字を書き足していく。

 簡単そうに話している割に、書き足す量は結構なモノ。

 そして、その後魔石を放り込んでみれば。

 ボッ! という音を立てて再び炎が燃え上がった。


 「不適合の人間が同じ魔法を使うにも、これだけ陣の追加と手間が必要になります。戦闘中どころか、私生活でもこんな手間かけたくないですよね。だからこそ、適性外は“使えない”と認識されています。簡単に言えばとてつもなく面倒くさいんです、描くにしても杖に付与するにしても。なら他の道具を使った方が早い、更には余分な陣を描くせいで、魔力も余分に持って行かれます。その手間を惜しまず、ほぼ全属性を使える様にしているのが、私です」


 ドヤッとばかりに胸を張る魔女様。

 とんでもなくすげぇって事は分かった。

 火を起こすのに一般人が摩擦熱でやっている所を、適性持ちはライターが使える。

 だったら火を起こすのはライターを持っている奴に頼んで、自分は別の事をしようってのが常識なわけか。

 すげぇ、なんか納得がいった気がする。

 そしてこれだけ面倒くさい事を常に平然とこなしている魔女様を、頑張ってるねってヨシヨシしてあげたくなってしまうのは何故だろう。

 もしかしてこの子、不憫キャラ?


 「あ、でもちょっと待てよ? 無属性なのにそもそも何で魔法が使えるんだ?」


 「キタヤマさん話聞いてました? 無属性でも、魔法は使えます。目の前の魔法陣で言えば、適性持ちは一度で魔力が埋め尽くす。適性外だった場合は自身が使える魔法陣と違う箇所には魔力を改めて注ぎ込む必要がある。もちろん適性の有無で効率と威力も変わってきますが……水と水路で考えて下さい」


 「というと?」


 「適性持ちは水路全体にドバッと水が灌げますが、他の適性だった場合自らが持ち合わせる同じ形の個所にある水路にしか水が灌げない。だから徐々に水を水路に流して全体に充満させる必要がある。更には水が通らなかった場合、他にも水路を作る必要がある。無属性はそもそも最初から水路から作る必要がある、という事です。もっと根本から説明すれば、魔法が使えるかどうかというのは“魔力の放出”が出来るかどうかという事です。それさえ出来れば、誰でも知識さえあれば簡単な魔法なら使う事が出来ます。こんな風に」


 そう言ってから何やら唱えて、彼女は指先から光を放ちながら何も無い空中に文字を書き始めた。

 おぉ、すげぇ! なんて驚いたのもつかの間。


 「あ、それくらいなら俺も出来るぞ?」


 急に会話に口を挟んで来たカイルが、彼女と同じように光の文字を書き始めたではないか。


 「初歩魔法として教えられるモノです。本当に魔力の放出”さえ”出来れば、簡単に使える魔法。こう言ったモノを使って何も無い所に陣を描いたり、覚えている陣を出現させてから魔力を流しこむ訳ですね。無手で魔法を行使する場合ですが、私の魔法は基本コレです」


 「ちなみに、俺達には……」


 「“魔力の放出”が出来ない以上、厳しいかと……」


 同じ無属性でも、“有り”と“無し”が分かれるらしい。

 なんでだよぉぉ!

 俺らは何でここまで魔法に無縁じゃなくちゃいけないんだよぉ!

 俺達は雄叫びを上げながら、ひたすらに地面を殴り続けるのであった。


 ――――


 結果、アナベルの言っていた“パッシブ特別枠”ってのは、本人がオンオフを切り替えられるかららしい。

 なんでも基礎能力を上げるパッシブが自身には無かったので、自らに付与したり常に行使しているんだとか。

 物凄いね、アクティブ使い続けてパッシブにしてるよこの子。

 どんだけ魔力タンクなんだと言ってやりたい。

 とはいえ、それは彼女自身の努力。

 御褒美に焼き海老を出してあげたら、大層喜んでいた。

 甲殻類好きね、今度は蟹を食べさせてあげよう。

 ちなみに、魔法にも色々あるから先程の説明だけではほんの一部しか語っていない、だそうだ。

 無理、魔法無理。

 理解出来る気がしない。


 「それで、お前達の報告内容だが……」


 渋い顔を浮かべた支部長が頭を抱えていた。

 現在魔女様の魔術講義後、今日の事は報告済み。

 そりゃ、頭も抱えたくなるわ。


 「困りましたね……才能ある者程、相手にとってはやりやすい相手となる。早期終戦の為に、特殊枠で固めてダンジョンに向かわせるにしても、些かバランスが……」


 姫様も難しい顔を浮かべながら、うーむと唸り続けている。

 一般的に評価される筈の魔法、ソイツが今回仇となる訳だ。

 あの後アナベルに話を聞き、逆に“そういう才能”がある人間は誰かと聞いてみれば。

 かなり多くの名前が挙がった。

 勇者に聖女、論外。

 コイツ等は完全にチート枠だった、普通に大火力な上にパッシブもモリモリ。

次に姫様にギル、アイリや残りの戦風の面々。

 ここには居ないが兵士の多くは“評価された”人間達が多いからこそ、間違いなく外すべきだと断言された。

 そして、次に疑わしいのは。

 他の悪食メンバーも対象に含まれていた。

 白やクーアはもちろん、南まで。

 中初の二人に比べれば魔法が苦手という印象があるが、基礎能力を上げる様な魔法を数多く持っているらしい。

 恐らく俺達と行動を共にした結果、“俺達に合わせる”為にレベルアップの度に増えたのだろうと言われた。

 パッシブ魔法の習得とは、才能さえあれば本人の潜在意識や欲求が強く影響するんだとか。


 「……その能力を遮断することは出来ませんか?」


 「無理ですね。もしできたとしても、それは貴女の弱体化を意味する。これまでの様には戦えないんですよ?」


 非常に苦い顔をしながら、南に告げる魔女様。

 その辺りは、アナベルも同じ事だろう。

 パッシブの全てを止める事は出来るが、その分弱くなる。

 まさに八方塞がりだ。

 “無し”メンツを集めた所で、アレに勝てるとは思えない。

 いくら何でも人数が少なすぎる上に、魔法を使われた時の対処が出来ない。

 むしろそんなメンツで固めていけば、相手は安全圏から魔法ぶっぱで片付けようとするだろう。

 そんな時、アナベルだけに防御を任せるか?

 流石に無理だろう、負担が大きすぎる。


 「あ、あのさ……あえて囮として私達を使うってのは、駄目なのかな」


 そう言って小さく手を上げる彼女に、全員の視線が集まった。

 アナベルと一緒に焼き海老をつまみながら、気まずそうに手を上げる受付嬢。

 アイリだった。


 「見た限り、アイツは一対多に慣れていない気がするの。それでも制圧されちゃった私が言うのもなんだけど、注意は引ける気がする。……ホラッ、私達の時だって白ちゃんの“矢”が通ったじゃない? あれって、手が多かったからこそ、だよね?」


 何だか随分必死な感じで、彼女は言葉を紡いで来た。

 今でも他に発言できる事は無いかと、必死で考えている様子で。


 「しかしアイリ、相手はダンジョン内に潜んでいるんだぞ? 一体どういう環境かも分からずに、最初から囮を立てるとなると。それは決死隊に他ならない」


 「それでもですよ支部長! いえ、だからこそ。多くのメンバーが必要なのかと。ダンジョンを攻略する、しかも一番近いダンジョンとなれば前回私達が潜ったダンジョンです。そこには“あのスライム”が居て、更にはもっと強敵も居る。だったら……ウォーカー数名の犠牲は、想定内です」


 苦虫を噛み潰した様な表情で、彼女は語った。

 民を守る為には、ウォーカーの犠牲は仕方ないと。

 心にも無い事を無理矢理にでも言葉にする。


 「確かに、あの肉スライムが居るなら、人数は必要。囮になるっていっても、ボスも獣じゃない。私達が囮だと分かっていながら目の前をチラチラすれば、かく乱くらいにはなる」


 そんな事を言い放つ白は、真っすぐに支部長の瞳を見つめていた。

 本気で言ってるのか、コイツ等。

 相手はあの化物だ。

 だというのに、自らが標的になる宣言しているのだ。

 だからこそ、口を開いた。


 「ダメだ、許可出来ない。一つのミスで簡単に殺される相手だぞ? それなら俺達だけでどうにか――」


 「“生きる為に生きる”、それが俺達だ。ですよね? だったら……私達も“全員で”生き残る為に、命を張ります」


 そう言って、南が胸の鎧を叩いた。

 キッと鋭い視線をこちらに向けながら、皆決意の籠った眼差しを向けて来る。


 「東西南北を、勝手に減らすな。そう言ったのはご主人様です」


 「死ぬつもりは無い、前回だって、私達が居たから北達はフリーで攻撃が出来た」


 「参加させてください、キタヤマさん。もう、置いてきぼりは嫌ですよ」


 南と白、そしてアイリまでもが真剣な眼差しを向けて来る。

 だぁ、クソ。

 本来ならここで断るのがリーダーの役目だろうに。

 俺達だけで大丈夫だから、安心して待ってろって言ってやるのが漢ってもんだろうに。

 コイツ等の瞳は、ソレを許してくれない御様子だった。

 そんでもって、そんな事を言ってやれる程自分達が強くない事をよく知っている。


 「……ぜってぇ死ぬな。ヤバくなったら俺達を盾にするくらいのつもりで着いてこい。いいな? ヤバい時に自分の命を投げ出す様な真似をするつもりなら、連れて行かねぇからな」


 「「「了解!」」」


 弱い俺は、結局彼女達にも頼る選択を下してしまうのであった。

 つぅか、断れる雰囲気じゃねぇし……。


 「守りながら守られる。結局いつも通りですね、リーダー」


 「わぁってるよ……中島。悪いけどお前は強制参加な」


 「えぇ、もちろん。“表側”の人数をあまり減らす訳にもいきませんからね、いつものメンバーの方が良いでしょう。寄せ集めるより、ずっと安心出来ますよ」


 という訳で悪食メンツだけは、戦争中だというのにダンジョンアタックをかます事になってしまった。

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