第169話 デッドライン 3


 「どうみるね、こうちゃん」


 「うーむ、馬鹿みたいに多いなこりゃ」


 「次、望遠鏡僕に貸してー?」


 イージスの近くまで帰って来た俺達は、周囲の森に潜みながら国の様子を眺めていた。

 とはいえ、感想としちゃなんじゃこりゃってなもんで。

 とにかく数の多い魔獣が、ウゾウゾと国に向かって進行している。

 戦争云々、厄災云々っていうより、もう一回スタンピードでも起きたのか?

 だとしたらマジで運が無いなこの国。

 というより、ダンジョン管理がなっとらん。

 溢れ出す前に狩れば良い話だろうが。

 俺らダンジョン大っ嫌いだけど。

 何てことを思いながら、船で使う望遠鏡で遠くを眺めていれば。


 「むむっ」


 「お、何か見えた?」


 「知り合いでも居た?」


 西田と東から呑気な声を頂く訳だが……気のせいか?

 知った顔が前線に勢揃いしている気がする。

 あれか、またウォーカーを最初にぶつけて戦力を削ごう作戦か?

 あぁ嫌だ嫌だ、コレだからこの国の王様は。

 何てことを思いながら、ため息を溢していれば。

 またちょっと違うモノが見えてしまった。


 「……なぁ、前方脇っつうか。逸れた所に第一陣、国の前に第二陣ってのは見えるよな?」


 「そうな、後ろは兵士中心か? 鎧が皆同じっぽいな」


 「逆に前はウォーカーかな? 鎧も戦い方もバラバラな印象だね」


 だよな、望遠鏡で見ていても間違いないと思う。

 なのだが。


 「なぁ、第一陣に姫様がいる気がするんだけど。ほい東、見てみ?」


 「いやいやいや、ありえないだろ。姫様って言ったら王族だぜ? そんな人を前線に放り込む程、あの髭モジャ王様も馬鹿じゃねぇって」


 「ん~っと、どこだろ? あ、居た! 確かにお姫様っぽく見えるねぇ……って、は? いやいや、西君の言う通りだよね普通。何であんな所にいるの?」


 望遠鏡から眼を放した東も、あんぐりと口を開けながらこちらに視線を向けて来た。

 やっぱり俺の見間違いではない様だ。

 続けて西田が望遠鏡を覗き込んでいる間。


 「ご主人様方、お姫様を攫って逃げる作戦。上手くいかないかもしれません。随分と聞き覚えのある声が、前線に集まっている気がします……本当に微かにしか聞こえませんが」


 ご自慢の猫耳に手を当てた南が、渋い顔で目の前の光景を睨む。

 良く聞こえんなオイ、それもレベルアップの影響か?

 まぁそれは置いておいて、あぁくそマジか。

 “また”そういう感じか?

 皆招集されちゃったというか、ウォーカーは捨て駒みたいな感じで集められちゃった感じなのだろうか?


 「西田、前方と後方の両方。知った顔は結構居るか?」


 「ちと待ってな。あ~……うん、まず後方。ギルさんと勇者、ツンデレお嬢さんを確認。国の兵士多数。そんでもって前方は~……あぁくそ、最悪。みんな居るわ」


 「一応聞くと、皆ってのは?」


 「アイリさん、アナベルさん、白ちゃんに中島さん。げっ、エルとノインも居るじゃねぇか。あぁくそ、マジで最悪。後方の救護班テントにクーアさんやノアちゃんも居る」


 こりゃ本気で不味いな。

 姫様を攫うどころか、戦場でウチのメンバーも攫ってから逃げないといけないのか?

 無理無理、絶対無理。

 それなら正面切ってあの集団を相手にした方が早い……とまでは言わないが、それくらいしないとマジで抜けられる気がしない。


 「あぁ~その、なんだ。後方兵士組は落ち着いてきたけど、前衛ウォーカー組はヤバいかも。ホレ、こうちゃん見てみ。他にも知った顔が居る」


 西田から望遠鏡を渡され、再び覗き込んでみれば。

 視界の先に映るのは様々な人々。

 名前は知らないが見た事のあるウォーカーだったり、必死に何かを叫んでいる支部長の姿まで見える。

 そして戦風のメンツに、俺達の仲間の“悪食”メンツ。

 こりゃもう、腹をくくるしかなさそうだ。

 俺らだけ逃げるって訳にもいかないだろう。

 なんて思った瞬間、事態が動いた。


 「リード、ブラックチャリオット準備。全速力で突っ込む」


 「どうなさいました? キタヤマ様」


 不思議そうに首を傾げるリードとサラの方を振り返りながら、俺たちは静かに立ち上がった。


 「何があったよ、こうちゃん」


 「とにかく急ごうか。それで、何が起きたの? 北君」


 二人共リードが準備した戦車に乗り込みながら声を上げて来る訳だが。

 俺は一人だけ屋根の上へと登って行った。


 「南、槍。重くて、なおかつ威力がありそうな奴。望、バフをくれ。身体強化系の、思いっきり」


 「……ご主人様?」


 「本当に、どうしたんですか?」


 『急ぐ事は分かったけど、事態が掴めないよ』


 三人から不安そうな声を頂きながらも、受け取った槍を掴んで馬車の天井を深く踏み締めた。


 「アイリの奴が単独で魔獣の群れに突っ込んだ、あの馬鹿が」


 「なっ!? あの数では自殺行為です!」


 「リードさん! すぐに馬車出して! 早く!」


 「おかしいでしょ! あの数に単身で突っ込むって! アイリさんどうしちゃったの!?」


 各々声を上げながら、急いで馬車に乗り込んでいく。

 早く早くと急かす中、俺だけは一人深く腰を落として槍を構える。


 『北山、ここからヤルつもりかい?』


 「じゃねぇと間に合わねぇ、幸いココは向こうより高台だしな」


 「では……バフを掛けますね」


 『魔法で誘導してあげるから、外したりしないでくれよ?』


 聖女コンビがこちらに掌を向けて来れば、体の中に力が漲って来る感覚がふつふつと込み上がって来る。

 大丈夫だ、信じろ。

 届く、絶対に届く。

 前と同じだ、全力で“自分を過信しろ”。

 ここからだって、俺の槍は届くんだと“思い上がれ”。

 今だけは、主人公のフリをしろ。


 「いくぞ」


 ボソッと呟いてから、今まで以上にグッと足に力を入れた。

 そのまま数歩進みながら全身の筋肉をフルに使い、体を捻る様にして手に持った槍をぶん投げる。

 届け、そう願いながら。

 俺が望遠鏡から最後に見た光景は。

 魔獣の波を突き抜け、あの馬鹿でかいカメの前で膝を折るアイリだった。

 だったら、これくらいしないと間に合わない。

 だからこそ。


 「出せリード! 全速前進! 突き抜けろ!」


 「了解致しました!」


 投げた槍の行く末を見る間もなく、戦車は走り出した。

 崖を勢いよく下り、木々をなぎ倒し。

 見えて来た魔獣の軍勢を轢き殺しながら。

 それでも突き進み、やがて見えて来た仲間達を確認した瞬間。


 「聖女コンビ! 前方のウォーカー達に向けてプロテクション! 他は散るぞ、準備しろ! カメは端から槍投げしてくから、大物は気にすんな! でも外したらスマン!」


 「なんも気にせずぶん投げろこうちゃん! アイツ等は魔法特化だ、俺らには関係ねぇ!」


 「そうだそうだ! いくら頑張っても魔法を使えない僕らには、どんな相手でも結局物理だよ!」


 そう叫んでから、些か悲しくなったのか。

 項垂れながら二人は大人しくなってしまったが。


 「と、とりあえず行くぞ? 端から叩き込む! 南、槍の補充頼む!」


 「了解ですご主人様!」


 そんな訳で、通り過ぎるデカブツに端から槍を投げながら突き進んでいく俺達であった。


 ――――


 「おかえり……なさい」


 その声に振り返ってみれば、思わずギョッとしてしまった。

 ボロボロと涙を溢すアナベルが、こちらを見上げているのだ。

 なに、なんで泣いてるの。

 いつも通り笑顔でお迎えしてくれるとばかり想像していたので、どうしたものかと内心焦りまくった。

 だってアナベルだぜ、女性陣の中では一番落ち着いていた筈の彼女が涙目なんだぜ。

 悪い意味で泣いている訳じゃ無さそうなので、ここで取り乱したら恰好悪いぞ俺。

 とか何とかを思いながら、前線で暴れまわる仲間達に視線を向ける。


 「待たせたな、ただいま」


 精一杯恰好つけながら、両手の槍を構えて腰を落とす。

 おっしゃ、俺も仕事するか。

 いつもより気合いの入った感じでグッと全身に力を入れてみれば。


 「お帰りいいぃぃ! 待ってたよぉぉぉ!」


 「ちょぉぉぉ!? こらバカ! 今は止めろ!」


 低く姿勢を落したその上に、アイリが飛びついて来やがった。

 生憎とお互いに鎧を着ているので、ラッキースケベ的なむにゅっと感は味わえなかったが。

 むしろガツンッって言ったわ、普通にびっくりした。

 なんて、アホな事をやっている内に目の前に迫る魔獣達。

 だぁくそ、遊んでる場合じゃねえ。


 「お前ら少し下がれ! ぜってぇ“通さねぇ”から安心しろ!」


 自分に言い聞かせるように、そう叫んでから。

 アイリを仲間達に向かって放り投げ、改めて二本の槍を構えた。


 「来いや、まとめて相手してやらぁ」


 その一言と共に、両手の槍を振り回す。

 慣れる訳がない、この感じ。

 でも何度も経験した。

 生き残る為に、守る為に。

 それこそ“称号”を手に入れたその時だって、こんな感じだった事だろう。

 “デッドライン”。

 ったく、今思い出しても恥ずかしくなる上に意味の分からん称号だよマジで。


 「シャァァ! やってやらぁ!」


 両手の槍をとにかくぶん回して、動き回った。

 二車線道路くらいありそうな幅を埋め尽くす勢いで攻めて来る魔獣。

 とてもじゃないが、質量がおかしい。

 一人で抑えられる量を、明らかに超えている。

 それでも槍を振り回し、更に叫んだ。


 「西田! 東! ごめん無理! 助けて! コレ駄目だって! 南、南ぃぃ! 援護ぉぉぉ!」


 うん、流石に無理。

 というかコイツ等、全然怯まねぇんだけど。

 情けなく叫びながら槍を振り回していれば、向こう側から何かが獣の波を吹き飛ばして近づいて来る。


 「全く、仕方ないね。北君は恰好つける癖に、向こう見ずなんだから」


 両手に大盾を構える東が、目の前まで来て暴れはじめた。

 そして。


 「ったく、恰好つけるなら一人で守り切れよ。数は減らすから、抜けた奴は頼むぜ? ソレを全部処理すんの、こうちゃんの役目な」


 そんな声が聞えて来たかと思えば、そこら中で獣の首が吹っ飛び始める。

 度々見える黒い鎧が、こちらに向けてピースサインを送って来るのは気のせいだろうか。

 アイツ、ぜってぇ余裕あるだろ。


 「ご主人様! 明らかに避けて通ろうとする相手はこちらで処理します! 正面はお願いします!」


 そこら中を走り回りながらトリガーハッピーしている南も、嬉しくない御言葉を投げかけてくる。

 だぁくそ、結局は“こうなる”のか。

 何てことを思いながら、相変わらず槍を振るい続けた。

 目の前に迫る魔獣に対して、一歩も通すかとばかりに。

 仲間の活躍で、先程よりもずっと数の減った魔獣達。

 それでも、抜けてくる奴は結構居る訳だが。


 「うっしゃぁぁ! 上等だコラァ! リードォォォ! こっちで防いでいる間に一部だけでも轢き殺せぇぇぇ!」


 そこら中を駆け回る戦車に対して声を上げれば、チラッと親指を上げている姿が見えた。

 彼がある程度数を減らしてくれれば、勝機はある。

 間違いなく、“畳みかける”瞬間は来る。

 だからこそ、俺たちは武器を振り回した。

 迫り来る魔獣に盾を叩きつけ、刃物を振り回し、矢を乱射する。

 そして槍を忙しく振り抜き、芝刈り機の様に戦車が頑張っている最中。


 『北山! 一瞬だけ魔獣の特攻が途切れるよ!』


 戦車から身を乗り出したカナが大声を上げて来た。


 「待ってましたぁぁぁ! 聖女コンビ、ブレス準備! リードは退避! 巻き込まれんぞ!」


 「場所が悪いです北山さん! ここじゃ一撃で決められません!」


 「東、カタパルト準備! 合わせろ! 聖女コンビはこっち来い! 装備、装備!」


 叫びながら槍を振り回していれば、魔獣しか映らなかった視界の中を戦車が突き抜け、同時に角っ子聖女が俺に向かって戦車から飛び降りて来た。

 ソイツを脇に抱え、片槍となった状態で防衛していれば。


 「北君! 真上に飛ばすよ!」


 正面の魔獣を薙ぎ払った魔王みたいな鎧の東が、眼前に迫った。

 うし、いける。


 「飛ばせぇぇ!」


 「いってらっしゃぁぁぁい!」


 東の盾に乗った瞬間、上空に吹っ飛ばされた。

 今では、自身の足よりもずっと下にある戦場。

 この位置からなら、全てが見える。


 「望、カナ! ブレス準備! 男のロマン、ツインバ〇ターライフル! お残しは許しませんでぇぇ!」


 「ちょっとくらいは残っても処理してくださぁぁい! あとツインは無理です!」


 『密集し過ぎだ、馬鹿め。全部消し去ってやる』


 両極端な言葉を残しながらも、脇に抱えた聖女は戦闘態勢に入った様だ。

 なら、俺は“構える”だけで良い。

 相手は塵になってしまうだろうが、今の状況では仕方あるまい。

 先程殲滅してきた亀の一匹くらいは欲しかったが、今は贅沢が言える状況じゃない。


 「いけ、聖女砲! ブレス発射!」


 「些か悪意のある言葉選びの様な気が……」


 『今更だよ、望。いくよ?』


 「『ブレスッ!』」


 大砲を腋に抱える様に掴んだ聖女から、光の槍が降り注ぐ。

 というより、完全に腰だめに放つ荷電粒子砲だった。

 彼女の腹に腕を回し、襟首を掴んで、戦場に集まる獣を蹂躙していく。

 圧倒的火力、圧倒的暴力。

 これが、兵器と言う物だよ!

 なんて叫びたくなるわけだ。


 「落ちるぞ」


 「え?」


 「俺に翼は無い」


 「イヤァァァ!」


 『ウッヒャァァァ!』


 二人から別々の感情の悲鳴を頂きながら、俺たちは真下へと落下した。

 当たり前だ、俺は東によって上空に“投げられた”だけなのだから。

 だからこそ、落ちる。


 「東ぁぁぁ! ピッチャーフライ!」


 「オーライオーライ」


 偉く緩い声を受けながら、俺たちは東の腕の中へと墜落した。

 些か俺までお姫様抱っこされるのはいたたまれないが。

 それでも、無事に着地出来たのだ。

 良しとしよう、そんでもって。


 「残りは正面から叩き潰すぞ! お前ら、防御準備――」


 「「「うぉぉぉぉ!」」」


 「へ?」


 背後に居た筈のウォーカー達が、一斉に俺達を追い抜いて走り出した。

 あらら? 意外と元気が有り余っている感じ?

 とか何とか周りに向かってキョロキョロと視線を配っていれば。


 「これだけ減らして貰えれば、後はこっちでどうにでもなる。良く戻ったな、“悪食”」


 そんな事を言いながら、支部長から肩を叩かれてしまった。

 相変わらず厳つい顔しやがって、笑ってても顔が怖ぇんだよ。

 なんて思いながらニッと口元を吊り上げて、肩の力を抜いた。

 後は他の皆に任せてしまって良いらしい。


 「おうよ、久しぶりだな支部長。あ、いや。アンタに言う事があったんだ」


 「なんだ?」


 彼の肩にポンッと手を置いてから、グッと親指を立て。

 そして。


 「相変わらず苦労してんな、クロウ」


 「き、貴様という男は……あいっ変わらず」


 プルプルと拳を震わせながら、額に青筋を立てる支部長。

 よし、目的の一つは達成だ。

 なんて思いながらケラケラ笑っていると。


 「まぁ、今更だな。とにかく、おかえり。ホラ、仲間の元へ行ってやれ」


 そう言ってから、意味ありげな微笑みを浮かべた彼はウォーカー達の元へと向かって行った。

 そんでもって、視界をさっきまで守っていた場所へと移してみれば。


 「おかえりなさい、皆さん」


 「皆おかえり、待ちくたびれたわよ」


 涙を浮かべながら微笑むアナベルにアイリ、そして飛びついて来るちびっ子。


 「皆! おかえりなさい!」


 「おっせぇよリーダー!」


 エルには飛びつかれ、ノインから蹴りを頂いてしまった。

 いやぁ、懐かしい。

 やっと戻って来たって感じがする。


 「皆ただいまぁ、土産超いっぱい狩って来たぜぇ」


 「久しぶりだねぇ、ただいま。元気してた?」


 「ただいま戻りました、お久しぶりです」


 西田、東、南も声を返し仲間達の元へと駆け寄っていく。

 ホント、帰って来たんだな。

 長かった様な、何だかんだ短かったような。

 一年くらいは離れていた訳だから、久しぶりなのは間違いないか。


 「お待たせたな、お前ら。ただい――」


 「帰って来るの、遅すぎ」


 どこからか急接近して来た白から、顔面に飛び蹴りを頂いてしまうのであった。


 ――――


 誰しもが、息を呑んでその光景を眺めていた。

 あり得ない、あり得ないだろうが。

 先程まで、これだけ集まったウォーカーと兵士達が決死の思いで戦っていた。

 怪我をする奴もいれば、死にそうな場面に陥った事だって何度もあった。

 だというのに、これは何だ?

 真っ黒い馬車……というか戦車から降り立った数名の黒鎧。

 俺もウォーカーだ、彼等の事は知っている。

 だとしても、だ。

 たった数名の増援と、戦車が一台。

 それだけで、戦況をひっくり返してしまった。

 何より、あの角の生えた子はなんだ?

 とんでもない魔法を放って、ほとんどの魔獣を焼き払っていたが……。


 「ま、魔王がいる……複数体」


 ウォーカーの誰かが呟いた。

 見た目としては、本当にそうなのだ。

 とてもじゃないが、俺達の同業者には思えない。

 しかも、以前俺に毛皮を被せてタコ殴りにしてきたアイツら。

 まだそんなに遠い記憶じゃないってのに、もうこんなにも遠い存在だと感じられるのか?

 今同じ事をやられたら、毛皮の下でミンチになる未来しか見えない。

 それくらいに、“ヤバイ”連中になっていた。


 「は、ははは……こりゃマジで“悪食”に逆らえるヤツが居なくなって来たな……」


 皆と同じような乾いた笑いを浮かべながら、彼等の事を眺めていれば。


 「“悪食”ばかりに任せるな! 先程の魔法でかなりの数が減ったはずだ! 残るは露払い! 進むぞぉ! もうカメは居ない! 魔術師部隊、派手にいけぇ!」


 支部長が大声を上げれば、周りからは多くの雄叫びが上がり皆して走り出した。

 俺達だって、ウォーカーだ。

 獣相手に、いつまでもビビっていられるか。

 アイツ等はあんな数をたった数人で片付けたのだ。

 なら、同業者を名乗りたいのなら。

 こんな所でヘバっていて良い理由はない。

 そして、走り出してすぐにチラッと後ろを振り返ってみれば。

 俺達と一緒に戦っていた方の“悪食”が泣いていた。

 帰って来た“悪食”を、皆笑顔で迎え入れていた。

 だったら。


 「うっしゃぁぁ! 残りは俺達が貰うぜぇぇ!」


 感動の再会の瞬間くらい、ゆっくり過ごさせてやらにゃ。

 それこそ男が廃るってもんだ。

 誰も彼も、もう不安の色は無い。

 アイツ等が状況をひっくり返したのだ、なら後はいつも通りで良い。

 ひたすらに剣を振るい、獣を叩き斬れ。

 誰も彼もが雄叫びを上げる。

 目前の勝利を、確かなモノに変える為に。

 俺達は兵士じゃない、だから逃げたって文句を言われる筋合いはない。

 それでも、だ。

 アイツ等の背中を見た後に逃げ出そうとする腰抜けは、ただ一人も居なかったのであった。

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