第149話 攻略の報酬


 「ほんっとうに驚愕するレコードだよ、聞くかい?」


 「一応……聞く」


 「ウチの兵士達が一番深くまで潜った時の半分の期間で、突破。しかも兵士達だと、多分最後に落ちたエリアの少し先位にしか進めなかった。だーけーどーも、だ。一か月近くダンジョンに潜ったのに、ほぼドロップ無し。宝箱発見できず、ボスドロップも空っぽ。更にダンジョンコアは“例の長耳”に持って行かれた。ここまで何も出なかったダンジョン攻略は初めてだね」


 「つまり?」


 「収入、ゼロだ」


 「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 アレから数日後、俺達は地上に戻って来た。

 とは言え、もはや武器が無かったので仲間に頼りきりだった訳だが。

 王族メンツの魔法と、聖女コンビの魔法に頼りながら“大人しくなった”ダンジョンを帰って来た。

 ふざけんなよ、これだけ頑張って報酬ゼロって何だよ。


 「ピギュ!」


 「そうね、お前が居たね。小規模スタンピードだコノヤロォォ!」


 蹲った俺の兜を叩いて来る大根丸を抱き上げ、必死に叫び声を上げる。

 そんな元気があるのは俺だけらしく、仲間達は既に燃え尽きていた。


 「アレだけやって……武器全部使って……報酬ゼロ……ハ、ハハハ、ウケる」


 「マジックバッグには……あぁ、やったよ皆。勇者にお土産にしようって言ってた台座付きの長剣だけ残ってる。ハハハ」


 乾いた笑いを浮かべながら、俺達は畳の上に転がった。

 そう、畳なのだ。

 ここは姫様の住処。

 というか、この国のお城な訳だが。

 何か日本のお城みたいな構造をしていた。

 だというのにそんな感傷に浸る暇もなく、俺達は絶望に打ちひしがれていた。


 「あぁぁぁ! このまま鎧でゴロゴロして畳全部傷だらけにしてから帰る!」


 「地味な嫌がらせ止めてね!?」


 「結局消費しただけかよぉぉ! 畳返し! 畳返し!」


 「端から畳ひっくり返していくのも止めてもらって良いかな!? 地味に凄いねソレ! でも止めて!?」


 「もう一階まで床を抜いて帰ろうか、僕達はこの国に色々と搾り取られ過ぎた……」


 「本当にやめて!? その振り上げた拳を下ろして!? いや、違った! 下ろさないで!?」


 エルフの姫様が俺達に必死な御言葉を投げかけている間に、食事が運ばれて来た。

 映画でしか見た事の無いようなちっちゃいお盆に乗った、極道のお偉いさんが食べていそうなアレだ。

 とにかく高そうなお食事だ。


 「と、とりあえず食事をだね」


 「「「頂きます」」」


 「その適応力を他に回せないのかなこの三人組は!」


 「まぁ、ご主人様達ですから……」


 そんな会話と共に姿勢を正し、ちっちゃい料理を口に運んだ結果。

 凄い、とても複雑な味だ。

 もはや良く分からない。

 となりの小っちゃいのも舌触りが良いね、それで俺らは今何食べてるの?

 このゼリーみたいな奴はデザートかな?

 多分寒天なんだろうけど、柔らかい甘さを感じた瞬間にもう無くなってしまった。

 完食。

 この間、およそ十秒。


 「うん、そうか。まぁ、そうだよな」


 「見た目レ〇ブロック」


 「美味しいね、でも足りないね」


 「「「よし、一階まで穴開けて船に戻ろう」」」


 「だから止めろっていってんだろバカ共!?」


 「カッカッカ! 確かに“アレ”ではダンジョン嫌いになるのも分かるわ」


 そんな会話をしながら、床に向かって拳を構える俺達を多くのエルフ達が止めてくる。

 止めるな、俺達はこのイライラを畳みにぶつけなければいけないんだ。

 なんて事を考えながら、エルフ兵士達とわちゃわちゃしていると。


 「それで、今回のはダンジョン攻略になるのでしょうか? 結果的に、ダンジョンは大人しくなった事は事実ですし」


 『ボスは間違いなく倒した、証拠は奪われたけどね。そして最後のご褒美も、下手すれば相手が持ち去った可能性がある。この国は、ソレを保証してくれるのかい?』


 静かに小っちゃい調理を食べていた聖女コンビが、そんな事を言い始めた。

 あら不思議。

 角っ子達が、この場で一番冷静なご様子。

 俺らなんて皆拳を床に叩きつけようとしているし、南は兵士に混じって俺らを止めようと必死だ。

 静かにご飯食べているの、多分君だけだわ。


 「もちろん、この眼で見たからね。ダンジョン攻略報酬も払うし、最後の宝箱……空っぽだったからね。その代わりも用意しよう」


 「「「ホント!?」」」


 「本当にしっかり用意するから、かなり良いモノをあげるから。国云々関係なしにダンジョンドロップだと思っていいから。ね? だからそんなに一気に攻めてこないで!? 普通に怖い! 君ら自分達のレベルとか意識したこと無いでしょ!? 近い近い近い!」


 そんな訳で、ダンジョンの成果はエルフのお姫様が代わりにくれるというお約束を頂いた。

 いつもなら王族からの贈り物はちょっと、とか言っていただろうが今回は別だ。

 コレ本気で何も無かったら、マジで泣くわ。

 というか破産するわ。

 お財布スッカラカンで船旅開始になる。

 ほんっとに何も無かったんだもの。

 何かしらご褒美が欲しい、というか金は貰わないと詰む。

 だから今回は貰う、素直に貰う。

 でもやっぱり、もう二度とダンジョンなんぞ潜らん。


 「はぁぁぁ……ここまで運の無いパーティを見たのは初めてだよ。君ら世界に嫌われてるんじゃない? ま、いいや。竜も討伐した事だし、一回“鑑定”しようか。皆もレベルアップとか気になるでしょ? とりあえず、全員鑑定してから食事を続けようじゃないか、いいね? おかわり持ってくるから、暴れない、いいね?」


 そんな訳で、俺達は全員その場で鑑定を受ける事になったのであった。

 まぁ、良しとしよう。

 なんて事を思っていのだが、鑑定の結果。

 今度は王族二人が壊れた。


 「嘘だぁぁぁぁ! ちゃんと竜と戦ったもん! 私も頑張ったもん!」


 「儂、最後とか結構役に立ったと思うんだがのぉ……なんでじゃぁぁ!」


 お姫様が畳をのた打ち回り、ジジィは杖で壁を叩いている。

 ソレを必死に止める周りの兵士達。

 まぁ、何が起きたかというと。


 “称号 竜の死体処理経験者”。


 そんな、ふざけた称号が二人には表示された。

 嘆く両者に対して俺達は優しく肩を叩きながら。


 「履歴書みてぇな称号、ドンマイ」


 「し、死体処理……プッ、ハハハ! 確かにありゃ死体だわな! びっくりするくらい脆かったし」


 「きっと、良い事あるよ。うん、いつかその称号も変わるって、多分」


 「あの……頑張って下さい」


 「コレは何というか……ドンマイです」


 『えっと……ちょっとだけ、ドラゴン肉食べる?』


 各々からそんな御言葉を頂いた姫様は、見事に暴れはじめた。

 それこそ床をぶち抜く勢いで。


 「悪食の皆様! お願いです! 姫様を止めて下さい! あぁもう、ご老体まで暴れないで下さいませ! 歳を考えて……あぁ駄目です! それは非常に高価な――」


 結局、兵士の一人が俺たちに助けを求めるまで彼らの暴走は続いた。

 老人はずっと詠唱を続け、若い方は奇声を上げながら鉄扇を振り回しておられる。

 自身に付いた称号が気に入らなかったのだろう。

 でも俺からしたら、変な称号仲間が出来たみたいでちょっと愉快。

 というわけで。


 「大丈夫だって。お前らの活躍はし~~っかり俺達が理解してっからよ」


 そう言いながら二人の肩をポンポンッと叩いてみれば。

 さっきまで暴れていた二人がピタリと停止した。


 「一ついいかな?」


 「儂も、ちと問いたい」


 「おう、なんだ?」


 快く質問を受け付けてやろうではないか、なんて思っていたのだが。


 「「滅茶苦茶ニヤニヤしてるだろお前! 兜被ってても分かるからな!」」


 「やっべ、バレた」


 そんな訳で、攻撃対象が床から俺に変わってしまうのであった。


 ――――


 アレから、数日が過ぎた。

 お姫様と爺さんに頼んで、“探究者”と名乗ったエルフを調べてもらったが。

 手掛かりは結局掴めず仕舞い。

 他所の国のエルフか、あの異常な回復力からずっと昔のエルフである可能性もあるとか何とか。

 今思い出しただけでも背筋が凍る想いだ。

 もう会わない事を願いたいね。

 まぁ、そっちは良い。

 どうせ考えても仕方ない事だ。

 という訳で、楽しい事を考えよう。

 姫様が用意すると言ってくれた報酬。

 王族からって言ったら金か、いらんけど勲章とか言い出すのかと思いきや。

 なんとなんと、非常に実用的なモノをくれるんだとか。

 ソイツを俺ら専用に改造するから、もうちょっと待ってくれとの事。

 なんだか時間が経ってくると、やっぱり貰うの止めようかなぁって気になって来るが、それでも貰わないとマジで今後に響くので頂戴しよう。

 ま、島国だし。

 多少関わったところで問題ないだろう。

 悪い奴等じゃない事はダンジョン内で証明されている上、何だかんだで俺達もアイツ等の事を気に入ったし。


 「何が来るんだろうねぇ、凄く珍しい物だって言ってたけど」


 「実用性が高いって言ってたもんな。武器とかかね?」


 そんな会話をしながら、東と西田が露店を端から攻略していく。

 やはりこの島は良い。

 何と言っても飯が旨い。

 そこら中から色々な匂いが漂って来て、飽きる事がない。


 「先に突破報酬だけでも頂けたのは幸いでしたね、装備も全て買い揃える事が出来ましたし」


 「ですねぇ。予想はしてましたけど、すんごい金額になっちゃいましたし」


 『それでもこれだけ食べ歩きしても余る程のお金が手に入ったんだ。なかなか気前が良いよね、あのエルフも』


 女子メンツも満足気なご様子で食べ歩きしている。

 帰って来た俺達は、そりゃもう武器も何もすっからかんになっていた。

 また全部揃え直すのかぁとげんなりしていた所。


 「お待ちしておりました! 船長!」


 なんて声と共に、船員達が手分けして飯島の中を案内してくれた。


 「船長はこちらのお店がよろしいかと。この島でも屈指の槍職人が居るそうです」


 俺達に必要な装備の店、今後必要になるであろう調味料各種の売り場などなど。

 全て調べ上げてくれたらしい。

 流石国の兵士達、非常に気配り上手の様だ。

 そんな訳でお買い物は一日も掛からず終了し、今ではまったりと飯島を堪能していられる訳だ。


 「はぁぁ……マジでいいわ、この島」


 なんて声を洩らしながらフランクフルトに齧りついていると。


 「お、黒いお兄さん達! どうだい、また食っていかないか!?」


 そこには、以前焼きとうもろこしをくれたおっちゃんエルフが手を振っていた。

 そして、滅茶苦茶旨かった記憶のある焼きとうもろこしがズラリ。


 「一本ずつ頼むわ、今度は金払うぜ?」


 「ハハッ、ありがたいね! まいど!」


 という訳で、今日もまたゆったりと“飯島”を堪能するのであった。


 ――――


 「わざわざ呼び出してすまなかったね、商人君」


 「ははは、この歳で君呼びされるとは思いもしませんでした。それで、本日はどのようなご用件で?」


 悪食と一緒に旅をしているというシーラ国の商人。

 小太りの彼は、どう見ても彼等と行動出来そうな見た目はしていない。

 だというのに。


 「遠回しな喋り方は好かないから、率直に聞くね? 君、シーラの王様から何を頼まれたのかな?」


 「これはまた、随分と直球ですね。しかし、何故私が王と繋がりがあると思われたのですか?」


 「そりゃ、胸元に堂々とシーラ国の勲章付けていればね。それに、あの国の王が“悪食”をそう易々と手放すとは思えない。あのお爺ちゃんも、私達に負けず劣らず“変わり者”だから」


 「はっはっは、そこは否定できませんな」


 楽しそうに笑う商人は、スッと手紙を差し出して来た。


 「これは?」


 「飯島の王へ渡してくれと、そう仰っておりました」


 促されるまま手紙を開いてみれば、そこには相変わらず適当な文章が綴られていた。

 あの爺さんらしい、なんて思ってしまう訳だが。


 「へぇ……」


 「如何でしょう?」


 「大体は納得、でも一部不満」


 「ほぉ、お聞きしてもよろしいですか?」


 ご老体からの手紙に書かれていたのは、“悪食”と関わる為の国を使った遊戯。

 それに参加しないか? というモノだった。

 簡単に言えば、色んな国と仲良くしましょ~ってな内容な訳だが。


 「君、多分こう言われたんじゃないかな? イージスへ行って、彼等が不当に扱われている様なら……悪食の家族全員連れて来いって」


 「フフッ」


 小さな微笑みを浮かべながら、彼は静かにお茶を啜った。

 肯定もしないが否定もしない、か。

 どの国からしても、やはり“悪食”は異常だ。

 だからこそ、欲しい。

 戦力的な意味でも、喉から手が出る程に。


 「この平和条約、受けるよ。でも、一つだけ条件がある」


 「はい、何でございましょう?」


 ニコニコ笑顔の商人に対して、ピッと扇子を向けてから、静かに告げた。


 「もしも彼等が“引っ越し”を決めた場合、行き先は彼等自身に決めさせる事が条件だ。彼らがウチの島に住みたいというなら、素直にこっちに寄越す事。口車に乗せてシーラで独り占めする様なら、私はこの話を受けない」


 「承知いたしました。平等に事を進める事を、お約束致しましょう」


 「ん、頼むよ。こっちだって、シーラの贈り物に見劣りしない凄い物を用意したんだから」


 「ほほぉ、それは興味がありますね」


 今まで以上に目を輝かせ始めた商人に、ニヤッと口元を釣り上げてから席を立った。

 彼もまた静かに私の後に続き、何も言わずにゆっくりと城の外へと歩み出す。


 「君には最初に見せてあげるよ。多分、一番アレの扱いに向いていそうだからね」


 そう言ってから裏庭にある宝物庫まで歩き、大きなその扉を開いた。

 目の前にあるのは、とても大きな黒い塊。

 それを見上げる様にして、商人が息を呑んだのが分かった。


 「こ、コレは……」


 「過去の天才と呼ばれた人形使いが作った、“魔石で動く馬”の人形。ソレを贅沢に三体も使った馬車。いや、もはやコレは戦車だ。戦闘用馬車の最終形態。巨大な馬車は連結可能で、ソレを引く馬は過去最高の力を持った人形達。更には耐久性、攻撃性、移動性を兼ね備えた豪華すぎる馬車。彼らが使うんだ、全て黒に塗り替えた。コレが私からの贈り物、黒い戦闘用馬車ブラックチャリオットだ!」


 ニィッと今まで以上に口元を釣り上げながら、両手を拡げて見せた。

 コレが、私が彼らに送れる最上級の代物。

 陸の移動は恐ろしく早くなるだろうし、これならその辺りの森なんて木々をなぎ倒しながらでも進んでいけるだろう。

 そして、最大の利点は馬が人形だという事。

 マジックバッグには、生きている物は入れられないというルールがある。

 でも、コレは生き物じゃない。

 なので、不要な時はバッグの中に仕舞って置けるのだ。

 コイツに加えてマジックバックもくれてやろう。

 これくらいすれば、彼らだってまた遊びに来るくらいはしてくれるはずだ。

 どこまでも自分の為の投資、この島に“[  ]の英雄”達を呼び戻す為の打算。

 だとしても。


 「コレが私の自信作。さて、シーラとは仲良く喧嘩しようか? “アレ”を貰うのは、私だ」


 「臨む所です」


 微笑みを浮かべながら、私達は固い握手を交わすのであった。

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