第135話 作戦会議


 「はい、という訳で。 第一回船旅の作戦会議ー!」


 「ウェーイ! パチパチー! 今更過ぎんぞー!」


 「普通なら船を出す前に挟むべきイベントなんだけどねぇ」


 西田と東からお声を頂くが、そんなもん知らん。

 会議する必要が出来たからやるのだ。

 そんでもって堅苦しいのは嫌いだから、飯を食いながらやるのだ。

 バーベキューセットをフルに使い、更には鉄板やら揚げ物鍋やら。

 金が稼げないと分かったので、現在浜辺に戻って来て居る。

 今夜は船で宿泊予定である、金無しはつらい。

 あるにはあるが、あまり考え無しに使えない現状なのだ。


 「あぁ~その、なんだ。 多分皆も聞いたと思うが、ここにはウォーカーギルドがないらしい。 よって、仕事が出来ない」


 とりあえず状況説明とばかりに声を上げてみれば、隊長さんがスッと手を上げた。


 「船長。 我々は元々ウォーカーではないので、ギルドがあったとしても仕事を受けられません。 やはりここはウチの国に支払いを押し付けて――」


 「良いご意見ありがとう、そういえばそうだった。 そしてだまらっしゃい、コレ以上借金するつもりはねぇ。 というか結局船貰っちゃってるから、申し訳なさ過ぎて胃に穴が空くわ」


 言われて気が付いたが、ウォーカーって俺ら“悪食”だけじゃん。

 しかも彼らは俺達なんかより、ずっとここいらの事情に詳しい。

 そもそもこの島にギルドが無い事自体知っていた可能性がある。

 うっわ、恥ずかしい。

 この会議全員集める必要さえないじゃん。

 苦し紛れにタコの唐揚げを並べていく。


 「俺らちょっと会議するからこれでも食べてて? ごめんね? 今からでも宿取る?」


 ポリポリと首を掻きながら皿を彼等の元へと差し出せば、向こうは向こうで戦争が勃発した。

 よし、後は知らん。


 「でもよ、こうちゃん。 金稼ぐ手段がないとなると、マジでどうする? 売れる様な物なんてほとんど持ってねぇぞ。 貰った鯨の角と、後は竜くらいか? その他ボチボチ、ろくな金額にならねぇぞ」


 西田の言う通り、今の俺達のバッグには食い物と武器などなど。

 他の売れそうな物は船旅の前にリードの所で売っぱらっちゃったし。

 しかも角は土産にするって言っちゃった訳で、竜も出来ればコレ以上は土産にしたいなぁ……。

 残る素材はまぁ、珍しいお土産って事で


 「有り金使ってご飯と武器買い貯めて、次に急ぐってのが一番の手なのかもしれないよね。 小物じゃ売れそうな素材も取れない……というかほとんど食べちゃうか使っちゃったし」


 そうなのよね。

 タコやら蟹やら魚やら。

 食えない部分なんてほとんどゴミだし、撒き餌にしたり釣り餌にしたり。

 魔石は取れるがマジで小さいので、大した金にはならないだろう。

 それなら鎧に吸わせた方がマシだ。


 「バッグの中の食料や武器の類を差し出しては本末転倒ですし。 何より海鮮系をお土産にする目的が……食料は道中でもどうにかなるかもしれませんが、武具に関してはどうしても海の上では調達出来ません。 そちらを優先するべきかと」


 だよねぇ。

やっぱりさっき東が言っていた様に、ある程度買い占めてさっさと出航するか?


 「食事は道中でどうにかなるって言えちゃうのが凄いよねぇ」


 『ま、実際その通りだし。 今の内にドラゴンとかもっと解体しておく?』


 各々から声が上がって来るが、う~むと渋い声を上げながら首を傾げてしまう。

 ほんと、どうしたもんか。

 とか何とか考えていたその時。


 「やぁやぁ、若い衆や。 ちょいとジジイもお邪魔して良いかな?」


 「うん?」


 急に聞こえて来た声に視線を向けてみれば、そこにはドデカイ酒瓶を二本も三本も手に持っているご老体エルフがこちらに向かって歩いて来る。

 なんだ? 酔っ払いか何かか?


 「ホイ、参加費としてお土産を持ってきたぞ。 結構高い酒じゃ、見た所……好きじゃろ?」


 「いや、普通に怪しさ満点だな? この状況で飲むと思うか?」


 「まぁったく、疑り深いのぉ。 ホレ」


 爺さんは持って来た酒の一本を開けると、グラスを奪いとってから酒を注ぎグイッと一口。

 どうじゃ? とばかりに、こちらに向かってデカい酒瓶を傾けて来た。

 毒見はコレで良いだろうとばかりに。


 「まぁ、いいか。 ただ今ちっと作戦会議中っていうか、今後の方針で悩んでるところでな?」


 「聞いた所、金の話じゃろ? そっちも良い話を聞かせてやるから安心しろ若者よ」


 なんかもう全てを見透かしていますとばかりに、カッカッカと笑みを浮かべながら俺のグラスに酒を注ぐご老体。

 ほんと、何だコイツ。


 「アンタ、何者だ?」


 「なぁに、ただのジジイじゃよ。 今じゃ仕事も引退して、老後の人生を楽しんでおる」


 「本当だろうな?」


 「何をビビっておるか。 こんな老いぼれが凄腕の兵士にでも見えるか?」


 いや、全然見えんけど。

 なんて呆れた視線を向ければ、老人は再び愉快愉快とばかりに笑い始めた。


 「ホレ、まずは一杯。 ツマミは何があるかの?」


 「魔獣肉で良けりゃ、結構色々あるぜ?」


 「ほぉ、魔獣肉とはまた。 面白いモンを食っておるのぉ、儂も食った事が無いわい」


 まぁ、でしょうね。

 また一から魔獣肉の説明をするのも面倒なので、ため息をついてからシッシッと軽く手を振った。


 「あぁ、だから普通のツマミを求めるのなら街に戻って――」


 「こりゃ旨い! 普通の魚よりずっと味わい深いのぉ!」


 「聞けよ! 聞いてから食えよ!」


 「お前さん達が食っておるんだから、食えるんじゃろ? なら毒見は終わっとるっちゅう事じゃ」


 やはりエルフって変な奴が多いのだろうか?

 いや、こういう考え方は良くないな。

 中島に怒られちまう。

 とはいえ、なんというか疲れるテンションの爺さんが来たな。


 「はぁぁ……もう何でも良いや。 んで、爺さんは何の用で声掛けて来た訳よ?」


 「昼間の騒動を見ておったが、お主らウォーカーなんじゃろ? ダンジョンに興味はないかと思ってのぉ。 やはりウォーカーと言えばダンジョン、ダンジョンと言えばウォーカー。 興味あるじゃろ?」


 ニッと口元を釣り上げる老人は、こちらの答えは分かっているとばかりにニヤニヤされておられる。

 なるほど、この国にも金になるダンジョンがあるのか。

 そして、そこなら俺達でも金が稼げると言いたい訳だ。

 だからこそ、俺達は一斉に答える。


 「「「いや全く、これっぽっちも興味ない」」」


 「そうじゃろそうじゃろ! やはり若いモンはそうでなければ……んん!? お主ら今何と言った!?」


 「「「ダンジョン、キライ」」」


 「ウォーカーがダンジョン嫌いでどうする! 一攫千金! 珍しい物品の入った宝箱! 昼間見た限り、十二分に実力のあるウォーカーじゃろ!? そんな奴らが、何故!」


 「「「ダンジョン、食えない」」」


 「こ、コイツ等は何を言っておるんじゃ?」


 自身の常識の範疇を超えたのか、老人はフラフラしながら助けを求めて南や聖女へと視線を向ける。


 「えぇっと、ご説明しますから。 まずは座って下さい」


 疲れたため息を溢す南に促され、老人はヨロヨロと席に腰を下ろした。


 「皆さん、ダンジョン嫌いなんですね?」


 『私もあんまりせまっ苦しい所は好きじゃないなぁ。 狭いだけで皆弱いし』


 「今のサイズなら十分広いと思うよ?」


 「また何か変な事を言っておる娘っ子がおる……」


 呑気に声を上げる聖女組も、老人にとっては追い打ちにしかならなかった様だ。


 ――――


 「何やら、また随分とおかしなものが紛れ込んだみたいね?」


 「はっ、なんでも兵士でも縮み上がる程の威圧を放つ“人族”だとか」


 「面白いねぇ。 やはり長い事待ってみると、色々と“楽しみ”が向こうからやって来てくれる。 普段から退屈な仕事をこなしている価値はあったというモノだよ」


 自慢では無いが、ウチの兵士のレベルは相当高い。

 人族のウォーカーが“達人”とはやし立てる粋のレベルに達している者が殆どだ。

 そんな者さえも臆する程の存在が今、私の島に来ている。

 そう考えるだけで、ゾクゾクしてくるというものだ。

 クククッと口元を釣り上げながら、目の前に跪く兵士に向かって扇子を向けた。


 「すぐにその“人族”をこの城に招きなさい。 どこまでも丁重に、問題など起こさぬ様細心の注意を払いながら。 私はその“人族”が見てみたい」


 久しぶりに胸が高鳴る。

 エルフとは何処までも長く、飽き飽きする程の時間を生きる生き物だ。

 だからこそ、“娯楽”に飢える。

 森の中に引きこもっているエルフ達などは、一体何を考えて千年近く生きているのだろう。

 アレではそこらの虫達と変わらないではないか。

 そんな風に思ってしまうが、“変わり者”と呼ばれるのは我らの方だ。

 私達は娯楽に飢え、新しいモノに目を光らせる。

 その結果様々な物品が集まる島国として名を上げ、誰でも受け入れる国を作ったからこそ、国民達を飢えさせる事態は余裕で回避している訳だが。

 それでも、だ。

 たまにはこういうグッと来る刺激が欲しい。

 なんて事を考えながら、上機嫌でグラスを傾けてみれば。


 「ソレが……その。 元王……というか、ご老体が彼等に先に手を出したようで」


 「ブフッ! はぁ!? お爺ちゃんが先に接触してるって事!?」


 思わず口に含んだ酒を噴き出し、思いっきり叫んでしまった。

 不味い不味い、ウチのお爺ちゃんは私以上にもの好きだ。

 おかしなモノを見つけると、我先にと突っ込んでいく。

 そんな人がウチの兵士をビビらせるほどの強さを持つ“人族”に、先に接触したとすれば……間違いなく。


 「取られる……私の娯楽が」


 「ですね、間違いなく」


 「ヤダ! 今からでも走ってその人達と会ってくる! いっぱいお金あげるから、楽しませてってお願いする!」


 「姫様! あまり無茶をいうモノではありません! 本来貴女がおいそれと街中に姿を現すなど!」


 「今は姫じゃないですぅー! 十年前から私が王様ですぅー! お爺ちゃんの馬鹿! 何でいつも孫の楽しみを奪うの!? 大人げ無いったらありゃしない! ちょっと行ってくるね!」


 「姫様ぁぁぁ!?」


 悲鳴のような声を上げる兵士を置き去りに、私は窓から飛び出した。

 久しぶりの娯楽なのだ、胸躍る興奮なのだ。

 そんなのを、お爺ちゃんに独り占めされてたまるか。


 「お爺ちゃんのブワァァァカ! 一人で楽しめるとか思ってんじゃないですよぉぉだ!」


 叫びながら、夜の街に飛び出した。

 普段からつまらない仕事を山の様にこなしているのだ。

 国民のエルフ達を飢えることなく養える程に、商売繁盛させているのだ。

 だったら、たまには良いじゃないか。

 ハメを外して、思いっきり楽しんだって。


 「ウチの兵士をビビらせた“黒いウォーカー”さん達は、どこに居るのかなぁっと!」


 探すだけでも、ワクワクする。

 一体どんな人達なんだろう?

 短い寿命しか持たない“人族”の身で、どうしてそこまでレベルが上げられたんだろう?

 様々な疑問で心が染まり、全身で答えを求めている。

 全部の答えが欲しい。

 そんなあり得ない存在の経験を、冒険記を聞いてみたい。

 なんて事を思いながら、私はひたすらに家屋の屋根の上を走り回るのであった。

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