第113話 珈琲
「うおぉぉぉ! 久々にレベルアァァップ! しかもスゲェ上がってる! 82だよ82!」
「99でカンストか!? そうなんだよな!?」
「なんか称号も変わってるね! 北君なんか英雄になっちゃったじゃん! すっげぇぇ!」
『竜を倒したんだからソレくらい上がって当然だよ。 それに私達もやっと“自称”じゃなくて、竜人を名乗れるね』
「種族“竜人”かぁ。 私もいよいよ異世界に染まって来たなぁ、しかもまだレベル上がるんだ」
各々自分のギルドカード眺めながら大騒ぎ。
レベルも凄いが、称号が何かとんでもない事になっている。
西田は疾風から“疾風迅雷”へ、東は鉄壁から“楽園の守護者”とかすんごく強そうな感じに変わっている。
そして望とカナに至っては“聖女”に“竜と共に生きる者”。
すげぇ、なんかもうゲームだったら終盤じゃないと手に入らなそうな称号を皆手に入れている。
更に、悪食メンツには“竜殺し”が付いた。
おっしゃぁ! と拳を振り上げては見たものの。
「ねぇ何で俺ばっかり恥ずかしい称号がつくの? デッドライン変わらないし、[ ]の英雄って何よ。 カッコの間には何が入るんだよ! なぁ誰か称号交換しようぜ!? な!?」
「「まぁ、こうちゃん(北君)だから」」
「お前等他人事だと思いやがって!」
わちゃわちゃと騒いでる中、話に参加してこない人物一人。
ソファーの端っこに移動して、コソコソしながらステータスカードを何度も見返している。
「南、どした?」
「へっ!? あ、いえ! 何でもありません!」
偉く慌てた様子でカードを背面へと隠し、尻尾をピンと伸ばす南。
一人だけレベルが上がらなかったとか?
いや、流石にそんな事は無いだろう。
南はいつだって俺達と一緒に前線を走り回っているのだ。
しかもクロスボウで援護しながら俺達のサポートとか、かなり忙しい立場に立っているのだからレベルに関しては順調に上がっている筈。
だとしたら、もしかして……。
「まさか……ついに南にも称号が? そして俺と同じように恥ずかしい感じの称号だったんだな! そうだろ!? 絶対そうだ! 見せろ! 俺の仲間になれ!」
「いっいえ! 決して恥じる様な称号では無いのですが、そのっ。 色々とありまして! あぁぁご主人様! 取らないで下さい!」
ワタワタと慌てる南からヒョイッとカードを奪ってみれば、そこには。
「レベル76か! すっげぇ上がったじゃん南ちゃん!」
「それに称号も付いてるよ! 僕らと同じ“竜殺し”と。 えっと、何々? “死が四人を分かつまで”?」
まるで結婚式場で神父が言いそうな称号が、カードには記載されてた。
普通なら“二人を”、なはずだが。
南の称号は四人。
コレがどの四人を指しているのかなど、聞かなくても分かるだろう。
本人は真っ赤な顔でプルプルしながら、俺達から視線を逸らしているが。
「こりゃもしかしたら、南の称号のお陰で皆揃って無事に転移できたのかもな」
「え?」
ポツリと呟いてから、彼女の頭に手を乗せた。
本人は何を言われているのか分からない御様子でポカンとしている訳だが。
「あぁ、なるほど。 確かにそうかもな。 死なない限り俺達は一緒に居られる、みたいな効果とかあるのかね」
「だとしたら、ホント南ちゃんのお陰だね。 ありがとう、これからもよろしくね」
西田と東からも頭をワシャワシャされて、呆けたままの南にカードを返した。
手にしたカードに再び視線を落としから、ふにゃっと頬を緩める南。
「だとしたら……本当に誇らしい称号です」
そう言ってから、彼女はキュッとカードを胸に抱くのであった。
――――
「さて、では話を進めましょう。 少々信じがたいですが……これまでの経緯は分かりました。 そして、鑑定も無事済みました。 まさか有名な鑑定士まで呼ぶ羽目になるとは思いませんでしたが……。 それで、これから皆さまはどうされるおつもりですか?」
随分と美人な支部長様が真剣な表情で、俺達に改めて質問を投げかけて来る。
こっちのウォーカーはいいなぁ……こんな人に色々と指示出されんのかぁ。
そりゃモチベも変わって来るよなぁ、なんて事を思いながら。
「いやぁ、とりあえず金がないんで稼がせてもらおうかなって。 しっかし、珈琲うめぇ……」
「せっかくなら海も行ってみたいねぇ、海産物も食べたいし。 あとはお土産買うのと、珈琲も買って帰りたいなぁ……コレ旨い。 向こうの街にも売ってたなら、飲んでみれば良かったねぇ」
「ひっさびさに飲んだわぁ……和むわぁ……昔はガブガブ呑んでたのに、“こっち側”に来てから全く飲んでなかったもんなぁ。 というかこの珈琲うめぇ」
「深い味わいだとは思いますが、私にはちょっと苦いです……あ、ミルク入れても良いんですかコレ?」
かなりまったりした感じになってしまった。
だって旨いんだもの、久々の珈琲。
しかも“向こう側”で普段飲んでいたインスタントとは全然違う。
専門家でも何でもないので、詳しい事はよくわからないがソレでも分かる。
口に含んだ瞬間香りがぶわぁって広がるのだ、コレを嗅いだだけでも「ふぅ」ってなってしまう。
そして味。
今まで飲んでいた珈琲は一体何なんだと思える程に、“深い”上に“複雑”。
いつまでも堪能したくなる上に、思わず一口一口を大事に飲んでしまう程だ。
あぁ、休日の昼間にはコレが飲みてぇ……。
『結構苦い、けど多分望の好みに引っ張られている感じがある』
「うぅ……ごめんね? お砂糖とミルク入れても良い?」
竜聖女組も何だかんだ楽しそうにコーヒーをキメていらっしゃるご様子。
ふぅぅ……コレだけでもこの街に来た甲斐はあるな。
「あ、あの皆様? リラックスされている所、非常に恐縮なのですが……」
「あ、敬語とか良いですよ? 普段通りで頼みます、俺らもいつ敬語崩せば良いのかわかんなくなるんで」
「は、はぁ……」
そう伝えてみれば彼女はコホンッと咳払いをしてから、こちらに鋭い視線を向けて来た。
「そ、それでは……じゃなかった。 では、仕事の話をしようじゃないか。“悪食”」
「おっ、いいねぇ。 断然支部長“らしく”なって来た」
ニッと口元を吊り上げて改めて姿勢を正す。
やっぱウォーカーギルドの支部長って言ったらこうでなくちゃ。
何か偉そうで、口調が強くて。
そんでもって無茶な仕事ばかり振って来やがる。
それくらいの方が、俺らにとっては“馴染みやすい”ってもんだ。
「ひとまずこの街に滞在するって事で良いのね? そして仕事の希望としては“海”。 ココまでは間違いない」
「おうよ、海に行ってみてぇ。 そんでもって、稼げる仕事が欲しい」
いつもの調子が出て来たので、こちらも身を乗り出して言い放ってみれば。
彼女はチラッと隣の男に視線を向けた。
そこにはワイルド系ダンディの姿が。
アレだ、どこぞの海外映画に出てくる海賊船長みたいな恰好。
フラフラ歩く彼より筋肉質で、厳つい面持ちをしておられるが。
恰好はマジでジャック・スパ〇ウっぽい。
「だとしたら俺達の管轄な訳だが……良いのかい? アンタら森の方が慣れて良そうな雰囲気だが」
ちょっと困った様子で、ソファーの反対側に立っているスキンヘッドのウォーカーに視線を向けている。
ありゃ、素人は要らないって感じなのかな?
なんて思いながら、もう一人のスキンヘッドさんに視線を向けてみれば。
「いやいや、こっちで問題になっていた“虎”は討伐された。 だとしたらガッツリ稼げる仕事っつったら“海”になるだろ」
「てめぇ……」
「あんだよ?」
何やら険しい視線を交わす彼等は、随分と仲が良いんだろうか?
話からするに海の専門家と、森の専門家って所か?
いいねぇ。
仕事の幅も広がるし、仕事で競い合うのは非常に楽しいから好きだ。
「素人の俺らが仕事に邪魔になるかもって懸念は分かるが、どうにかお願い出来ねぇかな? それこそ素人向きな簡単なヤツからでも構わない。 こっちも海に出てみたいってだけだからよ。 邪魔になる様なら隅で大人しくしてるさ」
「あ、いや。 別にそこまで言うつもりはないが……その、なんだ」
気まずそうに視線を彷徨わせてから、彼はポリポリと鼻を掻いた。
何か色々気を使わせてしまっているのが分かる。
ココはやはり得意な“森”の仕事を受けながら、“海”は遊ぶ程度にするか?
なんて事を考え始めた頃。
彼は盛大にため息を吐いた。
「分かった、分かったよ! でも、その恰好じゃ駄目だ。 そんな完全装備、船から落ちただけで沈んじまうぞ。 だから、まずは装備を変えろ。 お前等が強いのはレベルを見りゃ分かるが、その装備じゃ海に喰われるのがオチだ。 それさえ何とかしてくれりゃ、俺の船に乗せてやるよ」
おぉぉぉ! と、思わず声を上げてしまった。
海のお仕事、ゲットだぜ。
そして何とこの人、船を持っているらしい。
すげぇ、全てが規格外だ。
ウォーカーが船持ってるって何だよ、凄すぎるだろう。
マジで海賊じゃねぇかコイツ。
「それじゃ、よろしく頼むぜ! えぇ~っと」
「ダリルだ。 こっちこそよろしく頼む」
ガシッと握手を交わした所までは良かったのだ。
「ご主人様。 ですから私達には装備を変えるお金が……虎の皮一枚で全部を賄えるとはとても……」
「あっ」
やばい、いつものノリでトール達に作ってもらおう的に考えてしまっていた。
不味い、このままでは仕事どころか船に乗りこむ事さえできない。
握手したままどうしたものかと視線を彷徨わせていると。
「そこは私にお任せください。 この命を、娘を助けてもらった恩。 未だに返せていませんからね」
やけに格好良いセリフを吐きながら、小太りのリードおじちゃんがドンッと胸を叩いた。
なんかよく分からないけど凄く頼もしい! 素敵!
後で金やら恩やら色々返す事になりそうだが、今は非常に頼もしい事に違いは無かった。
俺達はこのおっちゃんから借金をして装備を整え、マグロ漁船に乗るぜ……。
とかなんとか、よく分からない事を考えていると。
「こちらに“異世界人”の少年がいらっしゃったというのは本当ですか!?」
「勇吾! 勇吾どこにいるの!?」
「居るのか!? 勇吾、何処だ!?」
兵士に囲まれた黒髪黒目の2人組がギルドの玄関を勢いよく開け放った。
その声が聞こえた瞬間、俺達の隣に座っていた少年が勢い良く立ち上がり。
「お父さん! お母さん!」
二人に向かって元気よく手を振ったのであった。
見た感じでは、“ハズレ”として捨てられたって雰囲気ではない。
何かしらのトラブルで少年だけはぐれたか、別の場所に召喚されたとか……そんな感じか?
良く分からんが。
「少年、お前勇吾っていうのか」
「うん、千葉 勇吾」
「そうか、いい名前だな。 ホラ、両親の所に行ってやんな。 待ってんぞ」
「うん! でも……一緒に船に乗りたかった」
「それはまた今度な。 落ち着いたら、また俺達と“遊び”に行けば良いさ」
「うん!」
そう言って、少年は俺達の元を去っていった。
孤児院なんぞをやっている影響か、アレくらいの子供にはどうしても過保護になってしまう。
でも、多分もう彼は大丈夫だろう。
両親も涙を流しながら喜んでいるし、周りの兵士達だって随分と安堵した様子だ。
彼らが“特別”だったのか、それともこの国は“そういう場所”なのか。
きっと俺達の様にはならいないのだろうと予想出来るくらいに、“安心できる光景”が広がっていた。
「うし、善は急げだ。 早速服を見に行こうぜ、あとは武器だ。 すまねぇが、力と金を貸してくれリードさん」
「えぇ、そう致しましょう。 家族の再会に水を差すモノではありませんからね」
そんな訳で、俺たちはソッとギルドを後にするのであった。
とはいえ兵士達を含めれば結構な人数になるので、かなりゾロゾロという感じにはなってしまったが。
それでも。
「良かったな、帰れる場所がちゃんとあって」
「ま、“こっち側”に家族全員呼ばれたってのはある意味不幸だったのかもしれねぇけどな」
「とはいえ、バラバラになるよりは良いよ。 頑張って欲しいね」
なんて事を呟きながらギルドを後にすれば。
「ご主人様方は……“こちら側”に来てしまった事、後悔していらっしゃいますか?」
南が、やけに不安そうな顔で声を上げる。
勇吾君くらいの歳であればの話であって、俺らの話ではないんだけどな。
思わず鼻で笑いながら、俺たちは小さくも頼もしいパーティメンバーへと振り返った。
「まさか。 “こっち側”の方が俺らにはあってるよ」
「もう“向こう側”に帰ろうとも思わねぇよなぁ。 便利で安全ではあったけど、それだけだ」
「“生きてる”って感じが、コッチの方が段違いだね」
どいつもコイツも、やはり随分と“こちら側”に染まってしまったらしい。
でもまぁ、仕方ないとは思える。
俺達は、“こちら側”で随分と好き勝手やっているのだから。
色々と大変だし、命の危険もそこら中に転がっている。
だとしても、だ。
自由であり、難しい事を考えなくても力を付ければ何とかなる。
ただただ頑張れば良い。
ただただ諦めなければ、何とか生きていける。
俺らみたいな“馬鹿”には、非常に合っているのだ。
周りに助けられてる事は分かっている。
だからこそ、恩を返しながら俺達は生きて行けば良いのだ。
「俺らは4人で東西南北だからな、急に居無くなったりしねぇから安心しろ」
「っはい!」
そんな訳で、俺たちは新しい装備を求めてリードの後に続くのであった。
『美しきかな、支え合う人生って所かな?』
「カナ、こういう時は静かにするの」
なんだかちょっと、恥ずかしい雰囲気になってしまったらしい。
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