第94話 『戦え』 償う為に


 国の兵士達も再び戦場に復帰し、もはや人が入り乱れている状態。

 何処を見ても人が居るし、兵士の装備も偉くバラバラだからウォーカーだか兵士だかわかりゃしない。

 そんな中を、俺はノアを背負いながら真っすぐ走り抜けていた。


 「ノイン! どうするの!?」


 俺の首元に必死で捕まっているノアの声が、耳元から聞こえる。

 戦場で何をやっているんだと言われそうな状態だが、俺達にとってはコレがベスト。

 すぐ近くで強化魔法を使ってもらえる上に、俺は盾だから何かを振り回す訳じゃない。

 ノアを背負ったまま相手の前に飛び込み、どっしりと構えれば良い。


 「乗り気はしねぇけど、“勇者”を守る! アイツは絶対にこの戦争における切り札になる!」


 「じゃぁ勇者にもボクの魔法を掛けよう! そしたら“勇者のバフ”効果ももっと強くなるかも!」


 「うっしゃぁ! ソレで行くぞ!」


 叫びあいながら人の間を抜け、魔獣を盾で殴り飛ばして、ようやく勇者やカイルさん達が見えて来た……と、思えば。


 「あぶねぇ!」


 勇者の後ろから迫っていた狐の魔獣を、寸前で払い落す事に成功した。

 駆けつけたままの勢いでぶん殴った訳だから、結構な勢いでふっ飛んでいく魔獣。

 その姿を見て初めてその存在に気が付いたのか、随分と驚いた表情を浮かべている勇者。


 「なにやってんだよ! お前勇者だろ! さっきの魔獣くらい……って、オイ。 それ……」


 彼には、片腕が無かった。

 まるで以前キタヤマが受けた傷が返って来たみたいに、左腕が肘の下からバッサリ持って行かれていた。

 痛みに耐えているかのように必死で奥歯を噛みしめ、額からは脂汗がダラダラと零れている。

 どうやら、集中して周囲を警戒出来る状態ではなかったらしい。

 というか、今すぐに下がるべきだ。

 そんな怪我じゃ、前線で生き残れる未来なんかある訳がない。


 「す、すまん助かった。 鎧を見る限り、“悪食”のメンバーか?」


 「あぁ、まぁ……そうだけど」


 思わず視線をそらしてしまった。

 こいつはキタヤマの腕を斬り飛ばして、更にはエルの親父さんの仇。

 だからこそ、クソヤロウだ。

 でもこの戦争をさっさと終わらせるのなら、コイツを利用する他ない。

 そんな事を考えていたというのに、何だこれは。

 何故こんな怪我を負ってまで、コイツは前線に立ち続けている?


 「柴田、2時の方向だ! 人を巻き込むなよ!?」


 「わかった! “光剣”!」


 随分と情けなく剣を振り下ろす勇者。

 それでも魔法の威力は絶大で、数十体の魔獣を一気に消し去っていく。

 だが。


 「ハー! ハー! ハー! っっぐ! ずぁぁぁ! 痛くねぇ! 痛くねぇぞ!」


 過呼吸みたいな様子になりながら、必死に痛みに耐えている。

 口から出血するほど歯を食いしばり、長剣を振り回す。

 片腕で振るう事に慣れていないのだろう。

 これでは、魔法以外の戦闘ではまず狩られる側に回ってしまう。

 コレが人類の希望? 異世界から来た勇者?

 笑わせるな。

 今のコイツは、ただただ必死に戦っているだけじゃないか。

 生きる為に、助ける為に。

 どこまでも俺達と同じだ。

 だからこそ、“利用”するのはヤメだ。


 「勇者! 攻撃だけに集中してくれ! アンタの事は俺が守ってやる!」


 「一体、何を……」


 「うっせぇ! 周りの細かいのは任せろって言ってんだよ!」


 叫びながらもノアを下ろし、周囲から迫る魔獣に向かって盾を振り回す。

 やはり細かいのは人の間を抜けてくる。

 そして小さいヤツに対する防衛手段が、今のコイツには無い。

 だったら。


 「俺が守って、お前が攻撃しろ! 片腕の代わりになってやる! ノア!」


 「勇者は皆を強くするバフが使えるんでしょ!? ソレ使って! ボクが後押しする!」


 「もう既に使ってるんだが……」


 「もっと強く! 本気で! ううん、本気以上で!」


 「わ、わかった!」


 ノアに叱咤されながら、勇者はその場に剣を突き刺し瞳を閉じた。

 そして。


 「うらぁぁぁぁぁ!」


 叫び声と同時に、周囲には金色の光が漂い始める。

 ノアが勇者の背に触れれば、その光はもっと強く、更に大きくなっていく。

 よし、ノアの思惑通りいったみたいだ。

 なんて口元を吊り上げていると。


 「っ! あぶねぇ!」


 二人を挟んで、俺と反対側。

 そちらから山猫の魔獣が数匹飛び掛かっているのが見えた。

 不味い、小さすぎて気づくのが遅れた。

 しかも距離が空いている。

 勇者のレベルならともかく、ノアは――。

 なんて事を思った瞬間、すぐ近くから黒いローブを頭から被った小さな影が飛び出して来た。


 「しゃぁぁぁ!」


 どこかで聞いた事のある獣の様な叫び声を上げながら、ソイツは“二本の槍”で魔獣を全て撃ち落としてみせた。


 「……おい、なんでお前がココにいる。 “エル”」


 名前を呼んでみれば、ソイツは観念した様にローブを脱ぎ去った。

 中から出て来たのは、やはりウチのメンバーのエル。

 コイツはまだ成人していない、だから戦争に参加する必要も無ければ、むしろ今すぐ帰れと言いたい所なのだが。


 「勇者を殺すのは僕だ。 今死なれちゃ困る」


 随分と鋭い眼を勇者に向けるエルに、次の言葉が思わず引っ込んだ。

 全く、誰に似たのか。

 放つ殺気までどこかの誰かさんとそっくりだ。

 なんて事を話し合っていれば。


 「ふむ、それなりに魔獣も減って来たか? では次の章へと移行しようか! 来い、魔人達よ!」


 王子のその言葉に、背筋が凍り付いた。

 今、“魔人”っていったか?

 思わずノアの方を見てみれば、彼女は真っ青な顔である方向を眺めていた。

 その視線を追って見ると、そこには。


 「下衆が……」


 「まさに悪役、だね」


 馬車からゾロゾロと降りてくる首輪を付けた者達。

 その頭には、皆獣の様な角が生えていた。

 間違いなく“魔人”。

 だが誰も彼も虚ろな表情を浮かべ、フラフラと歩いている。

 まるで、違法薬物でもヤッているかのように。


 「お見せしよう。 コレが“私”の力だ!」


 とても正常だとは思えない魔人達に掌を掲げられた王子様が、意気揚々と剣を天に構える。

 頭上の雲は怪しげにのたまい、空は赤黒く変色する。

 大した魔法を行使した様には思えなかった、思えなかったというのに。

 コレは一体どういうことだ?


 「おいおいおい……」


 不穏な空気を曝け出す空は徐々に広がり、そして俺らの頭上を埋め尽くした。

 辺り一面に広がる赤黒い空、更には肌に感じるピリピリとした“ヤバイ”空気。

 これは、絶対不味い奴だ。


 「死にたくなければ逃げ惑え! 明日を迎えたいなら惨めに身を屈めると良い! 目に焼き付けろ! コレが次の王の力だ! “メテオ”!」


 彼が剣を振り下ろした瞬間赤黒い空には波紋が広がり、そこから落ちてくるのは数多くの“隕石”。

 いや、隕石に見えるが本物じゃない。

 広範囲魔法、“メテオ”。

 燃える岩が降って来て、地面に触れると爆発する。

 確か見た目はやけに派手だが、魔力消費が馬鹿みたいに多い魔法。

 しかも直接受ければ相当なダメージを負うであろうその魔法が、まるで雨の様に降って来て居る。

 理解は出来る、魔人による強化魔法で馬鹿みたいに数を増やしたんだ。

 だとしても、やはりこういう感想が漏れてしまうのは仕方のない事だろう。


 「なんなんだよ、何なんだよコレは! ふざけんなよ!」


 地獄の光景かってくらいに、戦場に降り注ぐ隕石。

 こんなの、密集地帯じゃ避けられる筈が……。


 「“光剣”!」


 誰しもポカンと口を開けて空を見上げる中、ただ一人だけが行動を起こした。

 迫りくる隕石に対して、光を放ち少しでも数を減らす奴が居た。

 幾分かは撃ち落とせたようだが……コレは、数が多すぎる。

 絶大だと感じられた“勇者”の一撃でさえ、一割にも満たない数しか撃ち落とせていない。

 あぁ、これは非常に不味い。

 アレが落ちてきたら、俺たちは間違いなく……。


 「ずあぁぁぁぁ! “光剣”! “光剣”! “光剣”!」


 本人も無駄だと分かっているだろうに、彼はひたすらに空に向かって魔法を放ち続ける。

 片腕を失ったばかりで、立っているのだって辛いだろうに。


 「ざっけんな! “守れ”って言われたんだ、俺に出来る償いはソレだけだって。 だから何を言われても“守れ”って! 約束したんだ! だからアイツらが俺の願いを聞きいてくれる代わりに、俺は守らなくちゃいけないんだよ! ふざけんな! こんな所でまた誰かを死なせてたまるかよ! アイツらにどんな面下げて報告すりゃ良いってんだ! “光剣”! ぜってぇに守ってやる! 誰も死なせねぇ!」


 そんな事を叫びながら、勇者は片腕で剣を振り続ける。

 その姿は、何処までも滑稽だと言えるのかもしれない。

 どうしようもない強大な力に対し、自らの持てる小さな力を振り絞ってでも諦めない。

 しかも、この戦場において誰よりも重症だと思える彼。

 ソイツが、誰よりもこの状況に抵抗していた。

 こんな絶望的な状況の中、まだ戦えると吠えていた。

 誰よりも、周りに”勇気”を与えていた。


 「“光剣”! “光剣”! ずぁぁぁ! 数が減らねぇ! もっと、もっとデカい魔法が必要……っ!」


 ずっと光を放ちづけていた彼が、言葉の途中でピタリと停止した。

 そして。


 「はつみぃぃぃ! 後は任せたぁぁぁ! “新しい”のを使うぞぉぉ!」


 なんて大声を上げたかと思うと、彼はより一層腰を落として剣を肩に構えた。


 「これでも、“勇者”なんでな。 土壇場には強いのよ」


 ニヤッと口元を吊り上げてから、その獣は吠えた。


 「今さっき習得した魔法だ、保障はしねぇ! 皆伏せててくれよ! “白夜”!」


 彼が力いっぱい振りかざした剣からは、眼が眩むほどの“白い光”が溢れるのであった。


 ――――


 “光剣”とは比べ物にならない程の光が、空を覆いつくした。

 あぁなるほど、確かに“白夜”だわ。コレは。

 夜空が一瞬で明るくなる程の光が、目の前に迫った“メテオ”を飲み込んでいく。

 今しがた頭の中に思い浮かんだ魔法。

 絶大な魔力を消耗し、夜を朝に変えるかって程の威力。

 もう、魔力は空っぽだ。

 全身がダルイ。

 魔力切れもそうだし、血を失い過ぎたのかもしれない。

 ソレに、腕の痛みも酷い。

 更には、俺の剣も塵の様になって消えてしまった。

 聖剣なんて言われて渡されたけど、どうにも魔法の威力に耐えきれなかったらしい。

 でも、だとしても、だ。


 「やってやったぜ……」


 光が収まった空に残るのは、いくつかの隕石のみ。

 全部を破壊出来なかったのは些か不満だが、それでも残るは数える程度。

 アレなら多分、回避が可能だ。


 「ハ、ハハッ。 守った、守ったぞ“黒鎧”! ちゃんと守ったぞ!」


 あの状況を覆したのだ。

 誰しもが諦めて動きを止めた程の絶望。

 それを、変えてやった。

 見る限り、誰も死んで無い。

 怪我をして下がった人は居ても、それでも死体は見当たらない。

 よし……いよしっ!

 なんて、思わず拳を握りしめていると。


 「勇者、不味いよ! 一個だけ“メテオ”がこっちに向かって来てる!」


 俺に触れていた女の子が、悲痛な叫びを洩らした。

 え?

 思わず空に改めて目を向ければ、彼女の言う通り打ち洩らした魔法の一つが、真っすぐこちらに向かって落ちて来ていた。

 しかも、距離が近い。

 既に周囲の人間は退避し、残っているのは俺と集まって来てくれた子供達だけ。

 不味い、逃げられる距離じゃない。

 しかも……。


 「くっ……そがっ! 動けよ! 動けって言ってんだ! ココで動かなきゃ、意味ないだろ!」


 体が、動いてくれない。

 今までの疲労の影響か、出血の影響か。

 それとも魔力切れの影響なのか。

 俺の体は、普段より随分とのろまになっていた。

 “向こう側”に居た時よりも、ずっと遅い。

 まるで鉛になった気分だ。


 「ノア! エル! 勇者と一緒に小さくなってろ! 俺が止める!」


 大声をあげる少年が、俺達の前に立って手に持った大盾を構えている。

 無理だ。

 その盾一枚じゃ、あの魔法を直接受けて耐えられる筈がない。

 高レベルの人間じゃないと、衝撃だけでも体が吹っ飛ぶかもしれない……。

 なんて事を思ってから、すぐに思いついた。

 あるじゃないか、高レベルの肉体が。

 ここに、ひとつだけ。


 「悪い少年! その盾を貸してくれ!」


 「はぁ!? こんな時に何を――」


 彼の言葉が終わる前に盾を奪い取ってから、子供達を一か所にまとめる。

 俺の背後へと。


 「なっ!? アンタ魔力切れだろうが! 何やってんだ! マジで死ぬぞ!」


 分かってる。

 もうこの身を守るバフ魔法だって使えないし、パッシブの魔法さえ発動していない事だろう。

 でも、肉体は高レベルのままのはずだ。

 だったら、一番可能性があるんだ。

 ”生き残る”可能性が。

 例え俺自身が駄目だったとしても、もしかしたらこの子達は守れるかもしれない。


 『守れ。 迷惑かけた連中にどれだけ恨まれようと、罵倒されようと、とにかく守れ。 それがお前の唯一出来る事じゃねぇのか?』


 上等じゃねぇか、守ってやるよ。

 特にこの子達は、アンタの所の子供達だろう。

 だったら、守らない訳にはいかないだろうが。

 気合いを入れろ、喝を入れろ。

 腕を一本失ったくらいなんだ。

 アイツは、その状態で”殺させない為”に仲間を止めたんだ。

 なら、俺だって。

 ”死なせない為”に、守ってやるんだ。

 絶対無理だと思える状況を覆せ、常識なんかひっくり返せ。

 それが、“アイツラ”だ。

 俺にも出来る筈だ、やれるはずだ。

 同じ“漢”なら、根性を見せろ!


 「おっしゃぁぁ! こいやぁぁ!」


 力いっぱい盾を握りしめ、腰を落として衝撃に備える。

 近い、まだ当たっていないというのに熱量を感じる。

 デカい、目の前を覆いつくすような燃える岩が迫って来て居る。

 ……“怖い”。

 もしかしたら、次の瞬間俺は死んでしまうのかもしれない。

 でも、それでも。

 ソレを塗りつぶす程の感情が、俺の中を埋め尽くしていた。


 「俺だって漢だ! “勇者”舐めんなぁぁ!」


 必死に叫んだ、その時。


 「大馬鹿者が。 こういう時くらい、“友人”を頼れよ柴田」


 一瞬だけ目の前が真っ暗になり、次には随分と離れた場所で爆発が起きた。

 は? へ?

 何が起きたのか分からずに、周囲を見回してみれば。


 「“影”の称号持ちが二人も居るんだ、少し無理すればこれくらいは出来る。 だから、あまり無理をするな」


 「“影移動”という魔法ですよ、勇者さん。 ご無事で何よりです、“悪食”の皆さまも」


 お姫様を抱えた初美と、俺と同じように呆けた顔をしている子供達が見える。

 助かった……のか?

 そんな事を思った瞬間、腰が抜けた。

 情けないけど、マジで怖かった。

 未だに足がガクガク震えている程だ。


 「た、助かった……」


 「やるじゃないか、勇者様? なかなか男前だったぞ」


 「はっ、ははは……情けねぇの間違いだろうが」


 「そんな事は無い。 私はこちらに来てから、初めてお前という“勇者”を見たよ」


 「えっと……そっか……サンキュ」


 気恥ずかしくなって視線を逸らしてみれば、そこには未だ続く戦場が。

 そうだ、まだ終わっていない。

 相手の魔法を一度無力化しただけで、戦争は何も終わっちゃいないんだ。


 「は、早くいかないと! こんな所でのんびりしてる場合じゃねぇ!」


 「止めとけって勇者、アンタもう魔力がないんだろ? それにその傷だ。 今すぐ下がった方が良い」


 先程の少年に肩を掴まれるが、そういう訳には行かない。

 勇者とは人類の希望、この戦場の要。

 今更そんな言葉を鵜呑みにしている訳じゃないが……それでも、俺は“守らなくちゃ”いけないんだ。

 そういう、“約束”なんだ。

 だからこそ俺は、これまで以上に“無理”をしてでも。

 いや、今までなんかぬるま湯だ。

 ここからが、本当の戦場。

 今まで以上に気合いを入れて、それから――。


 「……勇者、武器がなくちゃ戦えない」


 子供達の中で、一番小さな男の子が静かに声を上げる。

 まるで黒鎧の様な、真っ黒いスタイルに2本の槍。

 俺のせいで父親を失ったという、俺が最も償わなければいけない存在の一人。

 そんな彼が、スッと1本の槍を差し出して来た。


 「え?」


 「まだ戦うなら……片方貸してあげる。 でも、無くしたら許さない」


 訳も分からないままその槍を受け取ってみれば。

 “重い”。

 少年が振り回す物とは、到底思えない。

 魔力が無くなり、普段からあった補助魔法すら使えなくなった俺には。

 “色々な意味で重い”、真っ黒い槍。

 禍々しく、何処までも美しい槍。

 ソイツをしっかりと、握りしめた。

 コレは、ただの武器じゃない。

 俺が今まで振り回していた凶器とは違う。

 誰かを守る為の、その為に何かを殺す為の。

 “想い”が詰まった武器だ。


 「ありがと、少しだけ借りる。 一緒に、戦ってくれるか?」


 「ヤダ。 ……けど、キタなら多分見捨てない。 だから、近くには居てあげる」


 「ありがとう。 十分だよ」


 そんな言葉を交わせば、周りからは呆れたため息が零れた。


 「ったく……どうなっても知らねぇぞ? 守りは俺がやる。 エル、攻めんのは任せるぞ」


 「大丈夫、分かってる」


 「ノア、勇者に……いや、ハツミさんと王女様についた方が良いか?」


 「私達は移動に徹する、ノアも抱えるのは無理だ。 ノア、すまないがこの馬鹿共を頼めるかな? どうせ戻れと言っても聞かない。 今は、どこかの誰かに感化されているみたいだしな」


 「うん! ボクに任せて!」


 「良い子だ」


 見た事も無いような笑みを浮かべる初美が、少女の頭に手を置いてから再び戦場を睨んだ。


 「覚悟を決めろ、全員準備しろ。 再び、あの中へ飛ぶぞ。 姫様、よろしいですね?」


 「えぇもちろん。 私は特に、一番前に立たないと役に立ちませんから。 ”覚悟”はとっくに決めました」


 という訳で、行動方針は決まった。

 今の俺があの場へ行っても足手まといにしかならないかもしれない。

 でもこの場でただ見ているだけなんて、とてもじゃないが出来そうには無かった。

 むしろ手に持った“黒槍”が、ソレを許してくれそうにない。

 “戦え”。

 “守る”為に、“償う”為に。

 その必要が、俺には有るんだから。

 それしか、俺には出来ないのだから。

 だから、“戦え”。

 もう甘えは許されない。


 「柴田、もうお前は魔法が使えない。 無理だけはするなよ? レベルの分肉体が強いのか、血は止まっている様だが……死ぬ前に声を掛けろ、助けてやる」


 「ハハッ、まさかお前から心配されるとはな。 大丈夫……とは言えないけど、頑張る!」


 「フフッ、随分と見違えたもんだ。 では、行くぞ!」


 こうして、俺たちは初美と王女様の“影”に包まれ、再び前線へと舞い戻るのであった。


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