第91話 敵襲!
「ふむ」
「どう見るね」
俺と西田と南は、草むらに寝そべりながら以前発見した“神殿”っぽい何かを眺めていた。
というか、何度見ても神殿だ。
中に入ると石の台座に突き刺さった剣とかありそうな見た目。
三角形に選ばれた緑色の田舎戦士が、剣を引っこ抜いちゃいそうな感じがしなくもない。
「なんか、めっちゃ忙しそうね」
「だよなぁ。 キビキビしてるっていうより、焦ってるっていうか。 納期前みてぇ」
「どいつもコイツも白髪多そうだなぁ」
「実際白髪増えそうな雰囲気だしな」
「ご主人様方……もう少し真剣に……」
南に呆れたお言葉を頂くが、どうしてもそういう感想しか出てこない。
それくらいに、忙しそうだったのだ。
「早くしろ! ソコ、何をしている! そんな積み込み方では移動中に崩れるぞ!」
なにやら、偉そうな若造が指示を出している。
しかし、アレは良くない。
急げ急げと急かすばかりで、他に口を出す時は叱る時だけ。
むしろ褒めながら効率を上げる事を考えられないのかね。
あんなんじゃ周りだってテンション駄々下がりだろうに。
そんな事を考えながら眺めていると、やがて先頭の馬車が動き始める。
馬車……なのだが、引いているのは魔獣の御様子。
実に速そう。
そんでもって、やっと準備が整った様だ。
とはいえ、数が多い。
とんでもなく多い。
「おそらく、コレが戦争に参加する部隊かと思われます。 今の内に叩きますか?」
「南、C4はあるか?」
「しーふぉー……とは?」
「地雷やら戦車やら無い限り、俺らには止められねぇって。 もしくは無限ロケットランチャーかな」
なははっと笑う西田の言葉に、南は更に首を傾げながら現場を観察する。
うん、これは無理だ。
人数がとんでもなく多いし、周囲に従えている魔獣もわんさか。
この進行を妨害して、戦争を止めろって?
無理無理。
こんなのステルスミッションを平然とこなす「またせたな」って言う伝説の兵士か、「泣けるぜ」って言いながらゾンビの群れをなぎ倒す主人公が必要な事態だろうに。
俺らには、残念ながらそんなスキルは無い。
主人公補正という一番大事なスキルが備わっていないのだ。
「ふーむ」
「どう見るかね?」
最初と同じような会話を繰り広げてから、しばらくその場の様子を観察する。
うむ、実に雑だね。
素人目から見ても、実に雑だ。
物資の搬入は運搬会社の素人みたいな積み込み方だし、駆使している魔獣の統率はあまり取れている様には見えない。
そんでもって、馬車の扱いも酷い。
だとすれば。
「しばらく待つか、随分な人数がお出かけみたいだし。 んで、少なくなった所をコソッとお邪魔してみよう」
「だな。 獣の大群相手にするよりは何とかなりそうだ」
「上手く行けば良いですが……今回は中島様もいらっしゃいますからね。 彼の闇魔法なら勝算はあるかと」
魔法適性“闇”。
南の言う通り、初美の次にスニーキングミッションに長けた奴が居るのだ。
だとすれば、ちょっとくらい覗いていったって構わないだろう。
皆が出発した後に、ちょびっと見て回ろう。
聖女様が居れば攫って来て、敵の幹部「がっはっは」とか笑っていたらそっちも攫って来よう。
完全に山賊の様な思考回路だが、今回の仕事ばかりは仕方がない。
俺たちは、蛮族になるのだ。
「一旦戻るか。 皆に報告、そんでもって深夜に攻める」
「あいよ」
「了解です」
そんな訳で、俺たちは草むらを匍匐前進で帰って行った。
この程度、普段から狩りをやっていれば平然と出来る小技なのである。
――――
「では行ってまいります」
「いや、言い出しておいてなんだけどさ。 マジで平気?」
「絶対ではありませんが、おそらくは。 それに私程度の魔法では、初美さんの“影”の称号の様に色々と小技がある訳ではありませんので。 どうしたって皆さんを隠す事が出来ませんから。 なに、少し見てくるだけですよ、ご心配なく」
自身だけなら色々と隠れる術があるらしく、中島は軽い足取りで神殿へと向かって行った。
あんなに堂々と真正面から行っちゃって大丈夫なのだろうか?
床下から攻めたり、天窓からスッと入ったりしなくて平気?
こんな事なら、トール達に被る段ボールも作ってもらっておくべきだっただろうか?
なんて事を考えながら、ハラハラしていると。
「ん、中さん普通に侵入した。 残ってる警備にも気づかれてないみたい」
木の上の白が、ズーム機能付きのサングラスを掛けながら報告してくる。
マジかよ、正面から行っちゃったよ。
本当に称号やら魔法ってのはすげぇな。
中島は最初からステルス迷彩持ちか。
「もうここからは見えないから、今の内に休憩しよ」
スタッと降りてくる白に、周りの面々は頷いているが。
「大丈夫かなぁ……中島。 俺もやっぱ行くべきだったんじゃ」
「北が行ったら、速攻アラートモード。 ステルス戦じゃなくて、殲滅戦になる。 派手に行くのは、道順が分かってからの方が良い」
だよねぇ、そうだよねぇ……。
あの建物、真っ白だし。
俺達みたいな黒い鎧が動いていたらむしろ目立つよねぇ。
「今は中島様を信じて待ちましょう、ご主人様」
「大丈夫だって。 ナカジマさん、ハツミちゃんに特訓してもらって色々“闇”魔法も使える様になったみたいだし」
「私も基礎や初歩魔法は教えましたが、飲み込みが速いですよ。 それに単調な魔法を連発して使いながらの戦闘は、多分私よりも上手いです」
なんて各々に言われてしまい、結局俺達は休む事になった。
というか、孤児院に居る事が多かったから余計に心配をしていたのだが……そっか、孤児院に居た方が魔法は覚えられるのか。
俺達みたいな、“無し”じゃなければ。
「とりあえず、飯にしちまうか……流石に火は使えないから、作り置きな」
「おにぎり大量に作ったから、中身はお楽しみで。 弁当もあるぜい」
「味噌汁も色々あるから、皆好きなの選んでねー」
そんな訳で、俺たちはピクニック飯を摘まみ始めるのであった。
――――
随分と人が少ない廊下を足音も立てずに進んでいく。
あくまで少ないだけであり、“居ない”訳ではないのだが。
それでも、こちらに気が付く素振りを見せる者はいない。
「こんな時、初美さんの様に“影”の称号持ちならもっとスイスイいけるんでしょうが……」
生憎と、そんな便利なモノは持ち合わせていない。
私は“ハズレ組”。
特別な称号を持たず、他の悪食メンバーの様に“確たる何か”を持っている訳ではない。
でも、唯一。
たった一つだけ私に残った個性、ソレが魔法適性の“闇”。
本来は相手の視界を奪ったり、デバフと呼ばれる能力低下の魔法を相手に促す事が殆どらしいが……。
私の場合は、何処までも偏った魔法の使い方をしていた。
とにかく“自身”に魔法を使い、気配を殺す。
どこまでも希薄な存在になる為に、自身にデバフを“掛け続ける”のだ。
当然そんな事をしていれば、戦闘などほとんど出来たモノではない。
つまり、発見されれば一巻の終わりというわけだ。
良い調子だ……出来れば、このまま。
なんて、思った時。
「何だお前は」
随分と歳のいったお爺さんが、こちらに向かって鋭い眼差しを向けていた。
不味い、ソレだけを思って腰の鞘からナイフを抜き去り、構える。
だが、やはり体が重い。
これは……あまり良くない状況だな。
「随分と気配を殺すのが上手い。 国の用意した斥候か? 大したものだ、私ですらこの距離に近づくまで気が付かなかった」
クックックと口元を吊り上げながら、老人は杖を構える。
他の者と同じく真っ白い服装。
だがしかし、服の装飾がやたらと豪華だ。
強者を引き当ててしまったかもしれない。
「チッ!」
舌打ちを一つ溢しながら首に掛けてあった笛を咥え、思いっきり息を吐きだした。
しかし、音は鳴らない。
「ふんっ、何をするのかと思えば……不良品でも掴まされたか? あの国はやたらと金を使う癖に、変な所でけち臭いからな」
そんな事を言いながら彼は杖を頭上に振り上げ、ブツブツと何かの詠唱を始めた。
ありがたい。
どうやら彼は仲間を呼ぶわけではなく、一人で私と戦うつもりでいる様だ。
で、あれば。
「頼みますよ、南さん」
位置を知らせる為にも、その後何度かに分けて音のならない笛を吹き続けるのであった。
――――
「ご主人様、見つかった様です」
「やっぱ一人で突っ込めってのが無理があったか……だぁクソ」
「しかし、かなり奥まで侵入しているようで。 恐らく目ざといのに運悪く遭遇したのでしょう、コレばかりは致し方ありません。 とは言え経路も教えてくれているくらいには、余裕があるみたいです」
「まぁ何はともあれ緊急だ。 行くぞお前等! 盛大にお宅訪問してやるぞ!」
中島が持っていた特殊な笛。
アレだ、犬笛って奴だ。
人の耳にはヒューヒューくらいの空気の抜ける音にしか聞こえないが、動物ならその音が聞き分けられる。
そして今回の場合、その役目を負ったのが南。
犬笛っていうより、猫笛になってしまった。
緊急の時には鳴らす様に言ってあったが、南の反応を見る限り道筋まで教えてくれているくらいには余裕が有るらしい。
二人であらかじめ笛のパターンも決めておいたのだろう。
これで俺らも最初から奥地に向かって一斉に駆け込めるってもんだ。
なんともまぁ頼もしい限りだ。
「さて、くっそ寒くなって来たし急ぎますか」
「だね。 中島さんとか特に、デバフマックスだから風邪ひいちゃうかも」
「道案内はお任せを」
西東南がスッと目を細めながら、目の前の建物を睨む。
「んじゃ、結局突入になっちゃったけど。 お邪魔しますか」
「ですね、やはり私達に隠密行動は向かない様です。 森の中以外では」
「奥までマッピング出来ただけでも上々。 一気に行く」
アイリはガントレットを打ち鳴らし、アナベルは不敵に口元を吊り上げる。
そして白に至っては、装備の最終確認をしながら口を開いた。
よし、準備は整った。
一気に奥まで言って、人攫いして帰る。
以上。
滅茶苦茶雑な作戦、とにかくスピード重視。
「しゃぁぁぁ! 突入じゃぁ! アナベル、狼煙を上げろぉぉ!」
「はいっ! “ダイヤモンドダスト”、“ホワイトアウト”! それから、バフ魔法全開です!」
アナベルが魔法を行使した瞬間、俺たちは一斉に走り出す。
態勢を低くし草木に身を隠しながらも、一直線に入口へと向かった。
見張り連中は……アナベルの魔法に驚いて、周囲をキョロキョロと見回しているようだ。
いきなり辺り一面が真っ白になったら、そりゃ驚くだろう。
しかし、俺達の声に事態はある程度把握出来たらしく。
「て、敵襲――」
「はいちょっと黙ろうか」
叫ぼうとした彼に、西田の容赦ない膝蹴りが顔面を襲う。
アレは痛い、痛いどころではない。
ゴロゴロと吹っ飛んで行ったし。
鎧を着ていたから死にはしないだろうが。
そして次に、勢いを乗せたままのウチのパワータッグが。
「いくよアイリさん!」
「了解! せーのぉぉ!」
「「ノックしてもしもーし!」」
その掛け声は、如何せん如何なものかと思うのだが。
まぁ、それは良いか。
二人は凍ったドデカい正面扉を、見事なまでに吹っ飛ばした。
拳で。
中島がコソッと侵入した時とは大違い。
ズドォォンと大きな音を立てながら、お高そうな大扉が根本から砕けて建物内へと転がっていく。
完全に悪役の登場である。
「未だ笛が聞えます、案内いたします!」
「しゃぁぁ! 聖女様掻っ攫うぞ!」
もはや勢いだけに任せ、俺たちは南の後に続くのであった。
だぁくそ、本格的に雪が降って来やがった。
今から室内だからまだマシだが、帰りは覚悟しておいた方が良いなこりゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます