第86話 勇者 と [  ]


 「だぁぁぁもう、ふざけんじゃねぇよぉぉぉ」


 情けない言葉を吐きながらも、俺たちは街に帰還した。

 ろくな稼ぎにもならず、武器は大量に消費してしまった。

 矢と短剣、ナイフの類だからドデカイ出費という訳ではないが……数が多いため懐が痛い。

 そして何より痛いのは、せっかく溜めた魔力を使い切ってしまった事だろう。

 アレのお陰で魔獣の群れはどうにか出来たが、また1から魔石クラッシャーすんのかぁなんて考えるともうね。


 「生きてるだけ儲けもんって考えるしかねぇよなぁ……あの数だし」


 「だねぇ。 いたた……帰ったらクーアさんに全身治療してもらわないと」


 武器がほぼ空っぽになった西田は既に悟りを開いた様な顔で全てを諦め、魔封じ無しに炎に飛び込んだ東は全身に軽く火傷を負ったらしく、体がヒリヒリするそうだ。

 何ともまぁ、見事なまでにマイナスしかないお仕事であった。


 「あぁ、その、なんだ。 悪かったな旦那」


 気まずそうにしているカイル達に「気にすんな」とヒラヒラ手を振って答える。

 こればっかりは彼等を責めた所で仕方がないだろう。

 流石にあんな数の魔獣が襲ってくるなんて想像も出来ないし、ましてや首輪の付いた訳の分からんペットどもが種族関係なしに番犬してるとは予想も出来まい。

 とはいえ一応依頼としては達成したのだ。

 獣人達に話は聞けたし、助けは要らないと答えももらえた。

 平穏を脅かすウォーカーってのについて正確な情報は掴めなかったが、最近は見ないって言ってたしな。

 代わりに別の奴等は居座ってるみたいだが。

 そんでもって支部長の持ってきた仕事の“獣の声”、確定。

 あんな大集団が動いてりゃそりゃ振動するわ、しかも唸り声の一つくらい聞こえてくるだろ。

 そんな訳で、報告の為にギルドへと向かっている訳なのだが。


 「お? 知った顔の集団が居る」


 ギルの一声に視線を向けてみれば、そこにはアイリと支部長。

 更には子供達の背中が見える。

 こうしてみると完全保育園のお出かけだな。

 流石に保育園に通っている子供達より年齢層は高い訳だが。

 若干大人二名の恰好がピシッとし過ぎているのが違和感有り。


 「にしても支部長が子供と手を繋いでる所見ると……すっげぇ違和感」


 「だよねぇ。 普段おっかない顔してるのに」


 リィリとポアルがそんな感想を漏らしている。

 はて、と首を傾げてみるが言われて見れば確かにそうかもしれない。

 あの厳つい顔のおっさんが、ニコニコしながら子供の相手をしているのだから。

 最近孤児院に顔を出したり、仕事中の子供達に声を掛けたりする姿ばかり見ていたから、あんまりソコには違和感を持っていなかった。

 慣れって怖いねぇ。


 「おーい、お前等も今帰りかぁ?」


 支部長も居るなら丁度良い、このまま直帰してしまおう。

 なんて事を思いながら声を掛けてみれば。


 「お前達か……無事で何よりだ」


 何やら渋い顔を浮かべる支部長。

 そんでもって、周りの子供達やアイリも同じような表情。

 なんかあったのだろうか? なんて再び首を傾げていると、無言のままエルが俺に向かって突っ込んで来た。

 そりゃもう抱き着くっていうより、ガツンってな勢いで。


 「おいおいおい、今の俺めっちゃ煤だらけだから汚れるぞ? 何たって豪快に丸焼きに――」


 「キタ……そのままで居て、変わっちゃ嫌だ」


 「あん?」


 俺の鎧に額をくっ付けながら、ボソボソと呟くエル。

 随分と深刻そうに喋っているが、その声は今にも泣き出しそうに聞こえる。


 「今日、ギルドに勇者が来たんですよ……ソレで」


 ゆっくりと歩み寄って来たアイリもまた、随分と酷い顔をしている。

 ダチョウの巣から戻って来た時と同じような顔。

 あの時と違うのは、喜びの感情が微塵もない事だろうか。

 また大泣きしやがったな、コイツは。


 「何かまたやらかしたのか? 勇者は」


 俺の問いに、アイリは静かに首を振った。


 「依頼をしたかったんだそうです。 仲間を助けて欲しい、探してほしいって。 前とは違って、随分必死な様子でした。 でも皆に追い返されそうになって、その時……エル君と」


 鉢合わせした訳だ。

 エルの言葉から察するに、飛び掛かって大人たちに止められたって所か?

 遭遇したのがまだギルドだったのが救いだな。

 街中で顔を合わせなんかしたら、周りに止めてくれる奴が居なかった事だろう。

 未だ引っ付いているエルの頭に手を乗せれば、ビクッと反応を返してから更に力強く鎧にしがみ付いて来た。


 「エル、どうしてもってんなら……俺が変わってやろうか? お前の代わりに……」


 「ヤダ!」


 叫びながらグリグリと顔を鎧に押し付け、一向に離れる様子の無いエル。

 正直、コイツらが誰かを殺す事態になるってんなら、変わってやりたいと思っている。

 俺には多分人が殺せない。

 だがそれ以上に、仲間に殺させたくない。

 完全に俺の我儘だし、仲間や子供達に絶対駄目だと押し付けるつもりはない。

 こんな世界なのだ、善悪抜きにして人を殺す事例なんぞその辺に転がっている事だろう。

 だが、だからこそ。

 誰かが“殺す”時が来るなら、変わってやりたい。

 矛盾しまくってるし、仲間が殺されそうになったら間違いなく迷う前に動ける自信はある。

 寸前で迷うかもしれない、でもそれは仲間を守った後で良い。

 その結果として怪我をするなら、傷付くのなら、それはリーダーである俺であるべきだ。


 「アイツを殺して、お前が幸せになれんなら変わるけどよ。 そうじゃないなら、駄目だ。 辛いだろうし、苦しいだろうけど。 そうじゃないなら、やっぱり駄目なんだよ」


 「……ん」


 「ごめんな、情けない保護者で」


 「ううん。 でも、悪食はずっと一緒にいるよね?」


 「おう」


 ハッキリ言って、子供に求める判断ではない事は分かっている。

 気持ち的にはぶっ殺してやりたいだろうし、傍観者だったら俺だってそう思うだろう。

 第三者であれば、ゲームやお話の類であれば。

 プレイヤーをスッキリさせろって意味で、ぶっ殺せと言葉を紡いだだろう。

 しかしコイツは、“悪食”のメンバーなのだ。

 クランってのは、家族みたいなモンらしい。

 実際そう感じているし、悪食に加入していない孤児院のメンバーだってそう思っている。

 そんな奴らに「殺して良い」って、言えるのか?

 自分の子供の様に感じているコイツ等に、スッキリする為に人殺しになっても良いと言えるのか?

 更に言えばコイツらを守る立場にある俺達が、何も考えず“犯罪者”になる事が許されるのか?

 馬鹿野郎だ。

 俺はギャラリーじゃねぇ、関係者だ。

 どう考えたってお先真っ暗な道を子供に選ばせる親がどこに居る。

 例え苦しくても、悲しくても。

 どうにかして幸せになる道を見つけてやりたい。

 綺麗事だと笑われるだろうが、俺は子供達を預かる時にそう決めた。

 だからこそ、“食べる以外の目的ではなるべく殺すな”なのだ。

 最初は狩りの鉄則みたいな感じで、そう南に教えた。

 次には「ゴブリンなんかも殺したら食うのか」なんて意見が出てきたらどうしようって事で、孤児院のルールではそんな言い回しにした訳だが。

 今となっては随分と意味合いが重くなって来た気がする。

 でも俺は、出来ればソレを突き通したい。

 本当にどうしようもない事態にならない限りは。

 そのお手本として、そうありたいと願っている。


 「キタ、抱っこ」


 「随分と今日は甘えん坊だな」


 「ん」


 「別に良いけどよ」


 一応は踏ん切りがついてくれたらしいエルを担ぎ上げ、皆と一緒に歩きはじめる。

 納得した訳ではないのだろう、しかし一旦飲み込んだ。

 そんな調子のエルは、再び額を鎧に押し付けたまま何も喋らなかった。


 「キタヤマ、一応言っておくが……本当に殺すなよ? 相手は国のトップが抱え込んでいる様な存在なんだからな」


 「やらねぇよ……ていうか出来ねぇよ。 切り札もさっき使い切って来ちまったからな」


 妙に心配になったのか、支部長が小声でそんな事を言ってくる始末。

 俺ってばそんなに信用ないのかね、なんてため息を溢していれば。

 アイリまで静かに隣に並んできて、ボソッと。


 「先に謝っておきますキタヤマさん、すみません。 実は――」


 「――マジか」


 どうやら、帰ってからもまだ面倒事が続くらしい。


 ――――


 なんでも、現在我が家に勇者が来ているらしい。

 一応見つからない様に初美に会う算段になっているらしいが……大丈夫かよ、と思わず言いたくなる。

 現在孤児院には、どこぞの魔女様が全力で監視するための魔法を掛けているのだ。

 しかも、トラップ付きで。

 子供達の安全の為と言われ、俺も中島も承諾したが……悪い予感しかしない。

 そして勇者からの依頼。

 個人の感情を抜きにすれば、彼の持ってきた依頼はどうにも無視出来るモノではなかったそうだ。

 “聖女”の捜索。

 勇者と一緒に召喚された女の子だった筈。

 更にはウチのメンバーである、初美の友達。

 そんでもって、国からも随分と手厚く保護されていると彼女からは聞いていたが。

 そいつが何と消えてしまった、と。

 放っておいたら今よりも面倒になる事が眼に見えているが、ウォーカー達の手前しっかりと話を聞ける状況では無かったんだとか。

 だからこそ、取りあえず初美を使って情報を引き出そうって腹づもりだったらしいが……残念なことに、ギルド受付に度々戻るアイリはアナベル包囲網を知らなかった。

 あっちゃぁ。

 週一とかで会議の場でも作らないと駄目かねこりゃ。


 「なんもなけりゃ良いが」


 「すみません、キタヤマさん……こんな事なら、私が話を聞いておけば……」


 「あぁいや、こっちの報連相の不備だ。 気にすんな」


 「ほうれん草? キタ、今日はほうれん草食べるの?」


 「美味しいよね」


 まぁ勇者が変な暴走しない限りは問題ないだろうし、他のメンツも残っているから大事には至らないとは思うが。

 なんて、思っていた時期が俺にもありましたとさ。


 「なんだありゃ……」


 ホームの上、というか空に真っ黒い雲が集まっている。

 なんかゴロゴロ言ってますけど、所々ピカピカしてますけど。

 こんな時期にあんな入道雲モドキって出来るんですかね。


 「間違いなくアナベルさんだね……」


 「あぁ~……急がねぇと魔女様の雷が落ちそうだなありゃ、比喩とかじゃなく」


 思いっ切り検知に引っかかってんじゃねぇか! あの馬鹿勇者!

 てなわけで、戦闘メンツは全員ホームへ向けて全力で走り始める。

 やがて見て来た庭先には、複数の人影。

 数名ずつに分かれて対峙している様だが……あ、一人土下座してる。


 「退いて下さい二人共。 そこ立たれると巻き込んでしまいます」


 「アナベルさん落ち着いてください! 例え相手が勇者だったとしても、こんな行為をリーダーが許すとは思えません!」


 「本人もアイリさんの紹介で来たと言っていますから、まずは事情を聴きましょう! お願いですから!」


 杖を振り上げるアナベルに、周りには槌を担いだドワーフ達。

 その後ろに子供達を抑えているクーアやノイン。

 それに相対するのが、中島に初美。

 そんでもって、未だ土下座している勇者様。


 「何を聞く必要があると言うのですか? 彼は許されない事をしでかした上に、私達のリーダーの腕を切り飛ばしたんですよ? 何故庇う必要があるのですか? 一度死んで許されるなんて思わないで下さいね? 蘇生して、殺して、不可能になったらアンデッドにしてまた殺してあげます」


 完全ブチギレ状態の魔女様はゆっくりと杖を振り下ろしていく。

 不味い、非常に不味い。

 魔獣の群れが可愛く見える程の威圧感をビリビリ感じる。

 あんな魔法使われたら、多分黒焦げじゃ済まねぇぞ。


 「南! 俺の槍を出せ! 馬鹿デカイ方!」


 「え……あ、はい!」


 南から渡される“趣味全開装備”。

 長いから突撃槍で良いか。

 全力ダッシュしながらソイツを後ろに構え、脇に挟んで力を入れる。

 背後に人が居ない事を確認してから、スイッチオン。

 ズドォォン! と凄い音を立てて背後で爆発が起きたかと思えば、前方……というより若干上空に吹っ飛ばされる。


 「どわぁぁぁぁ!」


 俺、今飛んでる……とかアホな感想を一瞬だけ思い浮かべてから、すぐさま地面が迫り ベシャッと情けない音を立てて彼らの間に着陸した。

 もとい、墜落した。


 「「リーダー!?」」


 「北山さん!」


 前後から声が上がる中、プルプルしながら立ち上がる俺。

 ダメだ、非常に格好悪い。

 予定としては格好良く登場して「待て」とか言ってやるつもりだったのに。

 こんな事なら西田を走らせた方が早かったかもしれない。

 というか脇が痛ぇ、肋骨折れてないと良いなぁ……。


 「あぁ~いてぇ……落ち着けお前等、特にアナベル。 子供達がビビってんぞ」


 「でも! ソイツは貴方の腕を、それに――」


 「わーってるよ、だがお前が手を下す必要はない。 当事者の俺が止めろって言ってんだ。 今すぐ魔法を解除しろ」


 「それで良いのですか!? だってコイツは――」


 「アナベル。 すまん、先に謝っておく。 こいつは悪食リーダーとしての“命令”だ、魔法を止めてくれ」


 スッと頭を下げてみれば、魔女様はグッと唇を噛みながら、次の瞬間には大きなため息を吐いた。


 「わかり、ました……でも、納得はしませんよ」


 「今はソレで良い。 ありがとな」


 「貴方は馬鹿です……大馬鹿者です」


 渋々と言った様子のアナベルが再び空へと杖を向け、クルクルと回せば真っ黒い雲が散っていく。

 とりあえずこれで一触即発って雰囲気では無くなってくれた筈だ。

 はぁ、と溜息を溢してみれば今度はドワーフ達に睨まれる。


 「何故庇うのかは知らんが、ソレで良いのか? キタヤマ」


 「庇ってる訳じゃねぇよ、コイツには色々聞かなきゃいけない事があるだけだ。 ついでに言えば、俺が庇ってんのはお前等の方だ。 コイツを殺せば、何を敵に回すか分かってんだろ」


 「……フンッ! 大将のお前がそう言うなら、一旦引いてやるわい」


 「わりぃな、サンキュ」


 それだけ言って、ドワーフ四人衆はドスドスと足音を立てながら去っていく。

 非常に機嫌が悪そうだ、後で何かツマミを作ってやろう。

 そんでもって、残る問題は。


 「く、黒鎧……? アンタのクランだったのか? そういえばあの受付嬢さん、見覚えが……」


 「よぉ、久しぶりだな」


 振り返ってみれば、まるで幽霊でも見るかの様な顔で土下座状態の勇者が顔を上げていた。

 何を口にすれば良いのか迷っているみたいに、口をパクパクさせる勇者の胸倉を掴んで、とりあえず立ち上がらせる。

 そして。


 「歯食いしばれ、腹に力入れろ。 ちっとばかし響くぞ」


 「え?」


 「しゃぁぁっ!」


 思いっ切り、勇者の腹を左腕でぶん殴った。

 鎧は盛大にヘコみ、更には吹っ飛んでいく。

 こっちは腕一本持って行かれたんだ、これくらい良いだろう。


 「ガッ、ゴホッ!」


 鎧が曲がる程の力で殴ったと言うのに、咳き込みながらも普通に立ち上がる勇者。

 やっぱ生物としては最強なんだなコイツ。

 俺だったらしばらく地面に転がっている自信があるぞ。


 「大馬鹿野郎が、どの面下げて来やがった。 と、言いたい所だが……はぁぁぁ」


 「う、腕……大丈夫なのか?」


 「ハッ、てめぇをぶん殴ったって取れねぇくらいにはな。 舐めんな」


 「そう……なんだ。 良かった」


 なんて台詞を吐いたかと思えば、勇者は再びその場に蹲ってしまった。

 おや、何か前と雰囲気が違ってちょっと気持ち悪い。


 「は、ははは……さっきのは、効いた。 いってぇ……」


 そんな事を言いながら、腹を抑えて転がってしまった異世界最強。

 あれから随分時間も経ったし、レベルも更に上がっているだろうに。


 「情けねぇなぁ勇者様。 鍛え方が足りねぇんじゃねぇか?」


 偉そうな台詞を言いながら、ハッと鼻で笑ってやれば。


 「ホント、その通りだ。 アンタに言われた通りだったよ。 俺は、“未熟モン”だ」


 そういって仰向けに寝転がる勇者。

 前同様ならてっきり怒り出すかと思ったが、何やら吹っ切れた面をしていやがる。

 全く、どんな心境の変化があったのやら。

 以前の生意気クソガキ坊ちゃんは、何処かへ行ってしまったらしい。

 とはいえ、全部許してやるつもりはないが。

 あくまで腕の件だけ。

 それだけは、さっきの一発でチャラにしてやるつもりだ。

 くっ付いたからからこそ言える、甘ったれな考えだってのは自分でも分かっているが。

 結果的に俺の腕はくっ付いた上に、コイツも何やら大人しい性格になっている。

 だったら、いつまでもネチネチ言った所で恰好悪いだろ。

 本来なら色々言うべきなんだろうが、知らん。

 はぁぁぁっともう一度思いっきり息を吐きだして、それから。


 「腹、減ってっか?」


 「へ? あぁ、そう言えば……しばらく何も食べてないかも。 二日くらい」


 くっそ情けない勇者様に向かって右手を差し出して、グイッと引き起こしてやる。


 「なら、飯だ。 話はそれから聞いてやる」


 「ありがとう、ございます」


 「今更敬語なんぞ止めろ、背中が痒くなる」


 「あ、はい……じゃなかった。 おう。でも、その……良いのか?」


 「いい訳ねぇだろ。 また馬鹿な事言い出したら“悪食”全員でボコボコにしてやる、覚悟しておけ。 死なない程度にはするが」


 「むしろその方がありがたいかも……」


 「開き直ってんじゃねぇよ、お前にその資格はない。 話を聞いた所で俺達が依頼を受けるとも限らないし、少なくともココでボコされたくらいじゃ許されるモンじゃねぇ。 一生後悔しながら償い続けるこった」


 「あぁ、わかってる……アンタにも、本当に申し訳ない事をしたと思ってる」


 「ケッ、調子狂うな」


 最初は“勇者”って言葉を聞くのも嫌だったのに。

 勝手に期待されて、失望されて。

 何にも持たされず捨てられそうになって。

 挙句には防衛戦では邪魔をされ、終いには腕を切り飛ばされた。

 だとしても、だ。

 “こっち側”に来て、チート貰ってもてはやされ。

 調子に乗った挙句失敗したコイツ。

 それは許される事が無い失態だったとしても。

 “許してやる”と言ってくる馬鹿共しか周りに居ない。

 もしも俺が“勇者”だった場合、違う結果になっただろうか?

 俺もコイツと同じように調子に乗って、好き勝手やらかしたのではないか?

 そんな風に思うと古巣が同じの俺達くらいは、少しくらい見方を変えても良いんじゃないだろうか。

 調子に乗って道を踏み外した若造。

 そんな奴等は腐る程“向こう側”にも居た。

 そいつら全員に、今すぐ死んで詫びろと言って刃物を突き立てられるだろうか。

 許した訳じゃない、償いも罰も必要だろう。

 だが俺がコイツに槍の穂先を今すぐ叩き込むのは、ちょっと違う様に思える。

 どこまでも甘い考えで、自分達の手を汚したくないっていう方便なのかもしれないが。

 しかし、手本となる筈の俺達大人メンツが子供達の前で見せられない姿だと言う事は間違いないだろう。


 「ありがとうございます北山さん。 こんなのでも、一応友人なモノで」


 すぐ近くに居た初美が頭を下げながら、そんな事を言ってくる。


 「こうでもしなきゃ、お前一人で手を貸すつもりだったろ。 もう一人の友達の為なら、“悪食”を抜けてでも協力した。違うか?」


 「……違いません」


 「馬鹿が、困った時は大人を頼りゃ良いんだよ。 ま、お前が居なけりゃこんなクソガキ放り出してたかもしれねぇがな」


 彼女の頭をちょっと強めにぐしゃぐしゃと撫でてから背を向けると、今度は入り口方面から鋭い視線が飛んできている事に気付いた。


 「キタヤマさん……まさかとは思いますけど、ソイツをホームに入れるとか言わないですよね?」


 「キタ、それはちょっと無理」


 「ご主人様、それは虫です。 害虫なら“殺すな”という命令に反しませんよね? 駆逐するだけです」


 アイリとエル、そして南がガルルルッとばかりに唸っておられる。

 あぁもう、あぁもう……仕方ないって事は分かってるんだけどさぁ。


 「……はぁ。 おい勇者、ちょっと付き合え」


 「え?」


 「居酒屋行くぞ」


 ちょっとここでは、お話が聞けそうにないのであった。

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