第82話 新装備と森のライオンさん


 翌日、早速出発する運びとなった俺達だった訳だが。


 「ホレ、持って行け」


 ドワーフ組に色々と装備を渡され、それらをマジックバッグに詰めていく。

 俺と東の武装だけがやけにデカい。

 その為周りからはすんごい視線が飛んでくるが……お披露目は森に入ってからになりそうだ。


 「では、無事を祈る」


 「いってらっしゃいませ」


 「ご武運を」


 様々な送り出しの言葉を頂きながら、俺たちは出発した。

 今回のメンバー、東南西北白。

 戦風とギルも居るので当然大人数、なので半分近くのメンツがお留守番。

 アイリも付いてきたがっていたが、何やら最近魔獣が活性化しているらしく、再びギルドのお仕事に戻された。

 めちゃくちゃ文句言っていたのは言うまでもない。

 すまぬ。


 「んじゃ、頼むぜ旦那」


 「やっとお前らに同行出来る日が来たな」


 こんな人数でゾロゾロと街中を歩けば、不思議そうな目で見られてしまう。

 普段から大人数で歩いている俺たちだが、流石にココまでのフル装備大人数で歩いた事はあまりない。

 視線が痛い、というか恥ずかしいんだが。


 「ま、やれる事だけはやってみますか……」


 なんて事をぼやきながら、俺たちは今日も門を潜るのであった。


 ――――


 「熊2! 狐1! 蝙蝠多数! ふきのとう大量に発見!」


 「熊は俺と東、狐は南と白で抑えろ! 戦風は狐と蝙蝠の対処! 間違っても俺の熊の方に来るんじゃねぇぞ! ギル、ご自慢の焚火で戦風と一緒に蝙蝠を追っ払え! 西田は全体援護! ふきのとう見失うんじゃねぇぞ!」


 「誰が焚火だ誰が!」


 そんな事を叫びながら、森の中を突き進んでいく。

 東の新しい盾。

 アレは盾と言って良いのだろうか?

 なんて思ってしまう程、ゴツイ。

 そして厳つい。


 「行くよ! 魔石消費ゴメンね!」


 叫んだ東が熊に盾を叩き込み、ズドンッ!という音と共に盾の裏両脇に着いた杭が射出される。

 パイルバンカー。

 男の子ならその名前を聞くだけで興奮してしまいそうな、ロマンの塊。

 そんなモノが、盾の裏側に二本も取り付けられている。

 しかも一度発射した後は、パシュッという音と共に使い終わった魔石が薬莢の様に飛び出してくるのだ。

 興奮しない方がおかしい。

 何アレ格好良い。


 「どぉぉぉらぁぁぁぁ! 負けてらんねぇぇぇ!」


 こちらも負けじと新作の槍を構えて、熊に向かって突撃していく。

 俺が手に持っているのは突撃槍。

 とにかくデカいしゴツイ。

 普通じゃない物が色々付いておられる。

 穂先の部分だけで、南の身長くらいありそうだ。

 そんな馬鹿デカい槍を森のくまさんに叩き込み、トリガーを引く。

 すると。


 「どわぁぁぁぁ!」


 ズドォォォン!という音と共に吹っ飛んだ。

 見事に後方に吹っ飛ばされた。

 反動が半端じゃない、ドワーフ連中が無理せず放せって言っていたのはこの事だったのか。

 俺が依頼したのは、ゲームで見た様な特殊槍。

 ブッ刺して、穂先から爆発が起きるみたいなヤツ。

 竜を殺せるくらい強いのが良い! と言ったのが間違いだったのか。

 確かに前方に向かって爆発は起きた、もちろん火薬では無く魔法だが。

 そんでもって、こっちも薬莢の様に使い終わった魔石が排出される。


 「熊! 熊はどうなった!?」


 後方に吹っ飛んで転げまわった後に、慌てて体を起こしてみれば。

 そこには足に矢を叩き込まれ、最後のトドメをカイルから貰っている狐。

 そして東によって狩られた穴の空いたクマさんと、逃げていく蝙蝠達。

 あれ? 俺の相手した熊は?

 なんて、周囲をキョロキョロしていれば。


 「ご主人様……その槍、止めませんか? 冬熊、爆散しました」


 「おおぅ……」


 南が指さす先には、真っ赤に染まった一帯が。

 これはちょっと……使えないかもしれない。

 お肉や毛皮がどうとかじゃない、ミンチだ。

更に言えば、単純にホラーだ。


 「す、すまねぇ熊……」


 「いや、そこかよ」


 蝙蝠を追っ払ったギルがため息交じりに言葉を紡ぐが、俺らとしては重要なのだ。

 食べられない状態になってしまうなら、この武器に“狩り”としての価値はない。

 マジで勝てそうにない魔獣とか魔物とかに使うか?

 そんな奴等、遭遇するのもまっぴら御免だが。


 「そんなやらかしたこうちゃんに面白い報告が」


 「なんだよ?」


 サポートを終え、山菜を回収していた西田が帰って来た。

 そして、籠手に装備された細身の刃をシャコッと飛び出させる。


 「コレ、めっちゃ使いやすい。 二人に比べてコスパ良いし、何より組み付かれても一人でどうにか出来る」


 「自慢かてめぇこの野郎! どうせ俺のは、ろくに使い処のねぇロマン装備だよ!」


 ギャアギャアと騒ぎまわる俺たちに、周囲からは呆れたため息が零れるのであった。


 ――――


 「止まれ」


 森を探索中、急にそんな声を掛けられた。

 カイル達が出会ったという獣人の集落に立ち寄ったが、もぬけの殻。

 と言う事で周辺を調査して回った結果。

 夜になってようやくそれっぽい場所を見つけた……までは良かったのだが。

 俺達の前に仁王立ちしているのは、ライオンの様な鬣を生やしている獣人。

 アレは髪の毛と髭なんだろうか?

 それとも普通に鬣なんだろうか?

 とにかく君はライオン丸と呼ぼう。


 「カイル……これはどういうことだ?」


 「よう、ガァラ。 言った通り、信用の置ける奴等を連れて来た。 そんでもって上にも報告してあるから、この調査が終わり次第――」


 「ふざけるな!」


 顔見知りになっている筈のカイル。

 しかしながら、随分とよろしくない雰囲気である。

 コイツ、和解したとか言いながら実はちょこっと話しただけで、信用されてなかったりする?

 だとしたら非常に良くない状況なんだが。

 何たって相手のライオン丸は、既に大剣抜いちゃってるし。


 「おいおい、ちゃんと話しただろ。 ウォーカーギルドのお偉いさんに話を聞いて、救援を求めるって。 そんでもってどうにかなるようなら、頼りになるヤツも連れてくるからって」


 「あぁ、確かにそうだったな。 そして俺に拳で勝ったお前を俺達は認めた……だがな。 何だそいつらは! 獣人を奴隷にしてるじゃねぇか! そんなクソ共を連れて来られて、信用しろって方が無理だろうが!」


 叫んでから、ライオン丸は南を指さした。

 そこまで言われて、皆して「あっ」と声を上げてしまった。

 そうだよね、ここ獣人の里ですもんね。

 奴隷の首輪なんぞ付けた獣人の南を連れていれば、真正面から喧嘩を売っているようなモンだよね。


 「あぁ~その、なんだ。 南……この子の場合は、いくら言っても外してくれないっていうか……」


 「そんな訳あるか! そこの黒鎧、貴様がその娘の主か!? 俺と勝負しろ! 貴様をぶっ殺して、その娘を解放してやる!」


 ガルルルルッと見事なまでに獣の様に威嚇をしてみせるライオン丸。

 あぁ、こりゃちょっとまじぃな。

 俺が戦った所で、信用なんぞ得られる訳が……。


 「おい貴様、今何と言った?」


 再び「あっ」と思わず声が漏れてしまった。

 こういう事もあるかもしれないから、奴隷首輪を外そうって言ってたのに。

 頑なに首輪を外そうとしなかった少女は、頬をピクピク痙攣させながら集落の長と思われるライオン丸の前へと歩み寄った。

 その身長差、図るのも馬鹿らしいと思える程。


 「猫人族の娘よ、こちらへ来い。 そうすれば、自由に暮らせる」


 「では貴方方愚か者に問いましょう。 自由とは何ですか? 人族に何時狩られるかもわからない状況でビクビクと暮す生活が、自由ですか? ハッ、デカい図体をしながら随分と臆病な仔猫なんですね。 この首輪はご主人様との繋がりの証。 事情も知らずに相手を否定する小物であれば、貴方は私の敵になりますが……よろしいですね?」


 そういって、ウチの南さんは新しいクロスボウを展開した。

 アカン、やる気満々ですわこの子。


 「可哀そうに……人族に飼われて精神まで下等生物に成り下がったか……今解放してやる。 そんな人間に媚びる必要などない、もう苦しまなくて良いのだ。 お前に無理難題を与え続ける人族など、すぐに俺が殺してやる……だから」


 「フ、フフフッ。 貴方は人を怒らせるのが、どこまでもお上手なご様子。 ハチの巣にしてあげるから覚悟しておきなさい。 この木偶の棒が、“誰”が“誰”を殺すと言葉にしましたか? 己の存在の愚かさを教えて上げましょう……」


 ハチの巣にしちゃいけません。

 俺達はこの人達を助けに来たんです、あと森の調査です。

 なのであまり過激な事は……。


 「ご主人様、この大馬鹿者を叩き直す許可を」


 やけに鋭い目を向けてくる南さんが、今すぐにでも飛び出しそうな勢いで大勢を低くしておられる。

 あぁもう、どっちにしろ話し合いなんか出来る状態ではなさそうだ。


 「はぁ……これは試合だ。 忘れるなよ? “殺すな”、“大きな怪我を負わせるな”。 以上」


 「了解いたしました」


 「貴様! 我らの同胞に向かって偉そうに命令をするな!」


 「あぁもう……ホラ、始め始め」


 なんて、いい加減な試合開始の合図を出してみれば。

 両者は決死の覚悟と言わんばかりの気迫で動きだした。

 2メートルを超しそうなライオン丸が迫ってくるのは、視覚的には非常に恐ろしい。

 ただ如何せん、南を相手にするには“遅すぎる”様に見える。


 「すまぬ、動けなくしてから首輪を外すぞ! 少女よ!」


 なんて、格好の良い台詞を吐きながら拳を振り下ろしたライオン丸。

 しかしその拳には、多分土の感触しか残っていない事だろう。


 「動けなくしてから、ですか。 それで? 明後日の方向へ放った拳で、どうやって私を動けなくするんですか?」


 「は?」


 巨大な拳を振り下ろしたライオン丸だったが、拳が地面に到着する頃には南は彼の肩の上に座っていた。

 アカン、これはレベルが違い過ぎる。

 というか戦闘経験が段違いだ。

 南の奴、完全に相手の自信をへし折りにいってるな。


 「なっ!? お前いつの間に!」


 「遅すぎますよ。 ホラ、手足を固定されましたよ? 次はどうするのですか?」


 「ぬぉ!?」


 移動しながら放った矢は、彼のズボンの裾と、放った拳の袖を地面に縫い付けていた。

 流石に違和感覚えようよとは思うが、南の見た目でこんな事をされれば流石に驚くだろう。

 クロスボウだってあんまり見ない武器ではあるだろうし。

 なんて、疲れた眼差しを向けていると。


 「ぬおぉぉぉぉ! この程度で俺を拘束出来ると思うなぁぁぁ!」


 彼は矢によって固定された衣類を無理矢理引きちぎり、獣の様な雄叫びを上げる。

 とはいえ、南の放つ矢は非常に短いのだ。

 落ち着いて対処すれば普通に抜けるレベルなのだ。

 だからわざわざ服破らんでも……お願いだからウチの南に上半身裸で迫るの止めてもらえないでしょうか。


 「はぁ……わざと外して“拘束”程度に済ませているというのが、未だに分かりませんか? これだから頭の悪い脳筋は……同種族ながら悲しくなります」


 そう言って、南はクロスボウを目の前の彼に向けた。

 恐らく、多少傷をつけてでも“教えてやる”つもりなのだろう。

 彼女のクロスボウは、今回ばかりは彼の体に照準が向かっている。

 だが、ソレはダメだ。

 あくまでも彼らは守る対象であって、傷つける対象ではない。


 「ウォォォ!」


 「少し大人しくなりなさい、熱血馬鹿」


 何を言おうと止まらそうな二人。

 無粋かもしれんが、ちょっとばかり横やりを入れさせてもらおう。


 「はぁ……東、ライオン丸を止めろ。 西田は矢が発射された場合の対処、白は南を止めろ」


 なんて、雑な指示を出せば全員がすぐさま動いてくれた。


 「なっ!? 何だ貴様!?」


 「ごめんね、ライオンさん。 リーダーの指示でね」


 ライオン丸の振り上げた渾身の拳を片手で受け止める東は、多分相当恐ろしく見えた事だろう。

 しかもなんたってあの鎧だ。

 目の前に急にラスボスが現れた様に見えてもおかしくない。

 そして。


 「……何故ですか?」


 「リーダーの命令だ。 熱くなりすぎ、南ちゃん」


 「南、ステイステイ。 一旦落ち着こ」


 放った矢を西田が正面でつかみ取り、白が後ろから南を抱きしめた。

 おかしいな、俺は矢をどうにかしろとは言ったが……つかみ取れとは言ってないんだが。

 ヤバイ、皆が凶悪超人になり始めてる。

 俺も早く進化しなきゃ。

 魔封じの鎧でドヤ顔している場合じゃない。


 「お前らは……なんなんだ?」


 「初めましてライオン丸、俺は北山。 ウォーカー、“悪食”ってクランだ。 この森の調査と、お前達次第だが……一応助けに来た」


 なんて事を言いながら歩み寄ってみたが、俺だけ何もしていない。

 これ、威厳とかあんのかな?

 そんな事を思いながら、俺たちは獣人の集落に到着したのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る