第31話 突然の別れと接敵


 トレントが足からサンドイッチ食った。

 意味が分からないと思うが、マジなのだ。

 この事実に一番頭を抱えたのは、例の如くアイリだったが。


 「報告書になんて書けばいいのよコレ……」


 もしかしてコイツ、普段から足の裏で虫とかミミズとか食ってんのかもね。

 知らんけど。

 結局トレントは5つもサンドイッチを平らげ、俺達の食事も終了。

 なのでお片付け、という段階になって再びトレントが不思議な行動を取り始めた。

 のっしのっしと俺の方へ歩いて来たかと思えば、唐突に自分の頭? というかやけに生い茂った葉っぱの中に手を突っ込み始めたのだ。

 今度はなんだと警戒していると、プチッと音と共に手を引っこ抜いたトレント。

 その手には黄色……というより金色に近い洋ナシの様なモノが三つ程乗せられていた。

 更にソレを差し出してくるんだが……え、何。


 「くれるのか? コレ」


 多分食える……のかな?

 金ぴかだけど。


 「なぁっ!? ソレ“金成リンゴ”じゃないですか! え、トレントから生るの!?」


 何やら有名なモノだったらしい。

 というか洋ナシじゃなくてリンゴなのね。

 とりあえず礼を言ってからマジックバックに仕舞うと、更に二つ捥いで差し出された。

 食べた枚数分くれるらしい、何とも義理堅い奴だな。

 唖然とするアイリと、黙々とリンゴを仕舞う俺。


 「と、とりあえず後片付けしちゃいますね……食器洗ってきます」


 「あ、じゃぁ俺達も」


 「だね、洗ってきちゃうよ」


 任せた、と言わんばかりに逃げていく東西南の三人衆。

 アイツらめ……なんてジト目を送っていると、今度は残ったフライパンなどをトレントが運び始めたではないか。


 「キタヤマさん、報告書手伝ってください……もう訳が分かりません」


 「懐かれた、かなぁ?」


 アハハと乾いた笑いを浮かべている内に、トレントは東達の隣に腰を下ろして皿洗いを始めた。

 多分見様見真似なんだろうけど。

 魔獣にもあんなのが居るのか、というかこれからずっと付いて来たり?

 え、アレを飼うの俺ら。

 マジで?


 「もうアレだ、トレントの“レント君”って呼ぼう」


 「マジで勘弁してくださいね? アレを街に連れて帰るとか言いませんよね?」


 でもまあ、本当について来そうな雰囲気だし。

 街は流石に無理だが、この森に居る間くらいは一緒に行動しても良いかもしれない。

 なんか面白そうだし。

 なんて、思っていた矢先。


 「どわぁぁっ!」


 「下がって!」


 「キャァァ!」


 ザバーン!と盛大に水しぶきが上がり、泉の中から何かが飛び出して来た。

 そしてソイツが食いついたのは……。


 「レント君がぁぁぁ!」


 巨大な魚が、レント君に思いっきり噛みついていた。

 そりゃもう見事にガブリと。

 ホホジロザメくらいありそうな……マグロ。

 大層ご立派なマグロが、次の瞬間には“レント君”を真っ二つに噛み砕いてしまった。


 「野郎どもぉぉぉ! 戦闘準備ぃぃぃ! レント君がぁぁぁ!」


 「早速愛着湧いてんじゃないわよ!」


 「え? は? れんと君って誰?」


 「そんな事よりマグロだよマグロ! 絶対逃がさない!」


 「ト、トレントが噛み砕かれてしまいました……」


 各々声を上げながら巨大マグロに武器を突き刺し、陸へと運び出していく。

 出会いは一期一会とは言うが、まさか名前を付けた瞬間永遠の別れになるとは。

 さらば、レント君。

 中々面白い奴だったよお前は……。


 ちなみに噛み砕かれた“レント君”は、魔石と薪として回収されるのであった。


 ――――


 大事な仲間を失ってから数日、相変わらず森の中を探索している俺達。

 流石にそろそろダチョウを見つけたい所なんだが……本当に大量発生してんのか?

 なんて愚痴を溢しかけた時、ソレは聞えて来た。


 「なんだ? 地鳴り?」


 何処からともなく、ドドドドドドドドドという随分けたたましい音が聞こえてくる。


 「この音……段々近づいてきます!」


 ピクピクと猫耳を動かしている南の一声で、全員が警戒態勢に入る。

 まさか、ついにお出ましか?

 といっても、随分と数が多い様に聞こえるんだが。


 「東は大盾。 受けとめるんじゃなくて逸らす感じで、多分すげぇ数だぞ」


 「了解、囲まれない様にしないとね」


 南がマジックバッグから盾を二枚取り出し、東がソレを両腕に装備してからガツンと打ち合わせる。

 鎧がごつくなってから、見た目が完全に魔王だ。


 「西田、アイリは側面から。 攻撃しても群れの統率を維持するようなら、そのまま誘導してもらうかもしれん」


 「了解。 赤ハーブが効く様なら、そっちでも誘導試してみるわ」


 「ダッシュバードと追いかけっこかぁ……頑張ります」


 一人はマチェット、もう一人はガントレットを確認してから姿勢を下げる二人。

 平然とやる気になっているが、ダチョウと足で勝負するってヤバイよな。

 まあ西田の脚と、アイリの身体強化なら可能に思えるんだから色々と染まって来て居るが。

 その二人が、俺達から離れてそれぞれ身を隠す。


 「南はダチョウが見えたらクロスボウ連射、近づいて来たら東の後ろな。 正面は俺が行く」


 「了解です。 ご主人様、お気をつけて」


 左腕に装備されているクロスボウ。

 その部分を一度ガシャンッ!と引いて弓が展開されれば、南の方も準備完了。


 「うしっ、来るぞぉぉ!」


 木々の向こうから、盛大な足音を立てながらこちらに向かってくる茶色い物体。

 チラホラと見え始めたソレは、完全にダチョウ。

 違いといえばトサカが付いているのと、顔が普通のダチョウより兇悪そうなくらいか。

 なんて観察していると、木に登って身を隠している西田から合図が送られてくる。

 十分な距離に入ったらしい。


 「作戦開始ぃぃ! 撃てぇぇ!」


 「はいっ!」


 俺の大声に反応したのか、ダチョウ共は一直線にこちらに向かって走ってくる。

 しかし次の瞬間には、南の放った大量の矢が先頭集団に襲い掛かった。


 「数20! 撃退3!」


 上から見ていた西田の声が響き、それと同時に隣を走り抜けるダチョウに向かってアイリが拳を叩き込んだ。


 「これで4! 残り16!」


 掛け声と共に西田が木から飛び降り、ついでとばかりにマチェットを一匹の首元にブッ刺しながら着地する。


 「5匹目!」


 残り15。

 上々じゃねぇか、もう四分の一撃破だ。


 「真ん中貫くぞ! 射線上に立つなよぉぉぉ!」


 フンッ!と一声かけながら、右手に持った黒い槍を力いっぱいに投げつける。

 コレもトール達に作ってもらった武器。

 なので当然ながら切れ味が良いのはもちろん、非常に“投げやすい”のだ。


 「しゃぁっ! 3匹貰い!」


 「相変わらず滅茶苦茶貫通するね……北君の投げ槍。 アレだけは真似出来る気がしないよ」


 「ご主人様、下がってください! もう一度矢を使います!」


 再びズガガッという勢いでクロスボウを乱射する南。

 矢を受けて2匹程倒れた様に見えるが……。


 「近すぎる、一旦引くぞ!」


 「はいっ!」


 二人してバックステップ。

 そして入れ替わる様に前に出る東。


 「左にズラすよ! 西君、アイリさん後処理よろしく!」


 両手の盾を正面に構え、群れの先頭集団とぶつかり合うと同時に盾を斜めにズラす。

 ズドン!と重い衝撃音が一度響いた後は、群れ全体が斜めにズレながら東の盾に体を擦る様にして走り去っていく。


 「ついでだよっ!」


 そう叫んだ東は、走り去ろうとする最後の一匹に対して大盾の切っ先叩き込んだ。

 見事なまでのカウンターパンチが決まり、確認するまでもなく即死だと分かる。


 「せいっはぁ! 残り8です!」


 「ぜいっ! これで残7! 逃がすか!」


 一度は走り抜けたダチョウの群れを、西田とアイリの二人が側面から誘導していく。

 そのお陰で群れは大きく円を描くようにして、再びこちらに向かってきた。

 大したもんだよ、マジで。

 普通にダチョウと追いかけっこしてやがる。


 「っしゃぁ! もっかい行くぞ! 南、また槍だ!」


 「はいっ!」


 マジックバッグから槍を取り出し手渡して来た後、南ももう一度クロスボウを構えた。


 「矢の残量は大丈夫か?」


 「先程東様の後ろで補充しました。 問題ありません」


 ちなみにこのクロスボウ、マガジンタイプなのだ。

 マガジンさえ事前に準備しておけば、リロードはとんでもなく早い。


 「撃て!」


 「放ちます!」


 ズガガガッと再び乱射するトリガーハッピーさん。

 その矢を受けて、更に1匹が脱落。

 残り6。

 そろそろ潮時か。


 「ラストだ! 残りは生かしておけよ!? 西田、アイリ! 追跡頼んだ!」


 叫んでから、もう一度槍を投げる。

 捉えたのは2匹、残りは4。

 すぐさま東と位置を変わり、再びダチョウを逸らしてもらう。


 「よっしゃぁ! んじゃ行ってくるわ!」


 走り抜けるダチョウと共に、足の速い二人がその後を追いかけて行く。

 少し距離が空いている様にも見えるが、ワザとなので問題ない。


 「ふぅ……上手い事“巣”に戻ってくれれば良いんだけどね」


 そう言いながら東が大盾を外して、南がマジックバッグで回収していく。


 「あれだけ被害が出たのなら、多分大丈夫だと思います。 西田様とアイリ様なら、気付かれない距離で尾行して下さるでしょうから」


 もうね、西田の扱いが完全に忍者か何かだ。

 アイリも既に受付嬢とは思えないよね。


 「さて、んじゃ俺達はダチョウの回収と装備の回収だな」


 「暗くなってきましたし、矢は殆ど諦めた方が良さそうですね。 あ、まずは槍を回収してきますね」


 「それじゃ僕達はダチョウを一か所に集めよっか」


 「だな」


 そんな訳で、収穫はダチョウ16匹。

 消費したのは南の矢がマガジン2本分って所か。

 確かワンマガジン30本だっけか。

 ありがたい事に、市場で売っている一番短い矢が使用されているので大した出費ではない。

 なんて事を考えて居たら、南がすぐさま戻って来た。

 もう槍の回収が終わったのだろうか?


 「すみませんご主人様……その、槍が深く刺さり過ぎて……私では抜けません」


 「あ、なんかスマン」


 ダチョウを貫通しただけではなく、盛大に木にぶっ刺さっているらしい。

 どんだけ切れ味良いんだよあの槍……。


 ――――


 そんな訳で、諸々済ませた後俺達は軽食を作っていた。

 おにぎり、とにかく大量のおにぎり。

 そして水筒に味噌汁を詰める作業を淡々とこなしていく。

 おにぎりは見事に誰が作ったか分かるサイズ感になってしまったが、売り物って訳じゃないから別に構わない。

 東、俺、南の順に大中小とサイズが分かれる。

 但し具はランダムなのでお楽しみ要素はあるだろう。

 おかか、昆布、焼肉、ツナではないが焼き魚のマヨ和え、たまに塩むすびなどなど。

 ちなみに巨大マグロはまだ捌いていない。

 デカすぎる上に、寄生虫とか怖いので。

 その辺詳しい人に聞くか、一度凍らせてからの方が良いだろうという判断だった。


 「皆ぁ~お待たせぇ」


 そんな声を上げながら、アイリが森の暗闇から姿を現した。


 「お疲れ様、どうよ?」


 「ばっちり! 結構色んな所走り回られちゃったけど、巣は見つけたよ。 早速向かう?」


 どうやら無事作戦は完了したらしい。

 これは腹いっぱい食わせてやらにゃ。


 「おう、すぐ行こう。 西田と合流してから飯、それから仕事だ」


 「あいあーい、案内するね」


 大量のおにぎりをマジックバッグに仕舞い、全員がすぐさま立ち上がった。

 これで依頼完了したも同然だ。

 そんな事を考えながら、不敵な笑みを浮かべて俺達は夜の森をひたすら歩き続けるのであった。



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