第20話 合同パーティと炊き込みご飯


 「西田! お嬢! 仕留める必要はねぇ、足を狙え! 動けなくすりゃ後はカイルがやってくれる! ポアルは弓と魔術師っぽいのを先に潰せ! リィリも可能なら援護! 東、アイリは絶対後ろに通すなよ!」


 「「了解!」」


 返事が帰ってくると同時に脇道の最奥へと走り込む。

 コレだけの集団行動だ、気付かれない様に移動しろって方が無理。

 なので警戒しながら進みつつ、最奥が見えたら一気に雪崩れ込む。

 荒っぽい戦闘だが、コレが一番早い気がする。


 目の前に見えるのは十数体のゴブリン達。

 皆鎧を着こみ、手には武器を、モノによっては杖や弓を持っている。

 魔法は良く分からんが、弓は兎に角厄介だ。

 なので。


 「うらぁ! 南、槍!」


 「っはい!」


 ポアルやリィリが動きだす前に、手に持っていた剣を投げつけて数を減らしていく。

 こちとら野鳥相手に武器を投げつけて狩りを行っているのだ、これだけ的がデカければ外れる気がしない。

 あとゴブリンには武器を投げるモノだと“向こう側”に居る時にどっかで見た。


 「しっかしコレだけ数が多いと武器がどんどん……、っ! お嬢さん、後ろに跳べ!」


 「え? は、はいっ!」


 西田の指示でお嬢がバックステップをかましたすぐ後、さっきまで彼女が居た場所にゴブリンの投げた武器が飛んできた。

 何ともまぁ……元々ゴブリンもやっている行為だったのか、俺の行動を見て真似したのか。

 定かではないが、あんまり手の内を見せたくないなこりゃ。


 「こうちゃん!」


 「分かってらい!」


 その他のゴブリン達も各々が持っている武器を頭上に掲げ、明らかに“投げ”のモーションに入っている。

 勘弁してくれ。

 こんな薄暗い中一斉に武器を投げられたら、流石に怪我人どころじゃ済まない。


 「お嬢は中衛まで後退! カイルは剣を盾にしろ! 東ぁぁ、出番だぁぁぁ!」


 「了解だよ! 南ちゃん大盾二枚!」


 「はいっ!」


 指示通りお嬢は下がり、東が二枚の大盾を構えながらゴブリン達に突進していく。

 大柄な東の上半身が隠れてしまいそうな程、ドデカい盾。

 そんなモノを二枚も構え、自分達の投げた武器が次々と弾かれていく様は、相手からしたら恐怖以外の何物でもないだろう。


 「西田! 南!」


 「おう!」


 「はい!」


 そんな巨体の後ろに隠れる様にして、俺達も後に続く。

 前面は鉄壁の守り、左右に展開しているアブれのゴブリン達は、ポアルとリィリが遠距離から仕留めてくれる。

 なら、俺らの仕事は目の前で固まった残りの奴らだ。


 「そろそろだよ! 3、2、1。 うらぁ!」


 合図と共に東が大盾を振り下ろし、二匹ほどのゴブリンが見事にぶっ潰れた。

 残り4体。

 東が守りを捨てた瞬間に、俺と西田は左右から飛び出し残ったゴブリン達に走り寄る。

 東のおかげで実に安全に近くまで寄って来られた。

 この距離に入ってしまえば、“狩れない”事は無いだろう。


 「っしゃぁ!」


 「おせぇ!」


 二人して武器を突き出し、ゴブリン達の脚を刈る。

 太ももに槍を突き刺し、そして捻る。

 こうすれば大体の生物はまともに動けなくなるのだ。

 動けたとしても、痛みによりまず動きが遅くなる事だろう。


 ココに居るゴブリン達は皆、装備が何故か整っている。

 それは防具も然り。

 とはいえ大人サイズの防具ではやはり全身には着られないらしく、大体の奴が兜と胴などを装備している程度。

 詰まる話、手足はそのまま晒されているのだ。

 なので俺らが狙うのは足。

 とにかく動けなくしておいて、頭などの急所は力の強いメンバーに後から片付けに来てもらうという戦法だった。


 「ラストォ!」


 「右側もらい!」


 俺と西田が手に持った武器を最後の二匹へと投げつけ、それらはゴブリンの脚に突き刺さるどころか貫通した。

 ウギャァ! と醜い声を上げながら、最後のゴブリン達も地面に伏せる事となる。


 「うっし、カイル。 端から頼む」


 「もうやってるよ、旦那」


 振り返って見れば、地面に転がって苦しんでいるゴブリン達の頭に、容赦なく大剣を叩き込んでいるカイルが。

 完全に後処理、というかモグラ叩きみたいな事になっている。


 「うん……なんかスマン。 絵面が酷い」


 「分かってるからそういう事言うな。 後処理はすっから、とりあえず離れておけよ? まだ死んでる訳じゃねぇしな」


 「手伝うか?」


 「コレくらいはやらせろ。 ……出番がねぇんだ」


 そんな事を言いながら、伏しているゴブリンの頭を兜ごと割っていくカイル。

 確かに、今回の様な場所だとカイルや東の様なパワータイプの出番が少ない。

 最終的に東はかなり目立ったが、彼は投げられたゴブリンの武器に対して、剣を盾にして防いでいた位しか記憶にない。

 ちょっとその辺り気にしているのだろうか。

 まあそういう事なら任せておこう、俺も好き好んでゴブの頭割りたくないし。


 「さて……と。 この分岐は外れかね、ゴブリン以外何もいねぇし」


 周囲を見渡してみれば、通路よりちょっと広くなった空間。

 そこにゴブリン達が溜まっていただけで、他には何も無い様だ。

 残る別れ道は2つ。

 そのどちらも先程程度にはゴブリンが溜まっているのかもと思うと……正直キツイ。

 主に精神面、人によっては体力面でもキツイだろう。

 特にお嬢のパーティが。


 「くっせぇけど、一旦ココで休憩にするか」


 「待ってくださいご主人様」


 死体を片付けて、腰を下ろそうとしたその矢先。

 南からストップがかかってしまった。

 やけに耳をピコピコ動かしながら、一か所の壁を様々な方向から覗き込んでいる。

 何か見つけたんだろうか?


 「どした? 隠し通路でも見つけたか?」


 流石にゲームのやり過ぎかと自分でも思うが、南が見ている岩壁にコレと言った変化は見受けられない。

 マジで何を見つけたんだろうか?


 「あの……この壁の向こうから、人の声がします。 何を言っているのかまでは分かりませんが、恐らく3名程です」


 「……へ?」


 ――――


 「あの……本当にありがとうございました」


 洞窟の入り口まで戻って来た俺達は、ひたすら頭を下げられていた。

 南が聞きつけた壁の中の人の声。

 別に埋められていたとか、隣の部屋と近くて声が漏れていたって訳では無く、なんでも土魔法で壁を作って避難していたらしい。

 攫われた貴族のお嬢さんを追いかけて、一番奥地まで足を踏み込んで救出したまでは良かったが、余りにも相手の数が多く閉じこもっていたとか。

 最初カイルから聞いた話から魔法バリアー! 的なモノを想像していたのだが、結構力技で危機を逃れていた様だ。


 「とはいえ、お嬢様程の土魔法の使い手でなければ、あそこまで立派な壁は作れませんけどね」


 だそうで。

 そのお嬢様と補佐をしていた魔法師二人が魔力切れでダウン。

 残っていたのは鎧を着た護衛の三人のおっちゃん達。

 計6人で、細々と保存食を摘まみながら飢えを凌いでいたとか。

 魔法使い組は未だに腹が減り過ぎてグロッキー状態、護衛さん達も一応動けてはいるが結構限界が近いのだろう。

 さっきからフラフラしてるし。


 「とりあえず、飯にすっか」


 「悪食の旦那、まさか魔獣肉をお貴族様に喰わせるつもりじゃ……」


 「いや、流石にしねぇよ」


 そんな訳で行動開始。

 西田と東には別件の仕事を頼み、俺と南、そしてアイリで調理を始めた。

 最初は保存食を分けてくれるモノだと思っていたらしい護衛のおっちゃん達に、凄い顔をされてしまったが。


 「今回使うのは山菜と米だな。 まさか山菜まで魔獣云々言わねぇよな?」


 「それは大丈夫ですよキタヤマさん。 むしろ魔獣の生息する地域の山菜は高級品として扱われます」


 「良く分からん……」


 すぐさまアイリが説明をしてくれたが、マンドレイク……だっけ?  あの大根魔獣。

 アイツが作った野菜とか、奴の体の一部にしか思えないんだが。

 まあいいか、深く考えても仕方がない。


 「カイル、お前ら干し肉食ってたよな? アレちょっと分けてくれ」


 「別に構わねぇが――」


 「私らも食べて良い!?」


 会話の途中で、ポアルが物凄い勢いで食いついて来た。

 そんなに食いたかったのかお前は。

 まあ確かに涎ダラダラ溢してたしな。


 「おう、だったらちょっと多めにくれ。 そしたら全員分作ってやるよ」


 「私の分全部上げるから帰りも作って!」


 「帰りは魔獣肉になる可能性が……まぁ何か考えるか、いいぜ」


 「よっしゃぁ!」


 元気の良いポアルが、荷物から袋に詰まった大量の干し肉を差し出してくる。

 ふむ、コレだけあれば十二分に足りるだろ。


 さてさてそれでは、まずはドでかい鍋に大量の米を。

 皆どれくらい食うか分かった物ではないので、ソレを三つ。

 米の手持ちが無くなりそうだが、ここは大盤振る舞いじゃ。

 ザズのおっちゃんが魔法で水を出せるとの事なので、遠慮なく水道代わりになって頂き、ワッシャワッシャと米を砥ぐ。

 その間に南には山菜を、アイリには干し肉を細かく刻んでもらう。

 貰った干し肉は随分硬かったらしく、ズドンズドンとまな板から凄い音が響いていたが。

 決して彼女が力任せにぶった切った結果、轟音が響いている訳では無い事を祈ろう。


 「こうちゃん、終わったぜぇ」


 「予定通り分岐の入り口に放り込んで来たよ」


 料理の途中で、仕事を終えた二人が洞窟から戻って来た。

 よし、手が増えたな。


 「なぁ旦那、二人は何して来たんだ? 残りのゴブリン共は放置するって言ってたが……」


 「あぁ、俺らお手製のご馳走を置いて来てもらったんだよ。 多分旨すぎて“天国”まで逝っちまうぜ」


 二人に置いて来てもらったのは、文字通り俺らの料理。

 焼いたマンガ肉に西田が作った“調味料”をすり込んで、その上から赤ハーブの粉末を振りかけておいたモノ。

 その調味料ってのが、薬草マニュアルの最後の方に載っていたキノコ。

 無味無臭、見た目も割と普通。

食料を失ったウォーカーなどが、飢えを凌ぐために食べてしまう“事故”がたまに発生するらしい。


 「なぁ、その調味料に使ったキノコ。 資料にはいくつドクロマークがついてた?」


 「5つくらいだったかな?」


 「猛毒じゃねぇか!」


 「だから良いんじゃねぇか、放っておけば一網打尽だぜ」


 「えげつねぇ事するなぁ……」


 カイルから凄い顔で見られてしまったが、食えない奴らなど知らん。

食うなら毒は使わんが、ゴブリンは食わん。

 人型っぽいモンスターだから、もう少し色々感じる事があるかもと思ったのだが、何週間もサバイバルして来た俺達は“敵”であれば容赦なく殺せる様になっていたらしい。

 慣れって凄いね、マジで人間相手になったらわからんけど。


 「んまぁ、そんな事は良いとして。 東は天ぷら作ってくれ、西田は味噌汁。 今日は肉無しの夕飯な」


 「「えー……」」


 「夜食で作ってやるから……」


 夜食の約束を経て、二人もテキパキと動き始める。

 さて、そんじゃ俺は米の味付けをっと。

 水を少なめに、醤油、みりん、酒、そしてすりおろした生姜もポイッとな。

 干し肉が結構塩辛いので、醤油は少し控えめに。

 その干し肉と、細かく刻んだ野菜をどさーっと鍋に投入。

 本来なら鶏肉の方が良いが、俺らが持っているのは例の如く魔獣肉なので使用できない。

 どうせなら鳥がよかったなぁ……なんて思いながら蓋を閉め、コンロのスイッチをオン。

 後は米が炊けるのを待つばかり、実に簡単。


 「あ、北君。 天ぷらに卵使うけど、良いのかな? コレも魔獣の卵でしょ?」


 「……あ」


 完全に忘れていたので、二人そろってアイリの方を振り返れば。


 「えっと、魔獣って認識されていない内は穢れたモノとして扱われなくてですね……セーフです」


 「マジで区分がわかんねぇな……」


 ただの食わず嫌いの意見を聞いている様で頭が痛くなる。

 まあセーフってのなら存分に使わせて頂こうじゃないの。

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