第9話 肉厚テリヤキバーガーと川の幸


 サバイバル。

 それは全ての本能を曝け出す。

 人は獣に戻り、獣が獣を食らう為だけに争いを繰り広げる。

 愉快、実に愉快。

 とかなんとか、完全に慣れて来た俺達はサバイバーを楽しんでいた。

 異世界ヤバイ、超楽しい。


 「こうちゃん! 2時方向の木の上! 鳥! 何かの鳥!」


 「うわデッカ! 食べ応えありそうだね、頑張れリーダー!」


 「まっかせときんしゃあぁぁぁい!」


 ブンッ! と音を立てながら槍を投げた。

 刃の部分しか金属が使われておらず、持ち手の部分は木製だったので非常に軽い。

 こっちに来たばかりの頃の俺なら、これでも重かっただろうが。

 男子三日なんとやら……半分以上も覚えていないことわざを思い浮かべながら、投擲した槍の向かう先を睨む。


 ビギャァ! みたいな鳴き声が聞こえて、バサリとデカい鳥が地面に落ちた。

 槍は貫通し、向かいの木に突き刺さってしまったが。


 「ジャァァックポォォォットォォォ!」


 「あちゃぁ、槍が上に残っちゃったか……東、ちと俺の装備よろしく。 回収してくるわ」


 「了解、気を付けてね? 北君全力で投げすぎだよ……普通貫通する?」


 「……もう、突っ込みませんからね?」


 皆それぞれ感想を残すも、無事朝食をゲットだ。

 せっかくだから街で買った携帯食料食べてみようぜって言ってたのに、西田がチキン食べたいとかいうから思わず探してしまった。

 そして見つけたのが肉厚の青い鳥。

 なんだろう……クジャクの羽が付いた鶏みたいな見た目だ。

 青いけど。


 その後南に青鶏を解体してもらい、その間に俺が投げつけた槍の回収も終わった。

 残念なことに刃にヒビが入ってしまい、デカい魔獣との戦闘には使えない代物となってしまったが。

 まあそんな事はどうでもいい。

 前回同様? 安い武器をいっぱい仕入れて来たのだ、代えはまだまだマジックバッグに入っている。


 「さてさて、でっかい鶏肉だけどどうするね? 街で調味料は色々買ったし、照り焼きチキンにでもしちゃうかい?」


 「あ、なら携帯食料にパンがあったじゃん? アレでテリヤキバーガー作ろうぜ」


 「あぁ、いいねぇ。 姫様から貰ったマジックバッグが凄いヤツだったから、野菜も新鮮なままなだし。 レタス出しておくね?」


 「……姫様?」


 取りあえず方向性が決まり、各々準備を開始する。

 今使う鶏肉はとりあえず半分だけ。

 残りをマジックバックに仕舞い、その代わりにフライパンとボウルを登場させる。

 多分街に居た時に一番種類を揃えたのが、調理器具各種と調味料だ。

 料理に関しても前回は塩オンリーだったから、ほとんど焼くだけの食事だったが……今週は一味も二味も違うという訳だ。

 なんて、今更過ぎるか。

 今週は散々醤油やらバターやら使っている訳だし。


 「東、パン半分に切って鉄板で焼いておいてくれ。 弱火な弱火、温める位な感じで」


 「あいあいー」


 「薪はこんなもんでいいかぁ? こうちゃん何か手伝う?」


 「サンキュ。 とりあえず揉み込んだりするから、手洗ってこいよ。 南も一緒にいってらぁ」


 「了解しました」


 そんな訳で調理開始だ。

 とは言っても、別に俺らはプロじゃない。

 しかも独身男性の集いだ。

 南も解体は出来るが調理はした事がないというので、少しずつ教えて今後に期待。

 まあ、そんな訳で。

 俺達が作るのは大体“男飯”。

 ガツンと腹に来て、満腹になればそれでいい。

 スープとかも試してはいるが、店に並ぶ物と比べれば雲泥の差があるだろう。

 でも、ソレで良いのだ。

 色々試して、自分達で作って。

 そんで旨いか不味いか、それだけでも結構楽しいもんだ。

 ソレが異世界に来てからの俺達の感想。

 詰まる話、食う為だけに俺達は冒険している。


 「さってと、そんじゃ始めますかね」


 「期待してるよ、リーダー」


 「だからそのリーダーっての止めろよ」


 そんな事を言いながら、まな板の上に転がした鶏肉を均等な厚さになる様に捌いていく。

 照り焼きの場合、あんまり厚さが変わると味が変わると何処かで聞いた。

 良く分からんがコレだけデカい鶏肉なら、口に入る程度の厚さに切るという感じで、余り面倒な作業とも思わないが。

 もはやステーキ肉かと言わんほどのサイズだが、むしろコレが良い。

 雰囲気からしてサバイバルやってる感を味わうのも、野営の楽しみだと思っている。


 続きまして、片栗粉。

 結構驚いたのがこの世界、調味料がかなり豊富だ。

 過去にも勇者の召喚があったり、同じような調味料が作られていたりと理由は色々らしいが。

 俺達の思いつく調味料は普通に売られていた。

 ちょっと名前が違ったりもするが、マヨネーズさえも売られていたくらいだ。

 なんて御託は良いとして、鶏肉に片栗粉をまぶしていく。

 そんでもって、塩と胡椒もつっこんで軽くモミモミ。

 物にもよるが塩胡椒を忘れると結構臭みが出る。

 そんな訳で大体の食材は塩やら胡椒やらで匂い消しをしているが、それでも臭い場合は緑ハーブさんの出番だ。

 アイツはマジで万能過ぎる。

 体や鎧の匂いだけではなく、食材の臭みまで消してくれる。

 問題の味だが、そのまままぶして焼いて齧ったりすれば何かのお茶? みたいな味が微かにする程度。

 他の食材と混ぜると微かにハーブの香りを残す程度で、全く味を邪魔してこない。

 流石はピンチの時に頼りになるグリーンハーブだ。

 コレを持っていればゾンビに噛まれても安心できる。


 「やっぱ手馴れてるよねぇ北君。 元々料理上手だったし」


 「止めろ恥ずかしい。 俺は男飯くらいしか作れねぇやい」


 「照れなくてもいいのに」


 おかしな事を考えていれば、携帯食料のパンを温めている東がのほほんとした様子でそんな事を呟いてくる。

 どうでもいいけど、あのパン美味しいのだろうか?

 前回の携帯食料には乾パンみたいなのが入っていたので、まぁ食えたが。

 今回は街で買った、ちょっと硬そうなパンだ。

 もしかしたら、手を加えないと良くないのかもしれないが……とりあえずは食ってみてからだな。


 「さって、そんじゃ焼いていきますよぉ」


 皮が付いている場合は、ソレを下面に。

 熱したフライパンに油をたらし、鶏肉を投入すればジュッ! と良い音が響き渡る。

 後は数分焼いて、残る反面も焼いて、味を付ければ終わり。

 実に簡単だ。

 なんて思っていた頃に、西田と南が返って来た。


 「こうちゃん手洗ってきたぜい、何すればいい?」


 「お待たせしました、お手伝いさせてください」


 そんな二人に、さっき半分に切った鶏肉とボウル、そしてその他各種の調味料を差し出した。


 「ユー達は次のご飯の下準備だ。 南、鶏肉を一口大に切ってくれ。 西田はニンニクとショウガを摺り下ろして。 終わったらボウルの中で調味料と一緒にひたすらモミモミするのじゃ」


 良く分からない口調のまま醤油、みりん、酒などを手渡すと西田の顔がみるみる内に輝いていく。

 どうやら、何がしたいのか理解したらしい。


 「リーダー! アンタ最高だよ!」


 「……? とにかく肉を細かくすれば良いのですか?」


 二人はそれぞれ反応を返しながら、モクモクと作業を始めた。

 よしよし、南も随分馴染んで来た様だ。

 良い傾向じゃ。


 「北君、そろそろ良いんじゃない? こっちも温め終わったけど……一応味見しておく? 何か堅そうなんだよね」


 「おっと、焦がしちゃ不味いな。 パンの方は……ちょっと齧ってみてくれ、後は任せる。 旨いも不味いも、一回食って見なきゃわからんし」


 「りょーかーい」


 そう言いながら鶏肉をひっくり返せば、綺麗なきつね色。

 いいねいいね、旨そうだ。

 そんな事を思いながらもう反面も数分間火を通し、その後余分な脂をふき取る。

 油がとれるよ! って言われて買ってしまった変な綿で油を吸収していくが……なんでもコレ、魔獣羊の毛であり、しかも特殊個体との事。

 その魔獣自体の数が多いらしいく、お値段はかなり安かった。

 使ってみると分かるが、油分が取れる取れる。

 油鍋であっても一握り、野球ボールくらいのサイズを放り込めば全部吸収してしまうのではないか? なんて思ってしまう程優秀だった。

 とまぁ異世界便利道具を使いながら、余分な油を撤去した後醤油、みりん、酒、砂糖を加えていく。

 正直最後の砂糖を除けば、その他三つは万能の組み合わせ。

 生姜焼きにも、焼き鳥にも、唐揚げにだって使える。

 その他に欲しいモノを加えれば良いだけという、男飯の最もたる味方なのだ。

 三つの神器を十分に絡み合わせ、味がしみ込み良い色に染まった辺りでフライパンから肉を上げる。


 「ほい、お待たせ。 良く分からん青い鳥のテリヤキだ」


 今日も今日とて男飯。

 そしてサバイバーならではの大胆な味付けと調理方法。

 だがソレが良い。

 今の俺達には、コレが一番合っている気がする。


 ――――


 いただきます! と手を合わせてから、青い鳥の照り焼きチキンバーガーに皆してかぶりついた。

 結果。


 「うめぇぇ! でもパンがかてぇ……悪くなったフランスパンみたいな硬さだな」


 「何だこの鶏肉! 超うめぇ! 野菜もうめぇ! でもパン、お前はダメだ。 噛み切れない事はないが」


 「う、うまい……けどやっぱパンがなぁ……これでもオリーブオイルしみ込ませたりとか色々やったんだよ? でも固いなぁ、あとあんまり味がしない」


 「えっと……携帯食料のパンはこんなモノですよ? 味が無かったり、塩辛かったり、酸っぱかったり。 でも、このお肉と野菜は凄く美味しいです。 私が頂いて良いのかと思ってしまう程に……」


 当初、「奴隷は主人の残り物を頂くのが普通ですので」なんて言っていた南も、ごり押しで一緒に食卓を囲んでくれるようになったのは良い事だ。

 だがしかし、せっかくなら良いモノを食べさせたい。

 なんといっても細いのだ、ちっちゃいのだ、この子。

 可愛らしい猫耳と猫尻尾を生やしてはいるが、如何せん心配になる程ガリガリなのだ。

 今は皮鎧に身を包んでいるが、ソレを脱いで最初のボロ布ワンピースになればどこに出しても恥ずかしくない孤児に変わる。

 いや、色々と言葉選びがおかしいか。

 とにかく、この遠征……というかサバイバルで肥えさせねば。


 「とりあえず、マジックバックもある事だしパンは普通のモノにしよう。 もしくは米一択だ」


 「米なぁ……市場でも見ないんだよなぁ。」


 「確かにそろそろ食べたいね……ご飯」


 「“コメ”なら有りますよ? あまり一般的ではないので市場の端っこというか、目立たない位置に店を出すらしいですが。 需要はあるようなので、特定の店は直接契約で取引しているみたいです」


 「「「ちょっと詳しく!」」」


 南のいう事には、何でも“米”は存在しているらしい。

 まあコレだけ醤油やみりんなど、親しみのある調味料が揃っている位だ。

 確かにあってもおかしくない、おかしくはないが……俺らには見つけられなかった代物なのだ。


 「えっと……次に街に戻った時、ご案内しますね。 私も聞いただけなので、正確には知らないんですけど」


 「「「お願いします!」」」


 若干引き気味の南が、やれやれと言った雰囲気で苦笑いを溢した。

 彼女を仲間に入れてまだ数日だが……少しだけ健康そうになって来ただろうか?

 最初はサバイバー飯が受け入れられるか不安があったが、意外な事に彼女はモリモリ食べる。

 いやはや実によい事だ。


 「では、とりあえず今は食事を済ませてしまいましょう。 すぐにコメは手に入りません、でも“罠”を張った場所から、獲物が掛かる音が聞こえて来ましたから」


 その言葉を聞いた瞬間、全員が照り焼きバーガーを口の中に押し込んだ。

 旨い、非常に肉が旨い。

 今度から蒼い鳥を見つけたら即効で狩る様にしよう。

 幸いにも解体が得意な南が居るおかげで、美しい青い羽や魔石とか。

 その他諸々も採取出来る訳だし。

 俺らだけで解体したら、多分半分以上がボロボロになっているだろうが。

 そんな事を考えながらも俺達は食事を済ませ、武器を構えた。


 「うっし。 南、どこの罠か分かるか?」


 「南東ですね。 あそこは赤ハーブと兜の罠ですから、多分リスか何かだと思います」


 「それじゃ、リスは俺が回収してくるわ。 皆はもう少し休憩――」


 「あ、北西の罠にも何か掛かりました。 多分大型です」


 西田が軽く声を上げた途端、また違う獲物が掛かってしまったらしい。

 おやおや、大収穫じゃないか。

 思わず口元がにやける中、皆の視線が俺の方を向いた。


 「んじゃ、大物を片付けてからリス。 あとはまた魚が食いてぇなぁ」


 そんな適当な指示を出して、俺達は動き始めた。

 なんとも自由奔放。

 やりたい事、食べたい物が有ればそれが優先。

 なんとも、“向こう側”じゃ考えられなかった生活。

 とにかく自由。

 体を動かして、食って、寝て、また生きる為に体を動かす。

 案外、こっちの世界も悪くないものだ。


 ――――


 私はご主人様たちを甘く見ていた。

 魔獣を食らう変な人達。

 そんな風に思っていのだが、それ以上だった。


 「チェストォォォ!」


 「マジか!? 今ので獲ったの!? ちょっと潜ってくるわ!」


 「何か川だっていうのに、海の生物っぽいのが結構居るね……ちょっと貝とか探してきてもいい? あっ! 今海老が居た!」


 前とは違う水辺を見つけた私達。

 そして先程ヒビの入った槍を、水中に向かって投げつける北山様。

 更には回収に向かう西田様。

 マイペースに貝など集める東様。

 でも全員、フルプレートの鎧を着たままなのだ。

 しかし平然と川に潜る、というか沈む。


 なんだろう、色々とあり得ない。

 そもそも河辺から槍を投擲して魚を獲るってなんだ。

 そして何故西田様は一度潜るごとに数匹の魚を抱えて戻ってくるのだろか。

 更に言えば東様は一抱えもありそうな貝を拾って川から上がってくる。

 一応言っておこう。

 今回のも魔獣だ。

 前回同様人食魚と呼ばれる大きな魚と、挟まれたら絶対離すことは無いと言われる二枚貝など。

 そんな危険物を、この人達は平然と捕まえてくる。

 もう慣れたと言っていいのか分からないが、魔獣を食べる事はこの際気にしないでおこう。

 でもこの人達、いちいち狩りの仕方がおかしいのだ。


 「うっし、こんなもんでいいだろ。 昼飯はさっきの鳥の唐揚げ、夜は海産物を使った飯にしよう。 今日はココで野営、東は河原の石をどかしてテントの用意。 西田は薪と山菜の確保。 南は今の内に集めて来た魚を捌いておいてくれ」


 「「了解!」」


 「は、はい……」


 もう、慣れるしかないんでしょうね。

 山賊未満、ウォーカー以上くらいな野営能力。

 この森だから魔獣ばかり相手にしているが、普通の森に行けば野生動物も多い筈だ。

 そうなると、彼らは片っ端から食いかねない。

 野生動物は、魔獣に比べて小さいのだ。

 そんな風に思ってしまう程、彼らの“狩り”は豪快で、手際が良かった。

 この河原にたどり着く前に、鹿や鳥の魔獣を数匹“ついで”に狩るくらいには。


 「南、これって砂抜き……は必要なのか? あんまり貝には詳しくないんだが」


 さっき仕入れたばかりの魔獣達を川岸に並べ、難しい顔をしている北山様。

 なんというか、この人達は何故こうも戦闘中とギャップが激しいのだろう。

 はぁ、とため息を吐きながら眼の前に並べられた貝から手に取った。


 「海ではないので、そこまでではないと思いますが……やっておいた方が良いでしょうね。 魔獣では試した事はありませんが、普通と同じ手順で大丈夫なら、私がやりますね」


 「頼むわ、やっぱ頼りになるな。 南が居てくれなかったらコイツが食えなかった」


 「いえ、コレくらいなんでもありません」


 そしてこの人達は、いちいち褒めてくるのだ。

 何でもない事でも、大袈裟に。

 ソレが何とも落ち着かないけど……頼ってもらえる事がちょっとだけ嬉しかった。

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