第5話 終幕
バルオキーについたアルドたちは、村長へと報告に行く。村長の家にはチャコとネルがおり、ツィオの無事を確認して安心したようだった。
「無事で何よりじゃった。詳しいことはチャコとネルから聞いておる。危険な目にあってしまったようじゃの。」
村長は帰ってきたアルド達に声をかけた。ある程度の危険は予想されていたとはいえ、それ以上の危険にあった子供達に対して少し申し訳なさそうな様子だ。全員無事に帰ってきたことに心から安心している。
「危険な目に合うことは当然よ。それくらいの覚悟でやってるわ。でも今回はちょっと、油断しちゃった」
チャコはそんな村長の思いを知ってか知らずか、明るい調子でおどけてみせた。
「しかし村長殿、今回の依頼はこれで良かったのでござろうか?もし必要ならばまた警備に行ってくるでござるが……」
元の依頼は警備をすると言う内容だったが、魔物の襲撃から中止したような形になっている。サイラスはそこが心配だった。
「いや、魔物がいなくなったのであれば、荷馬車が襲われることもなくなるじゃろう。ネルからきいた特徴と、リンデの村長から聞いていた魔物と特徴も似ている様だしの。リンデの町長にはわしから伝えておこう。お疲れ様じゃった」
そういえば、とアルドは考えをはせる。今回アットたちの冒険を見て、自分が冒険を始めたばかりのころを思い出したり、子供たちがさらわれたことに言葉にできない焦りを感じたり、いろいろと考えることがあった。村の村長、育ての親は、アルドが急に時空を超えたり、魔獣と戦ったり、東方に行くことになったりと、普通に生活していたらまず関わることのなかったであろう時空の旅、その話をしたとき、すんなり受け入れてくれたように見えたけれど、やはり心配してくれたりしたのだろうか。最近は危険な戦いが多くなり、出かける先もどんどん遠くなってきているため、呼び出されでもしない限り村に帰ってくることもほとんどない。
(もう少し、じいちゃんに会いに来るようにしよう……)
妹と共に親孝行に励もうと、そう思った。
その日の晩は皆で夕食を食べ、子供たちをそれぞれの家に送り届けた後、久しぶりに自分のベッドで眠った。見た夢は忘れてしまったけれど、次の日の朝は、めずらしく寝坊せずすっきりと起きることができた。子供たちは全員無事。ファントムも退けることができて、ひとまず及第点な依頼だったのではないだろうか。
朝食を食べて村長へ挨拶を済ませ、アルドたちは自分たちの旅に戻る準備をした。身支度を済ませて家を出ると、家の前にいたのはミグタムズのメンバーたち。出てきたアルドたちに気付いてアットが声をかけてきた。
「アルド兄ちゃん、エイミ姉ちゃん、サイラス兄ちゃん、リィカ姉ちゃん、俺……」
「ん? アットたちか。俺たち、そろそろ旅に戻るよ」
アルドは足を止めてアットの方を向く。旅の前に子供たちに挨拶ができそうで良かった。
するとアットは拳を握りしめる。
「そっか。そしたらまたしばらく会えないね。昨日アルド兄ちゃんたちと別れてからみんなで話したんだ。俺、いや俺たち、もっと強くなるよ!兄ちゃんたちは旅をしていると聞いていたけど、俺たちの想像なんかずっと超えて、大変だって知った。だから。自分たちの村くらい、アルド兄ちゃんの助けがなくてもいいくらい、しっかり守れるようになるから!」
力強く語ったアットの目に、もう迷いはなかった。まっすぐな目で、アルドたちを見つめてくる。強い意志を感じた。きっとアットは昨日、みんなに悩みを相談できたのだろう。詳しく聞くことはできないだろうが、見た感じ上手く相談することができたみたいでよかった。
「そうよ! バルオキーは私たちが守るんだから!」
「足を引っ張ることはもうないと誓おう」
「今回は本当に、ありがとうございました。もっと頑張ります!」
アットの誓いにチャコ、ネル、ツィオも同意する。初めと変わらぬ団結力。今までになかった困難にぶつかり、バラバラになって。もう一度再会できて、話し合い、彼らはまた大きく前進したのだろうと感じた。幼さが抜けない顔でありながら、生き生きとした表情が頼もしい。
「それだけ伝えておきたかったんだ! じゃあ、またね!」
「おにいちゃんたち、いつでもまたバルオキーに帰ってきてくださいね!」
「待ってるからね!!」
本当に伝えたかったことだけを伝えると、手を振りながら子供たちは去っていった。
――
子供たちが行ってしまった後、エイミが確信したように話す。
「きっとあの子たち、いまよりもっともっと強くなるわ」
「そうだな。俺たちも、負けてられないな!」
子供達が強くなっている、アルドはそれがとにかく嬉しかった。いつまでも憧れてもらえる様な自分でありたい。そのために。
「鍛錬でござるか? つきあうでござるよ?」
サイラスはいつもの調子でおどけている。
「ハイ! 早急に最適な鍛錬方法を検索シマス! ノデ!」
リィカはノリノリで続ける。
「そんなアバウトな検索でわかるの……?」
エイミがぎょっとした顔で返すと、リィカは頭のパーツを勢いよくくるくると回す。
いろんなことがあって、どんどん旅が長くなって。大変なことも多いけれど、たくさんの仲間に出会えた。今回の依頼を受け、子供達だけでなく、自分たちもまた大切なことを思い出し、忘れちゃいけないことを再確認した。成長できたのではないかと思う。
大事な人を助けるため、大切な人たちを守るため。自分たちが向き合わなければならない強大な敵を思い浮かべながらも、仲間とのひと時、頼もしい自分の故郷を守る精鋭たちの将来に思いをはせ、笑みがこぼれる一行だった。
――
昨晩、アルドたちと別れたアットたちは、アットの家に集まって何があったか話していた。
「そうなんだ。ツィオを助けに未来に行ったんだけどよ、何もかもみんな浮いてんの! もうすっげえの! 機械っていうらしいんだけど、なんかリィカ姉ちゃんみたいなのがいっぱいいてよ!」
「すごいねそれ! いいなあ! 今度たのんだらお兄ちゃんたち連れて行ってくれるかな!」
チャコが目を輝かせて話す。
すると少し考えた後、アットとツィオは顔を見合わせて苦笑いをする。
「いや、やめといたほうがいいんじゃないかな。正直、怖かったよ」
「あれはちょっと、もういいや。へへ、今が一番だと思うぜ!」
かなりの恐怖を味わった二人は未来旅行をオススメはしない。
「ふぅん、そっか。まぁ、アットたちが言うなら仕方ないね!」
チャコは残念そうだが、二人があまりにも真面目な顔をして言うので、やめておいた方がいいのだろうと理解した。
「それにしてもアルド兄様たちは想像していた以上の強さだったのだな」
ネルはじっくり英雄たちの戦闘を見ることはできなかった。しかしアットたちから話を聞く限り、想像していた通りの格好よさ、想像以上の強さだということが分かった。今度会うときは絶対、紙とペンを持っていくことを誓う。
「ああそうさ! ミグタムズの中で一番兄ちゃんたちの戦いを見たのは俺だけど、すごかった! ツィオも見ただろ、あのアナザーフォース!」
「見た見た! あれどうなってるんだろね!」
「お兄ちゃんたちの持ってた装備も気になったわ。きっと立派な武器やで作っているのよ! 明日村の武器屋に行って詳しく聞きましょう! 将来もつ武器の参考にするわ!」
戦いに関する意欲は貪欲なミグタムズ。話し始めるといつまでも続いていく。
自分たちが見たことのないような相手を前にしても、堂々と戦っていた大きな背中をアットは思い出す。とっさの判断で提案した作戦も信じてのっかってきてくれた。村の英雄、俺たちの憧れの兄ちゃんたち。多分いつまでも追いつくことはないのだろう。
「それにアルド兄ちゃんたちってさ、俺たちが思ってたより、ずっと遠くにいるんだ。強くて遠くて、きっと追いつくなんてできっこない。でもやっぱり、ちょっと手伝えるくらいにはなりたいよな」
「そうよね! アットの言う通りだわ! リーダー!」
「そのことなんだけど。俺、ずっと言えなかった悩み事があってさ。皆、聞いてくれるかな……?」
皆で無事に帰ってこれたら。その前提が達成された今、勇気を出して言いたいことを言ってみた。
少し沈黙があって、チャコが口を開く。
「何言ってんのよ、当然でしょ!? 何をいまさら。それで? 何が悩みなの!」
「むしろ今までそういえば悩みらしい悩みを相談することなんてなかったな。遠慮なくするといい」
「あら? 冷たいネルにいいアドバイスができるの?」
「うるさいぞチャコ」
いつもの調子になっていく女子二人。
気を取り直して、とツィオがアットに言う。
「戦いだけじゃなくてさ、もっといろんなこと、みんなで乗り越えていきたいな。僕は、今回そう思ったよ。それで、われらがリーダーのお悩みは?」
先ほどまで言い合いをしていたネルもチャコもぴたりと止まり、アットの方を向く。話を聞く気が満々だ。
俺が悩みを話しても、きっとみんなは受け入れてくれる。励ましてくれる。時には笑い飛ばしてくれるだろう。皆が仲間で良かった。大きな背中を持つ勇者たちの、いつか陰から支えられるくらい強く、俺たちはどこまでもいけると感じた。
少年少女冒険団 酒呑 旭 @shuden_a
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