生きようとして、生きてきたわけではなかった。死にそうになると、その方向、死に向かって突っ込んでいく。気付くと、生きている。そんな日々が続いて、今がある。

 仕事に不満はなかった。金はどうでもいいが、常に自分に彼女との繋がりを与えてくれる。

 普通に死にたいのではなく、彼女の、何かの役に立って死にたいのだと、最近気付いた。なるべく、他の誰にも知られず。ひっそりと。彼女のために死ぬ。そんな死にかたがいい。


「これを持っていけ」


 渡された指輪を、固辞した。


「エンゲイジは必要ありません」


 どうせなら、マリッジリングがいい。


「持っているからといって警察にいぶかしがられるわけでもないぞ。今回の件は管区も把握している」


「いえ。たぶん合わないので。俺の指のサイズ知らないですよね?」


 どうしても必要なら、彼女の分を先に買う。


「そうか」


 仕事の依頼を受けるのは、基本的に彼女で。自分は、その依頼を受けて動くだけ。彼女の選別した依頼なら、まず間違いはなかった。

 今回の仕事が終わったら、指輪を買いに行こうか。一緒に。


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炸裂する感情 春嵐 @aiot3110

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