第二話 『世界の常識』
「月葵、今、手元が光ったように見えたが、何をした?」
「もう会長ったら、いつもして差し上げているでしょう?
光属性上級小魔法【
ま、魔法・・・?
「何をふざけたことを言っているんだ、魔法なんて。」
「会長こそ何をおっしゃっているのですか?
昨晩なんて、土属性魔法で私の事を拘束なさってSMプレイをされたではありませんか!」
いや、確かにSMプレイはしたけど・・・
って、そんなことは今はどうでも良くて、月葵の表情から考えるに、どうやら嘘は言っていないように見える。
となると、本当に使えるのだろうか、魔法。
ひとまず、先程月葵が私にしてくれた【
発動の方法は・・・分からないが、とりあえず先程月葵がやったいたように、手を前に出して「ヒール」と言ってみようか。
「ひ、【
案の定私の手元から光が溢れ出し、手を向けた先、左肘のあたりにあった傷を癒した。
この傷は昨日、たまに湧く不良生徒の軍団を鎮圧したときに負ったものであり、それなりに深めの傷であった。
にも拘らず、この【
全く大した魔法である。
「会長、流石ですね、相変わらず素晴らしい魔法の威力ですね。」
「そうか?」
他人が魔法を使っているのを見たことがないから何とも言えないのだが・・・
「当り前じゃないですか。
【
「そ、それもそうだな。」
分からないので、とりあえず話を合わせておく。
これは早急に対処が必要だ。
今の私には魔法、ひいてはこの世界に関する知識があまりにも欠如している。
「月葵、魔法の使い方などが細かく書かれた本などはないかね?」
「あることにはありますけど、何に使うんですか?
まさか今更基本の復習なんてする訳ないですし・・・」
おっと、そのまさかなんだよ。
「ああもちろんそんな訳ないだろ。
私の親戚に魔法を覚えたいという子がいるのだが、学校に入れるにはまだ早いし、かといって私がつきっきりで教えてやる訳にもいかないしね。」
とっさに思い付いた言い訳だが、どうだ・・・
うまく騙されてくれるか・・・
「なるほどです!
さすが会長のご親戚、幼少の頃から勤勉なのですね!」
「なに、そんなものじゃないだろう。
単なる好奇心といったところだろう。
幼い頃というのはやけに好奇心旺盛なものだからね。」
「そういうことにしておきますね。」
よかった、何とかなったみたいだ。
「それじゃ悪いのだが、早速その本を用意してくれるかな?」
「わかりました!
すぐ戻りますから、少々待っていてください!」
「頼んだ。」
月葵の事だから一級品を持ってきてくれることだろう。
ひとまずこれで、魔法に関する情報は何とかなるだろう。
さて今度は、この世界についての情報が必要だ。
「八代君はいるかな。」
どこへ向けてというわけでもなく私は言葉を発する。
「お呼びでしょうか、会長。」
どうして私の声がどこにいても聞こえるのかは全く疑問なところだが、彼、八代遼太郎という人間は生徒会庶務にして私の貴重な相談役で、私が招集をかければすぐにどこからともなく現れる。
「うん、君にだから話そうと思うが、私は異世界転移とでもいうのだろうか、今の世界と見た目は全く同じだけれども、魔法が存在しない世界で生まれ育った記憶を持っている。
つまりだ、今の私にはこの世界についての知識がほとんどないと言えるだろう。
というわけで君には、私の認識とこの世界の理がどの程度合致しているか、また不足している知識について教えてほしい。」
八代君とはもう長い付き合いになり、お互いに信頼しあっている。
正直なところ、我が校ほどの大きな学園の長たる生徒会長の私が現状、記憶喪失といっても過言ではない状況にあるという事は、対外的には実に弱っているところである。
「なるほど、俄かに信じがたい話ではありますが、会長ともあろうお方がそんな冗談やら嘘やらをおっしゃるとは到底思えませんし。
わかりました、私の知る限りで全力でお教えいたしましょう。」
「ありがとう、実に助かるよ。」
「とんでもないです。
それではまずは、魔法の事についてなのですが・・・
八代君はまるで魔法が存在していなかった世界を知っているこの如く、わかりやすく丁寧に教えてくれた。
彼の話を要約すると・・・
この世界には「魔素」と呼ばれる魔法発動の源となる元素が空気中に存在し、これを体内に取り込み、「魔核」と呼ばれる臓器で各種エネルギーに変換することで魔法を発動させる。
「魔核」でのエネルギー変換に必要なのはイメージで、術者のイメージ次第で変換されるエネルギーの種類が変わってくる。
現状、暫定的に魔法には名前と区分分けがされているが、やはり必要なのはイメージなのであって、「ヒール」と唱えながら火属性魔法をイメージすれば、火属性魔法が発動される。
すべての生物は「魔素」を体内に取り込んでいるが、「魔核」との相性により変換できるエネルギー、つまり発動できる魔法の規模に限界がある。
単に魔法を使うことや、「魔素」を制御できなくなった生物「魔物」を殺すことにより「経験値」が得られ、この経験値がたまると魔法を発動させる者としての熟練度、「レベル」が上がる。
魔法には、イメージさえすれば誰でも使うことができる「通常魔法」と、イメージをしたところで生まれながらにその才能がないと使うことができない「固有魔法」がある。
自分の能力は「ステータス」という自身の意識によって可視化されるデータ票のようなもので確認でき、これは一律で「ステータス開示」という事により表示され、「ステータス」は「ステータスマシン」という、ステータスを他人に開示するための機械によらなければ他人に見られることはない。
というものだった。
長くなってしまったが、ロジックなどは省いたから内容は随分と減らしたものだ。
「なるほど、大体見えてきた。
ありがとう、また何かあったらよろしく頼む。」
「はい、いつでもなんなりと。」
そういって八代君はまたどこかへ消えていった。
今の私のステータスは、
「ステータス開示」
名前 : 天川秀星
種族 : 人間族
称号 : 三府之長
Lv : 99
体内魔素 : ∞ / ∞(6.02214076×10^23 used)
体力 : ∞ / ∞(6.02214076×10^23 used)
[ 通常魔法 ]
【全属性魔法】
[ 固有魔法 ]
【聖剣】【
[ 異常状態 / 補助魔法効果 ]
〈 魔力・体力多量消費 (due to 異世界転移)〉
[ 常時発動効果 ]
【
となっていた。
体内魔素と体力の上限値が∞って何なんだ・・・
それに、その消費値がモル数なのも若干気になるところだが。
[ 異常状態 / 補助魔法効果 ]に書いてある通りなら、やはり私は異世界転移をしたのか。
そしてその転移の際に多量の魔力と体力を使ったと。
まだまだ謎は多いままだということを痛感したところで、月葵と八代君が慌てた様子で生徒会執務室に駆け込んできた。
「「会長、大変です!」」
「二人とも一体どうしたというのだ。」
「月昇学園の連中が奇襲してきました。」
「なんだって!?」
彼女のハグから逃れたら、世界の常識がこんなにも変わっているのはなぜだ。 異世界転生者 @sahdaz_different-world
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