第16話 決断

 試合当日。

 控え選手や一年生も含め、全員が着替えて集合する。

 理恵はその時、翼の様子がおかしいことに気づいた。

「水谷」

 翼を呼んで、いきなり肘をグッと掴む。

「ちょっ、なにするんですか!!」

 翼は痛みに顔を引きつらせる。

「あんた、肘痛めてるでしょ」

「そんなこと……いてっ!!  ちょっと、やめてくださいよ!! もう!!」

 やっぱりだ、と理恵は思った。

 今までロクに練習してこなかったくせに、メンバーに選ばれて気合いが入ったのだろう。翼は猛練習をして腕を痛めたらしい。

「そんな状態じゃ、試合に出すことは許可できません」

「ええーっ。だいじょうぶですよ、これくらい」

 翼が不満そうに鼻を膨らませる。

 2人の話を聞きつけ、涼香がやってきた。

「やめときな。無理すると、来週の関ジャニ∞のライブ、行けなくなるよ」

「うっ……」

 翼が言葉に詰まる。

 理恵は翼の気が変わらないうちに畳み掛けることにした。

「それじゃあ、決まりね。代わりに私が……」

と理恵が言いかけると、涼香が口を開いた。

「わたしにやらせてください」

 いつの間にか他の部員たちも集まってきていた。

「鳥崎……」

 理恵は唇を噛んだ。

 確かに自分が出るよりは、涼香が出たほうが勝てる確率は高い。

 でも、もしここで負けたら……。

 先日の江里奈との対決のことが頭をよぎる。

 裕美が間に入って止めたからよかったが、あのまま続けていたら涼香は負けていたかもしれない。

 涼香自身もそれを十分に自覚していた。

 それなのに……。

 他の部員たちが理恵の次の言葉を待っている。

「わかった」

 理恵はつけかけていた弓掛けを外した。

「ありがとうございます」

 一礼して準備に向かう涼香。

 理恵はその背中に一言だけ言葉をかけた。

「鳥崎、中てろ」


つづく

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凛とした朝に。~朝見山大学女子弓道部物語~ @komagawa

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