第15話 雨

 大学の近くの喫茶店「L」。

 そこで涼香は江里奈と向かい合ってお茶を飲んでいた。

「今回の選手オーダー、納得いかないんですけど」

 江里奈はモンブランをフォークで器用にカットしながら言った。

 「今回のオーダー」というのは、立ちのメンバーに涼香を外して翼を入れたことについてである。

「まあ、最近不調だからね、あたし。妥当なとこだと思うよ」

 細い指でカップをつまみ、涼香はコーヒーを啜った。

「だからといって、水谷さんはナイと思いますけど」

 江里奈はなおも食い下がる。

「そうかなあ。翼も最近、がんばってると思うよ」

 涼しい顔でもう一口、コーヒーを口に含む涼香。

 江里奈はあまりにも様になっているその姿に思わず見とれた。

「鳥崎さん、もう弓道好きじゃないんですか?」

 江里奈の言葉にカップを持った涼香の手が止まる。

「何でそう思うの?」

 大きな目で見つめられ、江里奈は少したじろぐ。

「なんというか……カン、ですかねえ」

 その言葉に思わず噴出す涼香。

「なんじゃ、そりゃ」

 和らいだ涼香の表情を見て、江里奈もつられて「エヘヘ」と笑った。

「好きだよ、弓道」

 涼香は遠い目で窓の外を見つめる。

「でもね、なんか前とは変わってしまったのかも」

 外はいつの間にか雨が降っていた。

 喫茶店の前の通りを傘を持った人たちが行き交う。

 江里奈は「なにがあったんですか?」と聞こうとしたが、結局口にできなかった。

 その代わり、憂いを含んだ涼香の横顔をじっと見つめていた。


つづく

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