その先

ゆっくりと目を開けると、優しい光が降ってきて泣きたくなった。

 泣きたくなっただけで、なぜか涙は出てこない。なぜ?


 辺りを見渡すと、木がたくさん立っていて森のよう。少し目を遠くに向けると、川が流れていた。優しい場所。太陽の光が降り注ぎ、天空からは時々歌が聞こえてきた。なんの歌なのかわからないけれどこれまたとても気持ちよくて、ずっと聴いていたくなった。耳を澄まそうと手を動かしたつもりだけど、手の感覚がない。なぜ?


 「おいで。」


 穏やかな声が聞こえてきて、自然と体がそちらのほうまでふわふわと漂っていくのがわかった。木々の中にできたピンクや青の花畑の中に男の子とも女の子とも判別のつかない子どもがいた。その前で体が止まった。歩いたりすることができていないのに気付いた。どうしてこんな姿になったんだろう。


 「そろそろ旅立ちの日だね。」


 その子は柔らかく笑った。旅立ちと聞いても何もぴんと来ない。ただ、ずっと夢を見ていたような気がしていた。怖い夢も楽しい夢も、悲しい夢もたくさん見て、やっと夢から覚めた。そんなことだけはなんとなく覚えている。


風が吹いた。木の葉や、花びらが舞って彼方へ運ばれていく。その風に体が運ばれていくのがわかった。子どもの声がする。


「これからまた、辛いことや悲しいことが待っているかもしれない。けれど、愛してくれる人はいる。どうかそんな人と巡り合うんだよ。」


なんだか泣きそうな声だな。風に乗りながらそんなことを思った。風が吹く方向を見ると、だんだんと光が強くなっていくのを感じた。まぶしい。でもどこか懐かしい光だ。なんだかまた眠くなってきた・・・・・・。





「おぎゃ~おぎゃ~。」


光の先で、赤ん坊は産声をあげた。

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小品集 夏目シロ @nariko3

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