茜と真柴グレン蔵
30年後。
茜はテロリストチームだけではなく、国民全体からの評価を受け、気がつけば総理大臣の座に祭り上げられていた。
「総理、お時間です」
「ええ」
総理官邸から車で出発した茜は、車窓からぼんやり街の様子を眺める。
茜の30年間の努力は実り、『脱・ヘルメット法』は撤廃され、国民はまた激安ヘルメットを購入することができようになった。
街には、思い思いのヘルメットをかぶる若者で溢れている。
それに混じって––––布団圧縮袋をかぶる中高年世代もいた。
彼らは若者から「ダッサ」「普通に意味がわからない」と囁かれ肩身を狭そうにしながらも、それでも布団圧縮袋を自らの手で破ろうとはしなかった。
一時期最悪だったA国との関係はかなり改善したが、それでも布団圧縮袋の関税増加は避けられなかった。しかし、布団圧縮袋をかぶる国民は、街に必ずいるのだ。
茜は、布団圧縮袋をかぶる国民を見るたびに、真柴総理を思い出す。
車窓を少しだけ開けた。隙間から、爽やかな風が入り込んだ。
青空が見える。
この空の下のどこかで、真柴グレン蔵は布団圧縮袋をかぶっているのだろうか。
茜はこれまでの苦難の日々を振り返り、心の中の真柴グレン蔵に話しかけた。
「いや、やっぱり布団圧縮袋をかぶるのは頭がおかしい」
そう言って、茜はヘルメットをかぶった。
ヘルメットと布団圧縮袋と常識 ポピヨン村田 @popiyon_murata
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