過去編1 イヴァンの黒歴史(ウザイ編)
イヴァン・ゴルバチョフ。
15歳にしてナディエージダの中央学園を最年少で首席で卒業した神童である。
親族も代々、ナディエージダを統治している研究所の所長を務めていて、家柄も良い。コミュニティの統治者の御子息という事で、財力もあって生活に困ることなんて何もないだろう・・・・・・皆もそう思うだろう?
「友達が・・・・・・欲しい」
イヴァンには友達がいなかった。
今日も私は孤独感に苛まれながら公園で一人泣いていた。
「ママー、なんで大きいお兄ちゃんが一人でブランコに乗って泣いてるのー?」
「見たらダメよ!さぁ、帰りましょ!」
近所の親子にドン引きされた。
全然傷ついてなどいない。そうだ、あの子どもはブランコに乗りたいのだろうか?ならば譲ってやろう。ここで心優しいアピールをすればもしかしたら近くを通りかかった同い年ぐらいの誰かに見られて「キャーあの人って良い人だわ!友達申請したろ!」とか言われるかもしれない。よし、そうと決まったらさっそくこの席を譲るためにあの子どもに話しかけよう!
「うげっ、なんか近づいてきた!」
母親が何かを言って後退りしていたが、私はそれに負けない歩みで子どもに近づいた。
「おい、子どもぉ!そんなにブランコに乗りたいなら私が譲ってやらんこともないぞ!」
私はその子どもに指をさしてよく聞こえるように大きな声で言ってあげた。
「うぇーん!あのお兄ちゃんなんか生理的に無理だよぉ!」
「変質者だわ!」
母親が子どもを抱えてすごい勢いで逃げられた。っていうか何で子どもが生理的に無理とか言ってんだ。テンションのさげぽよがマジでやばいんですけど。
ふと、横を見てみたら金髪の女が突っ立っていた。
「うわ、子どもいじめるとかサイテー」
・・・・・・はっ?!
あれは同じ学園のナターシャ!
学園代表のトップワン、なんか先生と一緒に学校行事とか企画してるやつらの一人で、さらにその中でリーダーを務めている女だ。
私が陰の人間ならナターシャは陽のささるところのパリピだ。
いくら首席で卒業したとは言っても、みんなから推薦されて学園代表になったパリピには勝てない。きっと違う世界の住民なんだ。ここは黙って帰ろう。
「待ちなさいよ!子どもをいじめておいて反省もしないで帰るなんて私が許さないんだから!」
ナターシャに追いかけられた。全速力で走った。そして行き止まりに着いた。
「はぁはぁ、な、なんて脚力なの?!だけど、追いついたわ!覚悟しなさい!」
くそ、風紀員気質め!だいたい私は子どもなんていじめてないのに!なんでそこまでして私を追いかけるんだ!ハッ、もしかしてストーカーか!?
「お巡りさーん!誰かこの女を捕まえてくださーい」
「捕まるのはあなたよ!学園外だからってご近所に迷惑をかけるなんて、それも校則違反なんだからね!」
「勘違いのレベチがすごみざわだぜ」
「はぁ?何言ってんの」
ナターシャは苛々していた。苛々したいのはこっちだ。陰の人間に陽をささないでくれ、溶けちまう。
なんとかあのパリピを私から遠ざけなければこっちは細胞から分解してお亡くなりになっちゃうかもしれん。
そうだ!頭の中でピコーンと電球のイメージが浮かんだ。
私は指を口の中に突っ込んだ。
「うっ、おえっ・・・・・・!」
「ちょ、何してんのよ?!汚っ・・・・・・キャー!!」
人は、失敗した後に反省するものだ。
私は、きっとこういう行いの繰り返しで自分から友達を遠ざけているのだろうと・・・・・・後日嘆いた。
数日後、母親がナターシャの自宅を訪れて玄関先で謝罪会見が行われていた。
「本当、ごめんなさいね!うちの子ったら昔から人付き合いが苦手みたいで・・・・・・ほら、イヴァンも謝りなさい!」
「ワロス」
「・・・・・・はぁ?!」
ナターシャがキレた。
「イヴァンっ、いい加減にしなさい!」
母親にビンタされた。
「ちゃんと謝らないとスマホ没収するよ!」
それは困る。推し活できなくなっちゃう。
「ごめんなさい!もう本当にごめりんご!超反省してるんで、スマホだけは没収しないでください!」
「お母さんにじゃなくてナターシャちゃんに謝りなさいよ!!」
「あの、おばさん。もういいです」
ナターシャの目が死んでた。何かを悟った仙人みたいな顔してた、ウケる。
「きっとその人、反省できる能力が無いと思うんで・・・・・・もう、本当に大丈夫なんで」
バタン。玄関の扉を閉められた。
帰宅後、母親にスマホを没収された。
※
学園を卒業してから数週間後、自宅に白衣を着た男が訪れてきた。
「イヴァンくん、我々と共にゴルバチョフ研究所の研究員をやらないか?」
「ヤらない。悪いが、私にそういう趣味はないのでね」
フゥ、モテる男はつらいぜ。
隣で母親が頭を抱えて泣いてた。
「いや、イヴァンくん・・・・・・そういう意味じゃなくて、研究員として一緒に働かないかって誘ってるんだけど」
「なるほど、つまりは私に働けと!」
「そうだよ、やっとわかったか!」
「だが断る!」
ブチーン
白衣を着た男から脳の血管が切れる効果音が聞こえた気がした。
「ちょっとお母さん?!この子本当に中央学園を首席で卒業したあのイヴァンくんなの?!」
母親が泣きながら答えた。
「はい、この子です・・・・・・」
「働いたら負けっつってね、なんちゃって」
パァアン
また母親にビンタされた。頬っぺたそろそろ千切れそうだからマジやめて?あとスマホ返して?
「研究員に失礼なことを言わないの!やる気ないなら、やらないって普通に失礼のない言い方にしてちょうだい!」
「普通にやる気ないんで、お帰りくださいませ。てへぺろっ」
ドガッ
今度は母親に殴られた。ちょ、これって児童虐待じゃね?ポリスに通報していい?あとスマホ返して?
「お母さん、子育て大変そうですね・・・・・・」
白衣を着た男が母親に哀れむ視線を送っていた。違くない?哀れむのはこっちじゃない?私が殴られたんですけど。あとスマホ返しt
「イヴァンくん、研究員になったら環境も変わって、新しい友達もできるかもしれないよ?みんな年上だけど」
「なんだと・・・・・・?!」
つまりは研究員になればボッチを卒業できるってことか!モテ期到来!やべーこりゃやるしかないぜ!
というわけで私は研究員になることを承諾した。
※
翌日から私も白衣を着て研究所で働くことになった。子どもが白衣を着るとテンションが上がっちゃうので、あまり着せない方がいいって母親が言っていた気がするが、そんなものは無視だ。
「ぃよう、愚民共!今日から核兵器研究科で働くことになったイヴァン様だ!せいぜいご指導とかよろしく頼んじゃうと見せかけていらねーぜ!あっははは」
初出勤の挨拶で友達作りの第一歩が破壊された。っていうかここオッサンしかいないじゃん。オッサンの友達とかウケる。略してオッ友。
「ねぇ、誰があの子を採用したの?!そして何で白衣の下がパーカーなの?!しかも何でそのパーカーに無職って書いてあんの?!」
「すいません、採用したの僕です・・・・・・」
なんか研究員同士で喚いていた。
「いくら私が神童だからって、私のために争わないでっ!オッ友とかぶっちゃけいらないから!」
先輩に蹴られた。
「ごふっ、いいパンチだったぜ・・・・・・」
「パンチじゃねーよ!キックだよ、バカ!」
「あーッ、バカって言った!パワハラだ、訴えてやるぅー!!」
私はそこから走ってどっか行った。
研究員は「蹴られるよりバカって言われる方が嫌なんだ・・・・・・」とか言ってた。
※
走りきったところで迷子になった。
多分研究所のどっかだと思うけど、戻り方がマジでわからん。初出勤日にパワハラ受けるし、迷子になるしぴえん過ぎて笑えてきた。
もぅマヂ無理・・・死にたぃ、リスカしょ。
って呟きたくてもスマホが母親に没収されてるからできん。
「バカって、ちょ、本当にメンタルにくるよ?私、病むってマジで」
「ねぇ、何で私があんたなんかの愚痴を聞かされるはめになってんの?」
ナターシャが研究所に来ていた。
ちなみに豆知識だが、ナディエージダの学生は午前は仕事とかに出て、午後から学園に行くというスケジュールになっている。
そんな感じでナターシャも午前は研究所の清掃員として働きに来ていた。
研究所内で迷って偶然ナターシャに会ったので構ってもらっていた。異文化交流とかいうやつだ。たまにはパリピ文化にも触れないといけないもんな。私には博識というチャームポイントがあるので、それを精進せねばならない。こうしてパリピ知識を高めるのだ。
「ジョゼフィーヌよ、君は陰の人間について深く考えたことがあるか?」
「ジョゼフィーヌって誰?私はナターシャよ。この間私の玄関先で謝りに来てたじゃない、あんたのお母さんが」
「そうだったな、ジョイナソニーヌ。私は深く反省している。何故なら反省しておかないとスマホが返ってこないからな」
「せめて間違える名前を一定にしてくれる?」
ナターシャが苛々してた、ウケる。
「っていうか、そろそろ仕事戻りなよ。私も自分の仕事あるし・・・・・・」
「愚かなるジョピエールよ・・・・・・私は今、困っているのだ」
「困ってるって何が?」
「帰り道がわからん」
「え・・・・・・迷ったの?」
「うん、迷子の子猫ちゃんだぜ」
ナターシャは苛々しながら大きくため息を吐き、「仕方ない・・・・・・このままだと私も仕事できないし」とか呟きながら、私を核兵器研究科まで連れていってくれた。
やっべ、パリピ優しいじゃん。惚れた、結婚しよ。
※
パリピ属性のナターシャと結婚することを決めつけてから数週間が過ぎた。
ある日、私は研究所の入り口にある花壇からひまわりを引きちぎって、匂いを嗅いでから「くっさ!」と一人で叫んでナターシャの元へ走った。
「いやぁああっ来ないでぇえええ!!」
ナターシャは全速力で逃げてた。
そして、逃げ先が行き止まりに辿り着くと私は叫んだ。
「愛の告白だ!聞いてくれ!」
「ヒッ・・・・・・!?」
「私、イヴァン・ゴルバチョフは君を想うと股間の怪獣が爆発するぐらいちゅき・・・・・・あっ、噛んだ。好きだ!結婚してくれ、ジョゼフィアンヌ!」
「例えが気持ち悪い上に名前も間違ってる!」
そんな愛の告白から数年後、私とナターシャは実際に結婚することになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます