[3-4] 大親友?小夜ちゃんの秘密って…。
「さっきは失礼しました。勝手にお家にあがってごめんなさい。改めて……、初めまして。宝満日向と言います。小夜ちゃんとは、小学校のとき一緒のクラスだったんですけど」
「こちらこそごめんなさいね? 助けてくれてありがとう。小夜の母です。小夜の大親友がこんなに可愛らしい子だったなんて、ちょっとびっくり」
さて、あたしはいつから彼女の大親友になったのでしょうか。
陽の当たる応接室。
さっき小夜ちゃんが暴れていたリビングにもソファーセットがあったけど、そのうちひとつは小夜ちゃんがお庭に投げてしまったので、とりあえずこっちにって応接室に通された。
「ふん。あと少しで完成だったのに」
あたしの隣には、下唇を突き出しながら、片肘をついてふて腐れている小夜ちゃん。
「日向さん、紅茶でよかったかしら。いま準備させてるわ」
「え? あ、あたしはなんでも。あのこれ、あたしが作ったイチゴジャムです。きび砂糖で作ってるので、甘さは控えめなんですけど……」
「まぁっ、これ、あなたが作ったの? キレイな色ね」
うわー、実にお上品。
ほんと、『奥さま』って感じ。
お母さんはそれから、「ありがとう」って笑顔で言いながら立ち上がって、あたしから受け取った瓶詰ジャムをドアの外の誰かに手渡した。
どうやら、お手伝いさんみたいな人が居るみたい。
お母さんが立ち上がっている隙に、小夜ちゃんに耳うちする。
「で、なんで暴れてたの?」
ジトッとあたしに目を向けた小夜ちゃん。
「ふんっ。アタシの計画を台無しにしたからよ」
「計画?」
そうやってごにょごにょと小夜ちゃんと話していると、ソファーに戻って来たお母さんが、脚がついた大きなガラス皿をテーブルの真ん中に置いた。
おおっ?
見たこともないお菓子っ。
とってもキレイなクリスタルの脚付きお皿に、まったく読めない外国語が書かれた個別包装のお菓子がこんもりと盛られている。
そのうちのひとつを、小夜ちゃんがバッと乱暴に取り上げた。
うわっ、びっくりした。
バリリと包装を破って、チョコレート風のお菓子を口に押し込む小夜ちゃん。
「ママっ、アタシの計画を邪魔してどういうつもりなのっ?」
「計画もなにも、ママはそんなこと許した覚えはありませんっ。だいたい、ちょっと非常識すぎるわ」
「非常識ですってっ?」
どうも、小夜ちゃんがお母さんの許可をもらわないでなにかしようと計画して、それを怒られたって感じみたい。
「小夜ちゃん、いったい、なにしようとしたの?」
「ふんっ」
あたしと反対のほうへ顔を向けた小夜ちゃん。それを見て、正面に座っているお母さんが大きなため息をついた。
「日向さん、見て? 庭のあそこ」
お母さんが少し伸び上がって、さっきよりちょっとキラキラがおさまった芝の向こうを指さす。
見るとそこは、広いお庭の端っこ。
芝がめちゃめちゃに掘り返されて、土に埋め込まれていたと思われる真新しい角材が周りにたくさん転がっていた。
「あそこに、小屋を建てようとしたのよ?」
「小屋……ですか?」
小夜ちゃんの肩がグッといかる。
お母さんがもう一度ため息をついて、小夜ちゃんのほうへアゴを向けた。
「で、小夜? なにを飼うって言ったっけ?」
「……リ」
「聞こえないわね」
「……トリ」
「なんですって?」
なに?
なにかを飼おうとしたの?
突然、ガバッとお母さんのほうへ顔を向けた小夜ちゃん。
うわ、すごい顔。
「ううう、うるさいわねっ! ニワトリよっ! ニワトリっ!」
え? ニワトリ?
下唇を噛んで、「ううー」っと言いながら顔を真っ赤にしている小夜ちゃん。
「日向さん、聞いて? 小夜ったら、突然、『ニワトリを飼う』って言い出して、何度もダメだって言ったのに、勝手に芝を掘り起こして鶏小屋を建て始めちゃってね。大工仕事なんてできもしないくせに」
あたしがポカンと口を開けていると、小夜ちゃんがさらに身を乗り出してお母さんに喰って掛かる。
「小屋を建てるくらい楽勝よっ! ちゃんと動画で観たんだからっ!」
おでこに手をやって、さらに深い深いため息をついたお母さん。
「まったく意味が分からないわ」
「ふんっ! ひなのニワトリよりもっと美味しい卵を産ませて、もっともっと美味しい卵焼きを作るのよっ! そして、聖弥くんに食べてもらうのっ!」
うわ、そういうこと。
これも、あたしのせいだ。
うちのニワトリが産んだ卵の卵焼きだなんて、言わなければよかった。
鼻の穴を大きくして、プイッとあっちを向いた小夜ちゃん。
ソファーの背もたれに体を沈み込ませながら、呆れ顔で口を尖らせるお母さん。
「あのね? 小夜。こんな住宅街でニワトリなんて飼ったら、ご近所さんからどんな苦情が来るか分からないって言ったでしょ? 臭いだって出るし、朝の鳴き声だってものすごいのよ?」
「わ、分かってるわよっ! それでもアタシの卵焼きには必要だって思ったのっ!」
ガタガタとソファーを揺らす小夜ちゃん。
すごいトンデモ理論。
でも、ものすごく小夜ちゃんらしい。
もしかして、二週間も休んでたのって、このため?
「えーっと、その、小夜ちゃん? それなら、まず先に美味しい卵焼きを作れるように頑張ったらどうかな? あたし、卵焼きの作り方、教えてあげる」
「えっ? ホントっ?」
小夜ちゃんの動きが止まった。
瞳をキラキラさせて、ポカンとあたしのほうを見ている。
「うん。でも、あたしのは我流だから、小夜ちゃんが思う卵焼きと違うかもだけど。だから、ね? お庭でニワトリを飼うのは――」
「ひなっ! 女に
うわっ!
突然、立ち上がった小夜ちゃん。
眉をカモメみたいに吊り上げて、これ以上ないくらいの笑顔で思いきりあたしの腕を引っ張る。
「え? 行くってどこへ?」
「宝満農園に決まってるじゃないっ! アタシっ、準備してくるっ!」
バチッとあたしの腕を放って、小夜ちゃんがバタバタと応接室を出て行く。
いや、卵焼きの作り方なんて、ここでも教えられると思うけど。
勢いよく開け放たれた応接室のドアの向こうに、ポカンと口を開けているお手伝いさんが見えた。
お手伝いさんの手には、とっても上品なポットとカップ。
目を戻すと、小夜ちゃんのお母さんが頭を抱えていた。
「まったく意味が分からないわ。家どころか部屋からも出たがらなかったのに、日向さんに会ったとたん、自分から外へ行くって言い出すなんて。ごめんね? いつも小夜があんなで」
「いいえ。あたしは、その……」
「小夜ね、実は……、ちょっと理解と支援が必要な子なの」
理解と支援?
お母さんが、少し言葉を詰まらせて、ゆっくりと息を吐く。
「ちょっと難しい話だけどね? 小夜は、他人がどう感じているかを読み取れなかったり、興味や怒りが抑えられなくて他人と協調できなかったり、そういう社会性の一部が少し欠けている子でね」
お母さんはそう言いながら、「お菓子をどうぞ」ってあたしに手のひらを差し出した。
どう返していいか分からなくて、あたしは小さく「はい」と口だけ動かす。
「すごく情緒が不安定になったときは、もうどう話してもダメでね。あとは欲しいと言ったものを買ってあげて、やりたいと言ったことをやらせてあげるしかなくて……」
あたしは下を向いたまま、ぎゅーっとスカートを掴んだ。
「私が悪いんだけど、それを小さいときから繰り返してきた結果がこれ。高校だって、とうてい受かるはずもない名門私立高校を、受けたいって言うから何校も受けさせたけど……、当然、どこにも受からなくて」
顔を上げると、お母さんがちょっと顔を傾けて口の端をゆがませていた。
「でもね? なにを考えているか理解に苦しむけど、思い描いた夢がいつもハッキリしているのだけはいいのよね。いつも、その夢に向かってまっすぐ」
「素直ですよね。そしてすっごくアツくて」
「そうね。そこだけは感心。ここのところずっと変わらないのは、聖弥くんの歌をちゃんと両耳で聴きたいってことかしらね」
両耳?
三条くんがもう一度ステージで歌うために、めいっぱいその応援をしているって話は聞いてたけど。
「あら、大親友なのに話してないのね。小夜、右耳が聞こえないの。そして、左耳もだんだん聞こえなくなっててね。だから声が大きいのよ?」
えっ?
あっ、だから耳鼻科で「様子を見ましょう」って言われて怒ってたんだ。
「聖弥くん、UTA☆キッズに出る前は、教会の聖歌隊に入っててね? あそこの、緑の屋根の教会、知ってるかしら」
「え? あ、知ってます。あたしも保育園のとき、あそこの聖歌隊の歌を聴きに行ったことがあります」
「そう。小夜も幼稚園のとき聴きに行ったんだけど、そのとき、聖弥くんがソロをやったの。小夜ったらその歌に感動したみたいでね」
三条くんがやってた聖歌隊って、あの教会の聖歌隊だったんだ。
「幼稚園でちょっといじめられて不登園になりかけてたんだけど、聖弥くんの歌に勇気をもらったみたいで、それからはとっても元気に登園するようになって」
小夜ちゃん、いじめられてたの?
あたしが聴きに行ったのは、たった一度だけ。
保育園の『クリスマスお遊戯会』のちょっと前で、本物の合唱を聴きに行こうって感じで、教会の催しに年長さんみんなで参加させてもらった。
『日向ちゃんは、花束を渡す役ね。先生が「はい」って言ったらまっすぐ歩いて行って、一番前の真ん中に居る男の子に、この花束を渡すのよ? いい?』
真っ白な服を着た聖歌隊の男の子たちが、マリア様の像の横に並んで、とっても素敵な歌声を聴かせてくれた。
もしかしたら、あの中に三条くんも居たのかも。
「だから、もう一度、両耳で彼の歌を聴きたいっていうのが、小夜の夢なのね」
言葉が出ない。
小夜ちゃん、それで三条くんの応援をしてたんだね。
「でも、やっぱり小夜は難しいわ。喜怒哀楽がハッキリと読み取れたり、正義感が強いところはすごくいいんだけど。お金を拾ったりしたらすぐ交番へ駆け込むし」
あ……、その節はお世話になりました。
「今日は来てくれてありがとう。実はね? 学校に行かなくなってからずっと、小夜が一番楽しそうに話をするのは、あなたと、あなたの弟さんたちのことだったのよ?」
へ? あたしのこと?
「あなたが作った夕ご飯が美味しかったとか、弟が可愛かったとか……。自分も料理を覚えたい、イチゴや野菜を育てたい、美味しいジャムを作りたい……、そして、その続きが、あのニワトリ小屋」
うわぁ、非常に申し訳ない……。
「単純よね。そして、ニワトリの次はイチゴ作り……。鶏小屋の横に温室を作って、そこでジャムにするイチゴを作るんだって」
眉をハの字にした、小夜ちゃんのお母さん。
「いつも小夜はいろいろと理由をつけて、できないんじゃない、たまたまできなかっただけだって言い張るんだけど、なぜか今度は言わないのよね。自分もできるようになりたいって、そればっかり言うのよ」
お母さんがすっと目を上げて、まっすぐにあたしを見た。
「たぶん、あなたに会ったから。きっと、あなたがすごいんだと思う」
「えっと……、あたしはそんな」
そう言って肩をすくめて首を振ると、お母さんは今までで一番の満面の笑みになった。
「だって、聖弥くんがプロポーズした女の子だもんね」
い?
どどど、どうしてそれを。
思わず、ハッとして下を向く。
どぎまぎとして言葉を捜していると、お母さんはクスクスと笑いながら、そっとあたしの顔を覗き見上げた。
「ふふふ。小夜が、あなたになら聖弥くんを任せられるって、そう言ってたわ。日向さん? これからも、小夜のこと、よろしくお願いします」
「は、はい」
思わず背筋を伸ばした。
お母さんはニコリと笑ったあと、ドアのほうへ目をやる。
「もう、紅茶まだかしら」
その瞬間!
ドドンと激しく開け放たれたドア。
一瞬、ドアの外に、茶器を乗せたトレイを持ったまま、泣きじゃくっているお手伝いさんの姿が見えた。
そして、その手前に突然飛び出してきた、彼女。
「ひなっ! お待たせっ! さ、行くわよっ?」
うわ、なにその格好。
ひらひらが付いた、レースのカーテンみたいなワンピース。
お料理するにはちょっと邪魔かも。
お母さんがまた、深いため息。
「はぁ……。やっぱり分からないわ」
「その角を曲がって……、あ、ここです。その卵の自動販売機のとこから入ってください。木がトンネルみたいになってるんで」
「ああ、ここが入口なのね。覚えておくわ。あら、素敵な古民家ね。じゃ、小夜? あまり日向さんに迷惑を掛けないようにね?」
「うるさいわね。さ、ひな、行くわよ」
ピカピカの立派な車。
小夜ちゃんのお母さんが運転する車に揺られて帰宅を果たすと、ちょうど庭で翔太と晃がキャッチボールをしていた。
翔太、すごい顔。
晃もびっくりしている。
「うわ、鷺田川じゃねぇか。こここ、これはどういう風の吹き回しだ」
「ああっ、小夜姉ちゃん、いらっしゃい」
車に駆け寄る晃。
ドアを開けた小夜ちゃんのエスコート役をやるつもりみたい。
ほんと、三条くんを連れて来たときとは大違い。
「じゃ、小夜ちゃんをお預かりします」
あたしと小夜ちゃんを玄関前で降ろすと、お母さんが運転する車は颯爽と雑木林のトンネルへと消えて行った。
車を降りた瞬間、小夜ちゃんがダダッと駆け出す。
「あっ、小夜姉ちゃん、どこ行くんだっ?」
手を伸ばしたまま、ポカンとしてその背中を目で追う晃。
「なんだ? あいつ。ずっと学校休んでたくせに」
あたしの横へ来た翔太が、じとりと小夜ちゃんを睨みながらそう言ってあたしにアゴを向けた。
「なんかね? 小夜ちゃん、ニワトリを飼いたいんだって」
「はぁ?」
見ると、小夜ちゃんが鶏小屋の前に腰をかがめて、小屋の中を覗き込みながらじっとしていた。
「あいつがニワトリ飼ってどうするんだよ」
「美味しい卵焼きを作りたいって」
「なんだそれ」
「あはは」
思わず笑ったあたしの顔を不思議そうに眺めながら、翔太は晃にグローブを放り投げた。
「ま、いいや。俺には関係ねぇ。日向、向こうのハウスのオクラ、定植やるって言ってたろ? 今日、いまからやっとこうか?」
「え? ありがとね。でも……、今日はいいかな。その代わり、翔太、よかったら小夜ちゃんの卵焼きの味見役してくれない?」
「毒見役っ?」
しかめっ面の翔太。
あたしは真剣な顔で見つめ返す。
「小夜ちゃん、あたしたちしか友だちが居ないみたいだから。ね?」
向かい合った無言。
しばらくして、じっとあたしを睨みつけていた翔太の目がゆっくりと大きくなって、それからまたすっと怖い目に戻った。
「どうしろってんだ」
「ごめん。あたし、お台所を片付けてくる。その間、ちょっとだけ小夜ちゃんの相手してて?」
「ケンカになるぞ?」
「あたし、ふたりが仲良くケンカしてるの見るの、とーっても好き。あー、でもここのところちょっと寂しいかなぁ。小夜ちゃんがなかなか学校に来てくれないからねぇ……。ね? 翔太」
「はぁ……、面倒くせぇなぁ」
翔太はちょっと口を尖らせながら、横でポカンとしている晃の手からグローブとボールを取り上げると、「家に入ってろ」とアゴをしゃくった。
ちょっとびっくりしている晃。
晃の背中をポンと押したあと、ゆっくりと小夜ちゃんのほうへ庭を歩いていく翔太。
居間では、陽介と光輝がテレビを見ながら、あたしが出掛ける前におやつ代わりに作っておいた焼きおにぎりをほうばっている。
土間からちょっとだけ顔を出して覗くと、庭の向こうの鶏小屋の前に、金網に張り付くようにしてしゃがんでいる小夜ちゃんの後ろ姿が見えた。
スカートの裾が地面についている。
その手前、玄関のほうから庭を歩いて来た翔太が、小夜ちゃんの後ろからその背中に声を掛けた。
「おい、鷺田川」
すごい顔をして振り返る小夜ちゃん。
「なによ。ジャガイモのくせに気安く声掛けるんじゃないわよ」
「俺はデコボコしてねぇ『メークイン』のほうな。なんだ、お前、ニワトリ飼いてぇんだって?」
「え? えっと、……うん」
すると翔太がグローブとボールを抱えたまま、鶏小屋の前でしゃがんでいる小夜ちゃんの横に並んで立った。
翔太がゆっくりと小夜ちゃんを見下ろす。
「俺、ニワトリの飼い方知ってるぞ? なんなら教えてやろうか?」
「えっ? ほんとっ?」
「ああ。ただ、俺とキャッチボールがちゃんとできたらな」
「はぁ? なんですって?」
ぐぬぬと口をゆがめた小夜ちゃんが、ガバッと立ち上がる。
「やったことはないけどっ、アタシにできないことなんてないわっ。やってるところは何度も見たことあるしっ」
「そうか。なら、ちょっとやってみようぜ。日向が準備できるまで」
ニヤリと笑った翔太が、小夜ちゃんに優しくグローブを手渡した。
「これ、どっちの手にはめるの?」
「そこからか……。ま、できなくても恥ずかしいことはなんもない。知らねぇことは知らねぇし、できねぇことはできねぇんだ。ほら、投げるぞ? 取れよ?」
「なにが言いたいのよっ!」
肩を揺らす翔太。
それから後ろ向きにさがりながら、翔太は優しく優しくボールを小夜ちゃんに放った。
「あんっ」
構えたグローブにかすりもしないで、ストンと小夜ちゃんの足元に落ちたボール。
「たっ、たまたま手元が狂っただけよっ! ちゃんとできるんだからっ!」
「できないことはできない、知らないことは知らないって言えるほうが偉いってコーチが言ってたぞ? 見栄を張ったり知ったかぶりをしても、なんにも得にならねぇって。『ガオカ』には多いもんな。そういうやつ」
「アタシは見栄なんか張ってないっ!」
思いきり両手を下に突き下ろしてそう言い返した小夜ちゃんが、それからパッと身をかがめてボールを拾った。
翔太がぐるぐると肩を回しながら、続けて言う。
「知らないできないは恥ずかしいことじゃないってよ。知ろうとしないこと、できるようになろうとしないことが悪いんだってさ」
小夜ちゃんがハッとした。
大きく見開いた目をすっと下へ向けて、グッとグローブを胸に引き寄せる。
「おい、どうした? 思いきり投げ返していいぞっ?」
固まっている小夜ちゃん。
よく見ると、なにかごにょごにょと口を動かして、小さく独り言を言っている。
「おーいっ、鷺田川っ?」
「うううっ、うるさいわねっ! こんな狭いところじゃ思いきり投げられないわっ!」
「そうか? うーん、そうだな。じゃあ、明日、学校のグラウンドで思いきり投げさせてやろうか。放課後、野球部の部室に来いよ。あ、まぁ、二週間もサボったやつが簡単には来れねぇだろうけどなぁ」
「なっ、ななっ、なんですってぇぇぇーーーっ!」
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