第44話 魔王会議
アダリナが天使に襲われてから、一週間ほどが経った。
今日は久しぶりに魔王会議、つまり魔王のリディと四天王全員が集まる会議だ。
……めちゃくちゃ気まずいんだけど、アダリナと会うの。
はぁ、あいつになんかよくわからないけど好かれて、告白されて……しかも、キスまでされてしまった。
俺がファーストキスって知ったら、あいつなんかめちゃくちゃからかってきたし。
ガルディオス様くらいしか、俺が女性経験ないこと知らなかったのに……。
まさか同僚のアダリナに知られるとは、思わなかった。
マジであいつとどんな顔をして会えばいいかわからない……。
別にキスしたけど付き合ってないし、結婚もしてないし……。
どうすればいいのかわからないまま、俺は魔王城の玉座の間に来た。
すでに俺以外の全員が集まっているようだ。
「すまん、遅れた」
ちょっと……行くかどうかすごい迷って、仮病使いたかった。
玉座にはリディが座っていて、その前に四天王の俺達が並ぶ。
俺の隣にはイネスとディーサ、ディーサの隣にアダリナがいる。
隣に立つのが少し気まずかったので、この並びでよかった……。
「集まってくれて感謝するぞ、お前ら。今回はお前らに伝えることがある」
俺たちが揃って、リディが玉座に座ったまま話し始める。
「つい先日、この魔王城に天使が六人侵入した。我とディーサでそいつらはすでに始末したが……やはりあの天使族というクズ一族は、この世にいらんと我は思う」
「っ……魔王様、つまりそれは……」
イネスが次の言葉を察しながら言うと、リディは頷く。
「ああ、我の代で、天使族は滅亡させる。それをお前らには、協力して欲しいのだ」
そう言ってリディは、玉座に座ったまま頭を下げた。
それには俺だけじゃなく、イネス達も驚いた。
まさか魔王であるリディが、四天王の俺達に頭を下げるとは。
「我だけではおそらく不可能だ。だから四天王、お前らの力を借りたい」
「リディ、頭を上げろ」
俺はリディが頭を下げているのを見ていられなくて、そう言った。
生まれた時から知っていて、俺の親友であるガルディオス様やリリー様の娘、俺にとっても娘同然の子に、そんなことで頭を下げさせるのは、どうも耐えられない。
「俺も同じことを思っていた。天使族は昔から、人族や魔族関係なく人を襲ってくる。俺もリディと同じ思いだ」
「シモンちゃん、うちを助ける時も言ってたもんね」
「あ、ああ、そうだな」
アダリナに話しかけられて少しどもってしまったが、とりあえず喋る。
「俺はもとより、魔王であるリディの命令には従うさ」
「も、もちろん、ボクも、四天王であり、魔王様には忠誠を誓っておりますので!」
「私も、魔王様の命に従うまでです」
「うちも、天使族にはいろいろやり返したいしねー」
その言葉を聞いて、リディは口角をあげて笑った。
「そうか、お前らの言葉、忠誠、嬉しく思う。ではこれより、我ら魔王軍の目標を、天使族滅亡と掲げる」
その言葉に、俺達は「はっ!」と声を揃えて頷いた。
「シモンちゃん、頑張って天使族を滅亡させようねー」
「うおっ!?」
しっかりとした会議が終わり、軽い雑談をしながら玉座の間で話していた時。
アダリナが後ろから俺に抱きついてきた。
「そうしたら一緒に暮らしたいなぁ。ねっ、前にも言ってたもんね」
「いや、そんなこと言ってないだろ。というか、は、離れろ」
「えー、みんなで一緒に静かに暮らしたいって言ってたじゃん。だから一緒に屋根の下暮らそうよ」
「それは全員の同じ家という意味で言ったわけじゃないんだが」
そんなことを話しながらも、アダリナは抱きつくのをやめない。
前までは全く意識してこなかったが、告白されて初めてアダリナのことを女性として意識してしまう……柔らかい胸が俺の背中に当たっている。
「ア、アダリナさん!」
「んー? なに、イネスちゃん」
イネスが俺の背中に抱きついたままのアダリナを少し睨みながら、話しかけていた。
「シ、シモンさんから離れてください! こ、困ってますから!」
「えー、だけどシモンちゃんも嬉しいんじゃない? ほら、女性経験がないみたいだからさ、うちみたいな女の子にくっつかれたら」
「お、お前、ここで言うなよ!」
「あっ……あはは、ごめんなさーい」
アダリナの言葉に俺が叫ぶと、アダリナが軽い感じで謝ってきた。
他の奴らには知られたくなかったのに……!
「えっ……シ、シモンさん、女性経験ないんですか?」
「イ、イネス、いや、そのだな……!」
まさか息子同然であるイネスにそんなことを聞かれるとは……泣きたい。
俺の様子から本当にないとわかったのか、イネスは顔色を変える。
「も、もしかして、男性経験はおありなのですか……?」
「えっ、シモンちゃん、ソッチ!?」
「いや違う、それは断じて違う」
それは俺の名誉にかけて否定しておく。
いや別にソッチの方を否定するわけじゃないが、俺は決して同性愛者ではない。
「そ、そうですよね! だけどその、それだったらそれでも、今のボクのままでもいけたからよかったかもしれないけど……」
「ん? イネス、何か言ったか?」
「い、いえ! なんでもありません!」
小さい声で聞こえなかったが、どうやらただの独り言のようだ。
「ボ、ボクも女性経験とかないので、シモンさん、大丈夫です!」
「うっ……そ、その、慰めなくていいぞ。むしろ悲しくなるから……」
「あっ、も、もちろん、男性経験もありません!」
「うん、それはよかったわ」
イネスが男性経験があったら、それはそれでなんか犯罪臭がするし。
「うちも男性経験ないよぉ、女性経験もね。だからシモンちゃんが初めてだから」
「うっ、そ、そうか」
俺にまだ抱きついているアダリナにそんなことを言われて、少しドキッとしてしまった。
「……んんっ、私も、どちらも経験はないな」
「えっ、ディーサちゃんもそうなんだ」
「いや待て、なぜディーサも暴露したんだそんなことを」
まさかディーサがこんな場でそんなことを言うなんて……しかもディーサも経験ないのか。
意外だな、こう言っちゃなんだが、顔もスタイルもいいし、性格もカッコよくていいから、男性からも女性からもモテそうなんだが。
何やら俺のことをチラチラと見てくるが……えっ、何、どういう意味の視線なの?
「……これは、我も言う流れなのか?」
「いや、別に言わなくていいぞ。むしろリディは言うな」
あまり親友の娘、自分の娘同然の子からそんな話を聞きたくない。
しかもそれが経験ありの方だったら、なおさら嫌だ。
「ちょ、ちょっと待ってください……その、今、アダリナさん、なんて言ってました?」
話の流れを遮って、イネスがアダリナに問いかけた。
「ん? なんのこと?」
「シモンさんが、初めてって……」
……あっ、それは。
「ああ、うち、シモンちゃんとファーストキスしたんだぁ」
「えっ……」
「おまっ!?」
だからなんでお前はこの場でそんなことを言うんだ!
「そ、それは、シモさんとアダリナさんが、つ、付き合ったってこと、で……」
「ふふっ、違うよ。キスをしたのも、うちからほとんど無理やり、というか意表を突いてした感じだしね」
「そ、そう、なんですね……」
「だけど……お互い、初めてだったんだよね?」
そんなことを言って笑いかけてくるアダリナに、俺は顔が熱くなる自覚をしながらも目線を逸らす。
「うぅ……アダリナさん、ひどいです……ボクの気持ち、知っておきながらぁ……!」
イネスが涙目になりながらアダリナを睨んでいた。
ど、どういうことだ、なんでイネスが……はっ!
も、もしかして……イネスは、アダリナのことが好きなのか……!?
お、俺は、息子同然であるイネスの好きな人を……!
「シモンちゃん、多分今シモンちゃんが考えてることは、違うからね」
「えっ……ど、どうしてお前、俺の考えてることがわかったんだ?」
「すごい顔に出てたから」
アダリナは俺の側から離れて、イネスの近くに行く。
何やら二人で小さい声で喋っているので、全然二人の話が聞こえない。
「ごめんねイネスちゃん。だけどシモンちゃんが悪いの、あんなにカッコいいから」
「うぅ……それには、同意ですけど」
「ふふっ、でしょ? それにうちは、抜け駆けするつもりじゃないよ?」
「えっ……」
「別に一夫一妻じゃなくても、一夫多妻でいいんじゃない? それならうちもイネスちゃんも……もちろんイネスちゃんは性転換魔法を作らないといけないけどね。それに、魔王様はもちろん、ディーサちゃんもさっきの反応を見る限り……」
「た、確かに、アダリナさんがいなくても、ライバルはたくさんいました……それなら、みんなで一緒になった方が……ボクは、シモンさんの近くにいられれば、いいですから」
「みんなで愛し愛された方が、楽しいもんね」
……何やら二人は話し合った結果、目線を合わせ頷き合い、握手をした。
何が起こったのかわからないが、二人の間で何か解決したようだ。
「……シモン」
「んっ? な、なんだ、ディーサ。なんか雰囲気が怖いのだが……」
「貴様、アダリナに、不意を突かれて……キ、キスをされたのか?」
「んんっ!? ま、まあ、そうだが……」
まさかディーサにそんなことを聞かれるとは思ってもいなかった。
俺が答えると、ディーサはさらに怖い雰囲気になってしまった。
「貴様……そんなものすら避けられないほど腑抜けているのか?」
「……えっ? いや、その、腑抜けているわけじゃ……」
「じゃあ何だ、貴様はアダリナからのキスを避けなかったのは、されたかったからだというのか?」
「い、いや、そうとも言ってないが……」
「では貴様が避けられなかったのは、腑抜けていたからだ! このたわけが! 貴様のその腐った身体を叩きのめしてやるぞ!」
「うおぉぉい!?」
いきなりディーサに本気で殴りかかられ、慌てて身を逸らして躱した。
マジであいつ、本気のパンチだった……腹にどでかい穴が空くところだった。
「ちょっと待てお前! ここ魔王城の玉座の間だぞ! 場所を考えろ!」
「ディーサ、構わない。むしろ我も参加しよう、アダリナのキスすら避けられないた者には、もっと鍛えてもらわないとな」
「感謝します、魔王様」
「嘘だろリディ!?」
なんでリディもディーサと同様、怒ってるんだよ!
その後、数十分ほど俺は魔王のリディと四天王のディーサに、結構本気で追いかけ回された。
しかもリディが魔王城を操って、玉座の間から出られないようにしたので、なおさらキツかった。
イネスやアダリナが止めてくれなかったら、本当に死んでいたかもしれない……。
やはり本当に四天王を引退したくなってきたが……。
どうやら俺の四天王の生活は、まだまだ続くようだ。
【完結】四天王最弱の俺が、次期魔王? 〜最弱なので追放される…と思いきや、魔王や他の四天王からめちゃくちゃ慕われてた〜 shiryu @nissyhiro
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