第43話 シモンの弱点?



 二人を倒したシモンは、アダリナのもとへと急いだ。


「アダリナ、大丈夫か?」

「……大丈夫、とは言えないけど、無事だよ」

「そうか、よかった」


 シモンは出来うる限りの魔力を込めて、回復魔法を使う。

 先程も使ったが、戦う前だったので魔力を残しておくため、本当に応急処置程度でしかやってあげられなかった。


 なので今度の回復魔法で、全快とまではいかないが、六割程度の魔法は回復した。


「ありがとう、シモンちゃん」


 アダリナはそう言いながら立ち上がった。


「あとでイネスを呼ぶか。イネスなら多分全快まで回復してくれるだろうし」

「ううん、これはうちが自分で治すよ」

「そうか? 別に遠慮なんてしなくても」

「うちが油断して、未熟だったから出来た傷だからね。大丈夫、一週間もすれば全部傷跡も残らずに全部治るよ」


 自分の未熟さが招いた今回の天使襲撃の事件、助けられただけじゃなく傷まで他の四天王に治してもらっては、四天王として失格だろう。


(それに……イネスちゃんは今後、ライバルになるからね……)


 下を向きながら、口角を一瞬だけ上げたアダリナ。


「シモンちゃん、助けにきてくれて本当にありがとうね」


 真正面からシモンに笑顔を向けながらそう言うと、シモンも少し照れ臭そうにしながら、軽く笑みを浮かべる。


「前に言っただろ、お前も俺が守りたい奴の一人だからな。無事でよかったよ、アダリナ」


 シモンはそう言ってアダリナの頭をポンポンと照れ隠しをするように撫でた。


「っ……ふふっ、うん、ありがとう」


 アダリナはその一言で……いや、その一言の前に、すでに落とされていたが、なおさら深い穴に落とされてしまった。


(あーあ……もうこれは、絶対に、後には引けないなぁ)


 四天王アダリナ、二十歳……初めての恋だった。


(うち……絶対に、狙った獲物は逃さないんだからね)


 そう思いながら、アダリナはその獲物……シモンに狙いを定める。


「シモンちゃん、お礼したいんだけど、いいかな?」

「ん? いや、だから別に大丈夫だぞ。同じ仲間として、当たり前のことをしただけなんだから」

「ふふっ、そっか。だけどうちの気持ちが高鳴って収まらないから、勝手にするね」

「はっ? どういう……」


 真正面から見ていたアダリナの顔が、急に近くなる。


 それに驚き顔を後ろに逸らそうとするが……アダリナの腕がシモンの首に巻きつき、逃さない。


 そしてそのまま、唇と唇が重なった。

 一秒、二秒ほどくっついていたか。


 驚き固まっていたシモンだが、ハッとしてすぐに顔を離して距離を取る。


「ふふっ、ご馳走様、シモンちゃん」

「な、何をして……!?」

「わかるでしょ? キスだよ、キス」

「い、いや、行為自体はわかるが、行為をした意味がわからん」

「シモンちゃんのこと、好きになっちゃった」

「は、はぁ!?」


 顔を真っ赤にしながら声を上げるシモン。

 それを見て「可愛いっ」と思いながら距離を詰めるアダリナ。


「シモンちゃんが悪いんだよ? うちのこと完全に落としにきてたでしょ」

「な、何を言って……!」

「だからシモンちゃん、覚悟しててね。これからうち、シモンちゃんを落としにいくから」


 アダリナは頬を赤く染めながら、綺麗な笑みを見せた。


 それにさらに顔を真っ赤にするのはシモンだった。

 だがシモンの様子を見て、アダリナはさすがにおかしいと思い始めた。


 いくらなんでも、いきなりキスをされたくらいで狼狽えすぎなのでは、と。


 そして……突拍子もないことが頭に浮かんだ。


「えっ……シモンちゃん、もしかして、キス初めてとかだったりする……?」

「うっ!?」

「う、嘘でしょ……!?」

「……な、なんだよ、悪いかよ」


 四天王の一人、シモン、年齢は三十半ば。

 いまだ……彼女いない歴=年齢であった。


 ガルディオスと子供の頃からずっと過ごし、刀に人生を捧げてきた男。


 四天王になってからも仕事で忙しく、修行もし続けたからか、恋愛などする暇はなかった。


 つまり――女性経験、皆無。


「――っ! 可愛い! 好き! シモンちゃん、結婚しよ!」

「は、はぁ!?」

「うちもファーストキスだったし! ファーストキス同士結婚しようよ!」

「ちょ、ちょっと待て、いきなり何言ってんだ!?」


 その後しばらく、アダリナが逃げ続けるシモンを両手を広げて捕まえようとする姿があった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る