第Ⅴ章 Fight for loved ones

前置き


皆さんは覚えているだろうか。

十六話 Love letterの時にでてきた

『三枚の紙』


二十一話 十二月のパラドックス 決戦の前兆


「紅葉の季節だな」

僕は紅葉公園の木に寄っかかって呟いた。ここで告白されて早二ヶ月……か

「早いもんだな」

僕が退学してから、既に一ヶ月経とうとしていた。彼方にも説明してあるし、なにより、

「Dreamerとの最終決戦だし……元々長期の学校の休みを取るべきだったから変わらないな」

僕は木の幹を撫でる。いつものザラザラした感触だった

「お前はいいよな。人間が死のうと寿命尽きるまで生きていられるんだから」

僕はそろそろ死ぬかもしれない、と感じていた。前の失敗前提のミッションだってそうだ。(六話参照)あれは実を言うと、僕にしかできないとは、僕しか人手が居なかった、ということでは無い。あれは「Number.2一人でこちらに送れ。さもなくばNumber本部を襲う」というDreamerの脅しだったのだ。やり返したけど。

「……クリスマスが、灼熱の海になるわい……」

僕は冷たい風に吹かれながら呟いた。風に乗せて落ち葉が宙を舞う。

「まあ、彼方には迷惑かけないようにしないとな」

僕は木の幹を蹴る。ボロボロの幹がパラパラと落ちる。

「僕の命も、この木のように、そろそろ尽きるのかな?」

僕はそろそろ死ぬと思う。これは、如月敦人と戦うだけで可能性が高い。如月敦人というのは名前だけで、僕達にとっては他は全く知らない。

「よもや戦闘能力が僕より上とかないよな?」

戦闘能力が僕より上の可能性も、全然ありうるのだ。

「この足も治ったし、そろそろ殺るか…」

この足は、退学して二週間で復活していた。もう自由に走れる。これで如月敦人と闘う準備は万端だが、

「攻め込む用意がなあ…」

僕は攻め込む策がある訳では無い。僕はため息をつく。今暗い顔をしているだろう。まったく、姉さんと策の一つくらい考えて欲しいもんだ

「…今日も太陽が燃えているなあ……」

僕はそう呟いた。太陽は燃えている。いつも、いつも。…僕の命の灯火はいつか消えるのにねえ…太陽は何十億年も燃え続ける。

「なら、僕は残りの灯火を使い切らなきゃ損だよな…」

僕はとあることを決意し、家路についた。

「さあ、覚悟の準備をしておこうかな…」



「何よ、疾風。今危ないわよ」

今僕は姉さんの実験室にて椅子で足を組んで座っていた。

「溶接を自分の手でやるのがおかしいと思う。」

僕は冷静に言った。姉さんは、

「自分の拳銃を作るためにやってんのよ」

と言ってきた。今姉さんは、自分の拳銃を作っているのだ。だからゴーグルを着けている。あと、マスクも。僕的には先に自分の作れよって感じである。

「貴方の銃撃のほうが上手いんだから仕方ないでしょ」

姉さんははぁ、とため息をついた。僕は顔を歪めて、

「そっち系の技術に関しては姉さんの方が上でしょ」

と冷静に突っ込んだ。姉さんはクスッと笑って、

「近距離射撃なら疾風の方が上よ」

と言った。なるほど。早撃ちなら僕の方が早いと。

「フッ…狙撃はそっちの方が精度いいくせに」

僕は微笑みながら言った。姉さんは高笑いをする。

「まったく、口減らずね。疾風。」

姉さんは振り向き、ゴーグルを外して僕にウィンクしてきた。……やっぱこの人色女でしょ。てかそんなこと話しに来たんじゃないわ

「Dreamer本部襲撃について話に来たんだけど……」

僕は溜息をつきながらそう言った。姉さんは溶接する手を止めた。姉さんは僕の方をまじまじと見つめながら、

「そんなこと、私に話す必要性あるかしら?」

と言ってきた。僕は黙った。

「参謀係は瞳だし、瞳に相談すればいいじゃない」

姉さんは溶接する手を再び動かした。そして、僕に背を向けた。僕は黙りこくった。姉さんも無言で溶接を進める。そして4〜5分経った時、僕は顔を上げ姉さんにこう告げた

「クリスマス。僕はDreamer本部に襲撃する。死ぬ覚悟だ。」

姉さんは溶接する手を止めた。というより終わっていた。姉さんはゴーグルもマスクも外して、ぎこちない動作で僕の方に振り向く。

「……クリスマスに?…死ぬってどういうことよ」

姉さんは震えた声で言った。僕は真顔で、

「そのままの意味だ。」

と告げた。姉さんは次の瞬間

「ふざけんな!!!」

と本気で叫んできた。僕は黙る。姉さんの話を聞きたかった。姉さんは顔を真っ赤にして、

「死ぬな。そんな簡単に、死ぬな。彼方のことを考えろ」

姉さんは真面目な顔で僕にそう冷たく告げる。姉さんは溶接し終わった鉄の塊に近くのバケツの水をぶっかけた。姉さんは最後に僕に

「死ぬなら、私も一緒に死んであげるわよ」

と優しく言った。僕はフッとわらい、こう言った。

「そりゃ嬉しいな。姉さん死ぬなら僕は死なないとするか」

僕は大きく伸びをして、

「姉さんのおかげで気分が晴れたよ。ありがとう。」

僕は椅子から立ち上がった。姉さんは水をかける手を止め、僕の方に振り向いて、

「絶対死ぬんじゃないわよ。あと、私も愁も行くから。私たちは三人でセットだもの」

そう言って僕にウィンクをした。僕はドアに歩を進めながら、姉さんに向かって最後に

「なら、一緒に戦おうね。頑張りましょ?」

僕も姉さんの方に振り向いてウィンクしたのだった

我ながら下手だったなあ……



「…死ぬな……ねえ」

僕はリビングにてそう呟いた。死ぬな。もっとも姉さんらしい言葉である。姉さんだから、そう言えるのか。僕はふとデジタル時計を見た。それには日付が表示されていた。今日は

「十二月十五日…か」

十二月十五日。決戦まであと、十日……

「準備をしっかりする暇なんてないか……特攻以外の選択肢は無さそうだ」

僕はそう呟いた。敵は如月敦人。僕にとっては未知の敵である。正直戦って勝てる勝算も少ない。…いや、負ける確率の方が高い、というのが正しいか。僕的には如月敦人を狙撃してもいいのだが、

「アジトの場所は、特定出来た……でも、あいつの行動を二十四時間監視して撃ち抜くのは難しい……」

そう。僕は後輩(第五階層)にDreamerのフリをさせてアジトに潜入させたのだ。第五階層の人はこういう荒遣いができるからいい(こら)

だが、それでも。あいつの動きは監視できない。これは第五階層のやつに任せてもいいのだが、そこまでやるとDreamerで本格的な「下っ端」として、働くことになる。すると、如月の情報が入ってこなくなる。ならば。

「突撃して叩きのめすだけだ」

僕はそう思う。それは変わらない。でも、一つだけ、一つだけ他に決めてることがある。''アレ''は使いたくないし。

アレだけは使いたくないし、そして地味に死ぬ気も少しある。それは少しだけだが。

「僕は何がしたいのかな」

ふと僕は思った。僕はなにがしたい。なにが。如月を倒して何になる?僕が如月を倒したという事実しか残らないじゃないか。結局。まぁ

「自分が満足する結果さえあればいい…か」

Numberは自分のために動く。それが。

第七階層だ。僕達……俺たちはひねくれてるんだ。みんな恋人がいようとなんだろうと、自分の信じる道を進み続ける。信じてるから進む。俺は神ではない。俺は神じゃないんだ。だから俺は。





〜時は進み、十二月二十五日となる〜


「朝っぱらから急いでるわね〜」

僕──神無月疾風──の家には彼方が居た。だって

「今日あの日だもん」

いや今日のこと読者さん覚えてるのかな?二十五日。クリスマス。

「まぁとりあえず、おはなーしがあるから来てくれい」

僕は玄関に向かった

「なんよお話って。てかどこ行くのよ」

彼方は聞いてきた。僕は、

「君のよく知ってるところさ」

と振り返って言った。

僕はその後無言でそのまま''あの場所''へ向かった。


「で話ってなんじゃ」

彼方は聞いてきた。僕は木の幹に寄っかかる。

「先に言う。今の僕──いや俺は、神無月疾風じゃない。Number.2の『雨ノ森疾走(あめのもり はやと)』としてお話させていただく」

俺は彼方にそう断った。彼方は、

「わかったわ。」

彼方はそう言ってくれた。僕は頷いて、話し始めた。

「NumberとDreamer。それは敵対──いや、闘いを成す者だ。別に成長云々の話では無い。あいつらは秘密結社の上、俺達に喧嘩を売ったから叩きのめす。動機なんてそれでいい。それがNumberだ。俺たちは本気で、Dreamerを潰したい。敵だから潰すのではない。だから、Dreamerを倒すのはNumber.2とNumber.0とNumber.8のみだ。俺は他のやつには全く興味も無いし、関わろうとも思わない。俺は、俺の『独断と偏見』で動いている。だから、人に邪魔されたくない。俺だって人なんだ。自分の守りたいやつは守る。お前はその一人だ。Dreamerは多分お前のことを認知するはずだ。それも、近いうちに。お前は気にすることないのだ。あくまで、神無月疾風の恋人とすればいいのだ。俺は雨ノ森疾走だ。…俺は複数の人格なんだよ、要するに。俺は多重人格。疾風は優しいが、俺に慈悲は無いぞ。俺はDreamerを叩きのめすんだよ。強い奴が勝つ。俺はそれを信じてる。」

俺は一旦息をついた。彼方は無言でこちらを見つめている。

「俺が何を言いたいかわかるか?」

俺は聞いた。彼方は首を振った。彼方はまだ理解してないらしい。俺はそうか、と呟き、一拍置いて、話し始める。如月敦人との決戦を。

「人間はパーフェクトでは無い。だから限界があるのだ。俺も限界がある。と、言うことは、俺はDreamerを叩きのめすなら限界を尽くす。俺はボスを倒すことも造作もない」

俺がそう言った瞬間、彼方は目を見開いた。俺は

「言いたいことはわかるな?」

そう聞いた。彼方は首を少しも縦にも横にも振らなかった。俺はため息をついて最後の言葉を告げた

「俺は今日。Dreamerのボスを倒しにいく。だから、終わり。これでお別れだ。」





彼方はプルプル震えている。

「…今、なんて」

彼方はそう消えゆくような声で聞いてきた。既に目じりに涙を貯めていた。俺は

「だから、お別れだ。僕らはここで終わり。」

俺──僕は冷たく言った

「……なんで、なんでよ!!!」

彼方は恋人だった僕を睨みつけてくる。僕は

「……説明する義理はない。」

と言った。

「僕にとっては事実しか残らない」

僕がそう言うと、

「……なんなのよ、なんなのよ!!!」

と彼方が叫んだ。僕は

「なんなんだ、と言われてもなぁ……」

と、言った。僕は頭を描きながら、彼方にこう聞いた

「逆に恋人が死んで居なくなるのを目の前で見るのと勝手にどっかで死ぬのどっちがいいと思う?」

僕がそう言うと、彼方は

「えっ……?」

と全身震えながらそう言った。

「死ぬって……どういうことよ!!!」

彼方はぶちギレてそう叫んだ。僕は

「そのままの意味だ。」

僕はそう言った。

「なんで死ぬのよ!!!」

彼方は思いっきり叫んできた。多分今年一番ぶちギレてる。普通に涙をポツリと落としている。あーあーやっちまった

「……なんなのよ…ホントに…なんなのよ」

彼方はうつむいて涙を流した。

「ごめんね」

僕は彼方を抱きしめた。

「…僕は人の気持ちが理解できない。空気が読めたとしても、人の感情は読み取ることが出来ないんだ。だから、僕は皆に嫌われるし、僕も皆が嫌いだ。…でも、彼方だけは違ったらしいな…僕にはわからないけどね」

僕は何故か涙が溢れてきた。

「……」

彼方はもう何も言わない。嗚咽以外漏らさなかった。そして、彼方は全てを理解したように言った

「…生きて帰ってきてよね」

と。僕は彼方のために命を懸けられる。





二十二話 クリスマスのパラドックス Ⅰれ アジトへの殴り込み




「随分と余裕があるわね〜」

姉さんは僕──神無月疾風──にそう言ってきた。今はバイクに乗ってDreamerのアジトへ向かっている。姉さんと愁と一緒に。ちなみにアジトの鍵は第五階層のあいつから貰っていた。背中には袋に入れたライフルをかけている。

「顔に出てないだけさ」

僕は姉さんにそう答えた。姉さんはニヤニヤして、

「強がっちゃって〜」

と言ってきた。隣で愁が大爆笑している。いやあなたバイク乗ってるよね?

「……黙れ」

この会話を境に僕達は会話をしなかった。そりゃそうだ。姉さん達にとっては最後の闘いなのだから。

「敦人を仕留めるのは僕だからな?」

僕は姉さんと愁に向かってそう宣言した。すると愁は、

「如月の戦闘力がわからないから、それが妥当だな。」

と久しぶりに的を得ていることを言った。姉さんも首を縦に振っている。そこから誰も口を開かなかった。みんな緊張しているのだろう。心臓がバクバク鼓動を打つ。因縁の相手と遂に戦えるなんて、光栄だ。僕に殺されたい人がいることが、幸福だった。……だが、相手は如月敦人。あいつの戦闘力は僕はまだ知らない。僕は考えるのをやめた。敵がどんだけ強かろうとも。この腰に差されている、日本刀──『伊予』で叩き斬るのみ。敵が近距離パワー型だった場合、僕に勝機がある。パーフェクトな人間だったら、相打ちに持っていくしかないがな。

「着いたよ」

僕がそんなことを考えていると、既に知らされていたDreamerのアジトに辿り着いた。なんか凄いいかついなあ。クソでかい。ここは議員のお屋敷ですか???普通に五階建てはあるぞ。さすがアジトだ。潮の匂いが風に乗ってやってくる。沿岸部ということは確実である。

「如月敦人…あいつ議員の息子なのか?」

僕は呟いた。すると姉さんが、

「そうなんじゃないの?」

とやれやれ、とモロに感じるような顔で言ってきた。まぁ姉さんがそう言うならそうなのだろう。僕はそう自己完結してドアノブに手をかけた。

「……ん?」

僕は先に鍵がかかっている前提で手をドアノブにかけたのだが、どうもおかしい

「どうかしたか?疾風」

愁は心配しているような声で言ってきた。僕は震えた。口を開ける。そのまま呆然とする。

「ちょ、疾風……どうかしたの?」

姉さんが聞いてきた。僕は震える口を無理やり動かして、

「このドア、鍵がかかってない」

と告げた。姉さんはハア?という顔をして、

「鍵空いてるなら早く凸りましょうよ。何も問題ないでしょ」

と言ってきた。しかし、愁は絶句していた。愁は少し間を空けて、姉さんにこう告げた。

「……待ち伏せがいるかもしれない」

僕は愁の言葉に頷いた。姉さんは絶句している。

「……待ち伏せ……?!」

姉さんはそう言った。僕は、

「あいつから貰った鍵を空けて、強行突破する予定だったが……仕方ない」

僕は、そういったあと、駿河を取り出した。駿河の銃口をドアに向ける。

「待ち伏せが居るなら、

『先に殺ればいい』」

僕は、そう言った瞬間発砲した。木のドアに風穴が空く。姉さんも愁も僕の意図に気づいたらしく、銃を取り出し発砲していた。…姉さんなんでこんな早く拳銃作れるんだよ。こいつまじバケモンだろ……ドアの向こうで悲鳴が聞こえる。そして発砲音も聞こえてきた。

「しゃがめ」

僕はなるべく小さな声で姉さんと愁に指示した。姉さんと愁は無言ですぐにしゃがんだ。これで敵の狙いは一つになる。

「サブマシンガンよ、疾風」

姉さんは僕にそう囁いてきた。愁にもそれは聞こえていたらしく、愁は靴からサブマシンガンを取り出す。僕は背中のライフルを袋から取り出し、問答無用でぶっぱなした。多分全弾敵の脳天近くにぶち込んでいる。それを繰り返しているといつの間にか中から音が聞こえなくなった。敵がいなくなった証拠だが、まだ隠れているやつがいるかもしれない。

「伏せてるやつとか居そうだな……」

僕は地面に伏せて、駿河を発砲した。風穴が空き、中に人影が見えた。恐怖に歪んだ顔をしている

「サイチン(さよならだ)」

僕はそう言い、問答無用に引き金を引いた。中に、奇襲部隊がどうかだが……

「愁、頼める?」

僕は愁の方を見る。愁はニヤッとして、背中の戦闘キットを袋から出し、その中から「アレ」

を出した。愁はそれを風穴のど真ん中にぶち込めるように構えて、

「アイルスローイットイン(ぶち込んでやる)」

と言って、引き金に手をかけた。そして狙いを定めると、

「バァァァァァル!!!(グレネード)」

と叫んで引き金を引いた。そして中で爆発が起きる。大量の悲鳴が聞こえた。可哀想に……姉さんも唇を歪めて、気持ち悪い笑みを浮かべていた。

「キモイよ、姉さん」

僕がそう呟くと、地獄耳の姉さんは

「ん?なんか言った?」

と満面の笑みでそう聞いてきた。この人目が笑ってねえ……殺される……僕は恐怖で震えた。

「くだらん茶番やってないで早く行くぞ」

愁が呆れたように僕たちにそう言って、ズンズンズンズン進んでいった。

「早いって…少しは警戒しようよ」

僕は呆れながらそう言って、愁の後をおった。

「ちょ、待ってよぉぉぉ!」

後ろから足音と叫び声が聞こえたため、僕は悪戯な笑みを浮かべて振り返り、

「置いてかれちゃうよ〜?」

と嫌味っぽく言うのであった。といいつつ僕も愁に置いてかれ気味なので、少し足数を増やしたのだった




「中に人居ないじゃん。空なの?それとも全面戦争なの?」

愁はこの建物の五階の最奥部分にてそう呟いた。愁は苦悶の表情を浮かべている。てか、今はあいつの情報によると、如月敦人は屋敷に立てこもっているはずだ。

「……どういう事なのかしら。裏口で脱出されたかしら?」

姉さんも珍しく考え込んでいた。珍しく。(ここ重要)

「裏口があるとしか考えられないが…もしあるなら」

もしあるならば、

「僕たちが探索していない部屋があるということ。それはこの屋敷の広さ的に考えられない。」

僕ですらわからなかった。みんなで考え込む。まず、何故、報告にあったように僕たちが探索した屋敷に如月敦人らしき人物が居ないのだ?というかここは沿岸部。よくよく考えたら

「この間に、船で逃げられてるかもしれん」

僕はそう僕にしか聞こえない声で呟いた。姉さんも愁も集中しているため、僕の呟きになんて反応しなかった。しかし、音が聞こえない。意味不明だ。時間は刻一刻と経つ。そろそろ敵が逃げる時間だろう。この部屋には窓がいくつかある。幸い、そこから覗けば敵の姿を把握できる。一部分だけだが。僕は窓に向かって歩いた。窓につき、カーテンを開けるが、敵の姿は視認できなかった。

「逃げていないし、船の出る音も聞こえていない……」

僕は半分諦めていた。愁も姉さんもショートしているようだ。これはまずい。この間に船に乗られちゃあ厄介だ。愁のグレネードランチャーで沈没はできるが、弾数に制限もある。というか、裏口から出たら音がするはずなんだ。そして肝心な裏口も無さそうだ。僕がショートしていると、

「……一旦、裏口を探してみましょう」

と姉さんが言った。しかし、愁が

「意味無い。元々敵が出たとしてもまたやりに来るだけだ。幸いあいつがスパイとはバレていない。」

と僕の考えと同じことを言ってくれた。僕は首肯する。姉さんは項垂れてしまった。しかし、こうなるともはや手の打ちどころがない。

「一旦ひこう。もうどうしようも無い」

僕がそう言うと、姉さんも愁も首肯した。僕は首を縦に振り、身を翻してそのまま五階から四階に降りる階段へ向かった。その刹那、僕の服の胸ポケットが振動した。僕は驚いた。姉さんと愁に向かって右手を出し、停止の合図を送る。足音が聞こえなくなった。僕はそのタイミングで胸ポケットから無線を出し、

「だれだ」

と言う。すると、

『僕です!端的にいます!如月敦人の居場所は……』

と、無線の先からスパイのあいつが如月敦人の居場所に関して話し始めた。僕は呆然とする。

「……は?」

僕が唖然としていると、

『おい、何をやっているんだ!』

と無線先から声が聞こえ、そこで通信が途切れた。

「……」

僕は手を降ろす。無線を落としてしまった。

「何かわかった?疾風」

姉さんが話しかけてきた。僕は本当に動けないでいた。奴の居場所は……

「あいつの居場所がわかったのか?」

愁が聞く。僕は腹をくくった。拳を握りしめ、自分を鼓舞する。そして、勇気をだして、

「奴の居場所は……

『隠し階段の奥の地下』だ……」



二十三話 クリスマスのパラドックス Ⅱ決戦のお膳立て


「その『隠し階段』って何処なのよ!」

僕が夢中で走っていると、姉さんが大声で叫びながら追いかけてくる。僕は、

「一階の最奥の部屋だ……!」

と言い、全力疾走を止めなかった。もちろん、待ち伏せが居ることくらいわかっている。だから、駿河を構えながら全力疾走をし続ける。いつの間にか、足音が僕のもの以外聞こえなくなってしまった。姉さん達、逃げたか……まあいいだろう。僕だけで充分だ。

特攻だけならな。

僕は息を切らしつつも足をとめなかった。それほど覚悟を決めていた。

「ぶっ殺してやるぜ……如月敦人」

苦しませて、なぶり殺してやる。僕は口角を上げる。僕は一人じゃない。仲間が居るからこそ、僕は覚悟を決められた。走り続ける。道中に敵が現れる。しかし僕は全員たおしながら走り続けた。息が上がるが、そんなこと気にしない。一階の最奥の部屋はすぐそこだ。僕は足を止める。限界だった。こっから死闘を繰り広げるっていうのに、僕は何を……したいんだ。本当は如月敦人と闘うのが怖いのではないか?ドアは目の前だ。僕は手を伸ばした。しかし、ドアノブには手が届かなかった。気のドアが笑っているように見えた。僕は震える手を動かして、ポケットから拳銃を取り出す。そしてセーフティを外し、即発砲する。木のドアであるため、もちろん貫通……すると思ったが、なんと木の後ろに鉄があった。

「……伏兵に気をつけなきゃいけないのに……」

僕は力を振り絞ってドアを開ける。すると待ってました、というように伏兵が拳銃を発砲してくる。僕も撃ち返したが、けっこう体力を消費していたため、外してしまった。伏兵の数は三人であったため、数打ちゃ当たる。僕はなるべく避けたが、左腕に命中してしまった。僕は腕の傷を抑えてしまった。そして伏兵の一人が僕の頭に発砲しそうになった。ここで玉砕するんだ……僕は腰をつく。伏兵はニヤッと口角を上げて、引き金に指をかけたが、次の瞬間目を見開いた。前を向いた一人の伏兵が逃げ出した。そして残りの二人も。

「……逃げてないのなら、堂々とすればいいのに」

やれやれ、あの二人組は……

「瞳を呼んどいてな〜」

僕は大声で叫んだ。うしろから、

「わかってるわよ〜」

と返事が来た。僕は立ち上がり、持ってきた救急キットの中の包帯を腕に巻く。これで少しは出血を抑えられるだろう。巻き終わったら、僕はすぐさま走り始めた。そして階段先の地下一階では、如月敦人らしき人物は居らず、代わりに大量の伏兵が居た。伏兵は僕に一斉に拳銃を向ける。しかし、

「サブマシンガンの敵じゃあねえな」

僕はサブマシンガンで敵を撃ちまくる。敵も撃ってくるが、単調な攻撃。軽々と躱す(かわす)ことが出来る。しかし敵もアホではない。正確に僕を狙ってくる。

「…被弾覚悟でやるか」

僕は被弾覚悟でサブマシンガンとリボルバーの二丁体制で戦うことにした。すると、敵の倒れるスピードが早くなる。そのうち敵が全滅したため、さっさと地下二階へ降りた。


地下二階では電気はついていなかった。僕はなるべく足音を立てずに階段をおりる。妙な雰囲気がした。まさか、地下二階に裏口があるっていうのか?僕はゆっくりと階段を降りる。地下二階に到着すると、潮の匂いがした。ここは結構沿岸部だ。もう、海が近いということ…この部屋には窓が着いて無いようだ。光が全くない。そして、妙な匂いがする。僕はゆっくりリボルバーを構える。そして、暗闇の中で発砲した。もちろん悲鳴は聞こえてこない。しかし、変化はあった。目の前に閃光が走る。僕は思わず目を瞑る。こういう不意打ちはやめて欲しいなあ…

「えぇ?如月敦人」

だんだん目が慣れてきたため、僕は目を開けて前を見る。そこには取り巻きとボスらしき男がいた。取り巻きの数はざっと十人。僕はサブマシンガンを向ける。取り巻きは僕に拳銃を向けるが、遅い。取り巻きの手に発砲する。全員の手に命中する。あわよくば如月敦人にも当てたかったが、やつは身体能力と反射神経が良いようだ。普通にかわしてきた。僕は如月敦人を睨みつける。如月敦人も僕を睨みつける。敵の顔を視認できたんだ。姉さんと愁を呼ぶか…?しかし、外でも戦闘は起こっているようだ。かすかに、ほんのかすかに銃声と悲鳴、拳と拳がぶつかる音がする。そろそろポリス来るんじゃねえのこれ。そこまで考えた僕は考えるのをやめた。敵は目の前にいるのに、余計なことを考えるなんて、敵に失礼だ。僕は沈黙を破ることにした。

「お前は僕に何のために戦う?」

「…」

「Number.2になぜ抵抗するのだ。僕はお前とは違い、気高き心を持っている。そう確信している。だがお前はどうだ?秘密結社のボスになんかなって、Number.2に無駄な抵抗をし続ける。何故戦う?お前には好きな者は居るか?僕には居ない。でも愛せるやつはいる。僕の周りのヤツ、みんな愛おしい。お前はどうだ。ぼっちとか、虐められっ子とか、そういうの関係ないんだよ。片想いでも、自分が愛せる者はいるか。そこに次元も、憧れも、夢も、何も要らない。そこにあるのは自分が感じる、『心』だ。僕には僕の信念がある。さぁ、お前に愛せるものはあるか?貴様が向かう道は一つのみ。死だ。お前にその『死』を悲しんでくれる人はいるか?お前は誇り高く死ねるか?」

僕は息を吸う。そして、如月敦人に言いたいことを最後にぶちまけた。

「覚悟ってあるよなぁ…僕にとって、覚悟とは、『誇り高く死ねる自信があること』だと思うんだよ…だから僕は誇り高く死ねるよう、お前を殺す」

拳を構える。如月敦人は無言で少しの時間を過ごしたが、急に腹を抱えて笑いだした。僕は怒りを抑えて、地面を踏む力を強くする。しばらくの間笑っていた如月敦人は笑いを抑えながら

「俺はお前さえ生け捕りにすれば問題無い。綺麗事ぬかすな」

と言ってきた。僕は急な言葉で気づかなかったが、言質をとることができた。

「ほう。僕を生け捕りにしろと、上から命令が出てるのか」

僕がそうニヤリとした顔で言うと、如月敦人は目を見開いて、

「そ、そんなことあるはずない。俺がDreamerのBOSSだぞ」

という。めっちゃ焦ってる。これは、確定だ。こいつは、DreamerのBOSSではない。多分最高幹部だ。BOSSに一番近い存在…生け捕りにすれば、いい情報源になると思う。

「まあいい。そんなこと。さあ、こい。如月敦人」

僕は拳を前に出し、指をクイッと自分の方に曲げ、如月敦人を挑発した。予想通り焦っている如月敦人は、顔を真っ赤にして、

「舐めるんじゃねえぞこら!」

と叫びながらこちらへ走ってくる。そして僕の周囲半径一メートルに入ると、左の拳を握りしめ、殴ってきた。しかし、敵は焦りと怒りで攻撃が単調になるはずだ。僕は如月敦人の出す拳を見切った。思ったより鋭いパンチだが、

「無駄無駄!」

僕は冷静に拳を突き出す。如月敦人は右の手で僕の拳をガードしてきた。しかし、胴体はがら空き。このまま膝蹴りを…

「遅いぜ、Number.2」

ぶち込もうとした瞬間、頬に衝撃が走った。目を凝らして見ると、なんと握りしめられた左手が僕の頬に直撃していた。…身体能力に関しては、やはり僕より上だ。これで僕がどうやって勝つと言うんだ……僕はバック宙返りをし、後方へと避難した。しかし、敵のリーチは長かった。腕は多分僕より十センチは長い。その腕から拳が放たれ、僕に直撃する。当たった場所は、顔面。これは…

「…強い……」

初めて強いられる、苦戦なのかもしれない


二十四話 クリスマスのパラドックス Ⅲ 決戦!如月敦人!


の前にお詫び

前回、クリスマス中に出すと言いましたが、書いたデータ──訳3000〜4000字が吹っ飛んだため、ほぼ不可能に近くなりました。この二十四話が、クリスマス以降に投稿されていた場合、謹んでお詫び申し上げます。原因はただのミスです。元々書いていたストーリーとはほとんど違うということを承知した上で読んでくださると光栄です。申し訳ありませんでした


本編開始


「おいおいマジかよ……」

ここまで追いつめられたことは初めてである。目の前の如月敦人を僕──神無月疾風──は睨みつけた。

「俺はDreamerで最も強い。お前如きには負けんぞ。神無月疾風」

相手は勝ち誇ったような顔で言う。てか、まずまずリーチで負けている時点で僕の勝機少ないんだよね。どうしてくれんの

「お前…俺に勝つ気か?」

如月敦人はドヤってる顔で言ってくる。まぁ言い返してやろう。挑発に乗るのは相手が少しキレさせるため焦らせられるから有効だ。

「お前が僕に勝てるとでもw」

僕は鼻で笑い飛ばした。次の瞬間、痛みと共に体が宙に浮いた。キレやすいやつだな〜怖い怖い。まぁこんなの慣れてるけど。

「調子に乗るなよ雑魚が」

如月敦人は舌打ちした。こんなキレやすいのかよ…どんだけ僕が嫌いなんだ?いーや。とりあえず脅しをかけてみよう

「まぁ、裏口さえ見つかったら僕の勝ちだけどね〜。でしょ?」

「?!」

僕は着地する。その瞬間、靴のダイアルを回し、『アレ』を起動させた。そしてダイアルから手を離し、地を蹴った。

「まだ攻撃が無駄だっていうのが分からないのか!」

如月敦人も対抗して地を蹴るが、僕の神速は上回ることができない。僕はそのまま拳を如月敦人の鳩尾に叩き込む。右手だから痛かっただろうなぁ…まあ、懐に潜り込めただけで十分か。

「ガッ…馬鹿な…なんだ今のスピードは……」

如月敦人は壁まで吹っ飛んだ。ガンッ、という鈍い音が聞こえる。あーあー可哀想に。どれだけ強く背中を打ちつけたんだよ

「全く、馬鹿なことするよな」

実は、僕の靴にはターボエンジンがついている。もちろん作ったのは僕ナンバーゼロさん。あの人強すぎィ!化学に関してはあの人に勝つ研究者居ないんじゃねえのかな

「時限形式でターボエンジンは解除されるし、それにある程度の速さなら、少しの燃料で済む。」

この靴のおかげで僕は何度か救われてきた。ちなみに全部裏作業である。悲しいな

「……道具なんて使って恥ずかしくねえのか神無月…」

如月敦人は咳き込みながらそう言った。恥ずかしい?アホらしい。

「伏兵用意してる方がよっぽど恥ずかしいと思うが?」

「チッ…」

如月敦人はポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。ナイフか?そう思った瞬間に目の前には飛来する物体。早すぎて草

「まあ余裕で弾けるけどな」

今如月敦人との距離はまあまあある。つまり、猶予が少しある。僕は右手を横薙ぎした。ナイフが横に吹っ飛ぶ。そして次の瞬間、目の前の地面には影が一つ落ちていた。

「…嘘やろ…」

既に懐に潜られていた。僕はガニ股で横に避けようとするが、

「遅い!」

時既に遅し。鳩尾に拳を叩き込まれた。最悪だ……僕は壁まで吹っ飛んだ。形勢逆転……まずいですねえ。僕は崩れ込む。

「やはり、貴様如きじゃ俺には勝てないらしいな……」

如月敦人は勝ち誇ったように言う。ダメだ……年齢の差がそのまま体力の差になってる……やつはだいたい二十後半であろう。僕とは10歳ちょいの差だ。仕方ないっちゃあ仕方ない。強すぎる……勝てない。僕は立ち上がる。そして走る。

「無駄だ!神無月!」

如月敦人もこちらに走ってくる。まぁ僕には僕の策がある。いや、これは策じゃないな…前話した、『覚悟』なのかもしれないな。

「お前も策くらいあるだろ」

僕は緊急停止した。すると如月敦人もすぐ足を止めてきた。フッ…僕の『ラッシュ』の速さを舐めないで欲しいなあ…

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」

僕は叫びながら右手と左手を交互に高速に出し続ける。これには流石に如月敦人も辛いようだ。僕の攻撃を適当にあしらっている。いける、いけるぞ!僕は加速して手を出し続ける。しかし、出し続けると疲れるもんで。だんだん自分でわかるほどスピードが落ちていった。そして、

「ハァ……ハァ……」

「ウゥ……クゥ……」

僕も如月敦人も相当疲れていた。一旦体勢を立て直そう。僕は攻撃を止め、一歩退いた。次の瞬間、

「俺の覚悟の勝ちだ……!」

如月敦人は膝蹴りを繰り出してきた。うっ……完璧に忘れてた!今これを止める?無理だ!受身をとって……いや、これは…僕は素直にあいつの膝蹴りを食らった。そして壁まで吹っ飛ぶ。

「フンッ!雑魚が。結局第七階層のお前達も第五階層と名乗っていたあいつの延長じゃねえか!」

如月敦人は高笑いする。僕は靴に手を伸ばす。まったく……まずい状態だなぁ…如月敦人は僕よりリーチが長い。つまり、僕がまともに戦えば、さっきみたいにやらない限り勝てない。そして、それはもう不可能である。その手は読まれる可能性が高い。なら、予想されなければいい。

「さぁ、お前をあの方の前に差し出してやる」

如月敦人はジリジリと迫ってくる。なるほど、如月敦人はDreamerのボスであるが、さらに上の組織がいる、ということか、それか、

「お前……Dreamerのボスでは無いのか?」

僕は靴から手を離した。そして地を蹴る。

「……さぁ?そうかな?まぁ、それは俺を倒してから聞きな!無駄な攻撃だがな!」

如月敦人は僕の思惑通り先程とは違く、しゃがみ込もうとした。しかし、

「あっぶねえ…間に合った」

さっきよりターボエンジンの火力を1.2倍あげといて良かった……これがなきゃ今頃僕は吹っ飛んでるだろう。しかし、

「……なぜ、さっきより速い…」

僕が如月敦人の胸に頭突きする方が何フレームが早かったようだ。

「人の発言の言質を取れ。」

時限形式であるターボエンジンは、もう消えていた。僕は如月敦人が降っとると同時にバック転して安全に着地する。まったく……僕も捨て身覚悟だからな。これくらいやんなきゃ

「さあさあ、お前の覚悟はどんなもんだ?」

僕は振り返り、そのまま進む。

「待て……貴様……」

後から如月敦人の声が聞こえる。僕は鼻で笑った。

「あのドアノブ……押し上げたらどうなるかな〜?」

僕が向かっている方の壁にはドアノブが付いていた。僕はドアノブに手をかける。最後に後ろに首をまわし、

「アディオス、如月敦人」

そしてドアノブを押し上げた。その前の景色は……

「は?!」

大量の伏兵が居る部屋だった。いや十人はいるよこれ

「フハハハハハハハハ!!!やはり俺の勝ちだ!神無月疾風!」

振り返ると、如月敦人が壁にもたれかかっている……いや。壁を押して、外にはみ出していた。

「本当の裏口はこっちなんだよお……神無月……」

嘘だろ……ここは伏兵のトラップ部屋か……

「ま、待て!」

僕は叫び、身を翻すが、

「動くな!」

後から大声が聞こえた。チッ……聞いてねえよこんなの……

「フハハハハハハ!アディオス、神無月!」

如月敦人は壁の向こうに消えていった。

「……クソ……」

僕はポケットの中のものを取り出す。そしてついている『ピン』を外し、上に投げ、地面に伏せた。

「貴様何をする!そこを動くな!」

ガチャリ、という音が聞こえる。僕はこっそりダイヤルを動かした。そして、

「……めんどくさいな」

と呟き、ターボエンジンを起動させた。そして壁に突っ込む。バァンという爆発音が後ろで聞こえる。僕は衝撃で壁を押し、外に出ていた。目の前には橋と、クルーザーがあった。僕は無線を取り出し、姉さんに繋げた。

「どうかしましたか?Number.2」

姉さんが出てきた瞬間、僕は

「緊急事態につき、僕は死亡の可能性有りと宣言!今すぐその増援を倒し、撤退せよ!!!」

と叫ぶようにいい、即橋から海に投げ捨てた。これで、姉さん達の正体はバレない。そして、僕の覚悟も通る。

「……最終決戦だぜ、如月敦人」

僕が呟くと、如月敦人は船の上らしきところに出てきて

「フハハハハハハハハハ!さらばだ!神無月!」

と叫んだ。船のスクリューが回る音がする。しかし、諦めない。

「諦めるもんか!」

僕はそう叫んで走り出すのだった。


二十五話 この大海原の上で


「フハハハハハ!殺せなかったが俺の勝ちだ!」

俺──如月敦人──は高らかに叫んだ。俺は船のデカいリビングみたいな部屋でソファにどっぷりと腰掛けている。周りには五人程度の部下が居る。

結局はせいぜいただのガキだ。今頃捕まっているだろう。フハハハハハ…まあ逃しててもなんでもいい。ここからならやつを暗殺できるからなあ…

「勝った!俺の覚悟の勝利だァ!あいつがドアノブを開けることを祈っていた!そしてあいつはドアノブを開けた!あの伏兵は殺られたが、俺は殺られない!完全勝利!勝ったやつが正義だ!弱いから負けるのではない!負けるから弱いのだ!」

俺は高笑いをし続ける。笑いが止まらない。どうせあいつに黄金の精神なんてない。あいつはガキなんだ。絶望の海に沈んでおけばよい。

「流石兄貴!あのNumber.2から逃げ切るなんて!」

近くに居た部下が目を輝かせて俺を褒めてくる。フフフフフ……うちの部下は優しいもんだ。

「フハハハハ!そうだろう!」

この船は既にNumber.2から二十mは離れている。勝った。ここまで離れれば大丈夫だ。俺は紅茶を啜る。いつもより甘く感じた。俺は苦いものが苦手なのでまあよしとしよう。

「次はNumberの本部を奇襲してやるか……フフフ」

俺はカップを置いた。カァンと綺麗な音が響いた。俺は窓を覗いた。綺麗な夕焼けが映っていた。クリスマスもこれで終わりか……楽しいクリスマスだ。フッ……フハハハ

「今日は記念すべき日だ!飲むぞ!」

オオオオ!と部下は歓声を上げる。

「ドンペリ持ってこい!」

俺が叫ぶと、部下の一人が冷蔵庫がある部屋に走っていった。

「凄いですよ兄貴!いきなりドンペリなんて!」

「ガハハハハ!そうだろう!」

俺らはドンペリが来るまで話をしていた。華やかな俺の歴史などを語っていた。Dreamerはやはり素晴らしい。

「ドンペリ持って来ました〜!!!」

「ナイスだ!さっそく飲むぞ!」

部下がドンペリを持って戻ってきたため、俺は即グラスにドンペリを注いだ。俺は注いだ直後にグラスをあおいだ。口の中に葡萄の豊潤が広がった。身体が熱くなる。久しぶりに味わった味だった。前にドンペリを飲んだのはいつだっけか…たしか前Number.7を倒した時か。まあそれはどうでもいい。

「さあ、どんどん飲め!」

俺はドンペリを他の部下のグラスに注いだ。部下は歓声をあげる。そして俺達は話をしまくった。楽しい話を。

「おい、注いでくれ」

俺はドンペリがグラスの中から無くなったため、ドンペリを持ってきた部下にドンペリを注がせた。

「…ところで兄貴」

「ん?」

部下はドンペリを注ぎながら、衝撃的な一言を放った。

「お前、僕に気づかないなんて、アホだな」

俺は目をかっぴらいた。こいつ、まさか……部下は、俺の顔にドンペリをかけてきた。俺は驚愕した。

「てめぇ、何して…!」

部下が叫ぶが、既に遅かった。気づかなかった………

「まさかここまでアホだとはな……やれやれ…」

「き、貴様は……」

目の前の男は、呆れた口調で、

「それなら…ここで死ぬがいい。如月敦人」

目の前の男、Number.2俺に指を突き立ててきた





「てめぇ…どうやって…」

如月敦人は焦りつつもそう聞いてきた。後ろでは銃を構える音がする。

「おっと、酔ってるてめぇらに僕は撃てないよ。」

僕は挑発をするが、敵は発砲しなかった。どうやら図星らしい。アホな連中だ。ま、Dreamerは全体的にアホの塊だが。やれやれ……

「どうやってここに来たか?簡単な話さ。僕は手榴弾で船に穴ぶち空けてそっから侵入したんだよ。わかれよ、このビチグソが」

僕はポケットから手榴弾を取り出した。全てを察したかのように、如月敦人は絶望した顔で僕を見た。僕は、

「さようなら、如月敦人。地獄で僕を見守ってるんだな」

と言い、拳銃を頭に突きつけた。引き金に指をかける。

「俺はな、五年以上お前を探していた。お前が憎かったぜ?元々俺は、如月敦人、てめぇの存在なんて知らなかったぜ。でもな、俺は知ったんだよ。」

僕は一息つく。如月敦人は下を向いてうつむく。俺は突きつけた。この事実を。

「てめぇは俺の父親だ。奏の死の元凶に近い存在、俺の一番憎い存在。ビックリしたぜ。てめえが生きてるなんてよ。てめぇは殺さなきゃ俺の気がすまねえ。」

僕は拳銃を下ろした。如月敦人は一瞬ホッとした顔をした。やれやれ、哀れだぜ……

「ゆ、許してくれ……この通りだ……」

如月敦人は椅子から降り、土下座をした。僕は真顔で如月敦人を見つめ続ける。そして僕は、

「許す許さない?そんなの、」

俺は一拍あけて

「死んで神様に言え」

僕は拳銃を土下座し続ける如月敦人に向けた。同時にカチャリ、と後ろで音が鳴る。

「お疲れ様、部下達。君たちも俺たちと沈もうね、このゴキブリ共」

僕は引き金に指をかけ、引こうとした。しかしその刹那、いきなりドン、という音がした。なんだ?周りのDreamerの者も、如月敦人も、驚いている。まさか……

「……もう沈没が始まったのか?!」

まずい、まずいまずいまずいまずい。完全に勝ち誇っていたが、ここに来て穴を開けた弊害が……

「やっちまったぜ……」

僕は引き金を引いた。しかし、沈没しようとしてる船が揺れた。奇跡である。僕にとっては悲劇だわ。如月敦人も揺れて動き、ついでに僕も動いた。そして俺たちの距離は十メートル近くになった。それだけならいい。それだけならな。僕は拳銃を持っていた右手を見る。

「……チッ!」

拳銃は無かった。落としてしまったのだ。Dreamerの部下共はにやにやしながらライフルやらなにやらを向けてくる。僕は逃げようとするが、

「逃げたら撃つぜ」

と脅迫された。どっちにせい死ぬってことか。アホらしい。

「死ぬなら華々しく散ってやるよ」

僕は走り出した。パンパンと銃声が聞こえる。だが、揺れる船内では当たりゃしない。僕の脇などを通過する。

「こ、この!」

敵はもっと撃ってくる。流石に命中する。しかし、左足しか撃たれてない。

「左足くれえ平気だわ」

僕は先程開けた大穴まで走る。後ろから銃弾が飛ぶが、僕は全て躱すことが出来た。なんというか、災い転じて福となすだな。

「サラバだ!哀れなゴキブリどもよ!」

僕は穴から海に飛び込んだ。流石に海に潜れば当たらないだろう。僕はリボルバー『駿河』を空高く投げ、海に潜った。銃声も聞こえない。僕は海面に出て、駿河をキャッチした。そして駿河の引き金を敵に向かって引く。引く。引く。

「お前……は…海に潜ったり泳いだり…魚か、てめえは……」

僕の駿河に撃たれた一人は、僕に力なくそう言ってきた。僕は地獄耳なので、一応聞き取ることが出来た。僕は口角を上げた。

「魚?違うね……僕はもぐらさ。土に道を切り開く……もぐらさ」

敵は倒れこむ。はあ……如月敦人──クソ父親をこの手で殺すことは出来なかったか……僕は右手を見つめる。僕は拳を握った。

「これ……で…終わったよ……恵。

ありがとう……姉さん……愁……」

みんなありがとう。恵……僕は絶対忘れないからね。

僕は銃を投げようとしたが、その場で踏みとどまった。僕にはこんなもの要らない。しかし、この手で人を守るには必要なんだ……

「生きて、人を守る。それが、僕──俺、Number.2、もとい神無月疾風、雨ノ森疾手の宿命よ……」

僕の意識はそこで途切れてしまった。


〜fin〜


エピローグ


『次のニュースです』

私──霞雨真理奈──は優雅なティータイムを過ごしていた。今日は一月五日。正月も過ぎた。なんか疾風居なかったし、楽しくなかったわねえ……

『え〜最強と世間で謳われる、Number.2の死亡が確実なものになりました』

まただ……このニュースは、正月からずっと放映されている。なんでそんなに長い期間放送するんだろ?お母さんとかのこと考えて欲しいわね……

いつもの紅茶が苦く感じる。これ砂糖入れたっけ……記憶曖昧だわ〜

『Number.2の捜索には、既に何十人体制ですが、未だに見つかっておらず、本当に死んだかもしれない、と警察は諦めかけた姿勢で話していました』

捜索なんて、アホねぇ……さすが国家の犬だわ。さっさと諦めなさいよあのタコ共。私としては疾風が生きてるか死んでるかハッキリして欲しい。もう死んでるとハッキリしたので、もうこれ以上は要らない。問題は彼方だが……あいつなら大丈夫だろう。困ったら助けてやるか……

紅茶の砂糖の分量は間違えてないらしい。普通に甘かった。さっきのは何だったんだ……

私は窓の外を除く。赤い、赤い、綺麗な夕焼け空が、そこには広がっていた。

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あの大空の下で KsTAIN @tkg256

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