第20話 ヤバい学校はヤバい。
オカルト研究部室に鎮座する、爆弾っぽい球体を前にして。
(ええええ〜……)
笹木はビビリ散らかしていた。
何故なら、笹木は毎年コ◯ン映画を観に行くため爆弾を見慣れているが、実物を見るのは初めてだからだ。
みんな初めてに決まってるだろ。
しかもタイミング悪く──。
「ちょ、見て。なんかオカルト研究部ってある〜」
「え〜オカルトってあれでしょ? 『隠されたもの』を意味する超自然的なー? 用語」
「ヤバ、ウチらチョ〜知的じゃーん」
「オカ研とかマジ魔法学校なんですけどウケる。……すみませーん! 見学いいですかぁ」
──ギャル二人が、展示を見に来た。
(なんでだよ!!!! もっと映えるとこ行け!! そのへんでTikTokとか撮れ!!)
笹木はギャルに偏見があるタイプのオタクだった。ピアス空いてるくせに。
最近のギャルだって呪術◯戦とか読むんだぞ。知らんけど。
なお、笹木は自分の幼馴染がたまに友達のTikTok動画に出没していることを知らない。寧々坂芽々は誘われたら二つ返事で踊るガールである。
そしてギャルズは、おろおろする笹木と、ころころ転がりそうでそうでもない球体を見る。
残念ながらその球体(爆弾)は、奇妙なゆるキャラを見慣れたギャルたちにとっても、なんか奇妙だった。
「……なんこれ?」
そりゃね。銀色でピカピカで魔法文字点滅してるしね。
「こ、これは……」
どうする?
確か、異世界の存在ってバレるとあいつら的にヤバいんだっけ!? よく知らないけど。
とりあえず、誤魔化さないと──!
笹木は意を決して、口を開く。
「外星人のオーパーツ、です! あっ、触らないで。触ると爆発するから!! …………っていう、設定で。は、はははは。オカ研にようこそ〜……」
──シーン。
「え〜、なんか変わってんね〜……」
「きゃは、ウケないんですけど〜……」
オタクに優しくないギャル は にげだした !
笹木は、胸を撫で下ろした。
(いやなんでおれが恥かいてんだ……!!)
なんか。
かつてなく巻き込まれてるような気がする。
あとで飛鳥に慰謝料を請求しようと思った。ラーメンとか。
男子高校生にとって、ラーメンとは通貨なのである。
◆◇
「あっ、大丈夫。この爆弾、殺傷能力はゼロだわ」
空き教室に戻るなり、咲耶はぱかりと爆弾を開いて言った。
笹木はほっと息をついた。
頼まれたから持ってきたけど、本当は爆弾抱えて移動するの、すげー嫌だった。
だって動かしたらダメなのがセオリーじゃん。
よかった〜。途中でドカンしなくて。
「まあ、ちゃんと爆発はするのだけどね」
「どういうこと?」
殺傷力のない爆発とは……特撮のアレ?
「ほら。夏に海水浴に行った時に、わたし見せたでしょう? スイカ割りで、血糊エフェクト魔法を」
あったな。スイカ割りしたいけどビーチボールだと映えないから、と言って魔女がやらかしたスイカ汁ブシャーッ事件。
「これは起爆しても破壊力はなく、ただ爆発のテクスチャが空間に張られるだけ。つまり──」
「ハリウッド映画特殊効果魔法ね」
そんなトンチキ魔法あってたまるか。
あったわ。
「なーんでそんなまどろこしいこと……普通の爆弾じゃダメだったわけ?」
いや、普通の爆弾はダメに決まってるけどさ。仕掛けられる側としては。
「『現世に危害を加えてはならない』という縛りがあるのよ、
……本来、その世界のものでない者が存在するのは許されないことだから。あの異世界みたいに、ボロボロになっていない限りはね」
魔女は「現代は人間の時代だから、人間社会において危害判定が下れば発動するでしょうね」と補足。
「だから私は銀行強盗とかしません。ちょっと出玉いじるだけ」
「最悪だよ」
てか魔女って、異世界のモノ判定なんだ。まあ人外らしいもんね。
「というわけで、単に爆発のエフェクトを貼り付けるだけなら無害判定なのよ。ま、安心して。十五分くらいで解除できそうだから」
咲耶は球体を開き、パチパチとコードを切っていく。
「わ、爆発エフェクトに記憶消去対策組み込まれてる……起爆したらめんどくさいことなるな……」とか言いながら。
「でも、なんのために? 見た目だけの爆発なんて、騒ぎを起こすだけじゃないか」
咲耶は、しばらく無言で考えて。
「それが目的でしょうね。騒ぎを起こせば、バレるから。わたしたちの存在が、この
はあ、と溜息を吐いた。
「芽々が言ってたけど、この世界にも魔法使いとかいるらしいから。バレたら、面倒でしょうね」
「…………待って、おれそれ知らない」
なに!? 魔法使い、いるの!?
「あっっごめんなさい、てっきり幼馴染だから知ってるものだと……」
芽々……!?
笹木はおまえもかブルータスみたいな顔をした。
芽々、おまえもか、黙っておれを除け者に……。
「つまり、この爆弾の本質は現世身バレ魔法よ」
「そんな魔法あってたまるか」
なんもわかんねえよ。
◇
「──って、ことらしいわ」
本物咲耶からテレパシーで状況報告を俺たちにする分身文月。
結界内のセーブポイントこと茶室。
「……魔王との契約条項に現世バレさせたら駄目だって盛り込んだはずなんだけどな〜」
「術式を解析したら、一命一セット一魔法、含めて一パッケージになっていて、その中に爆弾をあくまでおまけ的に組み込むことで、契約違反判定を回避してるみたい。って
「おう、何言ってるかわかんねえ。ズルしたことだけわかった」
「そんな早期DL特典みたいな感じで爆弾付けないでください」
芽々は首を傾げた。
「なんで現世バレさせたいんです?」
それは、
「魔王は俺たちを異世界に戻したいんだよ。バレて追われる身にでもなれば、現世にいられなくなるだろ」
「……居場所を奪う気ですか、シンプル最悪ですね」
「なー」
「まあ、そもそも前提を確認しなきゃいけないんだけどな。現世バレの危険性はそもそもいかほどなのか。マジの追われる身になり得るのかっていう……」
芽々は目を逸らした。
「なあ、芽々。おまえ確か、現世の魔法使いは滅亡してるも同然って言ってたよな……。あれ、本当か??」
「嘘じゃない、です、よぉ……?」
ダラダラと冷や汗を流す芽々。
「隠してることがあるなら今のうちに吐くのが身の為だぞ…………」
俺はいざとなれば男女平等に暴力に訴えるカスであることを、
あまり良心を痛ませないでほしい。なぁ芽々。
自分がDV野郎だと思うと死にそうだからさ。
観念したように芽々は目をぎゅっと瞑って。
「………………魔法学校が、あります。ほぼ滅ですが、魔法使い、そのくらいには生き残って、ま〜す…………」
…………。
やばいな。
学校があるのは、マジでヤバい。
俺は教師志望だったから知っているんだ。
学校を作るってのは、難しいということを。
つまり、教育機関が存在するくらいに、組織だって教育を施せるくらいには
──現代の魔術師とやらは、この世界で幅を利かせているということだ。
スーーーッ……。
「バァァァカ!! 現世も大概ファンタジーじゃねえか!!」
「ひ〜〜ん! いや普通に生きてたら関わりませんから!! 関係ないと思ってぇ!」
「今更普通に生きれるわけねえだろ俺らがよ!!」
文月はきょとんとした顔で「え、ホグワーツ本当にあるんだぁ〜」と少し嬉しそうに言っていた。こいつはただの文学少女兼映画オタク。
「よくも隠してやがったな寧々坂ァ……!!?」
「カタギに言っちゃダメなんですってー! てか芽々もほぼカタギですから! よく知らないですってば!」
文月は「マグルのことカタギって言うんだぁ〜」と興味深そうに頷いていた。最悪だよ何もかも。魔術師=裏社会じゃねえかよ。
そりゃ現世バレしたらなんかヤベェことなるわ!!
溜息を吐いた。
俺たちは今、現世の生活に満足しているから、異世界に戻りたくないわけで。
現世の生活が破綻し、異世界に戻った方がマシだと思うようになったなら、
最終決戦×n回の勝ち負けはどうでもよくなる。
真っ当に戦えば勝ち目のない魔王は、卓袱台をひっくり返しに来たわけだ。
──現世の安寧を、取り戻した青春を、爆破しに来た。
頭いいのか悪いのかマジでなんなんだよ。クッソ悪いわ。性格が。
「やだなぁ。駆け落ちは満更でもねえけど。逃亡生活めんどくせえなぁ。定職に就けないのつらいわ」
「満更でもないんかい、です」
「高校中退したくねぇ〜〜……」
「切実」
「というわけで、芽々。これが無事に片付いたら──洗いざらい、吐いてもらうからな現世のファンタジー事情」
「ひえっ」
「うまいカツ丼食わせてやるよ……」
「や、やだぁ〜〜!」
尋問、確定。
◇◆
──現実、空き教室。
「できたわ……! 解除」
「あっよかった」
足元には元爆弾の残骸が散らばっている。
笹木はこれで一安心、と胸を撫で下ろした。
しかし、咲耶は浮かない顔で続ける。
「ただ……さっき魔法で探知をかけて、わかったのだけど。まだ六つあるわ、この学校内に」
あの丸い爆弾が?
「七つ全部集めて解除しないと、爆破確定ね」
嫌なドラゴ◯ボールかな?
「残念だけど残りの爆弾の、正確な場所はわからないの。人力で探すしかないけど、わたしは結界のハッキングにかかりっきりで離れられないし……」
咲耶はチラリと隣の聖女を見る。
今の今まで、同室にいたフィリアは無言を貫いていた。
魔女が何言ってるのかわからなかったから。
そういう時は存在を消すのが吉と、ラーニング済である。
「私も持ち場を離れられません」
脳をスパコンがわりに使用されてるからね、魔女に。諦めの瞳。
咲耶はくるりと、笹木の方を向き直る。
深刻な表情で、こちらを見つめる。
「だから……笹木君、あなたにしか頼めないの! お願い、わたしたちの学校の爆破を、止めて……!!」
「お、おれが……!?」
トゥンク……。
笹木はときめいた。
今までずっと異世界事からは除け者だった。
なんか巻き込まれることはあっても、すぐ日常にリリースされてきた。
勿論、それが善意であることはわかっている。
わかっていたけど……。
──いざ、頼られたら嬉しいに決まってるじゃん!
「わかった、集めてくるよド◯ゴンボール!!」
笹木はウキウキで教室を飛び出した。
残された咲耶は、フィーと顔を見合わせる。
「……飛鳥にあの頼み方したら、すっごい嫌そうな顔したでしょうね……」
フィーは頷く。
あれは一回世界を救う面倒くささを思い知ってしまった男だ。表情には出さないまでも目に「すげー嫌」と出るだろう。
一方で──笹木の、待ってましたと言わんばかりに輝いた目。
笹木君はこういうシチュエーション好きかな、と思って確信犯(誤用)で頼み事したけども。
「笹木君って……勇者に向いてない?」
「はい」
割を食うタイプの善人、という意味である。
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