第5話
ここ最近、珍しく誰も先生の所に来ていません。
先生は、毎日、独りで朝から瓶のまま強そうなお酒を飲んで、陽気に歌ったり踊ったりしてはソファで少し寝て、起きたと思ったら、またお酒を飲んで、歌って踊って、また寝て……を繰り返しています。
そのうち、絵を書き出したり、何か文書を書き始めました。
先生は、なんの“先生”なのだろう?
女の人と遊んで、お酒を飲んで、歌って踊って、酔っ払ったまま絵や文書を書いて、いつもこの繰り返し。
でも今日は、違いました。
先生が、文書を書き終えて、絵を描いていたと思ったら、急に大声を上げて叫び出し、大暴れしだしました。次々に原稿や絵を書いていた紙を破りだしています。
いつも落ち着いていて、ひょうひょうとしている先生のこんな姿を見るのは初めてでした。
キッチンのお皿やコップを投げて割り出したり、ナイフで壁やテーブルを殴るかの様に刺しだして……やがて肩で大きく息をしながら、先生は僕を見つめました。
先生は目に涙をたっぷりと溜めながら、ナイフを力なく落とし、そのまま僕に近付いてきます。
「スゥ。あぁ、愛おしいよ。」
そのうち、先生は僕を抱きしめてキスをしてきました。そして、もし僕が“生きもの”なら、下半身に当たる部分を先生が優しく触ってきます。
感覚もない。声も出せない。動けない。……僕は、“なに”?
「スゥ。お前だけなんだ。お前にしか本当の僕はわからない。本当の僕を知らない。……スゥ。愛しているよ。誰よりも。」
先生?僕は先生を知らないよ?
でも、きっと先生の事……僕も誰よりも愛しているよ。
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