第弐話

 桐ケ谷のデスクに向かうと詳細のメールが届いたのか、彼はパソコンを見ながら話し始める。



「簡単に話すと集団発狂だね~、いきなり笑いながら人に石を投げつけたり殴ったり……殴った側も殴られた側も自殺したり、ね」

「ただの虐めの様に思いますが……危害を加えた側も? 」

「そっ、しかもそれが一件だけじゃなくて二件目も起こってる……全く同じことがね」


 それだけ聞くとまだ起こりえる範囲だと感じる、だが解体屋ここに緊急で連絡が入るとなると本部も、確実に人の範疇を超えた何かが関わっていると判断したのだろう。

そんな安倍の感情を見抜いてか、桐ケ谷は話を続ける。


「なんでも、被害者側は直前までは加害者側ととても仲良しだったらしくてね、一件目は仲の良い兄弟で……兄が急に弟にさっき言った事をして両親を含めた周りも便乗していたみたい。

 弟の方が耐え切れずに自殺して、後悔したのか分からないけれど兄も自殺。

 ここまではまあ、言っちゃ悪いけどありうる出来事だね。問題はその弟が兄に虐められる前に“顔が半分のような変な物”を見ていたって事と二件目の被害者側が弟くんの親友だったって所。


 それで、ええっと、二件目に関しては先に加害者側が自殺しているんだ、遺書を残して」

「遺書ですか、内容は確認できているんですか?」

「そうっとう渋られたらしいけど事件性があるかもしれないからって押し切って確認したらしいよ~、この辺りはちゃんとやってくれて助かるよねぇ。

 それで内容なだけど、要約すると『半分の顔の人が被害者側に憑りついていたから追い出そうとした、けれど出来なかった』って感じ」


 つまり今回の件はそのどう考えても人間ではないであろう顔が半分の人物が引き起こしたと考えられる……という事だろう。

 確かにそんな状態で人間は存在することは出来ない、本部が匙を投げるのも分ると安倍は思い、同時に頭が痛くなる。

 安倍はこの部署に配属されてまだ三ヵ月の新人。その上、元々は幽霊や妖怪等を一ミリも信じておらず、自分の目で見たものしか信じない現実主義者だったのだ。配属されてから自分の常識を覆される事ばかりで定期的に今のように頭痛に襲われている。

 まあ、解体屋に配属されてから自分の目で非科学的な存在を認識している為、その疲れというのもあるのだが。

 少ししてから安倍は桐ケ谷に対し「現地に赴いて解決して来ればいいんですよね」と声を掛け、纏めていた荷物を持ち上げる。

 桐ケ谷はその様子をみて微笑みソファーに目を向ける。


「話が早くて助かるよ~、ついでにそこで寝てる芦屋くんも連れて行ったら? 彼、頭は回るし役に立ってくれるかもねぇ」

「嫌です」


 安倍は桐ケ谷の言葉に食い気味にそう答えた。「そんな即答しなくても」と桐ケ谷が言葉を漏らしたが連れて行く気はなかった。安倍は芦屋の事が苦手なのである。

 純粋に幽霊というものがあまり理解できていないというのもあるが一番の理由は性格の愛称にある。安倍は静けさを好み、真面目な性格で何事もきっちりしていないと気が済まないタイプであるが、芦屋は楽観的な上にマイペースな上に人にちょっかいを出すのが好き、つまり騒がしいのだ。

 小さく溜息を吐いた後、少し声のトーンを落とす。


「あのクソうるさい幽霊を連れて行く訳ないでしょう」

「でも一人じゃ危険だよ? 普通の人には見えないんだし、問題ないと思ったんだけどなぁ…….

それに、彼自分の死因を探しているんだから外に連れ出した方がいいと思うんだよねぇ」

「それは、そうですけど」

「連れて行かなくてもいいんだけどね、彼の死因が見つかるのが遅くなって君が弄られる時間が長くなるだけだから」


 桐ケ谷の言い分は正しかった、一般人には見えない芦屋を連れていくことは何も問題ではないし、何故か自分の名前以外の記憶を失っているせいで成仏することができない芦屋を色々な場所へ連れ出すことは必要だとも思う。その為、この事を出されると安倍としても連れて行くという選択肢しかないのだが……。


「桐ケ谷さん、俺が芦屋あれの事嫌いって分かっていて言いましたね? 」

「うん! 勿論! 」


 ここ最近で一番といっていい程の笑顔で肯定され、安倍の胃がキリキリと音を上げる。頭痛薬に加え胃薬が必要になる日も近いのかもしれない。


「……取り敢えずアレは連れて行きます」


 そのまま安倍はつかつかとソファーに行き、寝転がりながら能天気に熟睡している芦屋を思いっきり床へ落とした。

 部屋には何かが落ちた音はしなかったが「痛っ!? 」という大きな声がこだました。

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カイタイ屋 カガミヤ @kagamiya_so-shimoti

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