ショート3 揉む?

 ある日の昼下がり――。


「はぁぁぁぁ〜……」


 伊織は口からため息を漏らしながら、リビングソファーに力なく横になっていた。

 

 今日は朝からなんというか、やる気が……湧かないのだ。

 

 これといって体調が悪いわけではないのに、朝からずっと気ダルい。

 

 それもあってか、まだ洗濯を終わらせられていないし、さっき昼食で使った食器も、まだシンクに溜まったままという……。


「………………」


 なんだかもう、なにもかも面倒くさい。


 …――おっとー、いけないいけない。危うく現実逃避するところだった。


 夏バテではないだろうし、というかまだ夏じゃないし。


 五月病と言いたいところだけれど、まだ四月は終わっていない。


 まだ大学にも慣れていないし。


 ……なら一体なんなんだ? このダルさは。


 すると、


「伊織、大丈夫?」


 後ろから恵が覗き込んでいた。


 どうやら、心配をかけてしまっていたようだ。


「あはは……大丈夫だよ」


 そう言って起き上がったものの、どうにも力が湧いてこない。


 このままではいけないと思い、ソファーから立ち上がろうとしたとき、


「ねぇ、伊織」

「うん?」

「――揉む?」


 そう言って恵は、徐に両手で胸を下からグッと持ち上げた。


 なんとも重量のありそうな……。


 服越しではわかりづらかった胸の輪郭が、はっきりとわかる。


 ……ゴクリ。


 思わず唾を飲み込んでしまう。


 それほどまでに圧倒的な光景だった。


「…………はっ」


 ふと我に返った伊織は、慌てて顔を逸らす。


 一瞬でも『揉んでみたい』と思ってしまった自分が、とてつもなく恥ずかしい。


 だって仕方ないじゃないか、男の子だもんっ。


 ちなみに、恵はというと、胸を持ち上げたまま伊織をじっと見ていた。


 ……ん?


「め、恵……?」


 すると、恵はポツリと呟いた。


「この前、宮園先輩が言ってた」


「え? しー先輩?」


 伊織が尋ねると、恵はコクリと頷く。


「『男が元気ないときは胸でも揉ませりゃ一発よっ!』って」

「…………」


 ……しー先輩、恵になんてことを教えてるんですか……。


 揉ませりゃ……って、まあ正直なところ間違ってはいないから、否定しづらい。


 うーん……。


 まぁ、これはこれでいいものが見れたからよかった、かな……?


「それで、どうする? 揉む?」


 たぷんっ。


「!? い、いや……。あ、なんだか急に力が湧いてきた気がするっ!!! 恵が心配してくれたおかげかな……」

「……ならよかった」


 そう言い残して、恵は廊下へと行ってしまった。


 


 恵は後ろ手でリビングの扉を閉めると、廊下の壁にもたれかかった。


「………………」


 その頬は、ポッと赤く染まっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わたしは何が何でもこのラブコメに勝ちたい! 白野さーど @hakuya3rd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ