オタクがよく異世界転生する理由とは!

@orga29

第1話にして最終話

維持神ヴィシュヌは、創造神ブラフマー、破壊神シヴァと並び、ヒンドゥー教の中で最高位とされる神である。


青い肌で、4本の腕に武器を持ち、美の女神ラクシュミーを妻に持つ。そして、ヴィシュヌの何よりの特徴は、世界全体を見渡すその無数の目である。


またヴィシュヌは、世界が混沌に陥った時「守護者」として様々な分身を使い分け、地上に現れると言われている。


とまあそんな感じの仰々しい説明がWikipediaに書かれているのを見て、ヴィシュヌは軽く悦に浸っていた。彼は、仕事中にも関わらず、本来武器を持つはずの手でスマホを持ち、エゴサをしているのだ。


うん。いい。こいつ分かってるわ。やっぱちゃんと仕事すれば、見てくれる奴は居るんだな〜。おっ、このラクシュミーちゃんの肖像画、最高に可愛いな!


当然これは彼の職務である世界の監視とは全く関係ないので、完全な暇潰しである。でもまあ、これにもそれなりの理由があるのだ。偉大なる維持神は、その頭の中で弁明をする。


大体、ブラフマーとシヴァは世界の創造と破壊の時だけ出勤だってのに、俺だけその間ずっと世界の監視っておかしいだろ!この前も2人だけで第8宇宙にバカンス行ってたし。全く、ストライキしてやろうか。


そんな彼だが、実は数年ほど前から一つの楽しみがある。それが、地球、特に日本で放送されているアニメを視聴する事だ。


もうすぐ「こ〇すば」が始まる時間だな。さて、やるか。すると彼は、急いで分身を世界に降臨するための儀式を始めた。


実はこいつ、ただ次元の狭間からアニメを見るだけでは飽き足らず、分身を使用して現実世界でアニメを視聴しようとしているのだ。もちろんとんでもない越権行為である。


ちなみに彼は現実世界に直接干渉することは出来ないので、一時的に人間の意識を乗っ取る事により分身を作る。分身が持つ力はそれなりに大きいので、シヴァやブラフマーにバレたら、彼はめちゃくちゃ叱られるだろう。


ああ、やっぱり「このすば」面白いわ〜。やっぱりアニメは生で見るに限る。アニメを見終わった彼は、分身の中でとても満足していた。


と、分身が突然動き出した。どうやら、急いで分身の儀式をしたため、人間自身の意識が少し残っていたようだ。そして、彼は、こう呟いた。

「ああ、俺も異世界行きてえな〜」


ちなみにここでの「彼」というのはヴィシュヌの事でもあるし、分身として乗っ取っていた人間の「彼」という意味も持つ。そして、ヴィシュヌは腐っても最高位の神だ。その言葉は相当の重みを持つ。少なくとも、何億人もの人々が信仰する宗教の聖典になる位には。


つまりどういう事かと言うと、彼が分身を通じて発した言葉は、本当の事となる。もう少し具体的に言えば、その瞬間、分身となっていた人間は、本当に異世界転生をしてしまった。


「えっ?」

彼はまたそう発した。ちなみにこの「彼」と言うのは(以下略)


はあ〜。またやってしまった。分身の意識を人間に返し、次元の狭間に戻った彼は、心の中で反省する。実は、彼がうっかり人間を異世界転生させたのはこれが初めてではない。


まあ、またこいつにチートを与えればいいか。そう思った彼は、まだ手に持っていたスマホで、分身が転生した先の世界を治める部下の神に電話を掛け始めた。


「あ、もしもし〜。またやっちゃってさ〜。」

「はあ?!これでもう私の世界だけで4回目ですよ!いい加減に、、、」


多分、オタクが結構な割合で転生する理由って、こんな感じだと思う。























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